ガルパンバイク部のお話   作:日本を鳥戻す

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今回は、少し趣向を変えてみました。


アズミお姉ちゃんの後ろで

「状況終了。整備班は撃破車輌を回収せよ。」

 

今週最後の戦車道の訓練は模擬戦だったが、いつもどおり、愛里寿のセンチュリオンがアズミ、メグミ、ルミのバミューダアタックを難なく躱し、撃破したところで終わった。

 

シャワーを浴びた後、更衣室で、アズミ、メグミ、ルミの3人はこの後の予定を話し合っていたが、埒が明かないのでお茶でもしながら話そうということになった。そこに、シャワー室から愛里寿が出てきたので、アズミが声をかけた。

 

「隊長、もしよろしければ、この後みんなでお茶しませんか?」

 

「え、お茶?お茶を飲むってこと?」

 

「あ、本当にお茶を飲むわけではなくって、学校のカフェでコーヒーとか飲みながらちょっとお喋りするってことですよ。」

 

「そうなんだ。」

 

戦車道の時は、その年齢とは裏腹に無表情で冷静かつ的確な指示を出す愛里寿だが、パンツァージャケットを脱いだ後は普通の女の子に戻る。今はその途中というところか。

 

「何かご予定でもおありですか?」

 

メグミは何気なく聞いたのだが、それをダメ押しととらえたルミは、心の中でメグミナイス!と、指を鳴らした。

 

「ううん。じゃあ、一緒に行ってもいい?」

 

「「「はいっ!喜んで!」」」

 

上目遣いで愛里寿からお願いされた3人は、光の速さで服を着て、音速で軽く化粧直しをした。3人が準備を終えたのと、愛里寿が服を着て、ロッカーを閉めたのが同時だった。

 

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大学にはいくつかカフェがあるが、今日は天気も良く風も無いので、外のテラス席のあるカフェに4人で向かった。丁度テラス席が空いていたので座り、アズミが4人分の注文をまとめてオーダーした。

 

飲み物が来るまでは先ほどの訓練や模擬戦の話をしていたが、パンツァージャケットから着替えたからか、愛里寿も訓練中のような表情ではなく、時々「確かにあれは危なかった」「もう少しかもしれない」と、いつもの厳しさとは違う形で話に加わっていた。

 

カフェに来た目的は、この後どうするかを話し合うことだったが、思いがけず愛里寿と一緒にお茶をするという光栄に恵まれたことから、その話はどうでもよくなり、話はいつの間にか週末をどう過ごすかという話題になっていた。

ほどなく飲み物が運ばれてきて、アズミはカフェオレ、メグミはブラックコーヒー、ルミはオレンジジュース、愛里寿はいちごジュースを飲みながら、話を続けた。

 

ルミは「私はゆっくりと寝るかなー。」

 

メグミは「美容院で髪を切って、その後はショッピングかな。」

 

アズミは特に予定を考えていなかったので、「うーん、どうしようかな。」と。

 

「女子大生3人が、週末に男とデートっていう話のひとつも出ないってのはどういうことよ。」

 

「しょうがないじゃない。一緒にデートに行ってくれる彼氏がいないんだから。」

 

これまで何回も同じような話が繰り返されていたが、愛里寿が話に入りにくそうにしていたことに気づいたメグミが愛里寿に話を振った。

 

「隊長は、今週末はどうされるんですか?」

 

「あ、あの、実はみほさんからボコミュージアムに行こうって誘われているんだけど...」

 

大洗女子学園戦車道隊長であり、西住流の次女である西住みほとは、同じボコ好きということから、先の大洗連合との試合以降急速に仲良くなったと聞いていた。

本来であれば楽しい予定であるはずなのに、愛里寿が浮かない顔をしているのを不思議に思ったアズミが、愛里寿に顔を向けて聞いた。

 

「どうかされたんですか?西住さんとボコミュージアムに行くなんて、楽しそうですね。」

 

そう言われても、愛里寿の表情は晴れない。

 

「うん、すごく行きたいんだけど、結構お金がかかるから。」

 

