夜の寮でさらにバイクに興味を持つ出来事が起こり...
教習所に通って免許をとって、バイクを買った福田が、西隊長とバイクの走り方を練習します。
バイク乗りなら知ってる、あの番組とあの人も出て来ます。
「ふう、あともう少しですね。」
51号線をのんびり走る小さな単車。乗っているのは、オーバーオールの上にパーカーを来て、ジェットヘルメットの後ろから三つ編みをたなびかせている小柄な少女。
知波単学園の1年生で、戦車道を履修しており、九五式軽戦車の車長を務めている福田だ。
朝早くに銚子港に停泊している学園艦にある女子寮を出発し、「すまほ」に表示したナビアプリを見ながら走ること3時間。
西隊長が言っていたとおり、単車で走るということはそれ自体が楽しい。目的地である大洗では、大洗女子学園のあひるさんチーム達が待ってくれているので、なおさら楽しみだ。
はやる気持ちを抑えながら、決してスピードは出さないし、無理な運転もしない。
戦車に乗っている時は突撃精神だが、それ以外は慎重派なのである。
そんなことを考えているうちに、遠くに大洗マリンタワーが見えてきた。
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西隊長の後ろに乗せてもらい、ツーリングに連れて行ってもらったその日のうちに、福田は単車の免許を取ることを決意した。
そうと決めたら電光石火。すまほで単車の免許をどうやって取るのかを調べて、原付免許であれば試験だけでその日のうちに取得できることが分かった。
週が明けて放課後、戦車道の訓練が終わった後に近所の本屋に行って、原付免許の問題集と、その近くにあった雑誌コーナーでいろんな単車が載っているカタログのような雑誌も買った。
寮に戻って雑誌をぱらぱらとめくりながら、いろんな形をした単車があるんだなあ、と思っていたところ、1台の単車に目が吸い寄せられた。
福田の目を引いたのは、見た目は普通のバイクで、西隊長のウラヌスとは少し違うが、単車っぽくて格好良いものだった(後から「ネイキッド」という形だと知った)。おまけに、小型自動二輪ではあるが、仕様を見ると少し小さいらしく、福田でも乗りこなせそうに思えた。
原付であれば、スクーターという、アクセルを捻るだけで走り、ブレーキも左右のレバーを引くのでほぼ自転車と同じものがあったので、それにしようかと思っていた。
しかし、原付だと時速30kmまでしか出せないらしい。遠乗りするにはそれだときつい。小型自動二輪であれば、そのような制限も無い。西隊長と遠乗りすることもできるだろう。
気が付くと夜も更けていたので、歯を磨いて寝ようと思って自室を出ると、娯楽室からテレビの音が聞こえた。こんな遅くに誰がテレビを見ているんだろうと思って入ってみたが、誰もいない。
しかし、福田はテレビに釘付けになった。消し忘れられたテレビで流れていたのは、地元のテレビ局の「週刊バイクテレビ」というものだった。そこに出ている、ロックンライダーの真飛人という人と、その相方の女性が、福田が今さっきまで見ていた単車に乗って房総半島をツーリングしていたのだ。
単車で走りながら「いやー、楽しいですね。」と、マイク経由で拾った会話も聞こえる。そのうちに、この単車について「足つきがいい」「取り回しも楽ちん」「幹線道路の流れにもスムーズに乗れる加速」などの感想も挟まれる。
夜遅くであることもすっかり忘れて、番組に見入ってしまった。もちろん、迷惑にならないようにテレビの音量は下げたが。
すまほで調べたら、この番組はネットで過去の番組を動画で見られるということだったので、自室に戻り、イヤホンで聞きながらいくつかの動画を見てみた。おかげですっかり夜更かししてしまったが、真飛人の「バイク乗らんで何の人生か」という言葉が耳から離れなかった。
翌日の午前中は、授業中に居眠りしてしまい、バケツを持って廊下に立たされてしまったが。
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幸いなことに、知波単の学園艦には、小規模ではあるものの、自動車や単車の教習所があり、そこに通って免許を取得することができる。知波単学園の生徒には、割引制度もあった。
