ガルパンバイク部のお話   作:日本を鳥戻す

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今回は、コラボ作品にしてみました。

アニメの放映時期は、ガルパンが2012年、スーパーカブは2021年ですが、そこらへんはあまり気にしないで下さい。
ガルパン時間だと、丁度、大学選抜戦が終わってしばらくしてからというところ。秋ぐらい?
礼子たちとカルパッチョが同じ2年生で、椎がリトルカブを買ったのは2年生の春休み。このタイミングだとアンチョビはもう卒業してますね。
単に、ガルパンとスーパーカブのクロスオーバーを書いてみたかったというだけです。



スーパーカブと戦車道

「ねえ、戦車道の試合、見に行かない?」

 

お昼休みにいつもの駐輪場で昼食をとっている時、礼子が唐突に言った。

 

「戦車道?」

 

小熊は、メスティンで炊いた白米にレトルトの中華丼を載せたご飯を食べながら、礼子がまたわけのわからないことを言い出したのかと思った。

 

「華道、茶道、戦車道って、乙女の嗜みとして有名ですね。確か、山梨だとマジノ女学院がやってたような。」

 

椎が、ボンゴレロッソを食べながら言った。

 

「今度の週末、清水で大洗女子学園とアンツィオ高校の練習試合があるの。大洗女子学園って、20年ぶりに戦車道を復活して、いきなり夏の全国大会で優勝したのよ。この試合を見に行かない手はないでしょ。」

 

「アンツィオって、確かイタリアをモチーフにした高校なんですよね。」

 

「そう。それに、アンツィオは試合会場でイタリア料理の屋台を出すそうよ。それがすごく美味しいんだって。椎ちゃんのBEURREイタリア化計画の参考になるかもよ。」

 

全粒粉のパンにクリームチーズとサーモン、レタスを挟んだサンドイッチを食べ終えた礼子が、イタリア好きな椎を味方に引き入れようとしてアンツィオの魅力を話す。

 

「それに、椎ちゃん、そろそろリトルカブに慣れたころだから、ツーリングがてらどうかなって。」

 

北杜市から清水までは結構距離があるけど、日帰りできない距離ではない。それに、椎もいきなり長距離を一人で走るのは不安だろうし、一緒ならば安心してツーリングに行けるかもしれないし、いい練習になると、小熊は思った。礼子にしては、よく考えている。

 

「わかった。ルートとかは礼子にまかせる。」

 

「OK。実は、SNSでバイク繋がりで相互フォローしてるアンツィオの子がいるんだけど、その子、戦車道やってるんだって。私としてはその子に会いに行くのも目的なの。」

 

世の中には、SNSで知り合いになることがあるそうだが、会ったことも無い人と仲良くなるということがどうも小熊には理解できない。

けど、いきなり会うよりは、事前にネットでやりとりしてお互いの人となりがわかってから会うというのも合理的かもしれない。

 

「私にも紹介して下さいね。アンツィオの人と、イタリア料理のこと、いろいろお話したいです。」

 

椎も乗り気のようだ。

 

小熊が椎の口の周りを紙ナプキンで拭いてあげてたら予鈴が鳴ったので、弁当箱を片づけて教室に戻る。

礼子は、何かを口ずさみながら歩いていたが、それが「戦車道行進曲」というのを後から知った。

 

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土曜日の早朝、甲州街道沿いのコンビニに集合して、途中のガソリンスタンドで給油してから走り出す。

甲州街道を甲府方面に走り、途中で右折して県道を走り、52号線に出る。あとはひたすら南下すれば清水に着く。

 

小熊が先頭を走り、椎を挟んで、最後尾に礼子の千鳥走行。後ろのことなんて考えずにすっ飛ばしてあっという間に見えなくなる礼子を先頭にするなんてことはありえない。それに、礼子のハンターカブはうるさいし、排気ガスが臭いので、小熊は、礼子の後ろは走りたくなかった。

小熊がミラーで後ろを見ると、礼子は、椎を煽ったりせずに大人しく走っていた。椎も流れに乗って走るのに慣れて来たようだ。

 

北杜市を出て1時間ほど走ったので、一度点検をするため途中のコンビニに入る。点検を終えた後はコンビニで買った菓子パンをイートインスペースで食べた。さすがに何も買わずに駐車場だけを使わせてもらうというのも後ろめたいので、一応買い物はする。飲み物は、椎が魔法瓶に入れて来てくれたカフェラテだけど。

 

途中まで道に沿って流れていた富士川が遠くに離れると、新東名が見えて来た。スマホのナビを見ると、新清水ICらしい。新幹線の高架を過ぎると、遠くに海が見えた。その海に、巨大な船が浮かんでいる。小熊は、学園艦なるものを初めて見た。その感想は、とにかく「大きい」。まだ海までは2km近くあるはずなのに、舳先をこちらに向けて停泊しているのがはっきりと見える。遠くには艦橋らしきものがぼんやりと見える。そんな大きな学園艦が2隻、駿河湾に浮かんでいた。

 

信号で停まったら、礼子が横について小熊に話しかけてきた。

 

「試合会場は三保半島一帯だそうよ。バイク置き場は事前に調べてるから、ここからは私が先導するわね。」

 

信号が青になると、礼子が先に出たので、椎を行かせて小熊は後ろからついていく。

しばらく走ると、戦車道の試合会場への案内板があったので、それに従って進む。臨時駐車場の看板のところを入ると、駐車場の奥に駐輪場があったので、そこにバイクを入れて停めた。

 

「思ったより早く着いたわね。椎ちゃん、初めてのツーリング、どうだった?」

 

礼子がヘルメットを後ろのボックスに入れながら、隣にリトルカブを停めた椎に話しかける。

 

