最弱騎士の運命踏破   作:bear大総統

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予約投稿のつもりが一回おもらしをしたので初投稿です
何年このサイトでやってんの?(呆れ)


第36話

「くふふ……これはこれは。まさかここまで侵入されるとは」

 

 男──平賀玲泉は余裕綽々の態度を見せながらも、自身の前に現れた『敵』の存在に、半ば驚きを隠せなかった。

 

 平賀は霊装の形を糸に取る、《鋼線使い》その中でも《傀儡師》と呼ばれる、無機物や人を糸を媒介して操作する術を得意とする伐刀者である。

 

 故に七星剣舞祭のような、一対一で遮蔽物もない場所で向き合う形式の戦いは不利。

 

 しかしそれは謂わば狙撃手に狙撃銃を持たせ、前線に投入するような戦法。当人の練度によっては成果を上げられるだろうが、《傀儡師》の本来の運用とは言い難い。

 

 事実、それを理由に平賀玲泉は《黒鬼》百鬼紫苑の加入と交代する形で、『暁学園』から契約終了を告げられている。

 

 《傀儡師》の本領とは即ち、糸を手繰り、駒を操ることによる盤面操作や傀儡の数を活かした諜報活動といった後方支援にこそある。

 

 故にこそ平賀玲泉は、七星剣舞祭開催地である湾岸ドーム、その近くにある廃ビルの地下に身を潜ませ密かに活動を行っていたのだが……そこに侵入者が現れた。

 

 それ自体はなんら珍しいことではない。この付近に住まう子供達や、怖いもの見たさの大人などが度々肝試しと銘打ち、ゴーストタウンにやってきているのだから。

 

 問題は諜報活動を得手とする平賀玲泉に、一切気取られることなく彼の拠点を特定し、そしてこうして目の前に立つまで自身の存在を感知させなかったこと。

 

 平賀玲泉──その背後にいる『世界最高の《傀儡師》』すら瞠目する、驚異の潜入技術だ。

 この部屋への侵入口が二つ以上あったのならば、自分はこうして会話すら出来ることなく鎮圧されていただろう。

 だが、まさか彼が自分の前に現れるとは。否、自分と敵対することは分かっていたがまさかこのタイミングで、それも単騎で相対する事を選ぶとは思わなかった。

 

「お久しぶりですねぇ、《黒鬼》百鬼紫苑クン」

 

 下手人──《黒鬼》百鬼紫苑は平賀を睨めつけたまま動かない。口すら開くことなく、ただじっと平賀の動向を探っている。

 

「このボクが、いざ目の前に現れるまで一切気付けないとは恐れ入りました。が、貴方であれば当然ですねぇ。ボクは武術に関しては不得手ですから」

「────」

「ですが、その魔力制御は驚愕に値しますよ。一般的な伐刀者の1/15という埒外の総魔力量の少なさとはいえ、()()()()()()()()()()()()()()などという真似、この国で出来る騎士は五指に収まるでしょう」

 

 それもこの廃ビルに備えられた数十台の監視カメラ、密かに支配下に置いた人形達による監視の目を欺く体術と、平賀本人の魔力探知技術を欺く魔力隠蔽術を併せ持つ者など、三人もいるかどうか。

 

「それで、キミは何をしに来たのでしょうねぇ。まさか、ボクと談笑しに来たなどという事は」

「──《華化狩(はなかがり)》」

 

 平賀の問い、それに対する紫苑の返答は霊装《亡華》による横薙ぎだった。

 平賀の意識の狭間に潜り込み、刀の間合いまで侵入すると彼の頭上を狙い刃を振るう。否、正確に言えば彼の事情に存在する『魔力の糸』──平賀玲泉の背後に存在する《傀儡師》の霊装を切断したのだ。

 

「何をしに来た、だったか。決まっている。先月、俺の友人に無礼を仕出かした貴様に礼をしに来たんだよ」

 