愛里寿はボコミュージアムの年間パスを購入しており、入場料はかからない。しかし、ここから大洗へは電車を乗り継いて行く必要があり、それなりに交通費がかかるということだった。

それに、ミュージアムショップで売っているボコグッズも買いたいし、ミュージアムのレストランでボコをテーマとした食事も食べると、やはりそれなりの出費を覚悟しなければならない。

愛里寿は大学生という身ではあるが、あくまで14歳の女の子。母親である島田流家元も、決して甘やかすということはしない。大学生ということで多めではあるものの、お小遣いとして大金を与えるということはしていなかった。ボコミュージアムの年間パスも、愛里寿が貯めていたお年玉で買ったぐらいだ。

 

「だから、みほさんには申し訳ないけど、今回は我慢しようと思っている。」

 

悲しそうな顔をした愛里寿を見て、3人は何とかしてあげられないかと思った。もちろん、お金を出してあげるという選択肢はない。やはりお金の貸し借りは良くないし、ましてや金銭的援助なんてことをしたら、家元からこっぴどく叱られるのが目に見えているからだ。

 

しばしの沈黙。

 

アズミが、ふと思いついたように口を開いた。

 

「あの、隊長?私が大洗に連れて行ってあげましょうか?」

 

「えっ?」

 

「いえ、今週末は特に予定もないし、天気も良さそうだから、久しぶりにバイクで走ろうと考えていたんです。」

 

嘘ではない。普段はショッピングや美味しいものを食べに行くという週末も過ごすが、中型バイクを持っているアズミは、たまにふらっと一人でツーリングに出かけることがあった。

 

「本当?いいの?」

 

さっきまで悲しそうにしていた愛里寿の顔が、花が咲いたような明るい笑顔になった。

 

「もちろん!どのみち一人であてもなくバイクを走らせるだけですし、それなら行ったことのない大洗にバイクで行くのも面白そうかな、と。あ、お金はいりませんよ。ガソリン代も高速代も、どうせ一人で行ってもかかるものですから。」

 

「じゃあ、お母様に聞いてみる!」

 

そう言うと、愛里寿はボコの顔の形をしたポシェットからスマホを取り出し、少し離れたところに行って電話でしばらく話していた。

 

「お母様、いいよって!」

 

戻ってくる愛里寿は喜色満面の笑顔だった。

 

「あ、あと、アズミにきちんとお礼を言いなさい、って。アズミ、ありがとう!」

 

戻ってきて、アズミのそばに来てぴょこんと頭を下げる愛里寿を見て、アズミは卒倒しそうなほど嬉しくなった。

 

「くそう、アズミ、抜け駆けしやがって!」

 

ルミが恨めしそうな顔でこっちを見ている。

 

「でも、悲しそうだった隊長がこんなに嬉しそうにしているんだから、いいじゃない。今回はアズミの勝ちね。」

 

メグミはそう言って、ルミをたしなめる。

 

「じゃあ、そろそろお開きにしましょうか。あ、隊長、明日は何時ぐらいに西住さんと待ち合わせる予定ですか?」

 

「大洗駅で10時ぐらいを考えている。」

 

「じゃあ、ちょっと早いですが7時半ぐらいに迎えに行きますね。詳しいことは後でメールします。」

 

「うん、わかった。」

 

「アズミ、頼んだわよ。」

 

「隊長とのツーリング、楽しんできてね。」

 

みんなと別れて自分のマンションに帰る道すがら、アズミは明日に向けた準備について考えていた。

 

「しばらく乗っていなかったから汚れているかも。あとで軽く拭いておかなきゃ。あと、ガソリンも入れておかないと。そうだ、どうせガソリンを入れに行くんだから、バイク用品店に行って何かないか見てみよう。それに…」

 

明日のことを考えるととても楽しみになってきた。ツーリングの前日はいつも楽しみだが、今回はあの愛里寿とタンデムで走るのだから、いつもに増して楽しみだ。そう考えると、いろんなことをしなければならないような気がして、少し早歩きでマンションに向かった。

 

