最凶の組のIS操縦士 ~家族の絆で空を行く~ 作:木原@ウィング
その退屈をほんの少しでも紛らわせられたらいいと思います
(こ、これは……なかなか、気まずいってレベルじゃないぞ)
クラスの最前列の中央の席に座りながら世界で初めて【IS】を動かした男、織斑一夏は身体を縮こまらせていた。
その姿に向かって教室中から好奇の視線がずっと晒されているのだから、こうなるのも当然のことだと言えるだろう。
周りからの視線に耐えられなかったのか堪らず窓際の方を見てみると、不意にそこにいた少女と目があった。
(ほ、箒!! 頼む、助けてくれ!!)
彼女は一夏のその視線を感じ取るが、ふいと顔を外へ向けた。
(そ、それが久し振りに会った幼馴染に対する態度かよ!?)
「全員揃ってますねー。それじゃあSHR始めますよー」
『はーい』
黒板の前に立つ女性副担任こと山田真耶先生はにこりと微笑む。
しかし、一夏はそれに対して反応が示せない程に頭の中で現状をどうやって打破するかを考えている。
(親父さん……この場合は俺は一体どうすれば良いんですか?)
(一夏よ……男だったらどっしりと構えていろ)
「……くん?」
(流石は親父さん!! 分かった! 俺、どっしりと構えて……)
「織斑一夏くん!!」
「は、はい!?」
脳内で自分の親とも言える存在に質問をしていた一夏はいきなり大声で名前を呼ばれ、返事をした声が裏返る。案の定、くすくすと笑い声が周囲から漏れ、小さく縮こまる一夏。
「あ、あの大声出しちゃってごめんね? 怒ってる? 怒ってるかな? でもね、あの自己紹介『あ』から始まって今『お』の織斑くんなんだよね。自己紹介してくれるかな?」
山田真耶は縮こまったままの一夏に対してぺこぺこと頭を下げていた。何度も頭を下げている所為か、微妙にサイズの合っていない眼鏡がずり落ちそうになっている。
「あの、普通に自己紹介しますから、先生、少しは落ち着いてください」
「ほ、本当ですか? 本当ですね? や、約束ですよ。絶対ですよ!」
ペコペコと下げていた頭をガバッと一気に上げ、一夏の手を取って熱心に詰め寄る真耶。その行為が更に注目を集めていた。
しかしそう約束してしまった手前、引くわけにもいかない。一夏はしっかりと立ち上がり、後ろを向く。
(うっ……)
その瞬間、教室中から向けられていた視線が一気に増えた様に錯覚した。男子の自己紹介ということもあり、先程よりも全員が食い入る様に見つめているのは違いないが……
「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」
無難な自己紹介が出来たと一夏は満足していた。だが、男子に飢えた獣のような女子達は視線だけで「それだけか? おら。もっと喋ってよ」と語っていた。まだまだ肌寒い時期だというのにだらだらと背中に流れる汗を感じながら、一夏は一呼吸置いて………力強く宣言する!
「以上です!!」
がたたっ、と思わずずっこける女子生徒達と背後から山田麻耶の「あ、あのー」と涙声成分二割り増しの声が聞こえてくる。
それを聞き、自分がなにやら失敗した事に気が付いたのか続けて何かを言わなければと口を開こうとした次の瞬間にはパァンッという音と共に一夏の頭部を鋭い衝撃が襲った。
「いっ━━━⁉︎」
丁度自分が最も痛く感じる威力、角度、そして速さ。その全てが自分のよく知る人間が放つ物と同じだと感じ、一夏は恐る恐ると振り返る
「げえっ、項羽様!?」
「誰が項羽様だ、どっちかというと虞美人だ」
「いや、それは無【スパァン!!】あだぁ!?」
一夏が反論すると同時に先程の力以上で思いっきり頭部を叩かれる。
「あ、織斑先生。もう会議は終わられたんですか?」
「ああ、山田くん。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかったな」
一夏自身も聞くのは久しぶりな優しさに満ち溢れるその声は、とても先程から自分に対して理不尽に出席簿アタックを振るっている人物だとは思えない。
「い、いえっ。私だって副担任ですから!」
先程の情けない姿からは想像も出来ない程に自信にあふれた声で千冬に答える真耶。
そんな彼女に対して頷いて生徒達の方に向き直る千冬。
