最弱騎士の運命踏破   作:bear大総統

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第20話

 ──怪物騒動があってから、早くも三日が過ぎた。

 幸いにも糸に絡まれ、傀儡となった者達に後遺症は見受けられず、全員が騒ぎがあった次の日には退院することが出来た。

 

 それだけ聞けば事件は解決し、めでたしめでたしで終わるのだが──ステラ・ヴァーミリオンは誰の目から見てもわかるほどに激怒していた。

 常に火花のような燐光を撒き散らし、眉をつり上げ、不機嫌そうに顔をしかめている。

 

 それもこれも三日前の出来事が原因だった。

 

 ──始まりは一輝と自分が恋仲である、という事実がマスコミに報道されたことだった。

 ここまでは百歩譲ってまだ良いとして、その内容が問題だった。

 

『姫の純潔を奪った男』

『ヴァーミリオン国王大激怒』

『日本とヴァーミリオンの国際問題に発展か!?』

 

 その他にも、黒鉄一輝は昔から窃盗、恐喝なんでもありの黒鉄家史上最悪の札付きである。人格的に大いに問題のある異常者である。女癖も非常に悪く、ステラの他にも複数の女生徒とふしだらな交際を持っている。

 そんな内容が、被害者の声という物と一緒に掲載されていたのだ。

 

 無論、これは全て出鱈目。偏向報道の域にすら届かない嘘八百だ。

 如何に日本のマスメディアのレベルが最低でマスゴミと嘲笑されていても、ここまでの酷い報道は中々に稀有だ。しかもその報道が同じ《連盟》に所属する国賓に関係するものであれば尚更である。

 

 それもそのはず。この報道は『倫理委員会』及びその親元である『黒鉄家』からの明確な悪意を孕んだ攻撃なのだから。

 そして彼は『倫理委員会』委員長・赤座守に連れられ、国際魔導騎士連盟・日本支部に身柄を勾留されているのだ。

 

 自分を悪い男に騙された頭の弱い女のように書き立てる情報紙も、彼を根も葉もない報道を聞いて好き勝手に扱き下ろす者達も。すべてがステラにとって不快だった。

 

「──随分と殺気立ってるのね、ステラちゃん。可愛い顔が台無しよ?」

「……アリス。それにシズクも」

 

 軽い、けれど不快感を微塵も与えない男の声に顔を上げれば、そこには見知った顔。黒鉄一輝の妹である黒鉄珠雫と、彼女のクラスメイトである有栖院凪である。

 彼は「失礼するわね」と言って、珠雫は黙ってステラの正面の席に並んで座った。

 そんな珠雫に、ステラは言いにくそうにしながらも自分が言うべき事を告げようとする。

 

「あの……シズク……」

「何ですか?」

「……やっぱり怒ってるわよね。アタシ達の関係の事……」

 

 それは自分と一輝と交際していたこと。

 三日前には赤座がやってきたことで言えなかったが、これは本来もっと早くに言わなければならなかったことだ。

 

 ──黒鉄珠雫は黒鉄一輝を愛している。

 

 否、愛以上の感情を抱いている。一人の女としては勿論、妹としても、姉としても、母親としても、友人としても。珠雫は彼を慕っている。

 そんな彼女に対し自分達の関係を隠し続けてきたことは、彼女への裏切りに当たる。それを今まで続けてきたことを彼女が──否、ステラ自身が許せなかった。

 だからこそステラは頭を下げたのだが──。

 

「構いませんよ。知っていましたし」

「……え?」

「貴方には立場があり、公表すれば必ず騒ぎになる。七星剣舞祭が迫るこの時期にそれを避けたいというのは納得できますし、最良の物であるというのは同意見です。それよりも肝要なのは、これからの事です」

「待って、知ってたの!? アタシ達の事……」

「何を今さら。ねぇ、アリス」

「えぇ。ふたりとも結構分かりやすかったし」

 

 ふたりの言葉にステラは机に突っ伏した。

 なんということだ、人目は避けて逢瀬を重ねてきたはずだったのにそれが全部無駄だったのか。そうでありながら、友人であるふたりに自分達の関係を隠し通せていたと考えていた自分の滑稽さたるや。

 自分の間抜けさに耐えられず、声にならない呻きを漏らす。

 

「その事はともかく。これからの事ですが……貴方ならばある程度予想できているのではないですか?」

 