あと、これも幸いなことに、戦車道を履修したことで戦車の操縦免許は取得していたため、小型自動二輪の免許を取得するにあたっては通常より少ない時間で免許を取ることができる。
そこで福田は、迷うことなく、小型自動二輪の教習を申し込んだ。
福田が教習所に通っていることを聞いた西が、学園艦の、懇意にしている単車屋に連れて行ってくれた。そこには、福田が欲しいと思っていた単車が偶然にも展示されていた。色も、福田が気に入っていたものだ。
その場で見積もりを作ってもらい、取り置きをお願いした。展示車だったからか、かなり値引きもしてもらえた。
追加で、バッテリーから電源をとってすまほを充電するための装備と、すまほをハンドルに固定するステーも付けてもらうようにお願いした。遠乗りとなると、不慣れな道を走ることになるので、すまほのナビは必須だからだ。
あと、ヘルメットは西に譲ってもらったが、その他の装備は持っていないので揃える必要があった。西に相談すると、先日のような服装であれば十分と言われた。基本は長袖、長ズボンで、手袋をはめれば良いということだった。さすがに普段用の手袋だと不安なので、これも単車屋で皮の手袋を購入した。
教習所に通っている間、福田は「週刊バイクテレビ」の動画を見まくった。もちろん、夜更かしをしない程度に。おかげで、近隣の遠乗りに適した場所も知ることができた。
たまに部屋の中で、ヘルメットを被って手袋をはめてニヤニヤしているとは、誰も思うまい。
こうして、戦車道の訓練が無い放課後と週末を使って、卒業検定も一発で合格して、無事、福田は免許を手に入れた。
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待ちに待った納車日の週末、福田はいつもより早起きした。普段は起床ラッパで起こされるのだが、ラッパが鳴らされる前にすでに着替えも済ませていた。朝食をいつもより早く食べて、お店が開くのを「週刊バイクテレビ」の動画を見ながら今か今かと待った。
いい時間になったので、ヘルメットと手袋を持って女子寮を出て、お店まで学園艦巡回バスで向かった。20分ほどでお店の近くのバス停に着き、お店に向かうと、入り口の一番近いところに福田の単車が置かれていた。
鍵を受け取って、装備品の説明をひととおり受けて、いよいよ乗り出すことになった。緊張はしていたが、学園艦内の勝手知ったる道なので、女子寮に戻るのはそれほど難しくはない。お店のご主人が福田の単車を外の駐車場に移動して、道路に出やすいところに停めてくれた。
単車に跨り、スタンドを払ってミラーを調整し、鍵を差し込んでイグニッションをオンにする。フットブレーキを踏んで、スタートボタンを押すと、エンジンがかかった。
心を落ち着けて、エンジンの振動を感じながら、足を入れ替えて、クラッチを握ってギアを1速に入れる。
「では、行って参ります!」
店主に顔を向けて挨拶して、安全確認をしてウインカーを出して、半クラッチ。コトン。
「あれ?」
やってしまった。エンストだ。慌てて鍵を戻して、再度エンジンをかけて、1速に入れる。今度は少しゆっくり目にギアを繋ぐと、単車がゆっくりと動き出した。車道に出て、ゆっくりと走り出す。気を付けて、と店主が手を振ってくれたのがミラーにちらっと見えた。
バスで来ると30分ほどかかったが、単車だと10分ほどで着いてしまった。
お店から寮までは、学園艦の周回道路を走って、交差点を左折して少し細い道に入って、突き当りを右折してすぐだ。周回道路では少し速度を上げて、ギアチェンジもしてみた。思ったよりスムーズで、教習所の単車よりは乗りやすい。
女子寮の門をくぐったところで、玄関から西が出てきた。
「おおっ、福田。とうとう手に入れたな。」
「はい、西隊長。これが私の単車です。」
「どうだった、お店からここまで戻ってくる間は。」
「はい、お店を出る時にエンストしてしまいました。」
「ははは、みんなやらかすんだ。かく言う私も最初はエンストしたんだ。」
「そうでありますか。でも、少し恥ずかしかったです。」
「まあ、そのうち慣れるさ。「習うより慣れよ」だからな。」
「聖ぐろりあーなのだあじりん殿みたいですね。」
「そうだ、せっかく単車に乗れるようになったんだから、少し走ってみないか?」
「えっ?」
「納車日に、お店から寮に戻るだけというのもなんだし、少し学園艦を走ってみよう。」
