「くっ!」
新宮寺黒乃は二丁拳銃から魔力で構成された弾丸を打ち放つ。
並みの騎士ならば新宮寺の攻撃に対して一切抵抗できずに倒れるのだが……生憎、彼女が対面している騎士は並みの騎士ではない。
「ふふ、見ない間に鈍ったのではないのかね? 《世界時計》」
白いボルサリーノ帽に同じく白いジャケットを羽織った紳士は歯を見せて笑う。紳士然とした姿には不似合いな紺碧の槍を振るい、彼は数百もの氷の槍を作り出す。
「《カンピオーネ》……ッ!」
上空。水と氷の城壁に囲まれた先で笑う君主を新宮寺は睨みつける。
彼女と対面している男の名はカルロ・ベルトーニ。イタリアが誇る最強の騎士にして、KoKランキング二位の英傑。そして
《世界時計》VS.《カンピオーネ》の戦いが始まっておよそ十数分。
戦闘は膠着状態……否、新宮寺の劣勢で展開していた。
それはひとえにカルロが操る水の量。
彼が史上最強の水使いであると言われるのは、同時に操作可能な水量がずば抜けていることが理由である。過去に伐刀者に占拠された街を『丸ごと洗い流した』という実績を持つことから、一国の存亡を左右できる力を持つとされている。
そんな彼と新宮寺は極めて相性が悪かった。
新宮寺が《時間》という、因果干渉系能力の中でも最高峰の力を有していることは言わずもがなであろう。しかしそんな最強とも思われる能力にも弱点はあった。
それは攻撃範囲の狭さ。彼女は好敵手であった寧々のような大規模範囲攻撃を持たない。《時間》の能力を宿した弾丸は必殺というに相応しいが、所詮は拳銃。目の前に築かれた水と氷の城砦を一撃で吹き飛ばすような範囲攻撃には期待できない。
まるごと蒸発させてやろうとしても、前述した膨大な水の量にそれは叶わなかった。
西京がいてくれれば、と新宮寺は歯噛みする。
破軍学園襲撃の報。それを聞いた自分と西京は急ぎ、大阪から東京へと戻ろうとしていた。が、東京大阪間の最も早い交通手段である飛行機は滑走路の異常を理由に運休。
仕方なく次善の案である東海道新幹線の線路上を走り、東京を目指すという手段に出たのだが……それを敵は読んでいた。
線路に仕掛けられた《転移》の術式。それに新宮寺が引っ掛かってしまい、西京と分断されてしまったのだ。
自分が築けないほど入念に施された《迷彩》に、分断を目的とした転移術式。転移先で待ち受けていた《カンピオーネ》カルロ・ベルトーニ。
何故ここにカルロがいるのかは不明であるが、破軍に襲撃をしかけてきた連中が自分達を絶対に辿り着かせるわけにはいかないのだ、ということはわかる。
(だからこそ絶対に奴を倒さなければ)
如何なる理由があろうが関係ない。
自分の生徒を傷つけた。それだけで敵に地獄を見せてやるには十分すぎる理由なのだから。
新宮寺は魔力を滾らせ、眼前敵に弾丸を打ち放つ。
……ここで賢明な皆ならば、現在生じている状況を奇妙に思っている事だろう。
新宮寺は転移によって飛ばされたどこかでカルロ・ベルトーニと戦闘を行っている。彼女ほど優秀な騎士が転移の術式に気付けなかったという違和感はあれど、それを仕掛けた下手人が彼女を上回る程に優秀であったと言われれば、まぁ納得は出来る。
しかし、前話の最後で西京は誰と戦っていた?