「最初は少し不安でしたが、小熊さんがいいペースで走ってくれたので、それほど疲れませんでした。それに、途中の風景も良かったです。」

 

「風景を見る余裕があれば、大丈夫。」

 

3人は、カブの後ろの箱からバッグを取り出し、会場に向かう。

 

駐車場を出ると、会場までの通りにたくさんの屋台が出ていて、戦車道に関するグッズや、食べ物、飲み物を売っていた。

その中に、屋根に戦車をモチーフにした飾りのあるお店があり、ジェラートやパスタを売っていた。どうやら、アンツィオ高校が出している屋台らしい。

通りに面した所に立っている、コック服を着たアンツィオ高校の生徒らしき女の子が、声を張り上げて呼び込みをしていた。

椎は、ジェラートに興味があるようで、立ち止まってメニューを見ている。小熊が、さっさと行こうと椎の手を掴もうとしたら、礼子が呼び込みをしている子に声をかけた。

 

「ねえ、ここって、アンツィオの屋台よね。戦車の飾りがあるけど、もしかして、あなた達も戦車道をやってるの?」

 

「そうっすよ。私たちは試合に出ないんで、戦車道の部費を稼ぐために屋台を出してるんです。今日の試合で戦車がやられて、また修理代がかかると思うんで。この間、やっとP40の修理が終わったところなのに。」

 

呼び込みをしていた子は、礼子がいきなり話しかけたにも関わらず、愛想良く答えた。

 

「じゃあ、ひなさんって知ってる?確か、今日の試合に出るって聞いたんだけど。」

 

「ひなさん?誰だっけ。」

 

礼子とその子の会話を聞いていた別の生徒が、

 

「ひなさんって、カルパッチョさんのことだよ。」

 

と教えてくれた。

 

「カルパッチョ?」

 

礼子が怪訝な顔をしている。

 

「私ら、本名じゃなくってあだ名で呼び合ってるんで。だいたい、イタリア料理に関係のある名前なんですよ。あ、私はビスコッティってんです。」

 

「そうなの。私、ひなさん、じゃなくってカルパッチョさんとSNSでの知り合いで、会ってみたいなと思って来たの。」

 

「そうなんですか。カルパッチョさん、副隊長だから試合の準備してるんじゃないすかね。あ、でも、準備が終わったらこっちにも様子を見に来るって言ってました。」

 

「副隊長なの!?」

 

礼子が驚いて聞き返す。

 

小熊と椎は、礼子とビスコッティが話しているのを興味深げに聞いていた。すると、後ろから威勢のいい声が聞こえた。

 

「お前ら、売り上げはどうだ?さぼってなんかいないだろうな!」

 

小熊が振り返ると、そこには、髪をツインテールにして、軍服っぽい服を着た女の子が腰に手を当てていた。その後ろには、同じような軍服を着た、髪の長い女の子が控えるように立っていた。その2人を見たビスコッティは、驚いたように返事をした。

 

「あ、アンチョビ姐さん。」

 

「私たちがいなくてもちゃんとできてるかしら。」

 

「カルパッチョさんも。」

 

どうやら、2人は、戦車道の試合に出場する選手らしい。

 

「試合の準備は一息ついたし、試合開始まではまだ時間があるから、現場はペパロニに任せて、お前らがちゃんと働いているか見に来てやったぞ。」

 

「やだなあ、アンチョビ姐さん。ちゃんと私らでジェラートとパスタ売ってますよ。今日は人も多いから、売れ行きも順調っす。」

 

「ペパロニがいないけど、鉄板ナポリタンはうまくできてるようね。」

 

「ええ、先週、ペパロニさんにみっちりと仕込んでもらったんで。だから、もし負けても、戦車の修理代は大丈夫っす。」

 

「こら、まだ試合も始まってないのに、今から負けた時のことを心配するな!アンツィオは弱くない、いや、強いんだ!今日こそあの強豪大洗女子学園には負けない、いや、勝つぞ!」

 

目の前で繰り広げられるコントのようなやりとりに小熊達3人があっけにとられていると、ビスコッティは礼子がカルパッチョを訪ねて来ていたことを思い出した。

 

「そうだ、カルパッチョさんに客人が来てるっすよ。えーっと、名前は何だったっけ?」

 

そこで、礼子が進み出て自己紹介をした。

 

「礼子です、初めまして。あなたがひなさんね。会えて嬉しいわ。」

 

「礼子さん、来てくれたんですね!初めまして、ひなです。あ、みんなからはカルパッチョって呼ばれてます。遠いところからありがとうございます。」

 

礼子が差し出した手をカルパッチョは両手で握って挨拶した。

 

「あと、私の友達を紹介するわ。同じ高校で同じクラスの小熊と椎ちゃん。小熊はスーパーカブ、椎ちゃんはリトルカブに乗ってるの。もちろん、私はハンターカブ。今日はここまで3人ともカブで来たのよ。」

 

「初めまして。小熊です。」「椎です。」

 

小熊と椎も、カルパッチョと握手をする。

 

「カルパッチョです。みなさん、カブに乗ってらっしゃるんですね。礼子さんから、たまにお二人のことはお聞きしますよ。」

 

それを見ていたアンチョビが、カルパッチョに尋ねた。

 

「カルパッチョ、友達か?」

 

「はい、礼子さんとは、SNSで知り合ったんです。お互いバイクに乗っていて、同じ高校2年生だから話が弾んで。それで、清水で戦車道の試合があるって話したら、見に来るって言ってくれたんです。ずっとSNSでのやりとりばかりで会ったことなかったから、もしできれば会いましょうってことで。」

 

「そうか、カルパッチョの友人なら歓迎するぞ。自己紹介が遅れたが、私がアンツィオ高校の隊長、アンチョビだ。ドゥーチェと呼んでくれてもいいぞ。」

 