「諸君、私が君達の担任の織斑千冬だ。私の役目は君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てる事にある。私の言う事はよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には私がとことん分かるまで、出来るまで指導しよう。私の仕事は弱冠十五歳を十六歳までに鍛えぬく事だ。逆らってもいいが、私の言う事は聞け。いいな」
少しだけ含まれている暴力的な発言に今、自分の目の前にいるのは間違いなく自分の姉だと実感する一夏。
しかし、千冬の宣言にクラスの女子達はざわめきを上げずに変わりにとても大きい黄色い声援を上げた。
「キャーーーー!千冬様、本物の千冬様よ!」
「ずっと前からファンでした!」
「私、お姉様に憧れてこの学園に来たんです! 北九州から!!」
「私は北海道から!!」
「毎年毎年、よくもこれだけ多くの馬鹿者を集められるな。感心させられる。それともアレか? 私のクラスにだけ馬鹿者を集中させてるのか?」
例年通りなのか、その声援を心底鬱陶しそうにかつ生徒達に聞こえるように愚痴るが、それすらも女子達はポジティブに受け止めていた。
「キャー! 千冬様! もっと呆れて! 罵ってぇぇ!!」
「でも偶には優しくしてぇ!!」
女生徒達の興奮ぶりに頭が痛そうに手を頭に当てて千冬は今だに呆然としている一夏を睨む。
「でだ。お前は挨拶も満足に出来んのか?」
「いや、千冬姉、俺は」
パァンッ! っと本日三度目の快音が一夏の頭から響いた。その頭からは勢いからか白い煙が上がってしまっている。
「織斑先生と呼べ」
「……はい、織斑先生」
その自然なやり取りと一夏の呼び方で千冬と一夏が姉弟であることを納得するクラスメイト達。
「まずは諸君等にこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう事になる。いいなら返事をしろよ。良くなくても返事をしろ。私の言葉には必ず返事をしろ」
家にいる時のだらけ切った様子とは打って変わった軍隊のような鬼教官っぷりを発揮する姉に一夏は苦笑する。
それだけ言い、SHRの終わりを告げようとした千冬だったが、そこで彼女の携帯電話が鳴り始めた。
「っと、失礼」
「珍しいですね、織斑先生がマナーモードにしていないなんて」
「ちょっと今日は大事な連絡が来る筈だから分かるようにしていたんだ」
「大事な連絡?」
「あぁ……はい、お待たせしました」
(千冬姉に大事な連絡? 学校関係だったら呼び出せば良いんじゃないのか?)
「はい……はい、分かりました。それでは、お迎えに参ります」
「お、織斑先生?」
「すまない、真耶。私は今から【あの人】を迎えに行ってくる」
「わ、分かりました!」
「良いか諸君!!」
真耶と小声で話していた千冬は真耶の了承を得るとクラスを見ながら大きな声で話を聞くように促す。
それを受けて、先程まで騒がしくしていた女子生徒達もすぐにピタッと静まり返った。
「私は今からこのクラスに入る人物達を迎えに行く。すぐに戻ってくるので大人しくしているように!」
「「「「「「はい!!」」」」」」
「では、真耶。行ってくる」
(千冬姉があそこまで言うなんて……一体誰が来るんだ?)
「で、では皆さん。まずは次の授業の準備をしておいてください」
真耶のその一言で先程まで大人しくしていた女子生徒達は一斉にタガが外れたかの様に騒ぎ出す。
その様子は、まさしく中学や高校などで見られる休み時間の現象と同じだった。
「先生! 一体誰が来るんですか?」
「わざわざ千冬様が迎えに行くなんて本当に凄い人なんですか?」
「どこかの国の王様とか?」
「いやいや、実は千冬様の隠し子とか!」
(千冬姉に隠し子!? そ、そんなの聞いたこと無いぞ!?)
「あ、あの~皆さん? ですから、次の授業の準備を……」
「山田先生は知ってるんですか?」
「知ってるなら教えてくださいよ~」
「え!? えっと……わ、私も織斑先生の古くからの友人としか知らないんですぅ……」
「千冬様の古くからの知り合い!?」
「益々気になる~!!」
「でも、そんな人が何で今日IS学園に?」
(確かに……何で今日なんだ?)
