最弱騎士の運命踏破   作:bear大総統

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書き置きがストックされつつあるので初投稿です


第14話

「《眠りの魔眼(スリーピングアイズ)》」

 

 号令が告げられた瞬間、栞の眼が怪しい光を灯した。

 微かに青く輝くその眼は、捉えたものを悉く夢の世界へと引きずり込む瞳だ。

 

 この瞳に何人もの騎士が眠らされ、敗北に突き落とされてきた。しかしこれの攻略法は明らかになっている。

 

「燃やし尽くせ! 《焦土蹂撃(ブロークンアロー)》ッ!」

 

 それは彼女の視界を自分から外させる事である。

 見詰められている事で作用する力なのだから。視線をずらせばいい。当たり前の話だ。

 

 ステラは自分の背後に数十個の光球を出現させ、それを栞に向けて撃ち放つ。その名の通り、着弾地点を焦土へと変える爆撃が栞に襲いかかった。

 

 爆音。爆音。爆音。

 

 光球が爆ぜ、衝撃と光が視界を焼いた。滅多な事では壊れない筈の特殊石材で作られたリングがひび割れていく。

 

「相変わらず馬鹿げた力ですね……!」

 

 並みの伐刀者数人分の魔力をひとつの技に纏め、撃ち放つその姿は戦略級兵器と呼ぶに相応しい。

 

 だが栞も易々とはやられない。

 魔力放出によって脚力を大幅強化。リングの円周を走り回りながら、ステラの絨毯爆撃を回避していく。爆風で制服のスカートが靡いた。

 

 反撃として見舞うのは《ウィックド・ウィッチ》を複数本顕現させての投擲だ。

 ステラほどの剛力の持ち主に接近戦で勝負を挑むなど下策も良いところ。故にナイフの投擲で牽制しようと思ったのだが──、

 

「効くわけないでしょ!」

 

 大剣を振るった時に生まれる風圧で、残らず吹き飛ばされてしまう。

 どれほど身体能力を強化していようが、栞は女性として平均的な力しか持っていない。しかも投擲という攻撃手段では、ステラに容易く防がれてしまうのも当然の話だ。

 

 仮に栞が攻撃に寄った能力を保有していれば別の話だったのだが、生憎と彼女の能力は《眠り》。初見殺しじみた怖さはあるが、能力そのものに攻撃力は皆無である。

 

 致命的なほどに栞とステラの能力は相性が悪いのだ。

 

「セェア──ッ!!」

「くっ……!」

 

 ステラが大剣の間合いに栞を捉えた。

 そこから繰り出されるのはダンスにも似た、苛烈に燃え盛る炎のような剣技。

 

 ヴァーミリオン皇国に代々伝わる《皇室剣技(インペリアルアーツ)》である。

 

『西園寺選手、ステラ選手に魔術、ナイフによる攻撃を繰り出すも全て容易く防がれ防戦一方! ステラ選手、このまま決めてしまうか!?』

 

 黒鉄一輝との一騎討ちで大地を震撼させた剛剣が振るわれ、実況が言うように栞は何もさせて貰えない。燃え上がる炎に形容される彼女の苛烈な剣技に対して、逃げ回るのが精一杯──観客の多くはそう思っているのだろう。

 

 だが、実情は全く異なっていた。

 

(──コイツ、近接戦の技量も高いの!?)

 

 ステラの脳裏に甦るのは日本に来て、初めて行った試合。

 負け戦の百戦錬磨と謳われる破軍きっての剣客、黒鉄一輝との模擬戦だ。

 彼もまた今の栞と同じようにするりするりと、まるで落ち葉のようにステラの剣技を受け流していた。

 

 ステラの剣は絶対強者に相応しく、相手に受けを許さない、敵を押し潰す剣技。そも剣を交えるという状況が成立している方がおかしいのだ。

 

 ──しかも一輝と異なり、『ナイフ』という片腕で扱う武器でステラの剣を捌いている。

 こんな真似、彼でも出来るかどうか。

 

 ここで──栞が攻勢に出た。

 