アンチョビは、握手ではなく頬を擦り合わせるイタリア式の挨拶をしたので、3人ともびっくりしてしまった。

 

「ドゥーチェって何?」

 

小熊が不思議そうに聞くと、

 

「イタリア語で統師って意味ですよ。」

 

と椎が答えた。

 

「そうだ、お前ら、カルパッチョの友人なんだから、ちゃんとサービスして差し上げろよ。」

 

「もちろんっすよ。ジェラートだったら、ひとつ300円のところを200円におまけしますよ。鉄板ナポリタンは、500円を400円で。」

 

小熊は、屋台の食事は割高だし、味も期待できないので普段は食べないが、この子達からは買ってもいいと思った。安くしてくれるとのことだったので、ジェラートと鉄板ナポリタンを注文した。それを見た礼子と椎も、同じようにジェラートと鉄板ナポリタンを注文した。

 

「あいよ!鉄板ナポリタン3つにジェラート3つ!」

 

ビスコッティがオーダーを入れると、調理を担当している生徒が素早く鉄板ナポリタンを作り、もう一人がジェラートをカップに盛り付けた。それを見た椎は、

 

「あの、鉄板ナポリタンは後で食べるので包んでもらえますか。ジェラートはここで食べます。」

 

とお願いした。

 

鉄板ナポリタンが入った袋とジェラートを受け取り、屋台の後ろのベンチで3人とカルパッチョがジェラートを食べながら話していると、店の中にいたアンチョビがカルパッチョに声をかけた。

 

「カルパッチョ、そろそろ行くぞ。」

 

「わかりました、ドゥーチェ。じゃあ、礼子さん、小熊さん、椎さん、試合があるので、これで失礼しますね。あ、試合も見てくださるんですよね。」

 

「ええ、もちろん!そのために来たんだから。」

 

礼子がカルパッチョの手を握りながら言った。

 

「試合、頑張ってくださいね。」「応援してます。」

 

小熊と椎も、手を振って、試合に向かうカルパッチョとドゥーチェを見送った。

 

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試合は、駿河湾に突き出た三保半島一帯を使って行われる。観覧会場には、観客席と、小熊達の高校の校舎ほどもある高さの大きなモニターが設置され、両校の出場車輌や、ドローンで撮影した戦闘の様子が観られるようになっていた。

 

観客席の真ん中あたりに空いているスペースがあったので、小熊達はそこに座り、モニターに映し出される戦車道の紹介やルールの説明を見ながら、先ほど買った鉄板ナポリタンを食べていた。

 

「さすが、アンツィオですね。パスタの茹で具合もバッチリだし、ソースもコクがあって美味しい。後で作り方、教えてもらおうかな。BEURREで出してみたいです。」

 

口元をソースで汚しながら、椎が鉄板ナポリタン味を絶賛している。

 

「これ、そこらへんのお店で食べるパスタよりも美味しいわね。これが500円、いや、おまけしてもらって400円なんて、すっごく得したわ。」

 

礼子も、味と値段に大満足のようだ。

 

「少し冷めても十分に美味しい。」

 

小熊は、たまに作るレトルトのパスタとは比べ物にならないと思った。それに、こんなに美味しいパスタを食べてしまうと、今後食べるパスタは全部物足りなく感じるかもしれないことが心配になった。

 

「ひなさん、じゃなかった、カルパッチョさんは、ラザニアが得意らしいわよ。アンツィオでは、お昼休みに戦車道履修生が屋台を出していて、カルパッチョさんのラザニアは行列ができるぐらい売れるんだって。」

 

「一度、食べてみたいですね。」

 

鉄板ナポリタンを食べ終わり、椎が持って来たコーヒーを飲んでいると、制服を着た、三つ編みをお下げにした小柄な女の子が来て、礼子に話しかけた。

 

「あの、こちらの席は空いておりますでしょうか?」

 

小熊達の横の席が2つ空いていたため、念のために聞いたのだろう。礼子は「ええ、空いてるわよ。」と答えた。

 

「ありがとうございます。西隊長、こちらの席が空いておりました。」

 

「おお、福田、すまんな。」

 

そう言って、先ほどの子に西隊長と呼ばれた、同じ制服を着た長い黒髪の子が通路を歩いて来た。そして、腰を下ろす際に礼子の方を向いて軽く会釈をした。

 

「試合開始は何時だったかな。」

 

「隊長同士の挨拶が10時、その後、各校が試合開始位置に移動して、号砲が鳴るのが10時半と聞いております。」

 

「そうか、では、少し早いが腹ごしらえをしておこう。腹が減っては戦はできぬと言うからな。」

 

「西隊長、今日は戦をするのは我々ではなく、大洗とアンツィオです。」

 

そう言って、背負っていたリュックからお握りを取り出した。

 

「おお、今日のお握りは海苔が巻いてあるぞ。久保田はいつも塩むすびだが。」

 

「おやつに、名倉から甘味も持たせてもらっております。やや、なんと、中に梅干しが入ってますぞ。」

 

「こちらは昆布が入っていた。遠征だから奮発して少し豪華にしてくれたんだな。」

 

なんとなく2人の会話が耳に入った小熊は、いつもは塩むすびで、海苔が巻いていたり梅干しや昆布の具が入っているだけで豪華って、どういうことなんだろうと思った。

椎は、スマホで今日の試合に関するニュースや、先ほど話したアンツィオ高校の戦車隊の情報を見ている。

 

「全国大会では大洗とアンツィオは2回戦で戦ったらしいが、アンツィオは欺瞞作戦が失敗して、大洗に負けたそうだ。今日はどんな戦いを見せてくれるかな。」

 

「今回は、アヒル殿の活躍をじっくりと見て、我々の参考にしたいです。」

 