 そう言って彼女が視線を向けるのはステラ──ではなく、その後ろ。昼食であるサンドイッチを盆に乗せて傍に来ていた眼鏡をかけた少女。破軍学園新聞部の日下部加々美である。

 

「まぁある程度は。……ステラちゃん、座って良い?」

「えぇ」

 

 日下部は礼を良い、ステラの横の椅子に腰かける。その顔にはステラに対する申し訳なさがありありと浮かんでいた。

 自国のマスメディアが彼女の怒りに火を付けたことを謝罪したいのだろう。ついでに自分の敬愛する一輝に、こんなレッテルを張り付けた彼らに対する怒りもあるが。

 

「私もちーっとばかし報道関係のツテがあるから色々探ってるよ。あと現状をちょっとでもマシに出来ないかって色々やってはみたけど……流石に厳しいかなぁ。ごめんね、ステラちゃん」

「良いのよ、仕方ないわ」

 

 日下部は確かに優れたジャーナリストだが、一人のジャーナリストに出来ることには限度がある。おまけに今回の敵は『倫理委員会』及びその背後にいる『国際魔導騎士連盟日本支部』だ。彼女一人でどうにか出来る範囲を大きく逸脱している。それを責めたりはしない。

 それよりも日下部には聞きたいことがある。

 

「アイツらの目的は、イッキから異能を扱う許可を半永久的に取り上げる『追放処分』に追い込むことなの。それで聞きたいんだけど……イッキが今回みたいなケースで『追放処分』を受けることは……」

「まぁ、まずないだろうね」

「……随分とあっさり言うのね」

 

 あっけらかんと言う日下部に、有栖院は驚いたように言う。それにだってね? と彼女はサンドイッチを頬張りながら続ける。

 

「確かにステラちゃんの今回のスキャンダルは大事だよ? でもふたりはなーんにも悪いことしてないじゃない? 『元服制度』は日本だけの制度じゃなくて、連盟に所属してる国ならどこにだってあって、ふたりの交際関係は法的に全く問題ないんだもの。

 そもそもこの話って本来は『ヴァーミリオン皇国の第二皇女様が、留学先の国で恋人を作ったんだってー! それってどんな人なのかしら? わいわい』で終わる話。それをこのスキャンダルを『不祥事』という事にしたい連中が煽り立てて、騒ぎを大きくしているだけなの。彼らは『国際問題だー!』って叫んでるけど、私から言わせれば当人──より具体的に言うならステラちゃんの気持ちをガン無視して、偏向報道の極みみたいなことやってる連中の方ががよっぽど国際問題だよ。まぁそんな事は連中だって分かってやってるんだろうけど」

「と言うと?」

「さっきも言ったけど私って文屋界隈に多少顔が利くもんだから、そこで聞いた話なんだけど……やっぱり『倫理委員会』の方から相当強い圧力があったみたい。『ヴァーミリオン皇女のスキャンダルを不祥事として報道し、マイナスイメージを作るように』ってさ。ここだけの話だけど連中はKoKをはじめとする、公式の騎士興業の速報掲載権限を取り上げるって脅してきたらしいよ」

 

 KoKは連盟は主催する世界最大規模の騎士興業。その他にも数多の騎士興業は情報紙において利益の六、七割は平気で占めてくる重要なもの。

 その掲載権限を取り上げられるということは、情報紙の売り上げに致命的な大打撃を食らう事と同義である。まさしく是非もない、というやつだ。

 それもこれも騎士興業の元締めが《連盟》であるからこそ出来る脅し方であり、それは『倫理委員会』が本気で一輝から騎士資格を奪いに来ている証左でもある。

 

「それでも連中がやっていることは今のところ正当性の『せ』の字もない、ただの規模が大きい言い掛かりでしかない。だからこそ報道や査問会だなんて開いて揚げ足取りをしてるんだろうけどさ。でも先輩だって馬鹿じゃないからそうそう連中が望むことを答えないだろうし、最初に言ったけど《連盟》が『追放処分』を取ることはまずないだろうね。『追放処分』って本当に最終手段なんだよね」

「最後の手段って……どういうことなの? カガミ」

「《連盟》って学生だろうがプロの魔導騎士だろうが、本当によっぽどの事がない限り『追放処分』にはしたがらないんだよね。皆に分かりやすい例で行くと……西京先生とかいいかな」

「西京先生?」

 

 連盟に所属し、環太平洋圏最強と言われる魔導騎士だ。その私生活は……確かに派手で、マスメディアでも何回か取り上げられているくらいだが、『追放処分』の例として挙げられるほどではない筈だが……。