 彼女の瞳が再び妖しい輝きを帯びる。

 瞬間、ステラの意識が一瞬微睡む。すぐさま自身の膨大な魔力を以て彼女のもたらした眠気に抵抗したが──それでも一瞬、彼女の攻めが緩んだ。

 

 そこで栞はステラの横薙ぎを受けると、そのままくるり、とその場で独楽のように身体を回転。そのままの勢いで《妃竜の大剣》の横っ腹を殴り付けた。

 

 しかし人間を遥かに超越した膂力を持つステラに対して、力比べで挑むなど愚の骨頂。

 現にステラは『斬撃重量累積』の能力によって高められた、総重量十トンの斬撃を真正面から受け止めている。

 加えて前述したように栞の武装はアーミーナイフ。お世辞にもパワー勝負を挑んで良い武器ではない。

 

 ──そんな道理は、ステラの大剣が横に大きく弾き飛ばされた事で否定された。

 

「──ッッ!!?」

 

 身体ごと引っこ抜かれそうになるのを何とか踏ん張る。

 しかし致命的な隙を曝したことには変わりない。

 そして栞はこの隙を見逃すほど優しくはなかった。

 

「ふ──ッ!!」

 

 がら空きになったボディーに向かって《ウィックド・ウィッチ》を突き出す。絶好の好奇を逃さず、魔力放出によって爆発的に加速した霊装による刺突は──、

 

「《妃竜の羽衣(エンプレスドレス)》──!!」

 

 決定打にはならなかった。

 ステラが纏った炎の鎧、それに伴う爆発で栞を退けたからだ。

 しかし──その刃は確かに届いていた。ぽたり、とリングに赤い雫が落ちる。

 薄くではあるが、ステラの腹部が切り裂かれていた。

 

 栞はバックステップで距離を取り、改めてナイフを構え。

 ステラは業火を纏い、大剣を構え直し──試合は膠着状態に陥った。

 

『し、信じられるでしょうか──!? 押し込まれ続け、もう終わってしまうのかと思われた瞬間! 西園寺選手が反撃に打って出て、微かなものではありますが、ステラ選手の玉体に傷をつけました! オープニングヒットは西園寺栞選手だぁぁぁぁぁぁ!!!』

 

『《眠りの魔女》って魔法戦タイプじゃなかったのかよ!? 《紅蓮の皇女》の剣を弾き返したぞ!?』

『信じらんない……あんなの《無冠の剣王》以来じゃ……』

『いや、黒鉄だってステラさんの剣を弾き返すなんて芸当出来てなかったぞ! 受け流すならまだしも……!』

 

 観客席がどよめきに包まれていく。

 そしてそれは破軍学園有数の手練れである黒鉄一輝も同様だった。しかし彼が驚いたことは観客達とは全く異なっていたけれど。

 

(……何故西園寺さんがあの技を使えるんだ)

 

 ナイフと日本刀という得物の違いはある。

 しかし先程ステラの剣を弾いたからくりを──否、その技を一輝は知っていた。

 当たり前だ。

 それは……黒鉄一輝の剣技だったのだから。

 

 第三秘剣《(まどか)

 

 相手の攻撃に対して一切防御を行わず、独楽のような回転運動によって衝撃を循環。そのまま打ち返すカウンター。

 

 それがステラの剛剣を弾いた、栞の──否、黒鉄一輝の技のからくりである。

 

 そしてその技は彼のオリジナル剣技、秘剣シリーズにおいて随一の難易度を誇るものだ。

 その難度は、現在の一輝の技量であってもステラクラスのパワーファイターにおいては使用できない、と言えばどれほど繊細な技か理解して貰えるだろうか。

 

 しかし彼女は、その技をステラに対して使った。

 しかも日本刀のような両手武器よりも遥かに力を逃がすことに不向きな、ナイフという片手武器で。

 

 いや、それ以前に一輝には引っ掛かる事があった。

 

(西園寺さんは剣術どころか、武術の心得なんてなかった筈だ)

 

 普段の歩き方や目線の動きなど、武芸を学ぶ者とそうでない者の差は些細なことでも如実に現れる。

 この辺りは隠そうと思って隠すことは非常に困難な事だ。

 

 そして照魔鏡に例えられる一輝の洞察力は、彼女に武芸の心得など欠片としてないと判断を下していた。

 

(巧妙に隠していた? いや、それなら違和感程度は感じる筈だ。だというのに僕は彼女の振る舞いに何も感じなかった)

 

 なら……何故彼女が《円》を使えるのだ?