 がしゃり、と地面に倒れ伏す平賀。到底人体が地面に倒れた時に発されて良いものではない、金属音が地下室に嫌に響いた。

 

 ──先月。

 まだ紫苑が破軍学園に所属していた頃、破軍学園生徒会メンバーに加え、一輝とステラ、珠雫、そして紫苑と栞がある《鋼線使い》の襲撃を受ける事件があった。

 

 その事件の首謀者こそ、糸の制御から外れたことで床に転がっているこの平賀玲泉及び、その向こう側で姿を見せずにいる者である。

 

 あれほどの規模の事件を、まるで暇潰しのように実行するあの男と見えた時に紫苑は思ったのだ。

 

『あのような男が、自分が七星剣舞祭の代表から外れただけで大人しくしているわけがない』と。

 

 故に紫苑は平賀が本格的な活動をする前──即ち、七星剣舞祭開催まで平賀を強襲し、痛手を与えると決めていた。

 ただ平賀は《鋼線使い》。

 その平賀ですら下手人の操る傀儡の一つでしかないという事実は、紫苑にとって歯痒く、どうしようもない事実であった。

 

 だからこそ《努力》した。

 《瀧華》の更なる飛躍のため。そして自分の友人達をあのような目に遭わせたこの害悪に、致命打を見舞うために。

 

「《華化狩》──《瀧華一刀流繚乱勢法》の中で唯一俺が編み出した、『最悪』の剣技だ。有り難くくれてやるから速やかに死ね」

 

 と彼は締め括り平賀玲泉の頭蓋を踏み潰した。

 

■ ■ ■

 

『──闘争は悪しきことだと人は言う。それは憎しみを芽生えさせるから。

 平和は素晴らしきことだと人は言う。それは優しさを育むから。

 暴力は罪だと人は言う。それは他者を傷つけるから。

 協調は善だと人は言う。それは他者を慈しむから。

 良識ある人間ならばそう考えるのが当然。そうすべしと、我々は伝えられてきた。そうして我々人は、獣を超え、その頂に立った。

 ……しかしッッ! しかしそれでも人は強さに憧れるッッッ!

 何人をも寄せ付けぬ、隔絶した力!! 自分のエゴを思うままに貫き通す、絶対的な力!!

 焦れなかったと誰が言える!? 望まなかったと何故言えるッ!?

 この世に生まれ落ち、誰もが憧れた夢……されどその途方もなさに誰もが諦めた理想……。

 その夢想に、命を懸けて戦う若人がここに集った!! 北斗七星の星の名を冠する七校に加え、新設『日本国立暁学園』を加えて!

 星の頂を懸けて戦う三十二名! そのいずれもが劣らぬ精鋭達!!

 騎士達よ。今は誰もが君達を咎めはしない!

 思うままに、望むままに! 持てる全ての力を尽くして競い合ってくれ!

 

 今ここに! 第六十二回七星剣舞祭の開催を宣言します──!!』

 

■ ■ ■

 

 七星剣舞祭会場の湾岸ドーム。

 見渡す限りを人で埋め尽くされたその場所で、紫苑は立ち尽くしていた。

 

(……どこで待ってるとか聞いておけば良かったな)

 

 はぁ、と小さく溜め息を吐き改めて人の海を眺める。

 

 諸星の妹・小梅との『弟妹の話』を終えた紫苑は、栞達と合流しようと思ったのだが……あまりにも観客の数が多すぎる。

 如何に紫苑の視力や聴覚が優れているといっても、このような場所で特定の人間のみを見つけるというのは、砂場で特定の形をした砂粒ひとつを見つけ出すような行いだ。

 

 予め集合場所を決めているならばともかく、ただの偶然に期待するのは流石に無茶というもの。

 間もなく栞が出場するCリーグが始まることもあり、顔くらい合わせておきたかったのだが、と半ば諦めていたその時だ。

 

「紫苑さん、こちらです」

 

 観客達の多くがざわざわと騒ぐ声の只中であっても、よく通る女性らしい声。何よりその声は紫苑にとっても聞き馴染みのある声で。

 