 

「あの人って十年前くらいまでマジで色々やってたからね。違法闘技場でバチバチにやりあってたり、不良を何十人と病院送りにしたり、あとは逮捕歴だってあるし。それでもあの人は『追放処分』にはなってない……まぁ、それは《闘神》南郷寅次郎氏の監督下に置かれたからって言う理由があったりするんだけど、それでも問答無用で騎士資格が剥奪されたって良いことやってるでしょ? それでもそうなってない」

「……相当な札付きだったのね。西京先生」

 

 現在の彼女を知っている身からすれば信じられないほど暴れまわっている。

 それほどの事をしでかしておきながら『追放処分』になっていないのは何か理由があったのか、と珠雫が問えば日下部は頷いて問いに答えた。

 

「『追放処分』を受けた騎士は間違いなく犯罪者になるから」

 

 騎士免許を取得した伐刀者は勿論、学生騎士とて己の異能で身を立てていこうと考えている魔導騎士の卵だ。そんな者達が、能力を行使する権利を永久的に奪われる『追放処分』を受ければ、能力を違法に行使する能力犯罪者になるのは自明の理。

 

 それは既に幾度もの統計がとれている、歴然とした事実である。

 

「そりゃ勿論、『追放処分』を受ける方にも大きな問題があるのは間違いないよ? でも首輪の付いてない狂犬より、首輪の付いた狂犬の方が安心じゃん? 西京先生クラスの強さを持った犯罪者が野放しになってるって考えたら、本当にヤバイことだって理解できると思うけど」

「それは……確かに……」

 

 彼女は個人でありながら、対国家級の戦力として数えられる伐刀者である。普段は《連盟》から使用許可が降りていない彼女の切り札である伐刀絶技《覇道天星》は、命中すれば大陸に大穴を開けると予想されている程の大技だ。

 

 そんな技を何の制限もかけずに野放しになっていれば、彼女の癇癪で大陸にいくつもの大穴が空き、何百万人では済まない死者が出るのは容易に考えられること。だからこそ《連盟》は彼女を『追放処分』にせず、自分達の監視下に置いておくことを選んだ。

 

「まぁ西京先生は極端な例だけど、《連盟》は全ての騎士を監視下に置いて置きたいんだよね。その意思を受けて、連盟加盟国のほとんどは国内の伐刀者が全員騎士の道に進むように法整備をしてる。日本ではまだ人権団体の声が大きくて、そこまで踏みきれてはないんだけど」

 

 ともかく、と彼女は話をまとめる。

 

「以上の事から連盟は『追放処分』にはかなり腰が重い。特にまだ学んでいる途中である学生騎士に対しては尚更。たぶんだけど『追放処分』一歩手前まで行った話を含めても、片手の指の数で収まると思う。それくらいレアケースなんだよ。だからこそ……私は先輩が心配だよ。そんなレアケースを引き起こすために、連中がどんな手段で先輩を追い詰めてるのか」

 

 日下部の話を聞き、ステラは鬱血するほど強く拳を握りしめる。現在彼が置かれている環境をどうにもできない無力感が彼女を苛んだ。

 そんな彼女は気付かなかったが……人の感情を見抜くのに長けた有栖院は、日下部の表情に混ざった僅かな引っ掛かりを見抜いた。

 

「ねぇ、かがみん。それとは別に気になってることがあるんじゃないの?」

「あはは……やっぱりアリスちゃんにはバレちゃうか」

「それもやはりお兄様関連の事ですか?」

 

 珠雫の言葉に日下部は首を振る。そこに嘘の気配はない。

 

「先輩は関係ないよ。ただ私がどうしても気になっただけだから。別に皆は気にしなくて大丈夫」

「それでも日下部さんが良かったら話して欲しいです。お兄様の事を色々教えてもらいましたし、私たちに出来ることなんてたかが知れているでしょうが……」

「それでも話を聞くことくらいはできるわ。誰かに話してみたら楽になるって事もあるでしょうし」

「それでも……」

 

 ちらり、と日下部はステラに視線を向ける。

 彼女は非常にナイーブになっている。そんな時に考え事を増やしたくはなかった。

 その視線を受け、ステラは言う。

 

「シズクも言ったけど、イッキの事を色々教えてもらったし、それに……アタシ達、友達でしょ。そんなカガミがそんな顔してるんだもの。力になりたいわ」

 