 

 

「──驚いたわね。まさかあんたがクロスレンジであそこまでやるなんて思わなかったわ」

「ありがとうございます。ステラさんこそ、あそこから防御に手が回るとは思いませんでしたよ。完全に決めたと思ったんですが」

「剣戟で上回られるのは初めてじゃないもの」

 

 もし日本に来たばかりであれば、あの刺突で試合が終わっていただろう。あの頃は狭い世界ばかり見ていて、自分は絶対の強者であるという慢心に満ちていたから。

 

 しかし今は違う。

 自分よりも剣術に優れた者。自分よりも魔力制御に長けたもの──様々な強者を知って、さらに自分も飛躍せんと鍛練を続けてきた。

 

「そう簡単に負けてやらないわよ、シオリ。私には絶対に七星剣舞祭に出なきゃ行けない理由があるの」

 

 あの日誓い合ったのだ。

 自分が大好きな騎士と、七星の頂点を争って再び剣を交えようと。

 

 ──自分は絶対に負けられない。

 彼はどのような相手とぶつかろうと、絶対に勝ち上がってくると確信しているから。

 

 ステラの意思表明。それに栞は拍手を送る。

 

「そう簡単に勝てるとも思っていませんよ。

 ……とはいえ私個人としては貴女に勝ちを譲っても良いかとは思いますが、私にも貴女と同じく負けられない理由があります。それに何よりも……譲られた勝ちなんて、貴女は喜ばないでしょう?」

「当然」

「えぇ、知っています。貴女方、戦士とはそういう方ばかりですから。では──」

 

 《ウィックド・ウィッチ》を再び複数本顕現させ、構える。

 

「小細工。小手先。猿真似ばかりの大道芸。どうぞ、その身で味わってくださいませ」

 

 ──来るか。

 ステラが大剣を構えたとき、

 

「《毒林檎の破裂(アップルバースト)》」

 

 ステラの足元で何かが破裂した。

 薄い紫色の霧がステラを包み込み──《眠りの魔眼》とは比べ物にならない眠気が襲いかかる。

 

(──催眠ガスか!)

 

 自分の周囲を取り囲む霧。その正体にいち早く感づいたステラは、自身を中心として熱風を発生。《毒林檎の破裂》によって生まれたガスを吹き飛ばしてしまう。

 

「ふ──っ!」

 

 そこに襲い来るのは十数本のアーミーナイフ。

 紫色の刃がステラの肉体に突き刺さらんと空を走るが──、

 

「無駄だって、言ってんでしょ!」

 

 同じように剣の風圧で吹き飛ばす。哀れ、一切の抵抗も出来ず《ウィックド・ウィッチ》は吹き飛ばされ、そして──何かに引っ掛かったように空中で、ほんの一瞬だが動きを止める。

 そして……弾かれるようにして再び勢いを取り戻し、ステラへと迫る!

 

「──ッ!?」

 

 眼を見開き、すぐさま回避行動に移る。

 しかしナイフが再加速するという現実に、一瞬硬直してしまった彼女は、すべての刃を回避することは出来ず──数本のナイフが突き刺さった。

 

『西園寺選手のナイフが何もない筈の空中で停止したかと思ったら、再び加速! ステラ選手の身体に突き刺さったァ! 一体何が起こったんだ!?』

『それはあれだな。皆、眼を凝らしてリングをよく見てみろ』

 

 解説役である教師がリングの方を指差せば、それに観客達も従って眼を凝らした。

 が、

 

「……なるほど、魔力の糸ね」

 