「そうだな、これまで突撃一辺道だった我が知波単戦車隊も、エキシビションや大学選抜との試合でいろいろと学んだからな。今日の試合でも大いに勉強させてもらおう。」

 

2人の会話を聞いて、礼子が隣の子達に話しかけた。

 

「あなた達も戦車道をやってるの?」

 

いきなり話しかけられたからか、小柄な子は一瞬面食らったような表情をしたが、西隊長と呼ばれた子は、礼子の方に体を向けて背筋を正して答えた。

 

「これは、ご挨拶が遅くなり失礼しました。私、知波単学園戦車隊の隊長を務めております、西絹代と申します。」

 

そう言って、左手にお握りを持ったまま、右手で綺麗な敬礼をした。

 

「私、同じく知波単学園戦車隊で、九五式軽戦車車長を務めております、福田はると申します。」

 

福田と名乗った子も敬礼したが、ほっぺたには先ほど食べていたお握りのご飯粒が付いていた。

 

「知波単学園って、千葉のお嬢様学校じゃない。それに、戦車道が盛んだと聞いているわ。私は礼子、山梨から試合を見に来たの。こちらは同じ高校の椎ちゃんと小熊よ。」

 

流れで紹介されてしまったので、椎と小熊も西と福田を見て軽く会釈をする。

小熊は、普段は教室では他の生徒とそれほど話さない礼子が、気軽に話しかけたのを見て驚いた。

 

「知波単は、大洗やアンツィオと試合したことあるんですか?」

 

礼子と小熊に挟まれていた椎が、身を乗り出して福田に尋ねた。

 

「対戦したことはありませんが、今年の全国大会の後に開催されたエキシビションで、我が知波単は大洗と組んで聖グロ、プラウダを相手にしました。その時は、善戦なるも負けてしまいましたが。その後の大学選抜との試合では、聖グロやプラウダ、サンダース、継続、アンツィオ、黒森峰と共に、大洗連合として大学選抜の戦車隊と戦いました。」

 

「あの、北海道で行われた試合に出てらっしゃったんですね。」

 

椎は、夏の終わりに行われたその試合について、新聞で読んで知っていた。また、その試合が、大洗女子学園の廃校を撤回させるための試合だったということも。その時は、父親や母親と、文科省はなんてひどいことをするんだろうと話して、椎自身も憤りを感じていた。

 

お互いに自己紹介をして、同じ高校生で2年生であること(福田は1年生だが)から、大いに話が弾んだ。その中で、今年、20年ぶりに戦車道を復活させたこと、その際に熊本から転校してきた、戦車道では由緒ある西住流の家元の次女である西住みほが隊長として、素人同然の集団を率いて全国大会で優勝したことなどを、西や福田が説明してくれた。

礼子や椎も、実際に戦車道をやっている西や福田からの説明を興味津々で聞いていた。

 

話を聞いていた小熊が、ふと疑問に思ったことを聞いた。

 

「西住みほさんって、西住流の次女ってことだけど、長女も戦車道をやってるの?」

 

その疑問には、西が答えた。

 

「はい、西住流の長女は西住まほ殿で、戦車道の強豪校である熊本の黒森峰女学園で隊長を務めておられます。」

 

それを聞いた小熊は、さらに疑問が浮かんだ。

 

「だったら、なぜ西住みほさんは大洗で戦車道をやっているんだろう。熊本から転校して来たらしいけど、その後で大洗が戦車道を復活させたってことは、大洗は戦車道をやっていなかったってことじゃないかな。」

 

「もしかしたら、大洗が戦車道を復活させる時に経験者が必要だからってスカウトされたんじゃない?」

 

礼子が自分の考えを述べた。

 

「でも、西住みほさんは黒森峰でも戦車道をされていたんですよね。大洗がスカウトしたからって、そんなに簡単に転校できるものなんでしょうか。」

 

椎は、礼子の説明には納得していないようだ。

 

小熊達の疑問を聞いて、西と福田は顔を見合わせて、少し真面目な顔で話した。

 

「おっしゃるとおり、西住殿は黒森峰で戦車道をされてました。しかも、1年生という身でありながら副隊長を務めておられました。しかし、去年の全国大会で、それまで9連覇をしていた黒森峰は、決勝戦でプラウダ高校に負けてしまい、10連覇を逃してしまったのです。その時のフラッグ車の車長が西住殿でした。」

 

それから、西住みほが、荒天の中で崖から濁流に滑り落ちた味方の車輌を救出するために自車輌から飛び出したこと、そのせいでフラッグ車が撃破されたことについても西が説明した。

 

「これはあくまで推測ですが、西住殿はそれに責任を感じて戦車道から離れ、戦車道の無い大洗に転校されたのかもしれません。」

 

小熊は、戦車道という武芸の流派が、一介の女子高生にそのようなことを強いるというのが理解できなかった。たとえそれが10連覇の達成を妨げたとしても、人命救助のためだったのだから。

なんとなく嫌悪感が表情に出てしまったのだろうか。小熊を見ていた西が、説明を続けた。

 

「でも、西住殿は、文科省から大洗女子学園に突き付けられた廃校を撤回するために、戦車道を再開されました。それも、西住殿以外に戦車道の経験が無い隊員と、20年前に廃止になった時に残されていた、失礼ながらそこまで強いわけではない戦車を率いて。そうして、決勝戦では、ご自身が所属されていた黒森峰と戦い、勝利されました。しかも、黒森峰は重戦車を含めた20両、大洗は7両という不利な状況で。最後の、黒森峰隊長車のまほ殿と大洗隊長車の西住殿の一騎打ちは、それは激しいものでした。」

 

「じゃあ、西住みほさんは、自分を追い出した黒森峰に仕返しをしたってことね。」

 

