──赤が、吹き出した。
斬首された加我恋司の切断面からいっそコミカルに思えるほどの勢いで赤が溢れ、純白を纏う栞を穢していく。
赤黒く染まっていく処女雪。にも関わらず、なお視線を惹きつけるのは生来の美貌ゆえか、はたまたそれを振るう絶技ゆえか。
どちゃり、と加我の巨体がリングに倒れ伏す。
溢れた血に倒れ込んだ水音が、やけに大きく響いたように思えた。⋯⋯その音で、堰を切ったように悲鳴が観客席に氾濫した。
『やった⋯⋯! やりやがったあの女⋯⋯!!』
『殺したの!? なにもそこまでやらなくたって!』
『な、なんという事でしょう! 《
この緊急事態に審判員は即座に試合の終了を宣言。
彼を蘇生すべく救護班を手配。それに先んじて破軍学園理事長・新宮寺黒乃が駆けつける。
「⋯⋯あら、お久しぶりです。新宮寺理事長」
「西園寺、貴様⋯⋯!」
あっけらかんと会釈をする栞に新宮寺は怒気を向ける。
至急、加我の蘇生を為さねばならない状況でなければ、銃を突き付けてもおかしくなかった。
当然だ。
彼女は自分の受け持つ破軍学園を壊滅させた実行犯。その中でも、七星剣舞祭出場予定者の大半に打撃を与えた怨敵。
加え、今回の戦いは騎士としての誇りもない上、明らかに過剰な暴力だ。
騎士としても、教師としても決して看過できない愚行。そして
そんな調子の新宮寺に「私も随分嫌われましたねぇ⋯⋯」と苦笑して、続ける。
「一応西園寺の方は偽名なのですけど」
「チッ、そのようなことはどうでもいい。早く加我を⋯⋯」
「⋯⋯? あぁ、彼の蘇生に来たのですものね。必要ありませんよ?
何を、とこの場にいる殆どの者の視線が加我の遺体に注がれる。
⋯⋯否、その表現は適切ではなかった。
なにせ切断された筈の彼の首は胴体と繋がり、出血どころか出血した跡も残さず、彼の鼓動は何事もなく脈打っていたのだから。
意識こそ失われているが、少なからず人体の知識に通じている新宮寺には分かる。
彼の身体をリング上から退かす必要はあるだろうが、自分や緊急蘇生の役目は失われたことを。
「《幻想結界》による現実改変。彼の死を『《夢》だった』ことにしました」
「⋯⋯貴様、最初からこのつもりで」
「当然でしょう? 蘇生の手段もない状態で、一時的とはいえ人を殺害するわけないじゃないですか」
再三言うが、栞は伐刀者ではあるが『戦士』ではない。
常在戦場を心得、如何なる場合でも敵の襲撃に対応できるだけの用意がある。手段として振るうことに欠片も躊躇はない。
だが月影栞という少女は、断じて力で物事を押し通すことを良しとしない。ましてや己の行いの結果で人が死亡するなど以ての外。一時的にであろうと激しい抵抗を覚える。
尤も王馬や紫苑からすれば『戦士への侮辱』となるのだろうが⋯⋯生憎と栞はそこまで戦いに染まれない。
では何故、今回は加我の首を斬り落とすという行為に出たのか。
「加我さんは武道のみならず、魔力制御技術も卓越した方です。その上人体の造詣にも明るく、四肢を切断する程度では何度でも『整形』し、こちら側に向かってくる恐れがありました。
⋯⋯腕を何度も切り落としたところで、彼の心を折ることは出来ない。あの気迫です。ただの『意地』だけで、《暴力による征服》を突破する可能性もありました」
『だから首を落とした⋯⋯そういう事でしょうか?』
「えぇ。真剣にやらないと決して勝てない相手だということは、重々承知していましたから」
純白の鎧と双翼の剣がほどけ、現れるのは夜色の袴を纏った栞だ。彼女は最後に、新宮寺に向き直り──
「⋯⋯貴方は『《七星剣舞祭》にかける情熱のないお前達に、私達の生徒は負けない』とでも思っているのかもしれません」
「────」
「けれど⋯⋯ありますよ。王馬さんにも、紫苑さんにも、そして私にも。今回の七星の頂を獲りに行く理由が。そのために⋯⋯私達は『全力』を尽くしている」
──私は必ず、この国を覆わんとする闇を討ち払う。
北斗七星の名を冠する魔導騎士育成学校、ひいては《連盟》に伐刀者教育を独占させられている現状を『闇』と形容し。
その状況を打破してみせると、彼女は確かな決意を滲ませリングの上から去っていった。