 そちらに視線をやれば、月影栞が控えめに手招きしていた。そこには同じく『暁学園』所属の風祭凛奈とその従者、シャルロット、そしてサラ・ブラッドリリー。

 その上の席に座っているのは先日紫苑と共に食事をした三人だ。

 

「おぉ、ようやく戻ったか! 栞おねえ……《全智の魔女(メアリー・スー)》の試合がもうすぐ始まるというのに、コロッセオの何処を探索していたのか」

「『遅い! 栞お姉ちゃんの試合が始まるのに、ドームのなかで迷子にでもなってたの!?』……とお嬢様は仰っています。百鬼様、どうぞこちらへ」

「悪い、シャルロット。……そこは『栞お姉ちゃん』で良いんじゃないか?」

「っ! わ、私にだってカッコつけたいんだもん!」

「素が出てるぞ。……それにしても、この組み合わせは中々見ないな」

 

 まず学園を滅茶苦茶にされた破軍学園の代表生二名と元『暁学園』一名、そして件の『暁学園』の生徒三名の組み合わせとは。

 他所の者が見れば『よくもまぁこの組み合わせで並んで座っていられるな』と呆れられたことだろう。

 

「偶然の結果ですね。……それはそうと紫苑さん」

 

 じとっと紫苑を咎める視線を向ける栞。

最近になって様々なことで彼女に叱責を受けるようになった紫苑は、その声音や視線の質で大体の感情を推し量れるようになった。

 そして思う。今回は若干照れの感情が入っているな? と。

 

「黒鉄さんと有栖院さんにどのような事を言ったんですか?」

「何って……お前が破軍の選抜戦や破軍学園襲撃の際に、どれだけ裏で頑張ってたか話しただけだが」

「私、最初は話飲み込めませんでしたからね……!? そもそも誰に聞いたんですかそんな事!」

「お前の親父さん。『娘が変な形で友達と疎遠になるのは好ましくないから』って。というか、そもそもお前はどれだけ悪ぶったって根っこの真面目だとか、人の善さを隠しきれないんだから──」

「ほんっとうによく回るようになりましたねその口は〜……!!」

 

 むにょーん、と紫苑の頬を引っ張る栞。突き立ての餅もかくや、あるいは溶けたチーズほどの伸びを見せる紫苑の頬に、外野は感嘆の息を漏らす。

 

「余計なお世話が過ぎますよ〜……?」

いはいはいはい、ひほひひはひ(痛い痛い、栞痛い)

「じゃあその口閉じましょうね?」

ははっはははっは(わかったわかった)……」

 

 などと栞は言うが、こうして紫苑が自分に頬を好き放題されている時点で一定の反省はしているのだろうなと思ったが。

 

 なにせ彼の身体能力は魔力に依る強化を得ずとも、人類最高峰。否、人類の限界を超えた肉体性能を誇る。

 対して栞のそれは、多少は鍛えてはいるが一般的な女性の範疇。

 それほどの隔絶した差があって、甘んじて頬を引っ張られているのならば、それは彼に一切の抵抗の意思がないことを表している。

 

「……栞、照れてる」

「へぇ。そうですか、サラ。そんなに貴方も同じ目に合いたいですか?」

「遠慮しとく。そういう目に遭うのはシオンだけで充分だと思う」

「俺も嫌なものは嫌なんだが……?」

「じゃあそのお口閉じましょうか、紫苑さん」

「…………」

「……百鬼くんたち、仲良いね」

 

 目の前で行われる漫才めいたやり取りに、一輝は苦笑する。

 パーティで出会った凛奈とサラ、そして紫苑もまた個性の暴力のような連中だが、なんだかんだ彼らの手綱を握り御している栞の手腕を称えるべきか。

 

「というか百鬼さんは、栞さんを除いたそちらの御三方と会って一週間程度なんですよね。……馴染みすぎていませんか?」

 

