ガルパンバイク部のお話   作:日本を鳥戻す

5 / 23
日々、戦車道で装填手を務め、ダージリンの格言に備えて読書をするオレンジペコは、もう少しアクティブなことがしたいと思っていた。
そんなある日、ローズヒップから趣味がバイクと聞いて。


ローズヒップの口調に苦労しました(汗)



バイクが趣味なのですわー!

「よーし、今日の訓練は終わり!戦車を戻したら、お茶会をするぞー!」

 

いつもとは違う掛け声で、午後の訓練が終了する。

聖グロの戦車道は、常に優雅。普段は隊長のダージリンが訓練の終了を優雅に伝えるのだが、今日は臨時で隊長代理を任されたルクリリが、優雅とは言えない口調で終了の合図を告げた。

 

聖グロリアーナ戦車道隊の隊長であるダージリンと副官のアッサムは、戦車道履修生の集まりのため、都内の戦車道連盟に出かけている。それでも戦車道の訓練が休みになるということはなく、臨時隊長代理のルクリリのもとで、隊列を維持して演習場を10周した後、砲撃訓練(制止射撃と行進間射撃)、履帯修理など、様々な課題をこなした。

 

普段であればお茶会は「紅茶の園」と呼ばれる建物で、幹部生を中心として開催されるのだが、今日は戦車倉庫にテーブルが並べられている。

 

「ルクリリ様、いつもと違う趣向のお茶会ですね。」

 

皆と一緒に紅茶を用意しているオレンジペコが、ルクリリのほうを見て言った。

 

「ああ、今日はダージリン様とアッサム様もいないし、たまには紅茶の園ではなく、ここでみんなとワイワイするのも良いかと思ってな。」

 

「広々としたところでお茶会なんて、楽しみですわー!」

 

紅茶の園で走り回るとアッサムから叱られるが、ここならば広いし、今日はアッサムもいないので、ローズヒップは気兼ねなく走り回っている。

 

「よーし、今日は無礼講だ!鬼のいぬ間に心の洗濯だ!」

 

「「「了解!」」」

 

ルクリリが、サラリーマンの宴会みたいなことを言うのを聞いて、オレンジペコは笑いながら

 

「ダージリン様とアッサム様は鬼ですか?」

 

と突っこんでいた。

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

「アッサム、なんだか悪口を言われているような気がするのですが。」

 

戦車道連盟内の会議室で、今年度の全国大会に向けた説明を聞いていたダージリンが、隣にいるアッサムに小声で話しかけた。

 

「気のせいですよ。多分、私達がいないから、みんな寂しがっているんじゃないですか。」

 

そういうアッサムも、ローズヒップがなにかやらかしていないかと不安になっていた。

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

アッサムの不安は的中していた。

 

紅茶のカップを持ったまま走り回っていたローズヒップは、自分が零した紅茶で足を滑らせて、テーブルのひとつに頭から突っ込んでいた。

そのため、綺麗に並べられていたクッキーやサンドイッチが台無しになるところだったが、今日はみんなでお茶会をやっていたせいか、すでに殆どのお茶菓子が履修生のお腹の中に避難していたので、被害は最小限に抑えられた。

 

さすがにローズヒップも懲りたのか、今はルクリリやオレンジペコと一緒に椅子に座って紅茶を飲んでいる。

 

「かーっ、美味い!もう一杯!」

 

普段であればアッサムがこめかみに青筋をたてるような状況であるが、ルクリリとオレンジペコはそれを咎めることもなく、笑っている。

 

「ローズヒップさんは何か趣味をお持ちですか?」

 

「へ?」

 

「ああ、今、ペコと趣味について話していたんだ。生憎、私たちは来る日も来る日も戦車道ばかりで、それ以外のことはほとんどしていないからな。」

 

「ルクリリ様も私も、特にこれといった趣味がないので、ローズヒップさんは何か趣味をお持ちなのかなあ、と。」

 

「そういうことでしたのね。私の趣味は、バイクですわ!」

 

「そう言えば、たまにローズヒップがスクーターで走っているところを見かけるな。」

 

「そうですの!バイクで走るのはすごく楽しいんですの!」

 

「へぇー、バイクですか。なんだかローズヒップさんらしいですね。」

 

「ご存知のとおり、私の家族は大所帯なんですが、上の兄がバイクに乗っていて、小さいころからその後ろに乗せてもらっていたんですわ。」

 

「それで私もバイクに乗りたいと思って、16歳になってすぐに原付の免許を取得しましたの。あ、原付免許は、筆記試験に受かればその日のうちに免許証が貰えますのよ。」

 