──私は必ずこの国に、この国が持つべき栄光と版図を取り戻す。
──私は必ず、この国を覆わんとする闇を討ち払う。
月影の名を負った父娘の言葉。その決意の重み。
彼らの言葉が卑劣極まる売国奴のそれではないという事は重々承知している。否、せざるを得なかったと言うべきか。
あれはただ己の利益のみを追求する者が発せるものではなかった。
『月影の野郎が何してるのかは知んねぇよ? ただ⋯⋯紫苑があっちについたってこたぁ、何の説明もしてないことはありえねぇ。そんでアイツらの最終目標には⋯⋯道理は通ってんだろうぜ』
そうでなければ紫苑を手懐けることなど到底不可能と、親友は断じた。
自らの生徒が己の意思で、自分達に反旗を翻した。
その理由は月影総理が無法を用いてまで強行する『脱連盟』その真の狙いにこそある。
その揺らぎようがない事実を前に、新宮寺はただ⋯⋯。
「この七星剣舞祭の裏で、一体何が起こっている⋯⋯?」
この綺羅びやかな祭典の裏で確かに起こっているであろう、『何か』に恐怖した。
所変わって、東京・破軍学園。
施設内に建設されている病棟の一室で、《雷切》東堂刀華は思い瞼を開けた。
「⋯⋯知らない天井だ」
いや、実際は知っている⋯⋯否、大体こんな感じなのだろうなというイメージそのままな、病院の天井が東堂の目の前には広がっていた。
ひとまず状況を確認しなければ、と身体を起こせば側にいた金髪の少女と灰色の髪をした小柄な少年──貴徳原カナタと禊泡沫が、病室に備え付けられているTVから視線を移し、
「刀華! 目が覚めたか、良かったぁ⋯⋯」
「《幻想形態》の後遺症でしたから、命に別状はない事は分かっていましたが⋯⋯安心しましたわ」
はぁ、と揃って安堵の溜息を吐き出す二人。
随分と心配させてしまっていたようだ。しかし東堂には病院に担ぎ込まれる理由も、二人にここまで心配させるような事にも心当たりがなかった。
カナタ曰く、自分は《幻想形態》による攻撃を受けた事で長期間昏睡状態に陥ったらしいが⋯⋯。
『さて、七星剣舞祭Dブロック第3試合、文曲学園《雷槌》足田井譲VS.国立暁学園《凶運》紫之宮天音選手の試合は、紫之宮選手の不戦勝となりました──』
テレビから流れてくる、この時期の風物詩と言って良い口調が、未だ寝ぼけていた刀華を殴り飛ばす。
『暁学園』を名乗る集団が自分達の学園を襲い、その中の一人である西園寺栞と交戦。彼女に敗れたことを。
「そっ、そうだ! あのあとどうなったの!? 黒鉄くん達はどうなったと!?」
「ゆ、揺するなって刀華! そんなでかい声出さなくてもちゃんと聞こえてるから……」
顔を真っ青にしながら、刀華は泡沫の、決して恵まれているとは言えない身体を揺さぶり、問う。
が、生粋の武人である彼女に揺さぶられながらでは、答えられるものも答えられない。
故に貴徳原がそれには返答する。彼女を和ませるように、小粋なジョーク──鉄板ネタともいう──も挟みながら、
「物凄く喜ばしい報せと、頭を抱えたくなる報せの二つがあるのですが、どちらをご所望で?」
「えぇ、なにそのふたつ……じゃあ嬉しい方からで」
「問題ありませんわ。黒鉄さんは怪我を負いましたが、無事に現場入りしています。葉隠さんの方は西京先生が駆けつけてきた事で、身体に別状はありません。ただ……」
「……。心の方が折れちゃった?」
「えぇ。その通りです。……ですので、私を含めた破軍学園の七星剣舞祭出場メンバーは、一人を除いてステラさんへ七星剣舞祭出場権を譲渡しました」
「…………じゃあ頭を抱えたくなる方は?」
恐る恐る刀華が貴徳原に問いかければ、泡沫から破軍学園の生徒手帳を見せられる。
そこに記されているのは、七星剣舞祭のトーナメント表だ。だがこれがなんだというのか。
「そこのDブロック第四試合のとこ、見てみ」
「え~、何々……『武曲学園三年』諸星雄大対『国立暁学園二年』百鬼紫苑……。うわぁ。百鬼くん、いきなり諸星くんと当たるのかぁ……運ないなぁ……」
しばしの硬直後、刀華は病み上がりとは思えないほどの声量で叫んだ。
「はぁ!? 暁ッ!?!? 百鬼くんが!?!?!?」
「うわうるさ……!!」
