わりとここはn番煎じ
ここで独特の導入方法出すのムズくねぇ?
第1話
春。
それは人々の新たな日々の始まりを告げる季節だ。桜の花弁は風に乗って、人々を歓待するように踊っている。そんな中、スーツの麗人──新宮寺黒乃は校門の前で紫煙を吹かす。
「……さて、そろそろ時間だとは思うが……」
彼女はこの学園──破軍学園の理事長を務める女性だ。そんな彼女自ら、わざわざ春期休暇期間中に校門の前で出張ってきているのは、とある人を待っているからである。
それは彼女の友人であり、彼女が理事長を勤めるこの学園の臨時講師である西京寧々……ではなく、彼女と彼女の師──南郷寅次郎が自分に対して推薦してきた人物だ。
(
自分はその名前を聞いたことはなかったが調べてみれば、一度はこの学園に入学したこともあったが、そう日が経たずに自主退学をした。しかし一年後に上記の西京寧々の推薦(とはいっても、彼女が破軍学園の臨時講師を勤める際の交換条件として出されたものだ。認めなければ自分は講師を断ると新宮寺に言った)によって破軍学園二年に編入。
「────ッッッ!!?」
彼について思案していたところ、あまりにもおぞましい剣気の暴風が彼女の側を通り抜けた。穏やかな風に揺られていた木々はへし折れんばかりに揺れ、そこで身を休めていた鳥たちが一斉に空へと──眼前に迫る脅威からいち早く逃げようと飛び立っていった。
彼女は半ば反射的に己が魔導騎士と呼ばれる所以の二丁拳銃型霊装──《エンノイア》と《プロパトール》を構え、殺気の原泉にその銃口を向けた……が、それは杞憂に終わることになる。なぜならそれは、
「すみません、新宮寺理事長」
殺気を放った相手の手には武器は握られておらず、それどころか相手が頭を下げたからだ。
白く染まった短髪、その奥から覗くのは血色と闇のようなオッドアイ。身長は男性の平均身長よりも少々小さいだろうか、それでも衣服の下にはおぞましいという言葉が温く感じるほどの鍛練によって鍛えられた鋼の肉体があることを容易に想起させる。
この男こそが彼女の待ち人であり──現在日本に三名しかいない《
《魔人》
それはその存在が稀少な伐刀者の中でも、さらに稀少な存在だ。通常の人間と伐刀者を区分するものは魔力と呼ばれるエネルギーをその身に宿しているか否かであるが、その総量は自身の可能性──いわゆる運命と呼ばれるものに決定づけられ、生涯不変とされている。しかしその運命を踏破し、魔力上限を引き上げた存在──それが《魔人》と呼ばれる存在だ。
そして彼の特異性はそれだけには収まらない。
(曰く、
紫苑はその量が平均的な伐刀者の十五分の一なのだという。
前述の通り、魔力とは伐刀者にとっての可能性。RPGのキャラのレベル上限を思い浮かべてくれればわかりやすいだろうか。お互いがレベル1の時ならばいざ知らず、どれだけ鍛えようともレベル15で頭打ちの人間とレベル100まで自身の可能性が残されたもの、どちらが勝利するかを考えれば明白だろう。お互いが戦いの中で成長しようとしても、レベル15の者にはレベルアップの可能性が残されていないのだから、差は益々広がっていくばかり。
だが《魔人》化とはその上限を乗り越え、16にレベルアップしたようなものだ。運命という絶対不変のルールを破壊し、それに縛られる事がなくなった存在を《魔人》と呼ぶ。
ならば彼には、レベル上限という絶対的な壁を──自分には超えられなかった壁を打ち壊すに値する理由があるはずで……。
「……新宮寺理事長?」
白髪の少年──紫苑に声をかけられ気付く。自分が長い間、彼を放りっぱなしで思考の海に潜っていたことに。
「申し訳ありません。いきなり無礼なことをしてしまって。重ねてお詫び申し上げます」
「……いや、いいさ。どうせ寧々の差し金だろう? 大方、お前の強さをわからせてやれ……というところか?」
「わかるんですか?」
「付き合いが長いからな。それに、それなりに人を見る目はあるつもりだ」
伊達に一学園の理事長に就任はしていない。いきなり殺気を向けられたときならばともかく、すぐさま謝罪をしてきた事。加えてその声音で彼が本意でないことはわかった。ならばそれをけしかけた人間が背後にいる考えるのが自然だろう。
「こちらこそ急に呼び出してすまないな」
「それは別に構いませんが……まだ始業式は先では?」
「あぁ。ヴァーミリオン皇国第二皇女、ステラ・ヴァーミリオンが今日来日することは知っているか?」
「……そういえばそんな事を寧々が言っていたような気がします」
ステラ来日のニュースを聞いて、寧々が騒いでいた記憶が微かにあった。その時の寧々は酩酊していて、構うだけ時間の無駄だと相手にしなかったのだが……。
「それならいい。彼女が来日した目的は我が校への入学──言わば留学でな。彼女をここまで案内する道中の護衛をしてもらいたいんだ」