「私が免許を取ったと兄に話したらそれはとても喜んでくれて、家にあったスクーターを私に譲ってくれましたの。」

 

オレンジペコは、ローズヒップの趣味がバイクということにも驚いたが、それについて熱心に話すローズヒップを見て、なんだか羨ましいなあ、と思った。

 

「戦車道の訓練が無い週末は、学園艦の遠いところにバイクで出かけますの。何気なく立ち寄ったお店で紅茶とケーキを頂くのはとても楽しいんでございますのよ。」

 

聖グロリアーナの学園艦はとても大きく、普段は学園と寮のまわりぐらいしか出歩かないので、行ったことのないエリアもたくさんある。もちろん、学園艦にはバスの路線が整備されており、行こうとすれば行けるのだが、バイクの機動力でいろんなところに出かけるのはとても魅力的に思えた。

 

「それに、寄港した時には、その土地をバイクでツーリングして、名所や観光地を巡るのはもっと楽しいんですの。」

 

「でも、バイクって危なくないのか?」

 

ルクリリが少し心配そうに聞く。

 

「とんでもございませんわ!原付は制限速度が30kmですし、ちゃんとヘルメットを被ってグローブもはめます。服装も、長袖長ズボンで、いつ転んでも大丈夫ですわ!あ、でも、これまで一度も転んだことはありませんのよ。」

 

ローズヒップがドヤ顔で言う。

 

「それに、バイクで走ると風を感じられて、とても爽快な気分になれますわ。確かにクルセイダーの時速60kmよりは遅いのですが、自分で運転するのはまた違いますし。」

 

「へえ、そうなんだ。」

 

ルクリリも楽しそうにローズヒップの話を聞いている。

 

そうこうしている間にお茶会も終わりとなった。みんなで後片付けをしたので、いつもより早く切り上げることができた。

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

「バイクかあ、なんだか楽しそうだな。」

 

普段、オレンジペコは、戦車道の訓練が終わると図書室で格言集の本を読むのが習慣となっていた。いつでもダージリンの格言に答えられるように、というのもあるが、本を読むということが好きだったからだ。

ただ、椅子に座って読書というインドアなものではなく、外に出ていろんなものを見てみたい、もっとアクティブなことをしてみたい、という気持ちもあった。

 

この日は図書室に寄らず、帰り道にある本屋に寄って、何気なくバイク雑誌のコーナーを見ていた。

ふと、1冊の雑誌が目に入った。表紙には、スクーターに乗った女性の写真が使われており、タイトルからは、女性向けのバイク雑誌のようだった。

雑誌を取り上げてぱらぱらとめくると、いろんなところにツーリングしている、写真がたくさん載った特集記事があった。

さすがに立ち読みというのは、優雅さを求められる聖グロ生徒としてはふさわしくないので、値段を確認してから、レジへと向かった。

 

寮の自室に戻り、部屋着に着替えて、先ほど買った雑誌を見てみようと思った時、携帯のメッセージ着信音が聞こえた。慌ててカバンから携帯を取り出して差出人を見ると、大洗女子学園の澤梓からだった。

 

澤梓とは、先日のエキシビションや大学選抜との試合を通して仲良くなり、お互い1年生で、戦車道を履修していることから、ほぼ毎日、メッセージのやりとりをしていた。内容は、その日の戦車道の訓練の内容や、他愛のない話などだが、オレンジペコは澤梓とのやりとりが楽しく、一度メッセージをやりとりするとしばらくの間それが続くのであった。

 

>梓「聞いて聞いて、先週末ね、知波単の福ちゃんが大洗に遊びに来たの。」

 

福ちゃん?ああ、あの九五式軽戦車に乗っていた、三つ編みの小柄な子のことか。確かあの子も1年生だったような。

 

>ペコ「へえ、楽しそうですね。どこか周られたんですか?」

 

>梓「ううん、あひるさんチームに会いに来たんだって。私達は福ちゃんが帰るところで、町営駐車場で会ったんだよ。」

 

駐車場?大洗駅や街中で会ったのならわかるが、駐車場とは?

 

>梓「それでね、福ちゃん、バイクで銚子から大洗まで来たんだって。」

 

えっ!?バイク?