 ステラはそんなことをするまでもなく、ナイフが再び勢いを取り戻したからくりに気付いた。

 それは彼女が言ったように、糸だった。ピアノ線よりもなお細い魔力の糸がこの訓練場全体に張り巡らされている。

 ナイフが風圧で吹き飛ばされた瞬間、霊体化し、張り巡らせていた糸を実体化。ナイフを矢、魔力糸を弦として即席の弓矢を作り出し、再びステラに攻撃したのだ。

 

「ご名答です」

 

 そう言い、栞は蜘蛛の巣のように張り巡らせた糸の上に飛び乗る。たん、たん、と軽い調子で蹴り上がり、そしてステラを見下ろした。

 

 何をしてくるのか。

 考慮しながらも、ステラは身体に突き刺さったナイフを引き抜き、リングの外へと放り投げる。

 

 ナイフを引き抜いたことで出血はするが、突き刺さった状態ではそれよりも遥かに戦闘に影響が出る。

 

 ナイフが刺さった場所から、常に《眠り》の毒が身体を蝕んでいたのだ。戦闘をしなければならない、素早く動かなくてはならないと闘争本能は訴えているにも関わらず、身体はどんどん眠らされていき、パフォーマンスの低下を強制させられる。

 そんな状態では勝てる試合も勝てなくなってしまう。

 

 続けてステラは自分の身体を自らの炎で焼いた。

 魔力を用いた焼灼止血法である。

 火傷による痛みはあるが、それが良い眠気覚ましになる。戦闘にも支障はあるというほどでもない。

 

「そうそう、ステラさん。ご存じかもしれませんが、日本には梅雨というものがありまして」

「……?」

 

 突然話しかけてきた栞に、ステラは怪訝な眼を向ける。

 梅雨。来日して日の浅いステラとて、その程度は知っている。

 日本など極東特有の雨期で、故郷であるヴァーミリオン皇国では見られないそれ。

 

 だからどうしたとステラが、糸の上に見事なバランスで立つ栞に眼を向ければ、彼女は霊装を大量に顕現。

 それを上空に向けて放り投げれば、それが糸に引っ掛かり、即席の弓矢が出来上がる。それを彼女は引き絞り──、

 

「雨が多くなる季節ですから、外出の時には傘を携帯された方がよろしいかと」

 

 それを一気に解放した。

 

「《剣雨(エッジ・スコール)》」

 

 そうして出来上がるのは刃の豪雨。《ウィックド・ウィッチ》が溜めによって、投擲とは比べ物にならない速度と密度で襲いかかる。

 

「──ッ!」

 

 しかし多少速度が上がろうが、所詮は直線上に飛んでくる代物。一輝のような体術に極端に寄っている騎士ならばいざ知らず、ステラは魔法戦もこなせるオールラウンダーだ。

 この程度、容易く防げる。

 

 ステラは自身の周囲に熱風を発生させる。《毒林檎の破裂》によって発生させた催眠ガスを吹き飛ばしたものと同様のそれを以て、刃の雨を凌ぐ。

 そしてそれは見事に叶い、ナイフの雨は退けられる──ような事はなかった。

 

 風によって吹き飛ばされたナイフが、実体化させた魔力の糸に再び引っ掛かり、そしてまた射出される。

 それだけではない。空中でぶつかったナイフ同士が弾かれ、そして糸に突っ込み、そして再加速。再びステラに襲いかかる。

 

 そこで──、

 

「《毒林檎の破裂》」

 

 ナイフが爆発する。再び紫の催眠ガスが視界を覆う。

 しかしそれも一瞬の事。熱風がガスを吹き飛ばそうとした時──身体に痛みを覚えた。

 

「──グッ!? がはっ……!」

 

 そこから先は早い。

 次々と鋼の雨がステラの身体に突き刺さる。射出された鋼が、糸に、霊装にぶつかり、軌道が変わる。四方八方から襲い来る刃にステラは対処が追い付かない。

 

『ラッシュラッシュラッシュゥッ!! 西園寺選手、次々と霊装を顕現させ、糸を引き絞って刃の雨を降らせ続ける! それにステラ選手は防戦一方だぁ!!』

『出血以上に厳しいのは西園寺の魔力だな。アイツの刃からは常に《眠り》の魔力がヴァーミリオンの身体に流れ込んでいる筈。いかにヴァーミリオンが頑強な選手だろうと、意識が落ちるのは時間の問題だ』

 

(勝手な事言ってんじゃないわよッ!)