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いつもより早起きしたアズミは、軽い朝食を済ませてから、バイクを駐輪場から引っ張り出し、愛里寿の家へと向かった。早朝で空いていたからか、30分もしないうちに愛里寿の家に着いた。いや、家というよりは屋敷と呼んだほうがよさそうな建物だった。

門の横にバイクを止めて、インターホンを押す。

試合の報告等で何度か来たことはあるが、プライベートでは初めてだった。インターホンからの返事がなかったので不思議に思っていると、門の向こうに見えるドアが開いて、愛里寿がこちらに向けて走って来た。

 

「アズミ、お早う!」

 

「お早うございます、隊長。」

 

昨夜、バイクに乗る時の服装の注意点についてメールで知らせておいたからか、いつものようなフリルのついたスカート姿(ルミは「行き過ぎないロリータファッション」と言っていたが)ではなく、ジーンズにハイカットの可愛いスニーカー、上にはオリーブ色のMA-1ジャケットを着ている。よく見たら、左胸にはボコのワッペンが縫い付けられていた。

 

気が付くと、愛里寿の母親で、島田流家元の島田千代ががこちらに向かって歩いて来ていた。反射的に背筋を伸ばし、「お早うございます、家元。」と言って深々とお辞儀をした。

 

「お早うございます、アズミさん。今日は本当にありがとうございます。」

 

と、千代もお辞儀を返した。戦車道関連で話すときは、アズミ、と呼ばれるが、今日はアズミさんと呼ばれたことに一瞬驚いた。

 

「愛里寿、昨日からすごく楽しみにしていたんですよ。」

 

千代が口に軽く手をあてて笑う。どうやら、今は家元としてではなく、愛里寿の母親として見送りに出てきたらしい。服装も、いつものシックな洋装ではなく、チノパンにトレーナーと、ラフな格好だ。

 

「ところで、服装はこんな感じでいいかしら?」

 

「ええ、大丈夫です。それに、いつもの隊長と違って、なんだか新鮮です。」

 

「ねえ、早く行こう。それに、アズミのバイクも見てみたい。」

 

「わかりました。バイクは門の横に停めてますよ。」

 

愛里寿は門の外に駆け出した。今の愛里寿は、隊長ではなく、お出かけを楽しみにしている一人の女の子だった。

愛里寿の意識がこちらから逸れた隙に、千代がそっと小さな封筒をアズミに手渡してこう言った。

 

「少ないけど、高速代とガソリン代の足しにしてちょうだい。」

 

「え、そ、そんな。」

 

「いいのよ。その代わり、愛里寿のこと、宜しくね。」

 

いつもとは違う千代の微笑みに押し切られる形で、アズミは封筒を受け取ってお礼を言った。

 

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愛里寿を後ろに乗せたバイクは、北関東自動車道を東へと走っていた。

以前買ったものの、少し小さくてサイズが合わなかったヘルメットがあったのだが、愛里寿には大きいかもしれないと思い、インナーパッドを厚めのものに変えておいた。昨日、バイク用品店に行った際、買っておいたものだ。実際に愛里寿が被ると、丁度良いサイズだった。

それと、ヘルメットの左右に、愛里寿の好きなボコのシールを貼っておいた。どうしてそのようなシールを持っていたのかは思い出せないが(愛里寿からもらったのであれば、絶対に忘れない)、なぜか引き出しの中にあった。それを見た愛里寿は、さらに大喜びして、すぐにヘルメットを被って「どう?」と嬉しそうに母親に見せていた。

 

他にもバイク用品店で買ったものがある。1つは、運転手とタンデムする人をつなぐストラップ。愛里寿が居眠りして落ちないように、自分の背中と愛里寿を繋ぐようになっている安全装備だ。

もう1つは、ヘルメットにつけるインカム。Bluetoothで接続して会話ができるようになっている。少々値が張ったが、往復4時間近く、愛里寿とお喋りできるのであれば、それだけの価値はある。それに、お喋りしないとお互い眠くなってしまう可能性もあることから、これも必要なものと思って買ったのだ。