 

>梓「福ちゃんのバイク見せてもらったけど、すごく恰好良かったよ。」

 

次のメッセージには、福田がバイクに跨っている写真が添付されていた。

 

>ペコ「とても格好良いです!」

 

>梓「でしょ。」

 

>ペコ「でも、どうしてバイクで来たのでしょう。」

 

>梓「西さんがね、あ、知波単戦車隊の隊長ね、福ちゃんを後ろに乗せてツーリングに連れて行ってくれたんだって。」

 

>梓「それで、福ちゃんもバイクに乗りたくなって、免許をとったらしいよ。」

 

>ペコ「福田さん、アクティブですね。」

 

その後は、今日は西住隊長が戦車道連盟に出かけていたので武部沙織による通信手講座があり、その中で「告白する時と同じぐらいはっきりと喋らないときちんと伝わらないよ!」と言ったら、五十鈴華が「告白したこと、あるんですか?」と突っ込みを入れたことや、聖グロもダージリンとアッサムが戦車道連盟に出かけていて、ルクリリが臨時で隊長代理をして、その後は戦車倉庫でお茶会をしたなどの話をした。

 

しかし、先ほど送られてきた、福田がバイクに跨った姿が、オレンジペコの頭から離れなかった。

 

およそ1時間近く、そのようなやり取りをしていたが、ほどなく夕食の時間になったため、

 

>ペコ「あ、ごめんなさい、もうそろそろ夕食の時間だから。」

 

とメッセージを送って、お休みの挨拶をしてやりとりを終えた。

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

寮の夕食を終えると、特にすることも無いので、軽く外でも散歩をしようと思って玄関に向かったら、外からバイクの音が聞こえた。

 

「もしかしたら...」

 

確かに、夕食の時にローズヒップの姿を見かけていない。いれば必ずわかるはずだ。

普段だったら特に気にもとめなかったが、今日のお茶会での話や、先ほどの澤梓とのやりとりから、いつもと違ってバイクの音に敏感になったのだろう。

 

慌てて(廊下を走るということはしなかったが)玄関から外に出ると、丁度、ローズヒップがバイクから降りるところだった。

 

「ローズヒップさん、こんばんは。」

 

「あら、オレンジペコさん、こんばんはですの。」

 

「どこかにいらしてたんですか?」

 

普段であれば、いきなり相手に行き先を尋ねるというような不躾なことはしないのだが、この時はローズヒップの横にあったバイクに目をとられ、そこまで気が回らなかった。

 

「はい、学園艦のラーメン屋さんに行ってましたの。」

 

「それで、夕食の場にいなかったんですね。」

 

「今日はダージリン様もアッサム様も帰りが遅いと聞いておりましたし、こんな時しか羽を伸ばせませんので、前から行きたいと思ってたラーメン屋さんに突撃したんですわ。」

 

「突撃、なんだか知波単みたいですね。」

 

オレンジペコの頭に、先ほどの福田の写真がまた思い浮かんだ。

 

「それがですね、今日は特売日で、チャーシュー増量が無料の日でしたの!なんでも、毎週月曜日は週替わりでいろんな特典があるんですって!これまで知らなかったのが残念無念ですわ!」

 

しばらく、ローズヒップが、やはり細麺よりは太麺のほうが良いだの、もやしのシャキシャキ感がたまらないなどの話をしていたが、オレンジペコはさっきから気になっていたことを思い切って聞いた。

 

「あ、あの、ローズヒップさん、そのバイク、見せていただけますか?」

 

一瞬、話が途切れたローズヒップであったが、今日のお茶会の話を思い出したのか、

 

「どうぞ、これが私のバイクですわ。じっくりとご覧あそばせ!」

 

と、横に下がってくれた。

 

小さなスクーターで、赤と白のツートンカラーがローズヒップに似合っていた。

前には聖グロの校章のステッカーが貼っていた。兄から譲ってもらったと言っていたが、そのステッカーがもうこれは自分のバイクだ、と主張しているようだった。

ハンドル下にある鍵穴にはキーがまだ差し込まれており、これには聖グロのキーホルダーが付けられていた。

そう言えば、ヘルメットはどうしたんだろう?と思って聞いたら、

 

「ここに入ってますの!」

 

と、シートを開けると、その下の空間にかわいらしいヘルメットが収納されていた。良く見ると、茶色のスウェードのグローブも一緒に入っていた。

バイクに気をとられてあまり良く見ていなかったが、ローズヒップの服装も、いつもの制服ではなく、ジーンズにバスケットシューズ、ピンクの襟付きシャツの上にスカジャンを羽織っていて、バイクに乗るにはぴったりの服装だった。

 

「オレンジペコさん、バイクに乗ってみます?あ、跨るということですよ。」

 