 珠雫は紫苑達を改めて眺める。

 右からサラ、栞、紫苑、凛奈、シャルロットと並ぶその5人の雰囲気は家族もかくやといった物である。

 お世辞にも他者とのコミュニケーションが得意とは言い難い紫苑が、よくもまぁここまで仲睦まじく話しているものだと感心する。

 

「あぁ。それに関しては簡単な話でな」

「互いに気を使ってないだけ」

「我らが半端に歩み寄ろうとしても、道は平行線で決して交わらぬ。であるならば互いに絶対に越えてはならぬ一線を定め、それを越えない範囲で思うままに振る舞う方が都合が良い」

 

 中途半端に気を遣うなど却って疲れるだけ。

 であるなら互いが絶対に超えてはならぬ一線のみを把握し、それ以外は我が道を行くほうが衝突せずに済む。

 協力し合える事案があるのならば協力し、相容れぬ事があればそこは決して掘り返さない。

 

 最低限の協調姿勢は仕事ゆえ見せるが、それ以外は知ったことではない。互いがそのような姿勢であるからこそ気楽なのだと凛奈は言う。

 

「尤も、我々は『暁』の中でも《全智の魔女》に肩入れしている者達だ。そのような『暁』の不文律を抜きにしても気が合うのは当然と言えるだろうな」

「ん」 

「……よくもまぁそんな事、恥ずかしげもなく言えますね?」

「俺達は散々世話になっているしな。ここの男二人も加えて」

「「その節は大変ご迷惑をおかけいたしまして……」」

「あぁ、もう……! それはもう充分すぎるほど伺いましたから……!!」

 

 珠雫を除いた五人の、悪意なんて欠片もない純粋な謝意に栞はたじたじといった様子だ。

 それは『破軍学園』襲撃の際に見せた狡猾さや、先日ホテルで珠雫と火花を散らした様からは縁遠いものであり、彼女は月影栞という少女に対する理解を深める。

 

(……なるほど。栞さんは『純粋な善意』に滅法弱いのか)

 

 悪意や害意であれば、あの魔女は対処法などいくらでも心得ている。

 政治家の娘であれば、自身がそういったものに晒される機会は一般的な家庭で育った少女よりも多かったことだろう。またそれに対応する父の姿を側で見ていたに違いない。

 

 しかし謝意や善意の対処に関する経験値は、前述のそれより不足しているのだ。

 ましてや栞自身が純粋な善意ではなく、自分の策の一環として彼らを利用するために行動したという罪悪感もあって、それを真正面から受け取れない。

 

「そういえば紫苑さん!」

「話題逸らした」

「逸らしたな」

「逸らしましたわね、栞様」

「こらそこの『暁』ちょっと黙りましょうか。

 ……元『暁』の平賀玲泉の残骸が、ゴーストタウンの廃ビルの一つから見つかったという報せが私達の方に入ってきているのですが……何か知りませんか?」

「知らない」「「ぎくっ」」

 

 痛いところを突かれたとコミックさながらの声が漏れる凛奈とサラ。それに「何をやっているんだ」と咎めるような視線を向ける紫苑。

 栞は大きく溜息を吐き、

 

「凛奈とサラが関わっているんですか……。ちなみに実行犯は?」

「「シオン」」

「ッ! なんの躊躇いもなく仲間を売りやがったな……!!」

「ついでに計画の立案者もシオン」

「おい……!」

 

 次々と口を開く凛奈とサラに、紫苑は声量こそ抑えているものの声を荒げる。

 計画を立案した段階ではあれほど協力的だった彼女らだが、いざ計画が露見した段階になれば掌を返して「コイツが主犯です」と差し出すなど仁義の欠片もないやり口だ。

 

「あは、人望ありませんねぇ〜、紫苑さん」

「ぐ……」

 

 にまぁ、と意地の悪い笑顔を浮かべる栞。それに対し、紫苑は呻くことしか出来ない。

 

