剣努重来 〜非才剣士の成り上がり〜   作:嘯風弄月

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 年明けたのでとりあえず投稿


剣王2

 目の前に突如現れた男はそう言った。助かるのか…俺は。

 

 

 「さて、近くに村があると聞いて来ればやけに煙臭い。ふむ、下手人はお前とその仲間達か」

 

 

 「お、お前は誰だ!急に現れやがって!」

 

 

 気配を悟らさず、己のナイフを斬ったその男に盗賊は動揺を隠せないようだ。

 

 

 「通りすがりの剣士だよ。ただしちーっとばかし名の知れた剣士だ」

 

 

 「あ、あぁ… その胸の獅子の紋章… 腰の剣の柄に飾られてる龍… お前が二十代目の…」

 

 盗賊の言う通り腰に佩た立派な剣には龍の細工が施されていた。

 

 

 「これ以上長話をするつもりは無い。疾く死ね」

 

 

 男の振るう剣は至って普通の剣だった。だと言うのに何故だかそれは、流れ星のように流麗で、俺の心を掴んで離さなかった。

 

瞬きはしていない。だけれどその剣閃を見切ることは出来なかった。

血を飛ばすことなく、盗賊の頭を斬り落とす。首が落ちた音で漸く俺は正気に戻った。

 

 いや、正気では無かったのだろう。自分が死にかけていたというのに、村が焼かれたというのに、それよりも先に俺はこの男の事が知りたかった。

 

 

 「あ、貴方は一体…」

 

 

 「名乗りが遅れたな。二十代目剣王、アーサーだ」

 

 

 「剣王… 」

 

 

 田舎の小僧の俺でもわかる。世界最強の称号。その二十代目が何故こんな場所に。

 

 

 「どうしてという顔だな。まあ武者修行の帰りだ。王国に帰る途中でな、野宿をするのも嫌だったからな。近くに村があると聞いていたのだが…」

 

 

 「ッ!お願いします!剣王サマ!俺の、俺の村を救ってください!俺に出来ることなら何だってする!」

 

 

 「ふむ、とりあえず案内してみろ。それで全て分かる」

 

 

 「あ、はい!こっちの方角です!」

 

 

 まだもしかしたら誰か生きてるかもしれない。誰か身を隠しているかもしれない。

 

 もしかしたらまだレナだって… 治療すれば助かるかもしれない…

 

 だから… だから…!

 

 

 

 

 

ーーーーー

ーーー

 

 

 

 

「残酷な話だがこれが結果だ」

 

 

 「あ、あぁ… あぁぁぁぁ!!!」

 

 

 何も残っちゃいなかった。何一つ誰一人、元は何だったのかも、元は誰だったのかも、一切わからない。

 

 悔しい…何も守れなかったのが、俺だけ生き延びたのが。声が震える、体の奥から想いが込み上げてくる。

 

 

 「まもりたかった… 大切な人を、レナを、家族を。助けたかった…ガキの俺じゃ、何も出来ないなんて分かってる…分かってるけど、すげぇ悔しいんだ…」

 

 

 「坊主、お前は近くの村に送ろう。せめてもの詫びだ。遅れてすまなかった」

 

 

 「剣王サマは悪くないです…俺があの時、ちゃんと気づいて村の人に報告出来てたら…きっと」

 

 

 「坊主、悪いがそれはないな」

 

 

 「どうしてですか!」

 

 

 「この村の規模じゃあ女子供逃すので精一杯だろう。推測の盗賊の数に対して男と武具が足りなさすぎる」

 

 

 辺りを眺め冷静に分析する剣王。じゃあどうすれば…良かったんだよ。そう考え込む俺の視界に二振りの剣が目に入る。

 

 

あぁ、そうか。簡単な話だ。二度と後悔しない為に、大切な人を守れるように。俺が世界最強の剣士になれば良いんだ。

 

 

 

 「剣王サマ、村には連れて行かないで欲しいんです。俺を、貴方の弟子にしてください」

 

 

 

 剣王は一度眼を伏せるとその場から消えた。そして片手に一人の男を掴んで再び現れた。

 

 

 「坊主、これを握れ」

 

 

 そう言い渡してきたのは何の飾りもない普通の剣。言われた通り握る。

 

 

 

 「そしてこいつの首に振り下ろすんだ」

 

 

 

 「え?」

 

 

 

 「よもや振り方がわからないとは言わないだろう。ああ、こいつは村の仇だぞ、遠慮なく振り下ろすといい」

 

 

 

 この盗賊は確かに村の仇だ。けど俺はいきなり人を斬れなんて言われて振り下ろせる人間じゃない。盗賊の両脚は既に斬られていて逃げ出すことは無い。声が出せないよう布を噛ませてある。ただ盗賊の瞳だけは、俺の事を見つめ続けていた。

 

 

 

 ただ見つめられているだけなのに、身体が震える。剣が重い、重すぎる。けどこの震えの原因は剣ではない。

 

 

 

 呼吸が止まらない。汗が止まらない。

 

 

 

 瞳は今も見つめ続けている。

 

 

 

 いや、こいつは村の仇の一人だ…これでレナの仇が…怒りが身体を支配する。

 

 

 

 剣を上段に思いっきり掲げる。

 

 

 

 

 やけに風が煩く聞こえる。やけに煙が臭く感じる。やけに口が乾く。

 

 

 

 剣の重みだけでも首は落とせるだろう、しかし振り上げた剣が一切落とせない。腕も、そして時も凍りついたように感じた。

 

 

 

 こいつは、レナの仇で、殺さないといけなくて、生かしてはいけなくて、けど殺しなんてした事がなくて、振り下ろすのが怖くて、けど後悔はしたくなくて、ひたすらに葛藤して。

 

 

 

 だから俺は…

 

 

 

 「あ、ぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 

 

 

 

 思いっきり、男の首に剣を振り下ろした。剣王とは違い、血が飛び散った。あまりにも遅く汚い剣閃だった。初めての剣術で、人殺しだった。瞳はもうこちらを見ていない。

 

 

 

 

 「それがお前の答えか、それも一つの答えだな。すまない、意地の悪いことをしたな。こいつを殺そうが殺すまいが、俺はお前を弟子にする気だった」

 

 

 

 「はぁ…はぁ…どういう、ことですか」

 

 

 

 「この一連の動作に、お前は何を考えた」

 

 

 「…怖かったです。色々考えて、ごちゃごちゃして、分からなくなって、けどこいつが許せなくなって、それで…振り下ろしました」

 

 

 確かに何も分からなくなった、けどそれ以上に思った事が一つあったのだ。俺はここで振り下ろさなければ後悔するって。

 

 

 

 「あぁ、殺すとはそういう事だ。そして殺しを学ぶのが剣術だ。考え抜いて、そして最適解を出し人を殺す、これが剣術だよ」

 

 

 怖かった、けど心は決まった。

 

 

 「それでも…俺は剣術を学びたいです。もう二度と後悔したくないから!」

 

 

 

 「ああ。その重さを忘れるな、1人斬れば救われる命は何個もある。そして1人斬れば誰かが悲しむ事もある。お前の魂に、その剣に、重さが乗り続ける。思考する事を止めるな、歩む事を止めるな。考える事も、歩む事も辞めた人間など猿と同等だ。殺した者達を背負い、誇り高くあれ、そうあり続ければお前は世界最強になれる。これが第一の教えだ」

 

 

 「はい!」

 

 

 もう二度と後悔はしない。これから絶対俺は世界最強になるんだ。

 

 

 

 

 

 

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