 

 ステラは朦朧とする意識の中で解説に吼える。

 まだ何も終わっていないのに、何を宣っているのだ。

 ダメージは降り積もっているが、それでも見た目よりかは傷が浅い。それは栞と自分との総魔力量の差から来るものだろう。

 

 西園寺栞の総魔力量のランクはE-。

 ステラが何気なく纏っている魔力の鎧であっても、多少威力が減衰してしまうほどには少ない。

 

 それでもこうしてステラを封殺する事が出来ているのは、単純に栞の技量がずば抜けているからだ。近接戦闘・魔法戦そのすべての技量が、この学園で上から数えた方が早いほどに卓越している。

 

 しかし──、

 

(自分の火力の無さだけはどうにもできないでしょう!)

 

「《妃竜の大顎(ドラゴンファング)》──!」

 

 上空の栞に向かって放ったのは、竜を象った超遠距離砲撃である。それが二体、訓練場内に張り巡らせた貧弱な糸を引きちぎりながら、天へと上る。

 流石の栞もこれには顔を強張らせた。

 

 何度も言うように、栞の弱点は能力そのものの攻撃力の低さ。

 

 《焦土蹂撃》のような魔力の爆弾ならば《ウィックド・ウィッチ》を投擲し撃墜することで防げるが、《妃竜の大顎》はそうもいかない。

 

 故に──、

 

「《毒林檎の破裂》ッ!」

 

 昇竜の一体に向けて、ナイフを投擲。《眠り》の効果よりも爆発に比重を置いた《毒林檎の破裂》を以て魔力を散らそうとするが──効果は無し。

 

 一時的に竜の形を崩し、砲撃の威力を減衰させることは出来たが……それだけだ。技そのものを無効化できるわけもなく、栞は上空という有利な位置から逃走せざるを得なくなった。

 

 しかし、ただでは逃げない。

 二体の《妃竜の大顎》が栞を飲み込む寸前で、彼女は上に向かって魔力を放出。飛び降りるよりも遥かに素早く、リングの上に降り立とうとする。

 

 その狙いは《妃竜の大顎》同士が衝突することでの相殺だ。

 

 《妃竜の大顎》は対象に永続的に追尾する式が組み込まれている。

 そのようなホーミング性能を持つ武装などの破り方としてメジャーなものは、紙一重で回避することで追尾してきたもの同士を衝突させることだろう。

 

 それを栞も実践しようとしたのだが──その試みは竜同士が絡み合い、一回り大きな炎竜となった事で挫かれた。

 

「くっ……!」

 

 歯噛みし、地面に着地。

 しかしそれだけでは終わらない。

 ステラが自分の身体に突き刺さっていたナイフを引き抜き、投擲してきたのだ。

 同じ投擲という手段であっても、栞とステラではその威力に天と地程の差がある。栞の魔力放出によって速度・威力ともに高められたナイフが弓矢であるとするならば、ステラのそれは銃弾と形容すべきものだ。

 

 着地の衝撃を転がることで逃がし、それを追いかけるように刃が投げられるが──それを自分に届く前に爆発させることで、なんとか事なきを得る。

 しかし頭上から迫り来る竜だけはなんとか出来なかった。

 栞は全身を魔力の鎧で覆うことで、少しでもダメージを減衰させようとするが──、

 

「蒼天を穿て。煉獄の焔」

 

 そこに止めを刺すように炎を練り上げる。

 十重二十重と炎が絡み合い、炎の剣が光の剣となるまでに威力が高められる。その刃はドーム状の訓練場の天井をぶち抜き、一振の刃として完成する。

 