「了解であります!」
「じゃあ、支度するから少し待っていてくれ。」
そう言い残すと、西絹代は玄関から自室に向かった。
「なんと、福田が単車に乗っているぞ。」
「貴様、戦車をやめて単車道に鞍替えか!?」
エンジンの音と、西との会話が聞こえたのか、細見、玉田、寺本が出て来て福田を取り囲み、この単車のエンジンは?最高速度は?なんと、九五式軽戦車よりも速いのか、などと興味津々で話している。
「そうだ、福田。写真を撮ってやろう。」
「ほんとうでありますか?ありがとうございます!」
知波単戦車道の広報を担当している寺本が、自室から自慢の一眼レフのデジカメを持って来た。
「せっかくだから、寮の玄関を背景にしたほうがいいな。」
「じゃあ、撮るぞ。福田、顔が引きつっているぞ。」
先輩達に冷やかされながら、無事、写真撮影が終了した。
「この画像は後で福田のアドレスに送っておいてやるからな。」
さっきから単車を見ていた細見が福田に聞いた。
「福田、ちょっと単車に乗ってみて良いか?」
「えっ?」
「いや、跨ってみるだけだ。」
「ああ、どうぞどうぞ。」
「よいしょ、と。うん、いい感じだ。足が少し窮屈だな。」
細見がハンドルを握ってシートに腰かけているのだが、福田と違って細見は背が高いし、足も長い。そりゃ、小さな単車だから足が窮屈になるだろう。
ふと見ると、玉田と寺本が恥ずかしそうに顔を赤らめている。
単車に跨った細見は、なんと、足をガニ股に広げていた。足が長いからそうするしかないのだが、今の細見はスカートを履いている。と言うことは、おっ広げた足の間からスカートの中が丸見えになっているのだ。
それに気づいた福田は、どうしようかと思ったが、勇気を振り絞って言った。
「細見殿、恐れながら申し上げます!」
「ん?何だ?」
「あの、細見殿が単車に跨る姿はとても格好良いと思います。」
「そうか、まあ、乗馬と同じだからな。」
「しかし...今のお召し物は乗馬服ではありません。」
「そりゃそうだ。今日は乗馬の予定は無いからな。」
「いえ、そうではなく...」
「何だ、福田。なぜ顔を赤らめている。」
「細見殿は、今日はスカートを履いておられます。」
「うん、そうだが。」
「しかも、短めのものです。」
「動きやすいからな。」
「それで、単車に跨って、足を、ガニ股に開いておられます。」
「まあ、さっきも言ったが少し窮屈だからな。」
「あの...それで...見えております。」
「???」
「下着が...」
「な、何だとー!」
「細見、お前、パンチラしているぞ!」
自分でパンチラという言葉を言ってしまった玉田は、さらに顔を赤らめてしまった。
「いやらしいであります!破廉恥であります!」
玉田の発言に押されて、寺本も顔を赤らめて言った。
「そういうことは早く言えー!」
慌てて単車から降りる細見だが、慌てていたので足がふらつき、もんどりうって転んでしまい、さらにあられもない姿を晒してしまったのだが。
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そうこうしているうちに、支度を済ませた西が、車庫から単車を押しながら出てきた。
「待たせたな。おお、みんなも福田の単車を見に来たのか。」
「お二人で遠乗りですか?」
「いや、福田が単車の運転に慣れるように、学園艦の周りをひとっ走りしようと思ってな。」
「いいなあ。」
「福田、気を付けるんだぞ。」
「心配だから戦車でついて行こうか。」
「いやいや、追いつけないから。」
などと話している皆に見送られ、西と福田は寮を後にした。
学園艦の道路は、基本的に外周道路と、船首から船尾に繋がる広めの中央道路から構成されており、その間に大小さまざまな道が配置されている。寮から出た2台の単車は、まずは外周道路に出て少し流れの速いところを走った。西が先導して、その後ろを福田がついて行く形になっているが、バイクの性能が違うため、西は普段よりはゆっくり目に走ってくれている。
外周道路はあまり信号がなく、交差点は跨線橋で超える形になっているため、あまり止まることはない。そのため、一度走り出すとなかなか止まらずにずっと走り続けることになる。
30分ほど外周道路を走ると、西は途中のコンビニに入った。福田もウインカーを出して、西に続いてコンビニに入った。駐車場に単車を停めると、西がヘルメットを脱ぎながら「少し休憩しよう」と言った。