 

「アズミ、いろいろと準備してくれて、ありがとう。」

 

「いえいえ、どういたしまして。いつも隊長には戦車道でお世話になっていますから。」

 

インカム経由で愛里寿が話しかけてきた。

 

「アズミのバイク、格好良いね。それに、アズミの来ている服も格好良い。」

 

今日のアズミは、黒のレザーパンツにバイク用のブーツ、上は黄色のライダースブルゾンというシンプルなものだった。普段着はそれなりにお洒落をするのだが、バイクに乗るときはシンプルが一番と考えている。

 

「隊長のそのMA-1ジャケットも格好良いですよ。」

 

「うん、昨日の夜、お母様がこのワッペンを縫い付けてくれた。」

 

「そうなんですか。西住さんに見せびらかしてあげましょう。」

 

「あ、あのね」

 

「はい、何でしょう?」

 

「今日は、戦車道じゃないから、隊長と呼ばれるとのはちょっと...」

 

そう言っても、普段から愛里寿のことを隊長としか呼んでいないので、どう呼べば良いのか。家元は、愛里寿、と呼んでいるが、それは母親だから当然だろう。自分が隊長を呼び捨てにするなんてことは考えられない。

 

あ、そうだ。

 

「隊長は、西住さんからはどのように呼ばれているんですか?」

 

「愛里寿ちゃん、て呼ばれてる。」

 

「あ、愛里寿ちゃん、ですか?」

 

「ちょっと子供っぽい感じもするけど、それで西住さんと仲良く話せるようになった。」

 

「だから、アズミにも愛里寿ちゃん、って呼んでもらいたい。」

 

「じゃ、じゃあ、そのように呼ばせていただきます、愛里寿ちゃん。」

 

「うん、ありがとう、アズミお姉ちゃん。」

 

「ア、アズミお姉ちゃん!?」

 

あまりにもの不意打ちの発言に、アズミは大声で叫んでしまった。

 

「ご、ごめんなさい、嫌だった?」

 

「い、いえ、そんなことはありません。でも、どうしてお姉ちゃんって…」

 

「西住さんがね、よくまほさん、あ、黒森峰の隊長で、西住さんのお姉さんのことを、お姉ちゃんって呼んでるの。私は一人っ子だから、それを見て羨ましかったから...」

 

確かに、愛里寿は一人っ子だし、戦車道履修生との間でもアズミ達以外と話しているのはあまり見たことがない。同年代の友達がいるかはわからないが、少なくともお姉ちゃんと呼べる相手はいないのだろう。

 

「わかりました。では、隊長のことは愛里寿ちゃんって呼びますので、隊長は私のことをアズミお姉ちゃん、って呼んで下さい。あ、でも、今日みたいに2人の時だけですよ。」

 

「うん、わかった、アズミお姉ちゃん!」

 

隊長を「愛里寿ちゃん」と呼び、愛里寿からは「アズミお姉ちゃん」と呼ばれているなんてことをメグミとルミが知ったら、パーシングで追い回されるだろう。

 

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途中、パーキングエリアでの休憩を挟んで、大洗駅に着いたのは、10時10分前だった。

2時間もあれば余裕で着くだろうと思っていたが、愛里寿を後ろに乗せているのでいつもよりゆっくりと走ったのと、途中のパーキングエリアで長めの休憩を取ったので、予定より時間がかかってしまった。

少し焦りはしたが、それで万が一のことがあっては元も子もないので、ペースを崩さずに走り、なんとか約束の時間には間に合った。

 

大洗駅前のロータリーにバイクを乗り入れ、駅の入り口から少し離れたところにバイクを停めて愛里寿を降ろしていると、駅の方からみほが走って来た。

 

「も、もしかして、愛里寿ちゃん?」

 

「みほさん、お早う。遅くなってごめんね。」

 

「ううん。でも、びっくりしたよ。電車で来ると思って改札のところにいたんだけど、少し時間があったから外に出たら、目の前を愛里寿ちゃんらしい女の子を乗せたバイクが通り過ぎたから、もしかしたらと思って。」