 そう言う彼女に日下部はありがとう、と頭を下げ「本当に先輩は関係ないし、私が考えたってどうにかできる話しでもないんだけど……」と前置きした上で、自分の心に引っ掛かっている事を吐き出した。

 

「……これ本当にここだけの話にして欲しいんだけど、約束してくれる?」

「えぇ」「勿論」「はい」

「ありがと。……実はね、『倫理委員会』が最初、報道するようにって命令したことって先輩の事だけじゃなかったらしいの」

「と言うと?」

「──『百鬼先輩が不正して選抜戦を勝ち上がってる』……そう報道しろって命令したらしいの」

「──ッ!」

 

 その言葉に三人とも目を向いたが、一番顕著に反応したのは珠雫だった。

 

「百鬼先輩が不戦勝で勝ち上がってるのも賄賂を渡してるから。生徒会長にも珠雫ちゃんに勝てたのも八百長をしたからだって……」

「──私は私にできる全ての事をやって、彼に挑みました。その上で、私はあの人に負けたんです。なのに……そんな私たちの戦いを汚そうとしている連中がいると?」

 

 珠雫の顔には明確な怒りが浮かんでいる。

 それも当然だ、と彼女以外の三人は思う。

 彼女は一輝達のグループの中では感情に流されず、冷静に物事を判断できる方ではあるが一端の戦士である。

 

 自分達の全身全霊を尽くした戦いに、闘争の本懐をまるで理解していない連中が勝手知ったるように『黒鉄珠雫は百鬼紫苑の甘言に応じてしまったから負けたのだ』と吹聴しようとするなど……腹立たしいにもほどがある。

 

 彼女の周囲が比喩抜きで冷え込んでいく。テーブルには霜が降り、彼女の怒りが──、

 

「落ち着きなさい、珠雫」

 

 爆発する寸前、有栖院が彼女の肩に手を置いた。珠雫の怒りが霧散していく。

 

「まだ話の途中でしょ。怒るのはそれからでも遅くないわ。ね?」

「……ごめんなさい、アリス」

「いいのよ。あなたが怒る気持ちだってわかるもの。……ごめんなさい、かがみん。ひとつ聞きたいのだけど、今回の騒ぎに彼の名前は一切出てきてない筈よね?」

 

 有栖院が自分の気になったことを指摘する。

 今回のマスメディアが囃し立てている事において、百鬼紫苑が不正をして勝ち上がっているという話どころか、彼の名前は一切マスメディア上で取り上げられていない。

 

 騎士達の間では『昨年七星剣舞祭ベスト4だった《雷切》が無名のFランクに敗れた』という噂が流れ、それが多少ネットの海に散見しているが……それだけだ。破軍にマスメディアが来たことは有栖院が知る限り見たこともないし、これから来るという話も聞かない。

 

 今回の騒動において、彼は完全に無関係の筈だ。なのにどうしてここで彼の名前が挙がる?

 

「そもそもアイツって『黒鉄』の関係者なの?」

「ううん。百鬼先輩に『黒鉄家』との関わりは一切ないよ。

 強いて言うならあの人の幼馴染みの瀧華薫さん──正確に言うなら瀧華家になるけど、そこが昔『黒鉄家』の分家だったくらいかな。でも今では完全にその繋がりは途絶えてるし、今の瀧華って薫さんしかいない。肝心の薫さんも今は昏睡状態だから、『黒鉄』の圧力で八百長なんて出来る筈ない」

 

 彼女は続ける。

 

「じゃあ百鬼先輩自身の家はどうなんだーってなると、彼のお母さんは十一年前の電車脱線事故の影響で精神病院にずっと入院してて、お父さんはちょっと良いところの会社の、それなりの立場に就いてる人だけど、それもお母さんの入院費用と生活費でわりとカツカツ状態。それに彼が十一年前の事故の精神的ショックで、ご両親との記憶を全部失ってから、百鬼先輩と彼のご両親の交流はほとんどない。絶縁状態って言っても良いくらいにね

 あとは現在の彼の保護者である西京先生だけど……西京先生が八百長なんて協力するわけないじゃん?」

 

 西京も紫苑本人も生粋の戦士。

 紫苑が使う剣術《瀧華一刀流繚乱勢法》の理念は『何がなんでも勝て』というものではあるが、その『何がなんでも』はあくまでも『闘争』という最低限の枠の中での『何がなんでも』だ。八百長などする筈がない。

 