 個人に向けるにはあまりにも過剰なその力。

 森羅万象を燃やし尽くす滅亡の極光。

 

 これこそが世界最高の総魔力量を誇るAランク騎士である、ステラ・ヴァーミリオンが振るう天下無双の剣。

 

「《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマドラ)》ァァァァァァァァ──ッッ!!!!!!」

 

 ステラ・ヴァーミリオンという才女が全身全霊を注ぎ込んだ、必殺の魔術が振るわれる。

 

 その刃渡りは100メートル。

 この訓練場をまるごと薙ぎ払えるほどの間合いを誇る。いくら栞が魔力制御に優れた騎士とて、戦場すべてを焼き払う剣に対してはあまりに無力!

 

 ──決まったか。

 

 会場にいるすべての人々がステラの勝ちを確信した。

 全体的に栞優位で進んでいた試合。彼女がこつこつと積み上げ、作り上げてきた盤面。

 そのすべてをひっくり返す、埒外の攻撃。

 

 だがそれが当たり前なのだ。

 凡人が積み上げた100を、たった一息で吹き飛ばす。あまりにも理不尽な絶対的な力。それを持つからこそ──彼女は最強(Aランク)なのだ。

 

 その結果は誰の目にもわかる形で現れた。

 

 全身に大火傷を負い、地面に倒れ伏す栞。

 明らかに致命傷、このまま放っておけば命を落とす事は容易に想像できる。

 

 《妃竜の大顎》で包囲され、そこに追い討ちをかけた《天壌焼き焦がす竜王の焔》

 振るう剣技、発動させる魔術が全て必殺であるステラ・ヴァーミリオンの絶技を《眠り》などという戦闘に不向きな能力で防ぎきれるわけがない。

 

 ──むしろこれまでが出来すぎだったのだ。

 

「あんたは強かったわ、シオリ。本当に」

 

 これほど一方的に押し込まれた経験は数えるほどしかない。対戦相手を侮らずに挑んだ戦いでは初めての事。

 

 それでも勝ったのは自分だ。

 

 呆然としているレフェリーに判定を下してもらうように言おうとする。

 

「──お褒めに預かり光栄ですよ、ステラさん」

 

 その背後から刃が突き立てられる。

 背中から刺された刃は身体の深部にまで突き刺さった。

 

「ごふ……っ」

「ですが、油断しましたね。

 駄目ですよ? 最後まで気を緩めては。こんな風になりますから」

 

 確かにステラの一撃に敗北した筈の栞が刃を引き抜き、バックステップで距離を取る。

 身体から血が噴水のように吹き出すが、それでも意識を保たせ、振り替えれば──栞は身体に紅蓮の炎を纏っていた。 




西園寺栞(Saionji shiori)
■Profile
所属:破軍学園2年1組
伐刀者ランク:D
伐刀絶技:《眠りの魔眼》
二つ名:《眠りの魔女》
人物概要:正体不明の魔女

ステータス
攻撃力:F
防御力:F
魔力量:E-
魔力制御:A
身体能力:E
運:C

かがみんチェック!

 第二回目のかがみんチェックは、一回目に紹介した百鬼紫苑先輩のルームメイトである西園寺栞先輩! 特筆するべきは魔力制御技術、なんと驚異のA!
 ステラちゃんを上回り、珠雫ちゃんと同クラスって判断されてるんだけど……珠雫ちゃん曰く「自分よりも上」なんだって。珠雫ちゃんのヤバさを知ってる身としては、どんだけ凄いのか……私程度には全く想像がつかないなぁ……。

 ステラちゃんと戦う前は霊装すらわかんなかったんだけど、今回の試合で明らかになったね。アーミーナイフ型の霊装である《ウィックド・ウィッチ》で悪い魔女の異名に恥じず、能力は概念干渉系の《眠り》

 最初は魔法戦を得意とする珠雫ちゃんタイプ……だと個人的には睨んでたんだけど、近接戦もできてたし最後には炎を使ってたんだよね。本当に得体の知れない人だよ。
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