「ねえキノ」
「何だい?エルメス」
「ここは、国…なのかな?」
「さぁ、でも城壁も入国審査所も有る。国…だったんだろうね。誰もいなかったけど…」
完璧に綺麗なまま残されていた城壁や、外観からは想像できない程に荒れ果てた国の中。
人影は見える範囲では、一つも確認できない。
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エルメスで暫く走って居ると、住居の補修をする人影が見えた。
「止まるよエルメス」
「気を付けてねキノ」
近付くと人影が振り向いた
「こんにちは、初めて見るお顔ですね。貴女は?」
「僕は旅人のキノ、こっちは相棒のエルメス」
「どうもね」
「そうですか、僕はこの国に住んでいます。名前は有りません」
「名前が無い?それは、一体どう言う事かお聞きしても?」
「はい、それは単純に名前を貰う機会が無かったのです。
生まれた時から両親は居なく、天涯孤独。
国の方からはお前や、おい、と呼ばれていました」
何でもない事のように話す様子に、キノの顔が少し陰る
「…そうですか、それで肝心の国の住人は何処に?」
「あぁそうですね、まずは切っ掛けから。
ある日この国には、もう作物が育つ程の土壌が無くなり、資源も無い、人の生きていける土地では無くなってしまったのです」
「それは何故?」
「どうやら人口が増えすぎた様で、資源を根こそぎ食いつくしてしまったらしいのです。
それで住人達は、四方八方に散り新天地を探して引っ越して行きました」
「成る程、それでこの国には、誰も居なかったんですね」
「じゃあなんで、貴方は残ってるの?こんな所に居ても暇じゃない?」
「ふふっ、ご心配有り難うございます。
ですが僕は言われたのです、この国に誰も居なくなると国ではなくなってしまうと。
だからお前が残ってこの国を維持するんだ、と」
「何故そんな言葉に従うんですか?こんなに広い国を一人で維持するなんて、とても無理ですよ」
「それは…確かに大変ですが、僕は育ててもらった恩返しをしなければいけないらしいのです。」
「恩返し?」
「天涯孤独の僕を育ててくれたのは、この国の住人達です。だから…」
「お前が残って国を維持しろ、とか?」
「…はい、その通りです」
キノは捨てられた事に気付きながらも、健気にこの国を維持し続けているこの住民に興味が出た。
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「それじゃあ貴方も、一緒に旅をしてはどうですか?」
「でも…育ててもらった、恩を返さないわけにわ」
「それなら、良い案が有ります。僕が貴方に名前を着けます。」
「名前を?」
「リベラシオン、君の名前はリベラシオンだ。
君の名付け親は僕です。
だから育ての親じゃ無くて、僕に着いて来て下さい」
「リベラシオン…僕に名前を、でも」
「リベラシオン、シオンは僕が貰いました。
君を捨てたこの国では無くて、僕と旅に出ましょう」
「良いんでしょうか僕なんかが、キノさんと旅に出て。国を終わらせてしまっても」
「違うよシオン、国は一人では成り立て無い。
もうこの国は、終わってしまった国だったんだよ」
「キノさん…」
「シオンはどうしたいの?ここに居たい?それとも旅に出たい?」
「僕は…シオンは、キノさんと居たいです。
…一人は嫌です、寂しいのも、辛いのも、悲しいのも…もう一人は嫌です。」
「決まりですね、シオンはもう一人じゃない。
僕とエルメスと一緒です」
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「ここが僕の家です、荷物を纏めますので暫くお待ち下さい」
お茶を出しながら案内する、慣れ親しんだ家とも、もうすぐでサヨナラだ。
「あ、有り難う」
「もう遅いので、今日はここに泊まって行きますか?
この国で唯一お風呂が有りますよ」
「!それは是非お願いしたいね」
「なら、お風呂を沸かしますから。その後ご飯にしましょうか」
お湯の節約の為に二人でお風呂に入る事になった。
「…キノさんは女の子だったんですね」
「…シオンは男の子だったんだね」
「あちゃー」
エルメスの声だけが家に響いた
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夜、シオンの家で二人寛いで居るとキノはふと思い立って、シオンに尋ねた
「ねえシオン、君は今迄どの位ここで暮らしていたの?」
「そうですね、僕が十代前半の頃からですね。
それからですから…確か4、5年になります」
「そんな頃から…」
十代前半の頃なんてまだまだ子供じゃないか、守られるべき子供が一人暮らしをさせるなんて、それも国を押し付けて
僕には師匠が居たがシオンには…
「大丈夫ですよ、元々独り暮らしみたいな物でしたから。それが国の掃除が加わっただけですから
まぁ国の管理は大変でしたけど」
「シオン…これだけ広い国なら、盗賊やら泥棒は…」
「来ましたよ、それも沢山…敵は全員殺しました」
「聞いても大丈夫かな、初めて人を殺したのは何時?」
「入国審査官が国から出ていって、それからすぐです
たった一人の国なんて格好の的でしょうから。
地の利を活かして何とか…それからです、何人も何人も人を殺しました」
シオンは何でもない事のように、笑顔でペラペラと言葉を紡いで行く。
キノはそんなシオンを見ていられず、思わず抱き締めていた
「もう良いんですよ、もう大丈夫ですから。
これからは僕がシオンを守りますから、もう大丈夫ですから…もう笑わないで下さい」
「キノさんは、笑わなくても打たないんですか?もう笑わないで良いんですか?…もう無理をしなくても良いんですか?」
「シオン…僕が全てから守りますから、もう誰にも傷付けさせませんから。けして離しませんから安心してシオン」
「キノさん…」
シオンはキノに抱き締められたまま、その華奢な背中に腕を回し、静かに涙を流す。
シオンはその時初めて心から安心した。
生まれてから守ってくれる存在が居なく、自分の身は自分で守らなければならない過酷な状況から初めて脱した。
「キノさん、キノさんが僕を守ってくれると言うのなら、僕もキノさんを守ります」
「シオン、もう無理に戦わなくても良いんですよ」
「今まではそうでしたけど、キノさんの為なら喜んで戦います。
任せてください。これでもこの国を一人で守ってきましたから、腕には自信がありますよ」
「そう言う事じゃ…」
否定しようとしたキノだったが、嬉しそうにやる気を見せるシオンにそのままにさせる事にした。
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泣き疲れたシオンがベッドで眠りに着いた頃。
キノとエルメスは小声で話始める。
「いやーまさか、本当に人が居るなんてね」
「前の国で言っていた通り本当に一人きりにさせていたなんて…」
「キノ?」
「エルメス僕は怒ってるんだ、シオンにした行いが余りにも酷すぎてね」
「確かに酷いけど、珍しいねキノが怒るなんて」
「エルメスは一目惚れって知っているかい?
シオンが一人きりで、住居の補修をしている姿を見た時、振り向いた彼に心を奪われたんだ」
「へ?そんな様子、今迄まるで見せなかったよね?」
「そりゃそうだよ、獲物の前で隙を見せる人なんていないでしょ?
僕はシオンを逃がす訳にはいかなかったからね」
ふふっと笑ったキノは、涙の跡の残る寝顔を撫でるとそっとおでこにキスをした。
「わお、キノってば積極的!」
「そうかな。
この位は親愛の範囲で、許されるんじゃないかな?」
「キノは以外と大胆だったんだね。僕はもう寝るよ、おやすみキノ」
「おやすみ、エルメス」
エルメスが静かになると、キノはいそいそとシオンのベッドに入り込む。
翌朝のシオンが驚いて転げ落ちたのは、間違いなくキノのせいだった。
リベラシオン=解放
中性的な見た目