 片や『剣士』。片や『軍師』。

 方向性も強さの種類も根本から方向性が異なる二人。こと人望や人を使うことにおいては、紫苑が栞に大敗しているといって良かった。

 

「……怒らないのか」

「それはまぁ。私にも事前に報告してほしかったですけど、紫苑さんは凛奈やサラを頼ったのでしょう? であるなら、シャル辺りがお養父様に話は通したと思いますし」

「勿論です」

 

 栞の言葉にシャルロットは頷く。

 そんな事していたのか、と凛奈は驚くがシャルロットはこれでも風祭財閥に仕える、暦とした社会人。

 自身の携わる職務に関わる事案は、現在の主の上に立つ者──月影獏牙に報告と実行の許可は得ている。

 

 紫苑が平賀玲泉の破壊の協力を凛奈達に要請したのが、六日前のこと。もし実行に移さないよう命令が下ったのなら、そもそも昨日の段階で止められている。

 

「それに……紫苑さんが何を思ってそのようなことをしようと思ったのか、なんとなく察しがつきますから。それはそうと、私に相談してくれなかったことは寂しかったですが」

「…………じゃあ俺もお前に言いたいことがある」

 

 意地悪く笑う栞にであるならば、と紫苑は返す。

 そんななかなか見ない紫苑の態度だが、栞の余裕は崩れない。意地悪なものから姉が弟の言葉を聞くような笑みに変わり、紫苑の言葉を待つ。

 

「……なんでしょう?」

「お前だって──」

『──会場の皆様にお知らせ致します。

 リングの整備が完了致しましたので、これよりCブロックの第一回戦を開始致します。Cブロックの選手の皆様は控え室にお集まりください』

 

 紫苑が切り出そうとしたところ、アナウンスが会場に響く。

 

「……あら、出番ですね」

 

 栞はCブロックの第一試合に出場する予定になっている。

 これが第三、第四試合であれば紫苑の話を聞いてからでも充分間に合っただろうが、最初の試合となればそうもいかない。

 

「間の悪い……お話は後で伺いますね」

「吉報を待っているぞ、《全智の魔女》」

「……まぁ一応応援しとく。頑張れ」

「期待に応えられるよう努力します。……紫苑さんは何も言ってくださらないので?」

 

 小さく溜息を吐く紫苑。

 彼女が自分の能力に制限を設けず戦うなら、七星剣舞祭の出場者であっても大半の者は相手にならないと紫苑は考えている。

 そんな彼女に、今更応援なんてものが必要だとは思わないが……こういうのは気分の問題だろう。

 

「──勝ってこいよ、栞」

「ふふ……勿論。いってきます」

 

 紫苑が突き出した拳に、控えめに拳を突き合わせた栞ははにかみ、控え室の方へ向かっていく。

 その様子に緊張などという様子はまるで見られない。

 

「彼女、相変わらず余裕そうですね」

「当然だろう。《全智の魔女》は《黒炎の剣鬼》《天嵐の覇王》に並ぶ我々の切り札だ。そう易易と負けてもらっては『闇を討ち払うもの』たる我々の示しがつかん」

「『栞お姉ちゃんは百鬼くんと王馬さんに並ぶ『暁学園』の切り札だもん! すっごい強いんだから負けないよ!』……とお嬢様は仰っております」

「あぁ……そういうロールプレイをしてるのね。……そういえば、紫苑はいつ出場だったかしら?」

「俺はDだな。もうしばらくは観戦する余裕もある」

 

 ここにいる七星剣舞祭出場者は、有栖院、シャルロットを除いた5名。

 一輝とサラはAブロック。今は『線路トラブルによる電車の遅延』でいないが、到着していたらまずここにいただろうステラ・ヴァーミリオンと凛奈はBブロック。

 珠雫と栞はCブロックであり、順当に進めば二開戦で彼女達は戦う事になるだろう。

 そして紫苑は先ほど有栖院に返したようにDブロックに出場することになっている。

 