「それで答える順番がちょっと前後しちゃったけど、アリスちゃんの言う通り、今回の騒ぎで百鬼先輩の話は全く挙がってない。と言うのもこの八百長の話を『倫理委員会』の方から『表に出すな。そしてこのような話があったことも口外禁止とする』って言われたらしいんだよ」

「がっつり話してるじゃないの」

「だからここだけの話って言ってるじゃん。本当に話さないでよ?」

 

 日下部の言葉に三人は頷く。自分達が信用されているが故に話しているのだと理解しているからだ。

 

「それが先輩達の記事が出来上がって、さぁ刷るぞ! って時に……丁度ステラちゃん達が怪物調査に海に行っていた前日くらいにそういう連絡が来たから、現場はてんやわんや……って話は興味ないよね」

「えぇ。シオンの話は『倫理委員会』の方が報道するなって掌返ししてきたからだけど……なんで急にそんな事言ったのかしら?」

「確かに、それはそうですね。日下部さん、何か知っていますか?」

 

 ステラと珠雫の言葉に日下部は「うーーーーーん」と長く唸った後、更に声を小さくして言う。

 

「これは私の完全な推測なんだけど……たぶん『倫理委員会』に圧力をかけた何かがいたんじゃないかな。『百鬼紫苑にマイナスイメージをつけるな』みたいな感じで」

 

 彼女の推測に、三人は絶句した。

 つまり彼女は『紫苑の背後には『倫理委員会』より上の権力を持った何者かがいるのではないか』と言ったのだから。

 

「……本気なの?」

「そうじゃないと納得できないんだよ。あれくらいマイナスイメージを作れって言ってた『倫理委員会』が掌返しするのは。私も知ってから色々探ってみたけど……こういう情報って誰かがネットの掲示板なりにリークして、面白おかしく燃やそうとするじゃん? そういうのも全くなかったんだよね。情報の握り潰しが滅茶苦茶徹底してる。……それに」

「それに? どうしたの?」

「……私の部屋にさ、紙が張ってあったんだよね」

 

──それ以上詮索するな

 

「……ってかかれた紙が」

「……ッ! け、警察とか……!」

「たぶん無駄だね。相手はネットの海にすら、僅かな情報も残さず消し去る事が出来るんだよ? 想定してないわけがない。幸運だったのは、ルームメイトが気付く前にそれを私が紙を処分できたことだね」

 

 日下部は痛感した。

 ジャーナリストが知ってはならない真実に気付き、消されるのは本当に身近にある事なのだと。

 そして一歩間違えていれば、自分がそうなっていたのだと。

 

「いやぁ、あの時はマジで怖かったなぁ……にゃはは……」

 

 そう言ってお茶らけた風に笑う日下部の手は……震えていた。じっとりと冷や汗が夏だと言うのに、彼女の頬を伝う。

 

「その後は……?」

「手を引いたよ。流石に突っ込んで良い相手とそうじゃない相手くらい見分けられる。今回は後者だね」

 

 破軍学園のセキュリティーはそれはもう強固である。

 それを難なく突破し、日下部の部屋に侵入。脅迫文を残していくなど並大抵の者ではない。

 

「好奇心は猫を殺すって言うけど……弁えなきゃ……」

「……ごめん、カガミ」

「良いの良いの。気にしないで。寧ろ言えてスッキリしたよ。ずっと誰にも言えないんじゃないかって怖かったからさ……三人を巻き込んじゃうかもだけど」

「上等よ。どこの誰だか知らないけど、アタシの友達に手出したこと後悔させてやるわ」

 

 そんな時だ。

 

「ヴァーミリオン、ここにいたか」

「……? 理事長先生?」

 

 ステラの背後から話しかけてきたのは、スーツを纏った長身の麗人。破軍学園理事長・新宮寺黒乃だ。

 

「昼食中悪い。少し良いか?」

「えぇ。何かしら?」

「黒鉄の事だ。……ここではなんだ、場所を変えよう」

 

 そう言い、彼女を自らの仕事場に誘った。

 

◆ ◆ ◆

 

 一方その頃、彼女らの話題の中心となっていた少年は。

 

「──てめえが《黒鬼》か」

「《瀧華一刀流繚乱勢法》の百鬼紫苑だ。お前は……《剣士殺し》だな。俺に何の用だ?」

「きまってらぁ。……俺と戦え、百鬼」

 

 嗤う髑髏の刺青をした男──《剣士殺し》倉敷蔵人と向き合っていた。 

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