礼子が能天気な意見を挟んだが、西が首を横に振った。

 

「いえ、西住殿は決してそのような考え方をするお方ではありません。確かに、9連覇を逃したことについての責任を感じられていたかもしれません。黒森峰を去ったことは、もしかするとそれが原因で黒森峰にはいられなくなったということも考えられます。だからと言って、ご自身が所属されていた黒森峰や西住流に反旗を翻すということは絶対にしないでしょう。」

 

西の説明に続けて、福田も大洗の戦車道について話す。

 

「私、縁あって大洗の八九式に乗っているアヒルさんチームの方々と仲良くさせてもらっておりますが、皆さん、本当に大洗を、いや、大洗の戦車道を愛されております。廃校を阻止するため、西住殿だけではなく、戦車隊の皆さんが一丸となって戦ったのです。」

 

「その大洗は、全国大会での優勝によって廃校が撤回されたにも関わらず、再び廃校を言い渡されました。それを阻止するためには、大学選抜との試合で勝たねばならないという条件を突き付けられたのです。しかも、大学選抜の車輌は30両、一方で、大洗は戦車が7両しかないのに、試合は殲滅戦というとても不利な状況で。」

 

その時に感じた憤りを思い出したのか、福田は膝の上に置いた手をぐっと握りしめていた。目も若干潤んでいる。

それを見た西は、説明を引き継いだ。

 

「文科省によるあまりにも非情な条件にも関わらず、西住殿は諦めることなく、その条件を呑んで試合に挑もうとされていました。そこで、過去に大洗と関わった戦車道強豪校が申し合わせて、大洗を助太刀することにしました。しかし、そのことは、機密保持のため、試合開始直前まで西住殿には知らされておりませんでした。僭越ながら、我が知波単も、エキシビションで共に戦った同志として助太刀に加わりました。」

 

「我々知波単だけではなく、聖グロリアーナ、プラウダ、サンダース、アンツィオ、あと、なぜだかわかりませんが継続高校が、戦車を持ち寄って大洗に合流しました。その中には、姉である西住まほ殿率いる黒森峰の姿もあったのです。」

 

「これらの学校は、西住殿との戦車道を通して築いた友情のために参戦しました。つまり、西住殿のお人柄が、各校を助っ人に向かわせたのです。」

 

椎は、経緯の一部は新聞で読んで知っていた。しかし、そのようなことがあったことを、実際にそれに関わった西と福田から話を聞いて、驚きのあまり、目を見開き、口に手を当てていた。

いつもはくだらない茶々を入れる礼子も、西と福田があまりにも真剣に話をするので、口を挟まずに大人しく聞いていた。

 

「激戦の末、最後に残ったのは、大学選抜は、島田流継承者である島田愛里寿殿の隊長車、大洗連合は、大隊長車の西住殿と、まほ殿の2両でした。激しい攻防の後、まほ殿の撃った空砲で加速した西住殿の戦車が大学選抜の隊長車に吶喊して撃破し、我々大洗連合は、大学選抜に勝利しました。」

 

「全国大会で対決した西住姉妹が、大学選抜戦では、連携して相手を倒したのです。」

 

そこで、西は福田から渡されたお茶を一口飲み、最後にこう言った。

 

「西住殿の戦車道は、人を惹きつけ、仲間との絆を結ぶものなのかもしれません。」

 

小熊は、これまで戦車道についてはほとんど知らなかったが、自分と同じ高校生が、そのような過酷な状況におかれていたことに声が出なかった。しかも、自分自身どころか、学園や、学園艦そのものの運命を左右する立場だったことも。

西や福田の話から、西住みほという女子高生が辿った道筋を追体験したような気がして、その重苦しさを感じたような気もした。

 

しばらく無言の間が続いた後、口を開いたのは小熊だった。

 

「西住みほさんはその後、どうなったの?」

 

お茶を飲んだ西が、小熊に微笑んで答えた。

 

「あそこにいらっしゃいますよ。」

 

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気が付けば、両校隊長の挨拶が間もなく始まる時間になっていた。

観客席の前の広場では、アンツィオのアンチョビとカルパッチョ、そして、大洗は、ショートボブの子と、その後ろから、上級生らしき、片眼鏡をかけた子が、歩いて審判団のほうに向かっていた。

 

両校の隊長が現れたからか、観客席からの声援が一際大きくなった。それにびっくりしたのか、前を歩いていた大洗の子が転びそうになって、後ろを歩いていた片眼鏡の子がしっかりしろといわんばかりに声をあげているように見えた。どうやら、転びそうになった子が、西住みほらしい。

 

先ほどまでの話を聞いていた小熊は、西住みほってどんな子なんだろうと思っていたが、目の前を歩いているのは、どこにでもいそうな普通の女の子だった。

 

両校の隊長と副隊長が、審判団の前にそれぞれ向かい合うように並び、審判団の女性の話を聞いていた。お互いが背筋を正したところで観客席が静かになり、アナウンスが流れた。

 

「それでは、大洗女子学園と、アンツィオ高校の練習試合を開始します。」

 

審判団の女性が言葉を発すると、両校の隊長が、お互いの健闘を祈ってそれぞれ礼をした。その瞬間、観客席からは大きな拍手が両校の隊長達に送られた。小熊や椎、礼子も、これから始まる戦車戦に期待を膨らませながら、力一杯、拍手をした。

 

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福田の説明によれば、実際に試合が始まるのは30分後。その間、各校の戦車はそれぞれ試合開始位置に移動し、合図の花火が上がるまで待機するらしい。

 

少し時間に余裕があるからか、観客の中には食べ物や飲み物を買いに行ったりする人もいるようだ。

小熊達は、先ほど食事を済ませたばかりだし、西や福田も特に席を立つ様子もないので、礼子が福田に話しかけた。

 