……そう、ここでカルロと戦闘を行っているはずの新宮寺黒乃である。
西京は新宮寺が敵の術中に嵌り操られたため、眼前敵である彼女に加え、彼女を操っている何者かとの一対二の戦闘を強要されている。
もしこの状況が正しいのであれば
何故そのような奇妙な状況が起きているのか。
決まっている。
──その全てが誤った認識であるからだ。
「相変わらず凄いなぁ、栞さんの能力」
東海道新幹線の線路上。そこで
日下部加々美に『暁学園』の存在を気付かせた紫乃宮天音である。
その隣には黒いライオンに乗った少女に、その傍で控えているメイド服を纏った女。もう真夏であるというのに防寒具に身を包んでいる少女に、トップレスにエプロン姿という奇妙極まりない姿をした少女など、そこに統一感はまるでない。
「そうだろう! なにせ栞おね……ごほん、《
「……なんで凛奈が誇らしげなの」
はぁ、と大きな溜息を吐いたエプロン姿の女性──サラ・ブラッドリリーは自分の後ろを見やる。そこには自身の能力で作り出した月影栞、それが二人いた。
──現在の新宮寺と西京の状況を説明するのであれば、たった一言で充分だ。
《
以前、赤座を無力化するときにも使用した技であり、その効果は対象に術者の望んだ夢を見せること。
発動条件は『対象との接触』。これは線路上に《幻想結界》を展開、線路上を擬似的な《夢》の世界とすることで果たし、彼女らの無力化を達成したのだ。
彼女達が事前に気付く事が出来なかったのかと言えば……まず不可能であっただろう。
周囲をよく観察すれば違和感に気付くことも出来たが、今の彼女達は一刻も早く学園に戻らなければならないという状況だ。
そんな時、周囲に必要以上に気を配ったりはしないだろうし、そも《幻想結界》そのものは殺傷力は皆無である。その上、そういった違和感すら感じさせなくするのが《幻想結界》の本質だ。
《夢》の中でどれほど不可思議な出来事が起ころうと、《夢》を見ている間はそれを『当たり前』の事だと思ってしまう。
そういった意識への干渉もまた、《夢》の真骨頂のひとつである。
が、弱点がないわけでもない。
「《夢想世界への切符》は一定以上の外圧や対象が『これは現実じゃない』……つまりは《夢》だって気付いた瞬間に解けてしまう」
「それに新宮寺さんは因果干渉系能力者だ。同じ種類の能力にはある程度抵抗できてしまうし、解けるまでは時間の問題かな。とりあえず栞さんに報告しておくよ」
ポケットの中でスマートフォンが震える。
破軍学園から配布された生徒手帳ではなく、暁学園の生徒が持っているそれが震えたという事は平賀か、新宮寺と西京の無力化に向かった誰かだろう、と栞は戦場の只中だとは思えない気軽さでそれに出る。
「はい、栞ですけど」
『こっちは無事に終わったよ。そっちはどう?』
「滞りなく。これから眠り姫と彼女の騎士ふたりを叩き潰しに向かうところです」
そう言う栞の足元には気絶した東堂刀華の身体と空になった薬莢が数十発分が転がっている。
《魔人》の領域に足を踏み込んだ絶技──《神切》を放とうとした東堂であったが、栞はその点冷静であった。
発射寸前となった彼女に《加速》では間に合わないと、彼女は東堂の一帯の時間を《停止》させ《クイックドロウ》を見舞ったのである。
とはいえ、彼女は内心穏やかではなかった。
(あれが放たれていたら……私は負けていたでしょうね)
足の先程とはいえ確かに《魔人》の領域に至っている刃と、その扉の前で引き返したもの。そこにはわずかながらも隔絶した差がある。あの技のタメがあと一秒でも長ければ……こうして倒れていたのは自分の方であっただろう。
だが戦闘にもしもは存在しない。ここに立っているのは自分であるし、東堂は敗北した。それがすべてである。
「そちらは監視を続けてください。もし新宮寺さん達が動き出したら──」
その瞬間。栞は黒鉄王馬の風もかくやという突風が吹いたと錯覚した。