そんな風に全員が千冬が迎えに行った人物に対する考えを思い思いに口にしていると廊下からコツコツと足音が聞こえてくる。
足音は教室で話している生徒達の声の中でもハッキリと聞こえ、その音に気が付いたのか話していた女子生徒達も話すのを止めてその足音に耳を向ける。
音は一つではなく、3人分の様に聞こえ生徒と真耶はすぐに千冬が戻ってきたのだと察する。
「ここか」
「では、私が入るので合図をしたら入ってきてください」
「あぁ、分かった」
そんな会話が廊下から聞こえるが生徒達は全員、首を傾げた。今の声は……男性の物だったからである。
「ねぇ、今の声って……」
「男性……だよね?」
「織斑君以外にIS学園に男性が?」
ひそひそと生徒達が話す中、一夏は自分の耳を疑っていた。
(今の声……まさか!?)
一夏がその考えに至った瞬間、教室の扉が開き千冬が戻ってくる。
「諸君、待たせた。実はこのクラスにもう2人入る事になっていた人物たちが到着したので紹介する。入ってきてください」
「「失礼する」」
千冬が入室を促すと廊下から2人の男女の声が聞こえ、そのまま教室に入ってくる。
片方の男性は一夏達とは違い、IS学園の制服ではなく和服をしっかりと着こなした大人。
しかし、その男性よりも教室の全員の視線はその横にいる少女に向かっており、その片方の女性の顔を見て教室の全員は息をのんだ。
なぜならその顔は…………織斑千冬と瓜二つだったのだから。
「お、織斑先生が……」
「千冬姉が……」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「2人いる!?」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
一瞬で騒然となる教室と混乱する生徒達。止めようにも真耶までもあまりの事態にてんぱり、眼をグルグルと回してしまっている。
その様子を表情一つ変えずに見つめる千冬にそっくりな少女は、共に入ってきた男性に向かって視線を向けて何やら指示を待っている様にしている。
「マドカ……挨拶をしてあげなさい」
「はっ! 親父殿!!」
2人のやり取りを見て、人知れず微笑みを浮かべるのは騒ぎの一端にいる千冬。
マドカはそのまま頭を下げ腰をかがめ、左手を膝に当て、右手を手のひらを上に向け三つ指を突き出し声を高らかに宣言する
「お控えなすって!!」
堂々とした立ち振る舞いとその声量から混乱に陥っていた教室が一瞬でシン……と静まり返る。
マドカはそれを気にする事無く、名乗りを続ける。
その姿は、自分の誇りを示すかの様に……
「私は、生まれも育ちも日ノ本は武蔵の国。人々の闇の中で闇の人間の道具として生き、長らく闘争の中に身を置いておりやしたが……姉兄達の助けにより己を真に人間として見定め、人としての歩み方を模索する日々に置かれていやす」
「【真木組】が1人、織斑マドカと申す者でありんす」
マドカの名乗りが終わるとその傍に控えていた男性がパチパチと拍手をする。
その様子にただ茫然として見ているだけだった一夏達だったが千冬が倣う様に拍手をするとまばらながら生徒達も続くように拍手をし始め、段々と収まると男性が口を開く。
「マドカ……とても良い名乗り方だった。教えた甲斐が有ったな」
「ありがとうございます。親父殿」
「皆、驚かせてすまなかった。私達は今日からこの教室で君達と共に学ぶ友と思ってくれていい。」
雷光はそれだけ言うとまるでもう終わったかのように千冬に顔を向けるが千冬はまだ終わっていないと言わんばかりに首を横に振る
「雷光さん……マドカの紹介はしたが貴方は自分の紹介をしていないでしょう」
「えぇ? 俺もしないと駄目?」
「駄目です」
「そっか……まぁ、仁義を通さないのは俺としても嫌だし、良いか」
それだけ言って雷光も先程のマドカの様な姿勢を取り、その視線を鋭く声も一瞬で切り替えた。
「お控えなすって……」
先程の優しい声色から一瞬で王の様な貫禄のある重い声色に変えられる。
「あっしは、生まれも育ちも日ノ本は武蔵の国。仁義を重んじる世界に長らく身を置き、鉄火場と闘争の匂いを嗅ぎ続け生きてきやした」
「名を【鬼神】 【仁義の鬼】 等々有りやすが、今はこう名乗っております」
「【真木組 会長】真木 雷光と申す者でござんす」
「流石は親父殿……私と比べると名乗りもしっかりとしている。私はまだまだ、だな」
「お前も充分としっかりとしていたさ。マドカ」
「ありがとう……姉さんと呼んだ方が良いか?」
「好きな様に呼べば良いさ……ただし、学校では織斑先生しか認めないがな」
「了解しました……織斑先生」