 

「お早う、西住さん。」

 

ヘルメットを脱いだアズミが、みほに挨拶した。

 

「え、あの、えっと、アズミさん、でしたっけ?大学選抜の。」

 

「あら、覚えてくれていたの。嬉しいわね。」

 

「この間は、お世話になりました。」

 

「あれはいい試合だったわね。私たちは負けたけど、あなた達の学園艦が廃艦にならずに済んだと聞いて、それはそれで安心したわ。」

 

その会話を聞いていた愛里寿は、雰囲気が微妙になりそうなのと、みほが人見知りの恥ずかしがり屋というのを知っていたので、わざと少し大きめの声で話に入った。

 

「今日はね、アズミお姉ちゃんのバイクでここまで来たんだよ!」

 

「ア、アズミお姉ちゃん!?」

 

「あ...」

 

さっきまでアズミと話していた時はアズミお姉ちゃんと呼んでいたので、思わずそのように呼んでしまった。

 

それを聞いたアズミも顔を真っ赤にしている。

 

「あ、あのね、今日は戦車道じゃないから、私を隊長じゃなく、愛里寿ちゃんって呼んでってお願いしたの。それで、私もアズミのことをアズミお姉ちゃんって呼ぶことにしたの。」

 

「そうだったんだ。」

 

「隊長、西住さんがお姉さんのことをお姉ちゃんって呼んでるのが羨ましかったらしいの。だから私のことをお姉ちゃんって。」

 

気を取り直したアズミが、みほに説明した。

 

あまりここに長居すると2人がボコミュージアムで楽しむ時間が減ってしまうので、アズミはそろそろ出発しようと思った。

 

「2人とも、ボコミュージアムに行くんでしょ?」

 

「えっ?アズミさんは行かないんですか?」

 

「私はどこかこの近くをツーリングして来るわ。ボコミュージアムは2人で楽しんで下さいな。」

 

そう言って、ヘルメットを被ってバイクに跨った。

 

「隊長?何時ぐらいにお迎えにあがりましょうか?」

 

「4時ぐらいに、ここで待ち合わせるというのでどうかな。」

 

「わかりました。何かあったら携帯に連絡下さいね。」

 

「うん、じゃあ、気を付けて。」

 

「了解です。西住さん、隊長をよろしくね。」

 

「はい!」

 

アズミは、エンジンをかけて、ギアを入れて、バイクをゆっくりと発進させた。

駅のロータリーから道路に出るところで一時停止した時に2人のほうを見ると、こちらに手を振っていた。

 

「アズミさん、すごく格好いいね!」

 

「うん、綺麗だし。アルバイトでモデルをしているって聞いたことある。」

 

「へえー、そうなんだ。アズミさんだったら何を着ても似合いそうだね。」

 

服の話になったので、みほが愛里寿の服装を見て言った。

 

「今日の愛里寿ちゃん、いつもと恰好が違うね。」

 

「バイクに乗るからスカートは履けないし、上着も着ないといけないから。」

 

「そのジャケット、ボコのワッペン付いてるんだね。いいなあ。」

 

「昨日の夜、お母様に縫い付けてもらったの。」

 

そんな話をしながら、2人はきらめき通りをボコミュージアムに向かって歩いて行った。

 

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アズミは、バイクを走らせながら考えた。

 

「さて、どこに行こうか。」

 

愛里寿を大洗に送ることばかりに気を取られ、肝心のツーリングの行き先はあまり考えていなかった。

とりあえず目についたコンビニの駐車場に入り、缶コーヒーを飲みながらスマホで近辺の名所を調べた。愛里寿との待ち合わせまでには6時間近くあったが、あまり遠くには行かないほうがいいだろう。

 

結局、ここからすぐの偕楽園と、ひたちなか公園に行くことにした。

 

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アズミは、午後3時半には大洗駅に着いていた。

 

偕楽園とひたちなか公園に行くには行ったし、それはそれで楽しかった。ただ、一人で歩いていると頻繁に男性から声をかけられるので、若干辟易しながら早めに切り上げて大洗に戻って来ていた。待ち合わせにはまだ時間があったので、しばらくの間、大洗駅から少し離れたところにあるカフェで時間を潰していたのだった。