「え?いいんですか?」

 

「どうぞどうぞ。」

 

幸い、オレンジペコは、いつも部屋着にしている薄緑色のスウェットパンツを履いていたので、これなら足を上げてもはしたなくないだろうと思った。

 

「少々お待ちくださいね。」

 

そう言うと、ローズヒップはセンタースタンドを出して、バイクが直立するようにした。

 

「では、さあ、思い切ってどうぞ!」

 

いや、そこまで覚悟がいるものなのかと思ったが、確かにバイクに跨るのは初めてなので、少し緊張した。

ハンドルを持って、ステップに左足を置いて、右足を蹴り上げるように後ろから回しながらシートに腰を落とす。

 

「オレンジペコさん、乗り方が格好良いですわ!」

 

「えへへ。」

 

単に跨っただけなのだが、褒められると嬉しくなる。

 

「オレンジペコさん、エンジンかけてみませんこと?」

 

と言って、ローズヒップがキーを指差した。

 

「え、で、でも。」

 

「大丈夫ですわ!まだ遅くないし、原付だからカミナリ族みたいな音はしませんのよ。」

 

カミナリ族って、いつの時代だろう、と思ったが、言われるがまま、キーを捻ってイグニッションをオンにした。すると、ライトが点いて、前方を明るく照らし出した。メーターも明るくなり、速度計の針がピクンと動いた。

 

「エンジンをかけるには、ここを押してくださいな。」

 

言われたボタンを押すと、一瞬キュルキュルという音がして、エンジンがかかった。

 

「アクセルは右手のグリップですわ。これを手前に捻ると走ります。あ、でも、後輪が浮いているから大丈夫ですのよ。」

 

右手をクンと捻ると、エンジン音が大きくなり、後輪が回っているのが振動で感じられた。

その時、風が吹いて、一瞬、オレンジペコは自分がバイクを走らせているような錯覚を感じた。

 

「ブレーキは、自転車と同じですわ。右と左に均等に力を入れて握って下さいませ。」

 

アクセルを話してブレーキレバーをやんわり握ると、タイヤの回転が止まった。あと、良くは見えないが、後ろの赤い光が明るくなったようで、ブレーキランプが点いたらしい。

 

「とてもお上手ですわ!これなら、免許があればいつでも走り出せますのよ!」

 

免許か。お茶会の時に、原付免許であれば1日で取得できるとローズヒップが話していたのを思い出した。

 

--------------------------------------------------------------------------------

 

バイクに乗せてもらったお礼を言って、ローズヒップがバイクを駐輪場にしまうのを待ってから、二人で寮に戻った。

玄関を入ったところにあるロビーで、ふと思い、ローズヒップにここで待ってくれるように頼んで、自室から急いでスマホと、先ほど買った雑誌を持って来た。

 

「あら、この雑誌、私もたまに買いますのよ。」

 

ローズヒップが話すには、バイク雑誌はほとんどが男性向けのもので、内容もいかに速く走るかや、大型バイクを扱った記事が多いので、このように女性向けのバイク雑誌は貴重なのだとか。

あとで自室にあるバックナンバーを持って来てくれるとのことだったので、一緒に、ロビーのソファで今日買った最新号を読んだ。

 

このバイクは素敵な色ですね、このグローブ可愛い、という話やら、ツーリング記事を読んで、ここに行ってみたい、このカツ丼、とても美味しそうですわ、などと話していたら、気が付けば10時を回っていた。

そこで、スマホを持って来ていたことを思い出し、ローズヒップは先ほどの澤梓とのやりとりをローズヒップに話して、福田のバイクの写真を見せた。

 

「福田様のバイク、とてもイカしてますわ!」

 

オレンジペコのスマホに表示されたバイクの写真を、ローズヒップは食い入るように見つめていた。

さすがに夜も遅いので、おしゃべりを切り上げて、お休みなさいと言ってお互いの自室に引き上げた。

そのすぐ後に、聞きなれたパタパタというローズヒップが走る音が聞こえ、ノックする音がしたのでドアを開けると、

 

「先ほどの雑誌をお持ちしましたの。返していただくのはいつでもよろしゅうございますのよ。では、お休みなさいませ!」

 

と言い残して、またパタパタと帰って行った。

 

その日の夜、オレンジペコは雑誌を隅から隅まで読んでいたので夜更かしをしてしまい、翌日の午前中はあやうく居眠りをするところだった。

 

 




さすがにオレンジペコは、授業中に居眠りして、廊下にバケツを持って立たされるということはありませんでしたね。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。