 ステラに関しては遅刻を巡って運営委員会が協議を行った結果、『ステラの到着を確認した際に行われているブロックの最終試合が終了し次第行うものとする』形となった。

 

 そのようなアクシデントもありつつも、試合が既に終わった面々は無事に第二回戦へと駒を進めていた。

 

「……ちなみに百鬼さん、平賀玲泉って確か『暁学園』の生徒ではありませんでしたか? それが何故、貴方が彼に対して何かしたという話に……?」

「別に大した話じゃない。奴が外から下らない茶々入れをして、七星剣舞祭の運営に支障が出ては困るから事前に処分した。それだけだよ」

 

 自分達の目的のためには『《七星剣舞祭》が何事もなく運営されること』が前提条件。

 故にそこに悪影響を及ぼしかねない者を処分しただけに過ぎないと。

 

「サラと凛奈を頼ったのは、平賀が操る人形達に察知されず、尚且つ平賀本体の場所を特定するための技術と人手が欲しかったからだ」

「人員は我々風祭財閥の者から手練を」

「平賀の索敵を誤魔化したのは私の魔術」

 

 ぶい、と義理の姉妹揃ってピースサインをする凛奈とサラ。そしてそんな風祭の後ろで身体を震わせているシャルロット。

 

 絵面としては完全にアウトだったので、破軍学園の三人は意識してシャルロットから視線を逸らす。

 

 なるほど。確かに紫苑は戦闘においては無類の強さを誇るが、こと索敵となると栞や珠雫に数段劣るのが実情。

 少し前の方ならば不得手と理解していても、自分ひとりで何とかしようとしたのだろうが……これも他者と関わるようになった影響だろう。

 

 彼の友人として一輝は嬉しく思うも、しかし好敵手としては厄介極まりなくなったと言わざるを得ない。

 

「まぁ終わった話はどうでもいいだろう。今は栞の試合のことだ。確か相手は……昨年のベスト8の騎士だったか?」

「うん、禄存学園の加賀恋司選手だね。詳しくは実況者が説明してくれると思うから」

 

 一輝がリングを示せばそれに応えるように、

 

『観客の皆様大変お待たせ致しました! これより第六十二回七星剣舞祭Cブロックの試合を開始します!!』

 

 実況アナウンサー曽我部によって開始の合図がなされ、それにより会場にひしめく観客達の歓声がドームを揺らす。

 

『Cブロック第一試合もまた注目の試合! 早速両選手に入場してもらいましょう!!』

 

 実況を務める女性アナウンサー、曽我部の声に合わせ入場ゲートが開かれる。

 そこから二人の男女がリング上の姿を見せる。

 

『まずは赤ゲートから! 禄存学園三年! 《鋼鉄の荒熊(パンツァーグリズリー)》加我恋司選手! 身長2m36cm! 体重370kg!! まさに《荒熊》の名に恥じない規格外の巨体!! その圧倒的な肉体と日本が世界に誇る国技、相撲を武器に戦う、日本屈指のパワーファイター!! 新時代の台頭で数多の昨年出場者が敗退する中、古豪の意地を見せつけることが出来るかァ!?』

 

 赤ゲートから現れた男は、実況が言ったように日本人離れした巨体を誇っていた。上背も勿論だが、横にも幅広い。

 その風格はまさしく横綱と呼ぶに相応しい。

 

『では改めて解説の飯田プロ。貴方から見て、加賀選手の強さはどういったところにあると推察されますか?』

『そうですね……。まず曽我部さんが仰ったように当人の恵まれたフィジカルですね。あの巨体と体重が、魔力放出による加速を得て突っ込んでくる。それだけで並の伐刀者は蹴散らせます。

 そして何より加我選手の能力である《全身鋼鉄化》。この単純明快ながらただ硬く、ただ強い。攻守共に揃ったバランスの良い能力です。こういった能力は状況や相手に左右されず、自分の持てる力を発揮しやすい。曲者が多い今回の大会では活躍しやすい力と言えるでしょう』