 

時計の針が4時を少し回ったころ、愛里寿とみほが走りながら大洗駅に入って来た。

 

「ご、ごめんなさい。ちょっと遅くなっちゃった。」

 

「大丈夫ですよ。それより、ボコミュージアム、楽しめましたか?」

 

「うん、ボコ―テッドマンションも、スペースボコンテンも、ボコショーもとっても楽しかった。」

 

「それは良かったですね。そうそう、隊長、家元に何かお土産は買われましたか?」

 

「え?買ってない。」

 

「何か買って帰ってはいかがでしょうか。家元も喜びますよ。」

 

「うん、でも、何がいいかな。」

 

「そうね、西住さん、大洗のお土産で何かお奨めはあるかしら?」

 

「シーサイドステーションのまいわい市場に行ったらいろいろあるけど。あ、駅の売店にもお土産、売ってますよ。」

 

「じゃあ、そこに行ってみましょう。」

 

3人で売店に入ると、品数はそれほど多くはないが、大洗のお土産がいくつか置いてあった。

 

「あ、これなんてどうでしょう。大洗は干し芋が有名なんです。それに、これ、会長がすっごく美味しいって言ってたし。」

 

「お母様も喜びそう。この紅はるかって書いてあるのが、箱もきれい。」

 

「じゃあ、それにしましょうか。」

 

そう言うと、アズミは干し芋を持ってレジに向かい、支払いを済ませた。

 

「あ、あの、私もお金出すよ。」

 

「いいんですよ。隊長が選んで、私が買ったから、2人からのお土産ということにしましょう。」

 

今回、大洗に来るのにお小遣いがピンチと愛里寿が言ってたことを思い出し、アズミは自分が支払ったほうが良いと思った。

 

「アズミさんって、本当に綺麗で優しいお姉さんだね。」

 

みほがそう言うと、アズミは少し顔を赤らめた。綺麗と言われたのも嬉しいが、優しいお姉さんというのも、なんだか心がくすぐったくなるような気持ちがした。

 

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みほとは大洗駅で別れ、愛里寿をバイクに乗せて帰宅の途についた。

 

大洗駅を出てからは、愛里寿は今日行ったところについて、ずっと喋りつづけていた。

どうやら、ボコミュージアムだけではなく、大洗の街中を散策して、いろんなものを食べていたようだ。

ボコのことはあまり理解できないが、大洗の街並みの話を聞いていると、なんだかとても魅力的な街のように思えたので、自分も今度行ってみようと思いながらアクセルを捻る。

 

休憩のために寄ったパーキングエリアは、行きに寄った所よりも規模が大きく、お土産もたくさん売っていた。アズミは、お土産はここで買えばよかったかな、と思ったが、大洗駅で3人でお土産を見ていた時も愛里寿が楽しそうにしていたので、あそこで買ったのが正解だろう。

ふと横を見ると、可愛いキーホルダーが目に入ったので、すかさずそれを手に取り、レジで会計を済ませた。

 

幸い、愛里寿はアズミがそれを買ったことに気づいていない。

 

売店でお菓子と缶コーヒーを買って、愛里寿と外のベンチで一緒に食べながら、大洗駅で別れた後にアズミが行った場所の話をした。そろそろ出発しようかというところで、アズミは、先ほど買ったキーホルダーの包みを愛里寿に渡した。

 

「愛里寿ちゃん、これ、私からのプレゼントよ。」

 

えっ?と驚いた愛里寿が、ありがとうと言って包みを開けると、

 

「ボコだー!しかも、これ、このあたりでしか売っていない地域限定のものだ!」

 

アズミは知らなかったが、愛里寿は、ボコミュージアムのショップにも立ち寄ったものの、大洗を散策した際の食べ歩きにもお金を使うので、今回はボコグッズを買うのを断念していた。

つまり、この地域限定ボコキーホルダーは、今日、愛里寿が唯一手に入れたボコグッズとなる。

 