「良いノリツッコミでしたわね」
「いやいやいや! 二人ともなんでそう平然としてられるの!? あの西園寺さんと百鬼くんが『暁』に所属したんだよ!?」
「だから最初から言ってるじゃないですか。『頭を抱えたくなる』って」
否。頭を抱えたくなるどころの話ではない。
東堂の見立てでは『暁学園』全員が各校のエースを張れる逸材だが、その中でも飛び抜けている強者は《風の剣帝》黒鉄王馬と《全智の魔女》月影栞の二人。
そこに対抗できる戦力は、破軍学園では《無冠の剣王》黒鉄一輝と《黒鬼》百鬼紫苑の2人だけだと確信していた。
次点で《紅蓮の皇女》ステラ・ヴァーミリオンだが、彼らとは既に『格付け』が済んでしまっている。
暁学園に対抗しうる最有力候補、その片方が既に敵勢力に吸収されてしまっている。この事実は決して無視できない。
「まぁそこは僕達が今更足掻いたところでどうにもならないから、この辺でやめとくけど。でも最悪ってわけじゃない。さっきカナタが言っただろ? 『破軍学園の七星剣舞祭出場予定者は、一人を除いてステラちゃんに出場権を譲渡したって』」
「言ってたね。でもそれが何?」
「百鬼さんは自身の『破軍学園での七星剣舞祭出場権』を、珠雫さんに譲渡しました。⋯⋯まぁ正確に言えば、刀華ちゃんが七星剣舞祭出場申し込み締め切りまでに目を覚ませば、刀華ちゃんに譲渡するつもりだったようですけれど」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯なんで?」
刀華の頭は疑問と困惑で埋め尽くされる。
当然だ。
刀華が把握している限り、『暁学園』の目的は七星剣舞祭優勝のはず。であるならばその妨げになるものは少なければ少ないほどいい。
ましてや《深海の魔女》や《雷切》を指名し、己の出場権を譲渡するなど愚の骨頂といってよかった。
「その辺はわかんない。百鬼くんの事だから『誰が出てこようが全員纏めて斬ればいい』とでも考えてたのかもね」
「⋯⋯確かにそれはありそう」
「ひとまず我々からお伝えしたかったのは、この辺りのことですわ。
⋯⋯して、《雷切》として《七星剣王》対《黒鬼》の対戦カード。両者と刃を交えたことのある貴方はどう見ますか?」
「え〜⋯⋯そうだなぁ⋯⋯」
「五分五分⋯⋯ってところじゃないかな」
再び舞台は七星剣舞祭の会場、大阪湾岸ドームへと戻り。
同時刻、一輝は刀華と同じ疑問をステラから問いかけられていた。
余談だが、彼女はDブロック第二試合の終盤で一輝達に合流。
何故彼と珠雫らが仲良く暁の面々と座って観戦しているのか、紫苑が暁学園の生徒として参戦しているのかといった事は粗方一輝の口から説明されている。
同時に有栖院救出の顛末と、自分が連盟日本支部連盟委員会に捕らわれている間に様々な支援を栞から受けたことも。
⋯⋯それを聞いたステラは比喩表現が見つからないほどの複雑な表情──破軍学園襲撃の主犯である彼女に対する怒りと、最愛の恋人とその友人の未来を救ってくれたことに対する恩義が入り混じったものを浮かべていたが。
「五分五分なんですか?」
「うん。⋯⋯まぁ正確に言えば、5.5対4.5で百鬼くんが微妙に不利かな?」
「⋯⋯間合い、がその理由ですよね。黒鉄さん」
「流石月影さん。よくわかってる。彼らはお互いに『間合い』によって相手に優位に立つことが出来るんだ」
「⋯⋯⋯⋯?」
「待て、《無冠の剣王》その言葉は明らかな矛盾ではないか。互いに『間合い』で有利に立つなど、成立し得ない事柄であろう」
「確かにそう見えるよね。じゃあ順に確認していこうか。まずは武器同士の比較。百鬼くんの《亡華》と諸星さんの《虎王》。間合いに優れているのはどちらかな」
「《虎王》⋯⋯だったはず」
現《七星剣王》諸星雄大の霊装は槍型の《虎王》
言わずもがなであろうが、武装同士の間合いの有利は決して揺るがせない事実である。
懐に入られれば間合いの長い武器の方が不利になりえるが、そも踏み込ませず一方的に蹂躙できるのだから。
「その通り。でも百鬼くんは僕と違って、純粋な剣士ではなく魔導剣士だ。彼が振るう魔導剣術《瀧華一刀流繚乱勢法》には、間合いの外にいる敵を斬る技が存在する」