「実は、私、アンツィオ高校の副隊長のカルパッチョさんとSNSで知り合って、戦車道の試合があるって聞いたから見に来たんだけど、私達、戦車道の試合を見るの、初めてなの。もし良かったら、戦車道の試合について教えてくれない?」

 

それを聞いて福田は、椎が言っていたように、戦車道は、茶道、華道と同じように乙女の嗜みとしての武芸であることや、勝敗の決め方は、殲滅戦とフラッグ戦の2種類あること、今日の試合はフラッグ戦で、大型モニターに映し出された各校の戦車一覧を見ると、それぞれ隊長車がフラッグ車であることなどを説明した。

 

西は、アンツィオ高校は、カルロベローチェという軽戦車による機動力を生かした戦術が得意なこと、礼子の友人であるカルパッチョは、セモヴェンテという自走砲の装填手として参戦していること、隊長のアンチョビは、P40という重戦車に乗っていることなど、アンツィオ高校の戦車や戦い方一通り話した。

 

大洗については、福田が、様々な戦車があり、それぞれの戦車チームには動物の名前がついていることや、各チームについておおまかな説明をした。特に、福田の友人である、八九式中戦車に乗っているアヒルさんチームについては、4人が排球部に所属していたことや、戦車はあまり強くなくても根性で戦うことなどを特に詳しく説明した。

 

「排球部って、何ですか?」

 

話を聞いていた椎が、小熊に聞いた。

 

「わかんない。」

 

礼子が「バレー部のことよ。」と答えた。

 

その話の続きで、福田がバイクに乗って大洗に遊びに行った話をしたところ、礼子の目つきが変わり、いきなり福田の両肩を掴んだ。

 

「あなた、バイクに乗ってるの?どんなバイク?」

 

態度の変わった礼子にひるんだ福田は、震え声で答えた。

 

「あ、あの、私は、小型二輪の単車に乗っております。あと、西隊長は中型の単車に乗っておられます。」

 

それを聞いた西も、話が自分の趣味であるバイクになったからか、身を乗り出してきた。

 

「私も単車に乗っております!あ、ウラヌスという名前を付けてます。礼子殿も単車に乗っておられるんですか?」

 

「ええ、実は、私達、ここまで3人ともカブで来たのよ。」

 

ふとしたことから、お互いがバイクに乗っているということがわかり、そこからは礼子と西、福田のバイク談義が始まった。椎も、自分と同じぐらいの背丈の福田が小型二輪に乗っていると聞いて、自分もいつかは原付から小型二輪にステップアップしたいと話していた。

さらに、福田は、大洗の戦車隊でM3リーの車長の澤梓がスクーターに乗っていること、三式中戦車の車長の猫田は、親戚のお店の配達用のカブに乗っていることを話した。

 

思いがけず、バイクの話で盛り上がった礼子だったが、間もなく試合を開始するというアナウンスが流れたところで、いったん話を切り上げた。

 

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大洗とアンツィオの試合は、お昼前には終わったものの、モニターから目を離せないほど、目まぐるしいものだった。

しかし、西と福田が、小熊達から見るとあまり違いがわからない戦車について名前や特徴を教えてくれたり、モニターに映された俯瞰図から双方の戦術を説明してくれたので、戦車道の試合を見るのは初めてではあったが、かなり楽しめた。

 

序盤に、大洗は八九式、アンツィオはCV33を偵察に出したところ、これが鉢合わせしていきなり戦闘が始まってしまった。八九式に乗っているアヒルさんチームを福田が熱心に応援し、途中で合流した他のCV33と八九式の追いかけっこは小熊達が見てもとても面白かった。

また、大洗のⅢ号突撃砲とセモヴェンテが、自走砲同士の一騎打ちになり、西の解説でそのセモヴェンテにカルパッチョが装填手として乗っていることがわかると、礼子が声を張り上げて応援していた。

 

カブに乗っていると聞いた猫田が車長をしている大洗の三式中戦車は、同じカブ乗りとして小熊や椎も応援していたが、180度ターンしたもう1両のセモヴェンテの正面からの砲撃で撃破されたため、2人は肩を落として残念がった。礼子は「カブならあんなの簡単に避けられたのに。」と言っていたが。

 

福田から、大洗は各戦車ごとにあんこうやカモさん、ウサギさんなどのチーム名がつけられていると聞いて、小熊は心の中で「クマさんチームはないのかな。」と思ったりした。

 

そんなふうに、試合会場のあちこちで戦闘が行われていたが、それをかいくぐりながら指揮を出していた双方の隊長車、大洗のⅣ号とアンツィオのP40が交差点でいきなり鉢合わせてしまった。すれ違いざまに砲撃し、それを躱しながらいったん遠ざかった後で、再度向い合せになって砲撃した様子を見た礼子が「まるで西部劇のガンマンみたいね。」と言った。

 

試合の様子は目の前の大型モニターで見ていたが、遠くから砲撃音が聞こえてきて、それがさらに臨場感を感じさせていた。

さすがに、景勝地として有名な三保の松原は戦車侵入禁止区域になっていたが、三保半島の街中や、海沿いの砂浜で繰り広げられる戦車戦は、大洗とアンツィオの奇抜な戦術が駆使された見どころの多い試合になっていた。

 

時間が経つにつれ、徐々にお互いの戦車が撃破されていく中、散らばっていたアンツィオの戦車が隊長車の下に集まり、一団となって大洗に突っこんでいった時は、西と福田が「おお、アンツィオの突撃だ!」と盛り上がっていた。