「アズミお姉ちゃん、ありがとう!」

 

そう言って、愛里寿はアズミに抱きついた。アズミは、心の中は天にも昇るような気持ちだった。こんなシーンをメグミやルミに見られたら、パーシングで追い掛け回されるどころか、砲撃されるだろう。そんなことを考えながら、愛里寿の髪をやさしくなでてあげるのだった。

 

「さあ、そろそろ行きましょうか。あまり遅くなると、家元が心配されますよ。」

 

「うん、一応、メールで連絡入れておくね。あとどのくらいかな。」

 

「道も空いているようですし、1時間ぐらいで着くと思いますよ。」

 

愛里寿がメールを送り終えると、バイクに乗って、パーキングエリアを後にした。

 

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パーキングエリアからは、1時間ほどで島田邸に到着した。

事前に愛里寿がメールで伝えていたからか、千代が玄関で2人を待っていた。

 

「お母様、ただいま帰りました。」

 

「お帰りなさい、愛里寿、アズミさん。」

 

「隊長、お土産をお忘れですよ。」

 

アズミは、後ろのバッグから大洗駅で買ったお土産を取り出し、愛里寿に渡した。

 

「あ、そうだった。お母様、これ、アズミと私からのお土産です。」

 

「あら、ありがとう。」

 

「では、私はこれで。」

 

「ちょっと待って、アズミさん。夕食はどうされるの?」

 

「ああ、自室に戻ってから何か作って食べようと思ってます。」

 

とは言ったものの、アズミは料理が得意ではない、というかほとんどできないので、冷凍ご飯を温めてレトルトのカレーで済ませるぐらいしか思い浮かばなかった。

 

「だったら、家で食べて行きなさい。少し多めに作ったから。」

 

「え、よろしいのですか?」

 

「アズミ、一緒に晩御飯食べようよ。」

 

愛里寿もアズミの手を引っ張って離さない。

 

「では、ご馳走になります。」

 

バイクを門の中に移動して、屋敷の中に入り、手を洗ってから、3人分の食事が用意されていた食卓についた。

どうやら、夕食はクリームシチューらしい。

 

食べている間は、愛里寿が今日のことを母親に話していた。

ただ、それは戦車道に関して報告する時のようなものではなく、普通に子供が母親に話すような感じだった。

相変わらず、ボコについて話している内容は全くわからなかったが。

 

ふと千代のほうを見ると、愛里寿が話すのを、とても楽しそうに聞いていた。アズミは、家元はボコのことはどのぐらいわかっているのだろうか、ということを考えながら、シチューと、添えられたフランスパンのバケットを千切ってバターを付けて食べていた。

 

食事を終えると、愛里寿が3人の食器を台所に持って行った。

 

「食事の後片付けは、愛里寿がやることになっているんですよ。」

 

知らなかった。戦車道では、戦車隊のトップとして凛々しくふるまう隊長だが、家では、母親のお手伝いをする普通の女の子だった。

 

千代が食後のコーヒーを淹れて、デザートのケーキまで用意してくれた。その後片付けも、当然のように愛里寿がテキパキと動いていた。

愛里寿が台所に行ったところで、千代がアズミを見て言った。

 

「あんな楽しそうな愛里寿を見るのは初めてだわ。西住さんとボコミュージアムに行ってきた時も楽しそうだったけど、今日はその比じゃないわね。アズミさんのバイクに乗せてもらったのが、よほど楽しかったのかしら。」

 

「そう思っていただければ嬉しいです。隊長にはいつもお世話になっていますし。」

 

気が付くと時間は9時を回っており、さすがにそろそろ帰らねばと思い、その旨を告げると、愛里寿が少し寂しそうな顔をした。

 

「じゃあ、お見送りしましょうか。」

 

そう言って、千代と愛里寿はアズミと一緒に外へ出た。

 

「ところで、アズミさん、ひとつ、お願いがあるのだけど。」

 

「はい、何でしょう?」

 