「……《鳳穿花》」
《瀧華一刀流繚乱勢法》──《倍化》の異能を組み込んだ魔導剣術。その絶技の一つである《鳳穿花》は間合いの《倍化》
それを瞬間的に発動する事で実現する不可視の刺突、あるいは斬撃。それは刀剣を扱う者にとっての天敵である、間合いの外にいる者を切り刻む。
一輝達剣士にとっては垂涎の代物だ。
自分達が普段どれだけ苦労して、間合いの不利を潰していると思うのか。
「とはいえ《鳳穿花》は魔力によって発生する事象。当然それは、諸星さんの能力《魔力破壊》によって無効化されてしまうけれど……諸星さんの能力そのものには攻撃力は全くない。彼の攻撃手段は全て槍術に集約される」
「だからモロボシとシオンは互いに武術で勝負することになる……そういうことね!」
「それでも槍による間合いの有利は残りますが……紫苑さんを槍の間合いに留め置くことは極めて困難である筈。一度でも剣が届く場所に諸星さんを捕らえたならば、死あるのみ」
珠雫は、そしてステラは百鬼紫苑という男の剣が如何に優れたるかを知っている。
彼の剣の間合い。そこは比喩表現抜きに死地だ。
そこに入り込むことが死因になりうる、刀神の領域。
事実、珠雫は魔術戦にて彼を封殺しようとしたが、一度間合いに捉えられればそこから逃げ出すこと能わず身体を斬られ。
ステラは果敢にも彼相手に剣術で勝負を挑んだが、その全てが敢え無く己の剣を強行突破され敗北している。
「間合いによる優位。魔術の無効化。その程度で突き崩せるほど脆いものはありませんよ。──次代『世界最強の剣士』の剣は」
まるで自分の事を言うように。否、それよりも遥かに誇らしげに栞は紫苑を評する。
それには万感の想いが込められており。それをステラは指摘しようとしたが、実況のアナウンスによって遮られる。
『さぁお待たせしました! これより七星剣舞祭Dブロック! そして本日の結びの一番を開始致します!』
溢れる歓声。それは観客席からだけではなく、その外からも響いてきていた。
なにせここは大阪。そこで名を馳せた、地元で最も人気のある漢が出場する戦いなのだから。
『まず赤ゲートから姿を見せたのは現在の《七星剣王》。
天才的かつ研鑽の果てに身に着けた超人的な槍術! 魔術を喰い千切るという、あらゆる伐刀者の天敵になりうる異能を以て、昨年度星の頂に立った西の雄!!
しかしその道程は順風満帆ではなかった。
六年前。小学生リーグ決勝戦トーナメントを目前に迫った不幸な事故。それによって彼は両足を欠損し騎士生命を絶たれてしまった⋯⋯。
だがッ!! この漢は帰ってきた!! 再起不能と言われた傷を克服しッ! 以前となんら遜色ない力を携えて!! この程度の地獄で俺は止められねぇ!! さぁ吼えろ!! この不撓不屈の漢の名を!!!』
『『『《諸星!! 雄大ィィッッッ!!!!』』』
『史上初の二連覇をかけ!! 西の虎がリングに降臨ンンッッッ!!!』
歓声が大地を揺らす。
今、日本でそして大阪で彼ほど人気を集める男は居ないだろう。
この大きすぎる期待を背負った彼は、
「シャアアアアアア!!!!」
その手に黄槍を顕現させ、天に突き上げる。
まるで『俺に任せておけ』とそう言わんばかりに。
その瞬間、再び会場の興奮は最高潮に至り、歓声が再び地を揺らした。
『⋯⋯かなり諸星選手に寄り添った口上でしたね、曽我部さん』
『す、すみません⋯⋯ちょっと気合い入っちゃって。でも彼を語る上では決して外せないものばかりだったので、ご容赦をば。⋯⋯そういえば彼が受けたという四肢再生手術ってどのような物だったんでしょうか』
『簡単に言えば、現存する肉体から細胞を取り出し欠損部位を再構築する手術です。この手術は僕も受けましたがね、実際に成功した例というのは数えるほどなんです。どうしてか分かりますか?』
『う〜ん? ちょっと思いつきませんね。どうしてなんです?』
『残った身体のほうがとんでもないことになるんですよ。作り出す部位の大きさにもよるんですが、四肢という身体の大部分を作り出そうとすれば重度の骨粗鬆症や命に関わるほどの筋力低下を引き起こします。