錯覚した、というように実際には突風など吹いてはいない。では栞が『突風』と勘違いしたものの正体は一体何だったのか。
それは……彼方からでも感じられるほどの常軌を逸した剣気。おそらくは《比翼》のエーデルワイスが暁学園への侵入者──つまりは黒鉄兄妹との交戦を開始したのだろう。
それは栞のプランが計画通りに進んでいることの証左でもあるが、それはなにも良い事ばかりではない。
「栞さん──」
「えぇ、わかっています。二人が動き出したのでしょう?」
それは新宮寺と西京に仕掛けた《夢想世界への切符》が効力を失った事。それは即ち世界トップクラスの騎士がこちらに向かってきているという事でもある。
だがそれに対して栞は動じず、電話先の五人へ指示を出す。
「皆さんは撤退してください。間違っても足止めをしようとは思わないように。サラ」
『ん、わかってる』
『しかし《全智の魔女》よ。貴様はどうする? 貴様とてあの二人を同時に相手しようとなれば骨が折れるのではないか?』
「えぇ。ですがそれは同時に二人を相手にした場合の話。既に彼女達を分断させる策は打ってあります」
そのためにわざわざ一輝達を平賀の追跡に向かわせたのだ。
一輝達が向かった場所は死地である。流石の一輝とて《比翼》と事を構えて無事でいられるとは考えにくい。ならば新宮寺と西京のどちらかを黒鉄兄妹の救援に向かわせることで、自分が二人を同時に相手どる可能性を減らしたのである。
「皆さん、こちらへの救援は必要ありませんので先に言った通り帰還してください。その後は……少し気が早いですが祝勝会です。会場などはクライアントに聞いてくださいね」
そう言うと電話先からは喜びの声などが聞こえてくる。
それに栞は微笑むと電話を切った。多少賑やかにはなったが、それに目溢しするのは紫乃宮と自分の能力が突破されるわけがないと確信しているからである。
「さて……私は少しだけ残業ですかね」
呟き、そして《転移》の能力を発動させた。
「はぁ……ッ、はぁ……ッ」
意識が戻ったステラが感じたのは、自分の身体が揺さぶられている感覚だった。どうやら自分は背負われているようだ。自分を背負っている者は随分と余裕がないらしく、荒い息を吐いている。
そこで、彼女は自分がどんな状況に置かれているかを理解した。
「──! アイツらは!?」
「おわっ! やっと起きたか! なら下りてくれないか? 流石に人おぶって走るのってしんどいんだよ……」
「ご、ごめんなさい」
気絶した人間を背負って走り続けたのだ。いくら魔力によって身体能力を強化できるとはいえ、桔梗の体力は一輝のような規格外とは言えない。
うだるような蒸し暑さだというのに冷や汗が滝の様に溢れ、足はガクガクと生まれたての小鹿の様に笑っている。そんな様子にステラは思わず声をかけた。
「ねぇ、大丈夫?」
「大丈夫……じゃねぇ……」
「けど……逃げなきゃダメなの……西京先生達が帰って来てくれるまで、なんとか……」
『西京先生達が帰って来てくれるまで』
その言葉が示す事実は一つである。
──自分達ではどう頑張ったところで彼らには勝てない。
つまりは追いつかれた時点で自分達は終わりだと。その言葉をステラは否定したかったが……どれほど言葉を重ねたところでなんの慰めにもならないだろう。
自分は選抜戦で栞に負けていて、そしてつい先ほど黒鉄王馬にも完膚なきまでに敗北したのだから。
そんな自分が、全部敵を打ち倒してやるなどとどうして言えようか。
「そんな暗い顔すんなって牡丹ちゃん。《風の剣帝》はなんでかわかんねぇけど自分から撤退してくれたし、西園寺だって生徒会メンバーの五人が抑えててくれてんだ。いくらアイツでも──」
瞬間、三人の背中に悪寒が走った。
森が一気に騒がしくなり、鳥たちが我先にと止まっていた木々から羽ばたいて一目散に逃げていく。その姿は肉食獣に追われ、怯える草食動物を想起させる。
それが何を意味しているのか。それはすぐにわかった。