この突撃で、大洗のM3リーや、回転砲塔を持たないヘッツァーが撃破されてしまったが、P40が砲撃した後の装填にかかる時間の隙を突いて、CV33の砲撃を固い装甲で跳ね返すポルシェティーガーの横からⅣ号がP40を撃破したことで、試合は大洗の勝利で終了した。

 

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「あーあ、アンツィオ負けちゃった。」

 

礼子は残念そうだったが、

 

「でも、すごくいい試合でしたね。」

 

と椎がお互いの健闘を称えた。

 

練習試合なので、表彰式や閉会式は行われず、撃破された戦車の回収が終わればこのイベントはそのまま終了ということになる。

観覧会場にいた観客も席を立ち、会場の出口に向かっていた。

 

「では、私たちはこれで失礼します。夕方までには千葉港に寄港している学園艦に戻って、今夜の会合で今日の試合についての勉強会を開きますので。」

 

そう言って、西が小熊達に別れの挨拶をし、弁当や飲み物を片づけてゴミをまとめ終わった福田も3人に向かって敬礼した。

 

「今日はありがとう。おかげで戦車道や戦車のことがわかって、とても楽しめたわ。」

 

礼子も、おどけたように敬礼をする。

 

「ありがとうございました。今度は知波単の試合を見たいです。あと、もし山梨の北杜市に来ることがあったら、武川地区にあるBEURREっているベーカリーに是非お越しください。」

 

椎は、今日のお礼ということで、2人に無料券を渡した。

 

「ありがとうございます。ぶうるですね。山梨に行った際には、是非寄らせて頂きます。ところで、べえかりいとは何でしょうか?」

 

外来語が苦手な西が、椎に聞いた。

 

「パン屋さんのことです。自家製のパンを売ってるんです。あと、イートインスペースもあるので、そこで食べられるんですよ。」

 

「いーといん?」

 

「西隊長、パン屋さんの中に席があって、買ったパンをそこで食べられるということです。」

 

福田は、バイクで出かけてコンビニに寄った際、買った軽食を食べられるスペースがイートインと呼ばれていることを知ったので、西に説明した。

 

「なるほど!なんともハイカラなお店ですね。行くのが楽しみです。」

 

それを見ていた小熊は、西がふざけているわけではなく、本当に知らなかったというのが信じられなかったが、確かに、今日の話の中で、西や福田は外来語を使っていなかったような気がした。

 

「西さん、福田さん、今日は本当にありがとう。これまで戦車道のことは知らなかったけど、お二人にいろいろと説明していただいたおかげで、すごく理解が深まりました。なんだか、新しい世界のことを知ったような感じです。」

 

「こちらこそ、戦車道に興味を持っていただき、嬉しく思います。今度はぜひ、我が知波単の試合を見に来て下さい。」

 

西が、小熊の手を握ってぶんぶんと振ったので、小熊も苦笑していた。

 

「機会がありましたら、今度は単車で一緒に走りましょう。」

 

福田は、カブに乗っているという3人に興味を持ったらしい。それに、今の友人の中でバイクに乗っているのは全て戦車道繋がりだが、戦車道とは関係ない人との交流もしてみたいと思っていた。

 

「山梨は学園艦の寄港地から来るのは少し不便ですが、是非遊びに来てください。私達も、千葉に行くことがあれば、連絡します。」

 

西と福田は、新幹線の駅に向かうバスに乗るため、手を振りながら去って行った。

 

「さあ、この後、どうする?」

 

気分を切り替えるように、礼子が小熊と椎に聞いた。

時刻はお昼過ぎ。観覧席はまだ人がたくさんいて、大型モニターには今日の試合のハイライト映像が映し出されていた。

 

「まだ周りの道は帰る人で混んでるようだし、急いで帰る必要もない。」

 

「そうですね。どこかでお昼ご飯を食べませんか?鉄板ナポリタンを食べてしまいましたが、作って来たサンドイッチがあるので。」

 

椎が、手元にあるバスケットを開けて、アルミホイルに包まれたサンドイッチを小熊と礼子に見せた。その横には、コーヒーを入れるためのマキネッタもある。

 

「礼子、カルパッチョさんには会いに行かないの?」

 

「アンツィオは、試合の後は、対戦相手の選手やスタッフを労うために宴会をするんだって。カルパッチョさん、大洗に幼馴染みがいるって言ってたから、その子と話したいと思うし。」

 

「じゃあ、少し移動して、どこかランチを食べるのにいい場所を探しましょう。あと、せっかく来たんだから、三保の松原も見てみたいです。」

 

椎がそう言ったので、礼子と小熊は荷物をまとめて席を立った。

 

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会場を出て、まだ人通りの多い通りを歩き、アンツィオの屋台に顔を出して挨拶をして、バイクを停めている駐輪場へと向かう。バイクにいたずらされていないことを確認してから、ランチの荷物だけを持って、海岸の松林のほうに歩いて行った。

 

松林を抜けて海岸に出ると、左手のほうに富士山が見えた。いつもは北杜市から見ているが、見る場所が変わったからか、少しだけ形が違うように見える。

 

「この風景って、確か浮世絵で有名ですよね。なんていう絵だったかなあ。」

 

椎が、首をかしげて考えている。

 

「歌川広重ね。ここからの風景じゃないけど、この三保半島を入れた構図みたい。」

 

礼子がスマホで調べた画像を椎に見せた。

 

少し歩くと、木のテーブルとベンチを見つけたので、そこで持って来たランチを広げる。BEURREで人気のある、ベーコンと卵のサンドイッチに、クリームチーズとサーモンのベーグル。飲み物は、椎がマキネッタでコーヒーを淹れる。

 

「知波単の子達って、お嬢様学校だからてっきり近寄りがたいのかと思ってたけど、すごく気さくで面白い子達だったわね。」

 

礼子が、西と福田のことを話す。

 