 

 加我は客席に手を振りながら、リングの上に上がれば客席からは喝采が上がる。

 穏やかで優しく、力持ち。

 地元だけではなく老若男女問わず根強いファンを持つのは、彼のこういった人柄だろう。

 

 そして彼はファンサービスも欠かさない。

 膝を沈ませ、腰を落とす。続いて彼は左足を上げると──そのままリングへ叩きつけた。

 地鳴りにも似た轟音。それに観客と実況は驚愕の声を上げる。

 

『なんということだァ! 加我選手の四股踏みによってリング全体が左側に傾いたァ! そしてそのまま右足も天高く掲げ、どすこーーーい!!』

 

 左に傾いたリング、そこに右足で力を加えることでリング全体を水平に戻す。が、リング全体が目算10cmほど土の中に沈んでしまっている。

 

『なんというパワー! これが《鋼鉄の荒熊》の本領だァ!』

『確かにそのパワーも眼を見張るものがありますが、真価はそこではありません。リング上に刻まれた彼の足元。周囲にヒビすら入れず足跡のみを刻みつけるこの四股踏みは、力を完全に集約させなければ実現不可能なもの。

 彼の巨体。そこから発揮される圧倒的パワーは勿論ですが、それを制御しきるこの繊細さもまた、彼の強みと言えるでしょうね』

『そんな彼のパフォーマンスによって会場も興奮の坩堝と化しています! それではそんな彼の対戦相手にも入場していただきます!』

 

 青ゲートから現れたのは、脇に巨大な白い本を抱えた少女。日本人らしいその黒髪はロングボブに整えられ、その相好には微笑みが浮かんでいる。

 

『青ゲートから! 新生『暁学園』から《全智の魔女》月影栞選手の入場だァ!! 『暁学園』学園長にして、現在の内閣総理大臣・月影獏牙の娘! そして日本で二人目のAランク学生騎士! そしてそして! 魔力制御技術においては、連盟の観測史上初のランクS──即ち連盟の評価基準では測定不能という埒外の評価を叩き出した神童が! 今! リングに上がるゥ!!』

 

 実況のボルテージは最高潮。しかし観客の歓声は、加賀のそれと比較してあまりにも少ない。

 

 当然だ。小学生時代からこれまで全国に名を轟かせてきた加賀と比較して、月影栞という名前はあまりにも無名。

 そこにどれだけ実況が『Aランク騎士』だの魔力制御技術の巧みさを押し出したところで、響くものは何もない。

 

「すまんなぁ、お嬢ちゃん。ちょいとファンサービスをやりすぎてもうたべさ」

「いえ、構いませんよ。『暁』の悪名はこれでもかと轟いてしまったようですから。アウェイ戦になるのは仕方がありません。ですが……」

「ですが、なんだべ?」

「加我さんさえお許し頂けるなら、私も少し『意趣返し』をやってみたいと思いまして。構いませんか?」

 

 意趣返し。即ち加賀がリングを地面に埋めたパフォーマンスに匹敵する『何か』をやってみせたいと言う栞。

 それに加賀は、観客に向けた穏やかなものではなく獰猛な肉食獣のような笑みを浮かべる。

 

「がはは! 虫も殺せんようなめんこい子やと思うとったが、言いよるなぁ! おらは構わん! 好きにやってみせい! 審判さんも、それでえぇかな?」

「勿論です。……ですが月影選手。くれぐれも試合開始前の攻撃は控えていただきますよう、お願い致します」

「かしこまりました」

 

『暁学園』による破軍学園襲撃事件。

 それは学生間のみならず、プロの魔導騎士の耳にも概要は入っているらしい。釘を刺す審判員に栞は苦笑しながらも頷き、自身の霊装である純白の本《愚者の写本(タブラ・ラサ)》に魔力を通す。

 

「《愚者の夢見る英雄譚(エンヴィミック)》・《世界時計(ワールド・クロック)》新宮寺黒乃」

 