「──ッ、真っ直ぐこっちに向かって来てるの!」
『今から行くぞ』
そう栞が宣告したのだ。
隠密行動など一切考えない、速度だけを重視した疾走。
自分達の様に紛いなりにも整備された山道を通ってくるのではなく、木々が生い茂る山中を直線的に突き進んでくる。その速さは一体自分達の何倍であろうか。……もしこの速度をずっと維持してこちらに向かってくるのであれば、追いつかれるのにそう時間はかかるまい。
「は、早く逃げねぇと!」
「待って!」
桔梗と牡丹は駆け出そうとするが、それに待ったをかけるのはステラである。
彼女に一刻も早くあの二人は声を荒げるが、ステラは相手にせず思考を巡らせる。
(……おかしいわ)
彼女の足を止めさせたのは違和感であった。
自分達を追いかけてきているのが黒鉄王馬であったのであれば、こんなことは思わなかった。彼の戦い方は自分と同じく、阻むもの全てを真正面から叩き潰して進撃する絶対強者のそれである。
しかし葉暮姉妹曰く、彼は撤退してくれたという。嘘を吐く理由もないので、これに関しては間違いないだろう。では自分達を追ってくるのであれば栞である筈だ。
しかし彼女の戦闘スタイルは、武装こそ違えど一輝のやり方に類似している。
機転を利かし、策略を練り、小手先の小細工で相手を絡み取り、勝利する。栞はそんな人間だ。たとえ自分の想像を超える力を有していようとも、そのやり方は変わらない。
そんな彼女が『強者』のやり方で自分達を追ってくる。真正面から貴方達を叩き潰すと宣誓する。
(そんなの、アイツのやり方じゃない)
第一、彼女は珠雫以上に魔法制御技術に特化した騎士である。自分達に追ってきていると勘付かせることなく迫り、不意を打つことなど容易な筈。そうした方がよっぽど簡単に自分達を制圧できるのだから、そうしない理由がない。
ならば何故そうしていないのか。
決まっている。
(本当に見て欲しくないものから意識を逸らさせるため!)
「何やってんだよ!」
「早く逃げるの!!」
「駄目よ、焦ったら全部アイツの──」
掌の上だ、と既に駆け出していた葉暮姉妹を止めようとした時にそれは起こった。
「──閉じなさい」
彼女達の身体を糸のような物が絡め取ったのだ。
十重二十重にも巻き付いたそれは彼女達が全力で魔力を放出し、身体能力を強化しようとも引きちぎることが出来ない。
間違いなく栞が仕掛けた罠である。
「なんなのコレ!」
「クッソ、引きちぎれねぇ!!」
「やっぱり……!」
自分達ではどうにもできない絶対的な脅威が、自分達を追いかけているとき人はどうするか。
──それとは逆方向に逃げるに決まっている。なら栞はそこに罠を仕掛けているのは当然の話だ。
もう少し早く気付けなかったのか。そう悔んでも時すでに遅し。
何重にも巻かれた糸、そこから伸びた視認することが難しいほど細いそれを伝って、彼女達に人を気絶させるにはあまりに過剰な雷撃が叩き込まれる。
むざむざと罠にかかった彼女達に難を逃れる手段は存在せず、葉暮姉妹の身体は地面に倒れた。それを確認して糸は前方の木々の間へと消えていく。その動きは糸というよりは触手と呼んだほうが相応しいだろう。
「──惜しかったですね。あともう少し早く気付けていれば、お二人も助けられたのに」
そうして刺客──栞は姿を見せた。
森の奥から姿を見せた彼女には怪我の一つどころか、服のほつれや泥の汚れも見当たらない。今の今まで戦闘をしてきました、と言っても誰にも信じてもらえないだろう様相を呈している。
彼女を睨みつけながら、ステラは問う。
「……トーカさん達はどうしたの」
「倒してきましたよ?」
「随分と余裕そうね」
「まさか。随分と手こずりましたよ。予定では私はもう帰っているはずでしたし……おかげで色々押していて困ってるんです」
はぁ、と溜息を吐く栞にステラは身体から怒りの炎を滾らせた。
もう帰っているはずだった? 色々押していて困っているだと?