「でも、西さんと福田さん、戦車道に対する姿勢はすごく真面目ですね。戦車とか戦術の知識量もすごかったです。」

 

椎が、コーヒーをカップに注ぎながら、福田に説明してもらった大洗の戦車や、アンツィオの軽戦車による戦術を思い出す。

 

「私は、学園の廃校を賭けて戦った大洗の話を聞いて、西住みほさんに会ってみたくなった。西さんから話を聞いた時はどんな人なんだろうと思ったけど、今日の試合で見た感じ、普通の女の子だった。」

 

小熊は、辛い過去を乗り越えた西住みほが、普通の女子高生としてみんなと笑いあいながら戦車道をやっているのを見て、自分は果たして普通の女子高生なんだろうかと思ってしまった。

 

小熊を知っている礼子と椎は、小熊がそのように他人に興味を持つというのが珍しいので、きょとんとしていた。

 

「会えるかもよ、カブに乗っていれば。」

 

礼子がふと呟いた。

 

「私がカルパッチョさんと知り合って、その伝手で戦車道の試合を見に来て、会場で知波単の西さんや福田さんと知り合った。カブに乗っていなければこんなことは無かったと思うわ。」

 

「そうですね。私も、まさか自分がカブに乗って戦車道の試合を見に行くなんて、半年前には思ってもみませんでした。カブに乗っていたからこその出会いもありますね。」

 

椎も頷きながら、小熊を見た。

 

「また、3人で戦車道の試合、見に行きましょう。」

 

礼子が小熊と椎を見て、約束よ、とでもいうように微笑んだ。

 

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ランチを終えて駐輪場に戻る頃には、試合を見に来た観客や関係者による混雑もほぼ解消していた。まだ日は高いが、これから北杜まで帰るとなると、早めに帰路についた方がよい。

荷物をリアのボックスにしまい、3人は、駐輪場から一般道に出て、一路、北杜市に向けて走り出した。

 

帰りは、最初は小熊が先頭を走り、走るのに慣れた椎が試しに先頭を走ってみたいということで、52号線に入ってからは、椎、小熊、礼子の順で走る。

 

小熊は、西や福田から聞いた話を考えていた。

大洗の西住みほが一度は離れた戦車道を始めたのは、転校先の大洗を守りたかったから。全国大会や大学選抜との試合で、圧倒的な不利な状況でも、諦めずに立ち向かったのは、守りたい場所があったから。

はたして自分は守りたい場所があるのだろうか。

 

バックミラーを見ると、礼子がスピードに物足りなさを感じているらしく、小熊を少し煽り気味に走っている。カブに砲塔があったら、間違いなく礼子を撃破しているのに、と考える。

でも、礼子がSNSでカルパッチョと知り合い、3人で戦車道の試合を見に来て、知波単の西や福田と知り合えた。だから、撃破は勘弁してあげよう。

 

西住みほは、戦車道の試合を通して他校との絆を築き、そのために大学選抜との試合では他校が助っ人として駆けつけたと聞いた。戦車道を通した絆、単なるスポーツではなく、武芸として、道として、人を成長させる戦車道。

道と言えば、自分はスーパーカブに乗って道を走っている。でも、スーパーカブは道を走るだけではなく、それを通して礼子や椎と、友人らしき繋がりを作ってくれた。

そうか、自分が守りたいものは、学校や、今住んでいるところではなく、スーパーカブに乗っている自分。以前は、親はいない、お金もない、友達もいない、趣味もない、ないないの女の子だった。でも、今は、スーパーカブがある。そのおかげで、友人と呼べるものができ、また、その繋がりで戦車道というものを知ることができて、その戦車道を通して、バイクに乗っている知波単の人達とも知り合えた。ぼんやりとして、先の見えない生活に彩が生まれたのは、スーパーカブのおかげ。

もしかすると、スーパーカブに乗るということが自分にとっての「道」なのかもしれない。

 

「スーパーカブ道、いや、カブ道か。」

 

信号で停まった時にふと口に出した言葉が可笑しかったので、思わず笑ってしまった。それをバックミラーで見た椎や、横に並んで停車した礼子が不思議そうにこちらを見ている。少し恥ずかしかったので、視線を下に落とし、メーターを見るふりをする。

 

これから、スーパーカブは私にどんな繋がりを作ってくれるのだろう。そんなことを考えていたら信号が青になったので、ギアを入れて、顔を上げて走り出した。

 

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「ねえ、タンカスロン、見に行かない?」

 

お昼休みにいつもの駐輪場で昼食をとっている時、礼子がまた唐突に行った。

 

「タンカスロンって、強襲戦車競技で、軽戦車か豆戦車による野良試合のことですよね。」

 

アンツィオと大洗の試合を見て、知波単の戦車道履修生と知り合いになった椎は、帰ってから戦車道のことをいろいろと調べていたので、知っていたらしい。

 

「そうよ。実は、この近くにある楯無高校の子が、清里で開催されるタンカスロンに出るらしいの。」

 

「見に行きましょうよ、小熊さん。」

 

椎は、また戦車道の試合を見られるのが楽しみのようだった。

小熊も、先日の試合が楽しかったので、他の試合を見るのも面白そうだと思った。

 

「うん、行く。」

 

小熊は、ふと、これも「カブ道」なのかな、と思った。

今度の試合は、どんな繋がりに出会えるのだろう。

 




山梨県北杜市を舞台にした「スーパーカブ」と、茨城県大洗町が主な舞台になっていたガルパンをどうやってクロスオーバーさせようかと悩みましたが、アンツィオが清水を母港にしているということなので、清水だったら北杜市から近いかな、と。

礼子と椎ちゃんの雰囲気は出しやすいのですが、小熊は言葉少な目なので、難しかったです。
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