「……道中の護衛、ですか? しかしそれならば理事長だけで充分では」
新宮寺黒乃。彼女もまた世界中に名を轟かせた騎士だった。
日本が所属する《魔導騎士連盟》──以下《連盟》──が主催する魔導騎士興行KoKにて元世界三位、おおよそ四つに分類される異能の中で最も稀少な因果干渉系能力《時間》を操る騎士。《
「いや、そういうわけにもいかん。私はあくまでも彼女を歓待する役割で護衛はまた別に用意する。……ある程度外聞を取り繕う必要はあるんだ、お前には面倒をかけるがな」
「いえ。それは問題ないんですが……俺は、あまり護衛には向かないと思いますよ」
そう、紫苑は別に護衛を引き受けることそのものに問題があるわけではないのだ。紫苑を破軍学園に編入させるために寧々がかなり強引な手段を取ったと寧々から聞いていたので、それに対する負い目もある。しかし……紫苑には欠陥がある。しかも東京のような都市部で発露する致命的な欠陥が。
「その辺りは気にしなくてもいい。寧々から話は聞いているし、運転手にもちゃんと話を通して道は選んで貰っている。それに大した手間ではなかったしな」
とはいったものの、紫苑の欠陥は周りの人間が少しばかり注意してやれば特に問題にはならないものだ。新宮寺が言った通り通るルートさえ気を付けていればいいだけのものであるし、容易に避けられるもの。
ステラには不思議に思うかもしれないが、東京の案内も兼ねていると言えばとりあえずは納得して貰えるだろう。
「……わかりました。理事長が問題ないのなら、俺も特に言うことはありません」
「助かる。道中では私が理事長に就任したことでの変更点も話そうと思っていたからな。一応、入学式でも説明はあると思うが、聞いてくれ。直近でお前にも関係のあることだからな」
彼女の言葉に紫苑は頷き、一緒に黒塗りの高級車に乗り込んだ。それを確認した運転手が車を走らせる。
「さて、早速ではあるが私が掲げる方針は完全な実力主義、徹底した実践主義だ。魔力の総量など関係なく、その者の純粋な戦闘力のみを重んじる。……昨年のようなことはもう二度と起こさせん。その為にあの手のクズはすべて掃討した」
昨年の事──それは紫苑が文字通り巻き込まれた事故というのは、
それはたった一人の騎士を破軍学園から卒業させないための、日本の騎士社会における名家からの圧力であったが、紫苑はその一人の騎士よりも魔導騎士としては劣っている。
だが彼は前述の通り日本国籍を持つ三人の《魔人》の一人という、非常に重要な立場にある。だというのに何故巻き込まれたのか──それは非常に単純で、《魔人》の存在を知らない者による暴走だ。
《魔人》の存在は世間一般には隠匿されている。
その領域の存在を知った強欲な指導者が、強制的に《魔人》に至らせようとすれば伐刀者の人権は非常に軽んじられる事になるからだ。
故にその存在を知っている人間は《魔人》本人と国家元首、加えて《連盟》の各国の支部長に限られている。
そのため紫苑が巻き込まれるような基準が設けられ、それを当時の破軍学園理事長が承認したことによって、紫苑もまた実践授業から閉め出されることになったのだ(その件について紫苑本人はあまり気にしていないのだが)。それでも面倒が避けられるに越したことはない。
「助かります」
「まぁ、お前のような存在がいなくても今までの破軍には問題があったからな。それを改善するための第一歩として、寮の部屋割りを大幅に変更した。出席番号も性別も一切関係なく
「わかりました……?」
「大丈夫か? 本当に……」
男女間のトラブルと言われても、いまいち思い当たっていない紫苑に新宮寺はため息をつく。少し常識に疎いところがあるとは聞いていたが、まさかここまでとは。
「菓子折りとか持っていった方がいいんですかね?」
「いや、別に要らないと思うぞ……」
そんな会話をしているうちに、二人を乗せた車はステラ・ヴァーミリオンがいるであろう空港に到着した。
「お前は私の後ろに控えてくれていればいい。彼女から話しかけてこない限り何も喋らなくていいからな」
「わかりました」
そこまでコミュニケーションが得意なわけでもない紫苑にとって、彼女の言葉は非常に助かるものだった。
ステラ・ヴァーミリオンがいるであろう空港はマスコミ関係者が埋め尽くしていた。まさにそれは人海と呼ぶに相応しい。
「失礼、道を開けていただきたい」
だがそれに一切怯むことなく新宮寺は人の海を掻き分け──辿り着く。
燃え盛る炎を体現するかのような紅蓮の髪に、真紅の宝石をそのまま嵌め込んだような瞳は、紫苑の淀んだ左目とは比較にならないほどに美しい。纏うのは故郷であるヴァーミリオン皇国の礼装だろうか。ヴァーミリオンの名に恥じぬ紅蓮の生地は、紫苑のような衣服の知識に疎い者でも明らかに高級なものだと理解できる。
そして何よりも──彼女の身体から吹き出す桁違いの魔力。
(これが……世界最大の魔力量か……!)