「よろしければ、また、愛里寿を連れてバイクで一緒に出掛けてあげてもらえないかしら。」

 

「いいの!?」

 

それを聞いた愛里寿は、目を輝かせて母親を見た。

 

「ええ、アズミさんさえよければ。ただし、戦車道に差し支えないよう、お休みの日だけね。」

 

「わかりました、お母様。」

 

「では、このヘルメットは預かっておいていただけますでしょうか。私は使いませんし、また次回、必要になりますので。」

 

そう言って、アズミは、ヘルメット愛里寿に渡した。

愛里寿は、そのヘルメットを大事そうに抱えた。

 

「では、失礼します。隊長、明日の訓練、宜しくお願いします。」

 

「わかった。気を付けて。それと、今日は本当にありがとう。」

 

「気を付けて帰って下さいね。」

 

2人に見送られながら、アズミは島田邸を後にした。

愛里寿と千代は、暗闇に輝くテールランプが見えなくなるまで、手を振っていた。

 

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〇年後。

 

「アズミお姉ちゃん、お早う!」

 

コンビニの駐車場に入ってきたバイクがアズミのバイクの横に止まり、ヘルメットを脱いだ愛里寿が声をかけた。

 

「お早う、愛里寿ちゃん。」

 

「見て、これが私のバイクだよ。」

 

センチュリオンと同じカラーリングの中型バイクで、カウルには白抜きされたボコのカッティングがデザインに合うように貼られている。

 

「このボコ、大洗で知り合った人に作ってもらったんだ。その人、いろんなアニメのカッティングを作って、車のリアガラスとかボンネットに貼っているの。」

 

「ふふふ、愛里寿ちゃんらしいバイクね。」

 

戦車道世界選手権の予選を終えてようやく一息つけるようになり、今日は久々のオフの日。

 

初めて一緒に大洗に行ってから、たまの休日に愛里寿を後ろに乗せてツーリングに行く機会が増えた。そのためか、愛里寿もバイクに興味を持ち、16歳になるとすぐに教習所に通い出し、無事、、中型自動二輪の免許を取得した。

その後、バイクを買ったもののなかなか乗る機会がなく、自宅の近所を少し走った程度で、今日が初めての本格的なツーリングだった。

 

アズミと一緒にツーリングに行きたい、と愛里寿から懇願され、なんとか予定を調整して休日を合わせたのだった。

 

「で、愛里寿ちゃん、今日はどこに行くの?」

 

愛里寿から、行き先は自分が考えると言われていたので、今日はどこへ行くのか、アズミは知らない。

 

「大洗!」

 

アズミはもちろん、最初に愛里寿をバイクに乗せて大洗に行った日のことを覚えていた。

 

「ボコミュージアムですか?」

 

「ううん、今日はボコミュージアムよりも、アズミと一緒にバイクで走ったり、大洗の街中を食べ歩きしたい。」

 

「アズミと一緒に大洗に行った時に初めてバイクに乗ったから、自分のバイクでアズミと一緒に走ることがあったら、最初に大洗に行きたいと思ってたの。」

 

それを聞いて、アズミは胸が熱くなった。尊敬する隊長が、自分のことをそんなに特別に思ってくれていたことに、涙が出そうになるほど嬉しかった。

 

「懐かしいわね。これまでは私のバイクでタンデムだったけど、今日はお互いのバイクで大洗へのツーリングね。」

 

「じゃあ、そろそろ行こう!」

 

そう言って、愛里寿がキーをバイクに差し込んだ。そのキーには、あの日、アズミが帰りのパーキングエリアで買った、ご当地ボコのキーホルダーが揺れていた。

 




本編では、常に冷静沈着、でも、みほとボコミュージアムで楽しんでいる時は普通のボコ好きの女の子。
そんなギャップを別の観点で表現できたら、と思って書きました。

バミューダ3姉妹の中では、やはりアズミがお姉さんキャラですよね。

あと、物語の終わりにその後のお話を書くというのも、やってみたかったことのひとつです。

確か、島田流は群馬県にあると何かで読んだような気がするのですが、その前提で書いてます。
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