《愚者の写本》のページがひとりでに破れ、宙を舞い栞の手の中に収まる。

 その頁は白い輝きを放ち、次第に形を変えていく。

 

 光が収まった時に、彼女の手の中に握られていたのは──純白の拳銃。

 

「月影、選手……その銃は。いや、《霊装》は……!」

「《クロックバック》」

 

 審判員の声には耳を傾けず、栞は銃の引き金を引く。

 一発の銃声が響き、その弾丸はリングへと吸い込まれていき──その異変はすぐに起こった。

 

『こ、これは! 加賀選手が沈めたリングが、()()()()()()!』

 

 先程、加賀の四股によって大地に沈んだリング。

 それがゆっくりと、しかし確実に上に上がっている。それはまるで『時間を巻き戻す』ように。

 

 そしてリングはやがて停止する。丁度、加賀がリングを沈める前の位置で。

 

「どうでしょう? 加我さん。少しはびっくりしてくれましたか?」

「…………」

 

 互いに笑みを浮かべる栞と加賀。しかしその笑みはまるで別物。余裕から来る微笑みと、戦慄を己の内にひた隠そうとする笑みだ。

 

 そこでようやく栞が何をしたか理解が追いついたのだろう。実況が興奮冷めやらぬといった様子で叫ぶ。

 

『な、なんとぉ!! 月影選手! その手に持つ本から顕現させたのは、元KoK世界三位の日本が世界に誇る『最強』《世界時計》新宮寺黒乃の霊装《プロパトール》! そこから放たれた時間遡行の弾丸がリングに命中するや否や、加賀選手が四股を踏む前の状態まで戻してしまいましたァ!!』

『こ、これは尋常ではない能力ですね……。彼女の能力である《夢》は《模写》の亜種だという話を聞いていましたが……他者の霊装までも顕現させ、能力を行使するとは……』

 

 否、尋常ではないどころに収まる話ではないと飯田は思う。

 他者の霊装を顕現させ、その能力を行使する。それで収まってくれればまだいい方だと。

 

 あの月影栞の霊装《愚者の写本》

 あれが写し取ったのは本当に霊装や能力だけか? まさか……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

(なるほど。『暁学園』の切り札と呼ばれるわけだ)

 

 理論上、この世界に存在する全ての伐刀者の異能を行使可能。その上当人の技量をも再現可能である可能性、そしてそれを併用できるという可能性。

 

 考えればきりがない。まさしく《全智全能》といっていい、最上の能力。

 それが《全智の魔女》月影栞の力なのだと。

 

「……なるほどなぁ。末恐ろしいにも程があんべ。こりゃあ出し惜しみしとって勝てるような甘い子と違うみたいやね」

「お褒めに預かり光栄です。こちらも貴方ほどのお相手に加減などする気は毛頭ございません。是非加賀さんも、本気でかかってきてください」

「──あぁ。そうするべ」

 

 言うや否や、加賀は自身が纏う特注の制服を破り脱ぐ。

 その下から現れるのは、鍛え上げられた『力士』の肉体。

 

 一輝や紫苑の靭やな肉食獣さながらの細身ではない。大きなるよう、そして重くなるよう鍛え上げられた、全く対極のアプローチの下に完成された戦士の身体。

 

 彼の肉体を覆うのは相撲取りの象徴たる『廻し』──加我の霊装である《雷電》のみ。

 

「なるほど……貴方は伐刀者である前に、一人の『力士』なのですね」

「そうだべ。おらは気合を入れる時は褌一丁と決めとる。……本当はお前さんらのとこの王馬にくれてやるつもりやったんやが……使わせたこと、後悔させんでくれよ」

「勿論」

 

『両選手が改めて開始線上に並びました! そして今、審判が開始の宣言を──コールしましたァ!!』




北海道弁はエアプです
有識者の方求む

閑話で紫苑の修行エピは必要ですか(本編中でこんな事やった、というのは触れる予定)

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