彼は表には一切出さないものの、自分と比べる事自体があまりにも烏滸がましい運命の寵愛に感嘆する。自分では那由多の時をかけようともそれほどの魔力を宿すことはできまい。
運命に愛された生まれながらにして頂きにいる少女。
彼女を斬れば──自分の剣が更なる高みへと至れるだろうと確信し、心の奥底で禍々しく口角を歪めた。
そんな彼の思惑など知りようのない新宮司黒乃は、彼と同じく表には出さないものの、心底安堵していた。ここで彼女に斬りかかるということはしないだろうとは信じていたが、それでも剣気を彼女に当てるくらいの事はしてもおかしくなかった。
(その時は彼女に頭を下げなければならなかったが……)
彼女が想定していたよりも、紫苑は自制が効くらしい。最初のあれは本当に寧々がけしかけただけのようだ。
だからといって初対面の相手に剣気を飛ばしてくるのは如何なものかと思わないでもないが……いや、ある意味素直というべきか。
とりあえず寧々に会ったときは文句のひとつでも言ってやろうと心に決める。
「これから三年間よろしくお願いします。理事長先生」
「あぁ。……さて、立ち話もなんだ、早く学園に向かうとしよう」
思考を断ち切り、新宮寺は車へと先導する。自分に背中を向け、再び人混みを掻き分ける新宮寺の背中を見ながらステラは思考する。
(わからないわね……)
彼がマスメディアに向けての名目上の護衛であることは瞬時に見抜けた。当たり前だ。元世界四位の《世界時計》に相当する騎士などそうそういない。
しかしいくら名目上と言ったとしても、それなりの箔がなければ意味がないだろう。破軍には他にも《雷切》など名の知れた騎士がいたはずなのに、わざわざ伐刀者であるかどうか疑わしい彼を連れてきたのだろうか。
……しかし今の彼女にわかるはずがない。彼女はまだ知らないのだから。異能の力を覆すにたる研鑽を積んだ、非才の者達を。そして自らの後ろに立つ白髪の男がそのひとりなのだという事を。
それを知ることになるのはもう少し、先の話になる。
ステラ・ヴァーミリオンの護衛──その役目が果たされることは当然なかったのだが──を終えた紫苑は、すぐさま日課である訓練を行った。普段ならば日が登ってすぐくらいに行うのだが、上記の用件があったのでそれもできなかった。
軽く二十キロのランニングを終え、自らの霊装を用いた素振りから頭の中との虚像と演習を重ねる。
それらを終えれば服は汗を多く吸い、何かのトレーニングに使えるのではないかというくらいに重くなっている。
そこから水分補給を行ったあと、さらに続けるかと考えたが、ここでひとつ思い出す。
「そういえば今日同居者が来るんだったか……?」
聞き流していてあまり覚えていないが、そういえばそんな話を新宮寺がしていたはずだ。そしてそれは今日だった……と言っていたような気がする。恐らくではあるが。
しかもそれは異性であるという。だというのにこのような格好で出会すのは不味いのではないか? 少なくとも彼の数日前までの同居者であった寧々は、自分が汗だらけで彼女に会うと不快そうな顔をしていた。なら一応不快感を与えない格好でいるべきではないだろうか?
「……シャワーくらいは浴びておこうか」
どうせ今日から一緒の部屋で暮らすのだ。服自体は気にしなくてもいいはずだ。そもそも選べるほどの種類がないが。
それに汗が気持ち悪かったのも、約半分増しのトレーニングに疲労が溜まっていたのも事実。ここで汗もろともそれを洗い流してしまおうと、彼は自室の鍵を開け再び鍵を閉める。
そして下着をタンスから引っ張り出し、洗濯機に自分が着ていた服一式を乱雑に投げ込んだ。
普通の親ならば文句のひとつの言いそうな物だが、彼の保護者も同じくらいにずぼらだったので、それを指摘する人間はいない。そもそもこの部屋には彼以外いないが。
そう──確かにいなかったのだ。彼がシャワーを浴びている途中までは。
彼が浴室の扉を開ける。
すると目の前には──ひとりの少女がいた。
女性としては平均的な身長。およそ一五〇センチ半ばほどだろうか。
濡れ羽色の髪は長めのボブほどで整えられており、その群青色の瞳は驚愕埋め尽くされ、透き通るような白肌は羞恥によるものだろう、まるで林檎のように真っ赤に染まっている。
着ているのは破軍学園の制服なので、おそらく自分の同居者だろう。
「な、ななな……!!」
「……?」
少女の口から意味をなさない声が漏れるが、紫苑はただ首を傾げるだけで終わってしまう。これが普通の男であれば、突然風呂場から全裸の男が出てきた事でパニックに陥っているとわかるのだが……何度も言うとおり、彼は育ってきた環境が悪かった。
だから理解できない。男の裸で女は恥じらうのだという事実が。男の裸で恥じらう女性を知らないから。
「すまん、下着穿きたいんだが……そこをどいてくれないか。着替えられない」
「き、」
「き……?」
「キャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ──ッッ!!?」
だがそんなもの少女は知ったことではない。
彼女は女性の本能として叫ぶ。残念でもないし当然である。