「アタシ達を侮るのも大概にしなさいよ……!」
自分達の敗北は必然であると最初から決めつけるその姿勢。ましてや彼女は対峙した王馬の様に、真剣に戦ってすらいない。
ただする必要があるからやる。そういった作業のような態度をした者に自分達の決意が踏みにじられるなど──許せるわけがない。
ステラは霊装を顕現させ、眼前敵を打倒せんとそれを栞に向ける。
それに栞は霊装を顕現させる……事無く、ステラに語りかけた。
「私と戦う気ですか?」
「当たり前よ!!」
「……ステラさん、気付いてますか? 貴方──」
膝が笑っていますよ。
そう彼女は憐憫の視線と共にステラに告げた。
呆けたような声が漏れた。視線を自身の足に向ける。
どうせまた彼女お得意の張ったりだ。また自分をコケにしているのだという思いで。
視線の先では──膝ががくがくと震えていた。
「…………うそ……」
「嘘でない事は自分がよく分かっているでしょう? 貴方……怖気づいてるんですよ」
剣を持つ手が震える。歯がカチカチと鳴る。
最早言い訳などできなかった。自分は……栞を《恐怖》している。
一歩。二歩。三歩。
少女の形をした絶望が距離を詰めてくる。
一歩。二歩。三歩。
自分は後ろに下がり、距離を取ろうとする。
「やめておきましょう? 負けると自分で分かっているのに戦う理由なんてありませんよ」
「ちがっ、私は……!!」
「決して勝てないとわかっていても、大切なものを踏み躙った敵に挑む。志は立派だと思いますよ。しかし……勇気と蛮勇は違います。そんなことしても決して貴方のためにはなりませんよ」
優しく《恐怖》が囁く。もう良いじゃないか。どうせ戦ったって結果は何も変わりはしないのだ、とステラ自身の理性が冷静に自分に語り掛けてくる。
そしてステラは──、
「ッ、蒼天を穿て! 煉獄の炎ッッ!!」
それでもなお、戦う事を選んだ。
剣を天に掲げ、収斂させるは紅蓮の業火。それが十重二十重に絡みつき、巨大な光熱の剣と化していく様は昇竜を想起させる。
そして練り上げられるのは彼女の必殺。
「《
彼女が誇る最大火力、最大範囲の紅蓮の剣が振り下ろされる。
対し栞は……顔に明確な焦りを滲ませた。
「……ッ、もう来ますか……!」
そう呟く栞は紅蓮の剣──ではなく、それを透かした先にある空の一点を見つめていた。
今のステラなど、栞からしてみればなんの脅威でもない。それがたとえ彼女の全身全霊を込めた一撃であったとしてもである。
でなければ『自分と戦っても負けるのだからやめておけ』などと言ったりはしない。
ならば彼女を焦らせる原因は何なのか。決まっている。
ステラ・ヴァーミリオンなど比較にもならない脅威が迫ってきているからだ。
「《
彼女の右手に集まるのは黄金色に輝く魔力。
現《七星剣王》諸星雄大が保有する《魔力破壊》の能力。オリジナルである彼が槍に纏わせることで使用しているそれを、彼女はその奔流を天に向かって放った。
それは今にも命中しかけたステラの魔力を食い破り、天に向かって──より正確に言うのであれば、真っ直ぐ自分達の方へ飛んできている一人の女を喰らおうと迫る。
が、その相手は極めて冷静であった。
この黄金の魔力が諸星雄大のそれと全く同じものである、つまりは『魔力そのものに殺傷力は一切ない』という事を見抜き、あろうことかそれを完全に無視。
重力による自由落下に身を任せ、魔力破壊の光線から完全に脱すると再び魔力によって加速。
栞の眼前まで迫ると、落下エネルギーを自身の能力を用い、一切殺すことなくその全てを蹴りに乗せて彼女の身体を彼方へと蹴り飛ばした。
「……間一髪、って言うには、ちと遅れ過ぎたか」
そう言って周囲を見渡すのは着崩した派手な着物を纏った小柄な女。
おおよそ戦えそうな見た目ではないが……彼女の強さをステラは知っている。
彼女は破軍学園臨時教師にして、環太平洋圏最強の騎士。
「よく頑張ったな、ステラちゃん。こっからは──ウチに任せときな」
《夜叉姫》西京寧々が、参戦した。