「福田、ミラーで見ていたが、結構運転上手いな。」
「そ、そうでありますか?」
「ああ、最初は肩肘を張って運転していたし、ギアチェンジも少しぎこちなかったようだが、途中から肩の力も抜けていたし、加速もとてもスムーズだったぞ。」
「はい、最初は目の前しか見えていませんでしたが、訓練場の脇を走っていると、とても気持ち良かったので、気が付いたら普通にギアを変えたり、アクセルを調整したりしていました。」
「うん、その調子だ。」
「それに、西隊長がおっしゃっていた、単車は乗るのも楽しいというのがだんだんわかってきました。」
そう言う福田を見て、西は嬉しそうに笑った。
「そう言えば、来週末は学園艦がどうやら銚子港に寄港するらしいな。なんでも千葉港は貨物船が入る予定となっていて、代わりに予備寄港地の銚子港に寄港することになったと船舶科の子達が話していた。」
「そうでありますか!」
「どうだ、福田、学園艦は月曜日まで補給のために停泊するらしいから、この機会に本土を走ってみてはどうだ?銚子からだったら大洗まではさほどの距離ではないだろう。」
「はい、単車を買ったとアヒル殿に連絡したら、是非大洗に単車で来て下さいと言われておりますので、今週末に大洗への遠乗りを決行します。」
「ああ、でも気を付けるんだぞ。本土の道は学園艦と違って交通量も多いし、道も複雑で、信号も多いからな。」
「大丈夫です。週末までにもう少し乗って、この単車に慣れるように精進いたします!」
その後は、外周道路ではなく、中央道路を走り、信号での停止や右折、左折を繰り返して、一般道を走るコツを西から教えてもらった。
止まる時は、最後に右足でフットブレーキをぐっと踏んでリヤブレーキで止まること、アクセルは、右手全部ではなく親指と人差し指を中心に力を入れて捻ること、車線変更の時は必ず振り返って目視確認することを癖にするなど、とても実用的なものだった。
お昼の時間になると、学園から少し遠いところにある、広めの駐車場がある食堂に入り、海を眺めながら食事をとった。そこでも、福田は西から単車のいろんなことを聞いたし、「週刊バイクテレビ」でやっていた、行ってみたいところの話もした。
食事を終えて、駐車場で単車を取り回す時も、「こうやって腰を使って支えながら動かすんだ」と教えてくれた。福田もよいしょ、と単車を動かそうとして、危うく倒れそうになったが、西が支えてくれたので新車を傷付けずに済んだ。
「危なかったな。」
「はい、ありがとうございます!このご恩は一生忘れません!」
「やはり単車を倒すというのは、いつかはやってしまうものなんだ。最初に倒して単車を傷つけてしまった時は、すごく落ち込んだけどな。次からは気を付けようという気にもなるし、必ずしも無駄ではないぞ。」
「でも、倒さないに越したことはありません。」
「まあ、そうだな。特に、買ったその日に倒して傷つけるなんてことになったら、目も当てられないからな。」
そう言う西の単車も、グリップエンドやステップ、風防の端に少し傷が付いているのに福田は気付いた。
「ま、まあ、これも良い思い出だ。倒した時のことは今でも鮮明に、その場所まで覚えているし。まあ、それも単車の醍醐味だな。」
「お怪我がなくて何よりです。」
「じゃあ、そろそろ帰ろうとするか。あんまり走り回り過ぎると、カミナリ族と思われてしまうし、細見や玉田が心配しているかもしれんからな。」
そう言って、身支度を整えて、2台で外周道路を走って寮へと向かった。
寮に到着したら細見、玉田、寺本だけではなく、浜田、名倉、池田までもが出てきて、西も交えてまたひとしきり単車談義に花を咲かせた。
ちなみに細見は、スカートではなくズボンだったが。
いかがでしたでしょうか?
知波単学園の生徒は、あまり外来語を使わないので、バイクのことを単車と書いたり、スマートホンのことをすまほと書いたり(ちょっと違うかな)、できるだけ雰囲気を出すようにしましたが、さすがにアクセルやシートなどは難しいので、諦めました。
クラッチのことを変速機とするのもね。
次回は、冒頭でも少し触れたように、いよいよ福田が大洗へのツーリングへと旅立ちます。その行く手にあるのは!往路でのアクシデントで福田、危機一髪!