「しかし師匠、どうして俺を弟子にしてくれたんですか」
休む為、村に向けて歩き続ける。そんな中ふと一つの疑問がアルドの中に浮かんだ。
「ふむ、聞きたいか?中々残酷な話だが」
「き、気になります!」
「坊主、お前に才能がないからだよ」
たった一言、アーサーはそう言った。
「…え?」
一切想定していなかった言葉。あまりの衝撃に思考を止める。
「考えることを止めるな、最初に教えたはずだぞ」
「あ、はい!確かに俺の剣は凄い汚かったけど、それだけでわかるんですか?」
「ああ、わかる。お前村の子どもの中じゃガタイはいい方だろ」
「そうですね…仕事手伝ってたから体力もそれなりには」
「今のお前にあるのはそれだけだ。農業する為の筋肉や力はあってもそれはまた剣術とは違う、全てが関係ないとは言わないがな。身体の芯が強くない、歪んでいる」
「で、でもこれからみっちり修行すれば!」
「普通の修行だけでは不可能だな」
「じゃあ俺は強くなれないんですか…」
「いいや、なる。最強にさせる。お前の師は最強の男だ。最強の男は教える能力も一流なんだよ」
「あ、はい」
あまりにも力強い自信に満ち溢れた言葉、強くなれると言われるなんて思いもしなかったアルドは再び固まる。
「まあ、それは坊主がついてこれるか次第だ」
「はい!…あれ?何で非才だと弟子になれるんですか?」
「簡単だ、天才はつまらん。それに…」
一度言うべきか思案した後、結局口を噤む。
「それに…?なんですか」
「いや、何でもない。今まで才能のある奴を沢山見てきた。だが俺の剣は決して奴らには覚えられない」
「はあ…なるほど?」
「非才には非才なりの剣術が、天才には天才なりの剣術があるんだよ」
「そう…なんですね?」
「さて、そろそろ一度稽古をつけてやろう」
「本当ですか!お願いします!」
「ああ、これを持て」
「これって、斧?」
「そこの木を切れ、それを薪にしろ」
「え、剣は?」
「安心しろ、教えてやる」
「わかりました!」
それほど大きくない木の前に立つ。大きくないとはいえ、子どもが切り倒すにはかなり時間を要するだろう。
事実アルドは手こずっていた。腕を大きく振り、刃を何度も木に叩きつける。集中し、手が痛み出した頃、ようやく切り倒せた。
「はぁ、はぁ、ようやく倒せた…」
「次は薪だ。そうだな、サイズはこのぐらいで頼む」
そう言い斧を数度振う。それだけであっさりと薪が出来た。
「は、はや…」
「そら、早くやってみろ」
「あ、はい」
何とかちょうどいいサイズに切る。薪にするにはこれを縦に割らなければならない。何度も、何度も斧を叩きつける。刃が木に引っかかったり、何度も苦戦しながらようやく作る事が出来た。
「か、完成しました…」
「ふむ、なら次はあの木を切ってみろ」
「ま、またですか!?」
「一度だけ全ての手本を見せてやる。考える事を忘れるな、思考を回せ。俺から言えることはそれだけだ」
「はい…」
そう言いアーサーは木を切る。アルドはそれを見つめ、考える。
「動きのキレ、筋力…そんなのは違って当たり前…じゃあ何が違う…何故あそこまで簡単に…?身体の使い方…か?」
見つめていく内に、アルドは徐々に気づきはじめる。身体の回転、連動、ただぶつけるのではなく刃の重みを利用した重心の移動。ただ腕の力を使った振りだけでは手を痛めいつまでも切れない。ようやくその事に気づいたのだ。
「ほら、やってみろ」
「はい!」
そういい再び木の前に立つ。
「腰を回転させて…振る!身体の動きを意識して振る!」
先ほどとは見違えるほど早く簡単に木を倒す事が出来た。次は薪にする為の振り下ろし。
「足腰をしっかり固めて、斧を降ろす!簡単に出来た…」
「ほう、一度で気づくとは…悪くない、違いはわかっただろ」
「はい!それで剣術は…?」
「お前は今新たな事を覚えた。何かわかるか?」
「え、斧の振り方ですか?」
「はあ、剣術には剣の振り方がある。何があるかわかるか?」
アーサーはアルドにそう問いかける。
「えーっと、縦と横と斜め、それに突きですか?」
「ああ、唐竹、袈裟、逆袈裟、一文字、逆風、刺突、合わせて九つの振り方がある。このたった九つで攻めとは成り立っているわけだ。そして今お前は二つ振り方を知っただろう」
「あ、縦と横ですね!」
「そうだ、斧の振り方だから少し違うがな。そしてそれに伴い力強い振り方をする為の体捌きも覚えたわけだ」
「お、おー!!」
「そしてもう一つ、覚えた事がある。何かわかるか?」
「え、何でしょう」
「一応言っておく、俺はお前に剣だけを覚えさせる気はない」
「それはどういう…」
「考えてみろ、お前は案外頭は悪くないようだからな」
「えっと…俺が知ったのは木の切り方、それに合わせた斧の振り方…」
「この世界に武器はたくさんある。それは剣だけではない。むしろ剣より多いだろう」
「剣以外…斧だって武器か!」
「ああ、非才の身が天才に勝つには全てを知らなければ決して届かない。お前は斧での戦い方、相手が斧を使う時の戦い方を知った」
「おー!!!!」
「自身が相手を知ること、これが出来ない奴は仮に剣を振う才能があってもいずれ敗れる。さて、剣と斧の違いはわかるか」
「えっと…」
そう言い握った斧に視線を落とす。真っ先に目についたのは片刃であり湾曲していること、そして重量だ
「重さと片刃で湾曲していることですか?」
「重い剣だって片刃の剣だってある、両刃の斧だってな。お前ならそれでどう戦う」
アルドは自身が斧を振る事を想像する。斧を振る方法は覚えた、鮮明なイメージが脳内に浮かぶ。
「えっと…縦横斜めに重さを活かして振う…突きは出来ないから…あ、剣と違って突きがない!」
そうして一つのことに気づく。剣と違って先が尖っていないことに。
「そうだ、例外はあるが基本的に突きが出来ない。するとどうだ、この片手斧を使った戦い方は八つしかない。そこから体術を合わせて手札を多く見せてるだけだ」
「なるほど!」
「相手を知ると言うことはこういうことだ。いいか、考える事をやめるなよ」
「はい!」
「よし、次から野営する時は坊主に薪を用意してもらう。筋力をつけるためでもある、いいな」
「はい!」
なんてわかりやすく良い師匠なのだろうとアルドは思った。これから先、徐々に修行が厳しくなり地獄を見るハメになると知らずに。