当然そんな状態でいるわけにはいきませんから、この手術を受けたものは可能な限り速やかに筋力をつける必要があります。それは自然と何百何千回の肉離れや骨折を起こしながら物になる。
⋯⋯僕はもういい大人ですがね。手術を受けて3日後には先生に「脚を下に戻してくれ」と懇願しましたよ。⋯⋯片足の僕でこのザマなんです。その倍の欠損部位を補う手術を受け、そのリハビリさえ乗り切った彼の決意はまさしく不撓不屈でしょうね』
『結局、飯田さんも諸星選手贔屓の解説してません?』
『申し訳ない。ですが彼の対戦相手だって、諸星選手に見合うだけの決意を備えた選手です。良い口上、期待してますよ?』
『全く調子いいんですから……』
歓声が落ち着き、観客席からは笑い声が漏れる。
やや盛り上がりすぎた観客席を適度に弛緩させた実況は、こほんと咳払いし続ける。
『さてさて失礼致しました。
それでは続いて青ゲートからやってくる選手を紹介致しましょう!』
盛り上がる観客席も、注目も。実況も解説の言葉も知ったことではないと。
悠然と白髪の男が歩いてくる。
『十年前。伐刀者の間で《三大美姫時代》と称される時がありました。元KoK世界三位《
三名の女性伐刀者が覇を競い合った時分。日本の伐刀者の中でも『黄金時代』と称されていたその三つ巴の戦いに、我々の胸は躍っていた。ですが……その時代は突如として終演を迎えてしまった。
大阪で起こった大規模な電車脱線事故。それに瀧華薫氏が巻き込まれた。彼女は意識不明の重体に陥り、今も彼女は病床で眠ったまま。我々の華は、枯れ落ちてしまった……』
先程の歓声はどこへやら。
会場は沈痛によって覆われた。それは彼女らの戦いを良く知り、そしてずっと追いかけ続けてきた者達が、そのまま次世代の戦いを観てきたからだ。
自分達はあのような形で、あの『黄金時代』が終わることは望んでいなかったと。
何より沈黙が雄弁に語る。
『だがッッ!!! あの華はまだ終わってはいなかった!!! 《瀧華》はッッ!! 決して枯れてはいなかった!!!
十年の時を超え!! 彼女の剣を!! 想いを!! その全てを継承した彼女の『弟』が!! 『黄金時代』の再来を告げてくれた!!』
会場の何処かで涙ぐむ声が、鼻をすする音が聞こえてくる。
『彼は連盟観測史上最低の魔力量を持って生まれてきた。世界最弱の伐刀者と呼ばれた。
──その全てに!! この漢は総て些事だと吐き捨てる!! 魔力が世界で一番少ない!? だからなんだ!! 剣の才能がない!? それがどうした!!? 己に宿る異能は《倍化》ではない!!? それがなんの問題になる!!?
嗚呼! 嗚呼!! その全部がくだらねぇッッ!!!!
ないない尽くしの己の身!! ならば全てを《努力》で覆せ!!! この程度の地獄で《瀧華》の大輪が咲き誇らぬ道理は、どこにもないッッッ!!!
運命よ、俺を! 俺達を! 止められると思うなよ!!!
国立暁学園《黒鬼》百鬼紫苑!!! 《瀧華一刀流繚乱勢法》その後継者が!!! 今、戦場に華開く──!!!』
『『『おおおおおおおおおおおお!!!!!!』』』
歓声が再び上がる。
それは諸星のそれには匹敵せずとも、確かにこの会場を揺らすに足るものだった。
他の『暁学園』出場者には決して伴わなかった歓声。
ならばこれはきっと、自身の姉を慕ってくれている者達の声なのだろうと紫苑は思考する。
同時に、なんて有り難いことなのだろうと。そう思った。
「……お前の弟が、ようやくここまで来たぞ。薫」
観客席。
自分達の生徒達を見下ろしながら、新宮寺はかつての好敵手の一人に思いを馳せる。
「──何故、直接応援してやらないんだ。一体……」
いつまで眠りこけているつもりなのかと、そう吐き捨てている間に、試合開始のゴングは鳴っていた。
三年前の記憶と齟齬があり過ぎたのでちまちまと技の名前とか、登場人物の関係性とかを修正していきたい所存です。
ひとまず黒乃と寧音、薫は互いに接点がありライバル同士だったという感じで行きます。
閑話で紫苑の修行エピは必要ですか(本編中でこんな事やった、というのは触れる予定)
-
いる
-
いらない
-
はよ本編仕上げろ