勇者になりたくない主人コウ~故郷への帰還を夢見て~   作:時斗

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第45話、投稿致します。


第45話:海賊のアジト

 

「………………遅い」

 

 ユイリ達が潜入して、もう一刻程経つが……、未だ彼女からは何の連絡も入ってこない。何度目かともしれない僕の呟きにレンが、

 

「落ち着けよ、コウ。お前、さっきから行ったり来たりとよ……。正直言って煩わしいぜ」

「だけどレン、君は気にならないのか!? いくら何でも遅すぎる。例えまだソフィさんの救出に目途がたたなかったとしても……、連絡ぐらいはあってもいいだろう!?」

 

 その言葉を受けて僕がレンに言い返す。……僕としても、あのユイリが不覚を取るとは思えないけれど、それでも……!

 

「……もう、あちらでは解放に向けての交渉は始まっている筈です。その前にどのような形であっても連絡が来なかった……というのは普通ではないかもしれませんね……」

「そうだよ……っ! その為に、最速でここに来て潜入している訳だろう!? それなのに交渉が始まっても連絡すらないというのは、本当に何かあったのかもしれない……!」

 

 シェリルが静かにそう告げると、ますます僕は自分の考える通り、不測の事態が起こったのではないかと心配になってくる。

 

「……だとしても、だ。ユイリが言ってただろ? 勝手に突入するな、と……。アイツは潜入のスペシャリストだ。何かあったとしても、自分で対処できる筈なんだよ」

「でも、今回はイレーナさんも連れている……! もし、彼女が不覚をとって、それを見捨てられると思う……!? 何かが起こっていたとして、今突入すれば何とかなるかもしれないのに……、このまま手をこまねいていたら手遅れになってしまう事だってあるだろ……っ!?」

 

 だんだん僕も冷静ではいられなくなってくる。……ユイリの事は信じている。信じているけれど、どうしても、もしかしたら……、と考えてしまう。

 

「逆に突入した事によって悲惨な事になる場合もあるんだよ。俺はそれを経験上わかってる。……シェリルさん、アンタもここで突入すべきだと思うか?」

「……ユイリの事が心配なのは確かです。ですけれど、レン様の仰る通り、もう少し様子を見た方がいいと思います」

「シェリル……」

 

 シェリルを僕の事をジッと見つめると、言い聞かせるように話しかけてきた。

 

「今のコウ様は冷静な状態ではありません。そんな状況で行動を起こしても、良い結果が生まれない事はおわかりになられている筈です。……レン様はそう仰っているのですよ」

「……冷静に判断しろ、か……」

 

 シェリルに言われて、僕は一度深呼吸すると心を落ち着けて考えてみる……。すると、ごちゃごちゃしていた頭の中がスーっと整理されていく……。

 ……確かにユイリ達からの連絡が未だ入ってこないのは普通ではない。何か問題が起こった事は確実だと思う。だけど、それがユイリ達が捕まったと考えるのは早計だ。

 

(となると……、連絡できない状況が海賊のアジトで起きた……。それが捕まった等の類ではないとすると……)

 

 ……この海賊のアジト内では、通信魔法といった、いわば携帯の電波が届かないような特殊な造りになっている可能性がある……。それであれば、ソフィさんがここに連れて来られた時点で『国民探知魔法(マイナンバー)』の反応が無くなった事も頷ける。

 

「それなら一度脱出するなりしてもよさそうなものだけど、それもしないって事は……」

「……師匠? どうしたんです?」

 

 心配そうに僕を見上げるアルフィーに、大丈夫だと伝えると、

 

「……シェリル、今の時点で『合流魔法(コンフルエンス)』は使えないんだよね?」

「はい……、ユイリの場所が特定できておりませんので……。彼女からの合図は、自分の位置を知らせるという意味合いもありますから……」

 

 ……そうか、ならばやっぱり一度……。僕はそう決意すると、

 

「……アジトに潜入しよう。冷静になって考えてみたけれど、それが一番いいと思う」

「あえてユイリからの申し付けを破るってか……。いいぜ、どうしてそう思ったのか、話してみろよ」

 

 僕の提案に否定する訳でなく、レンは続きを促してくる。本当は反対したい筈のレンが、それでも僕の考えを聞いてくれる事に感謝しつつ、

 

「ユイリ達が捕まったのでなかったとすると……、やはりアジトで何か起こっていると思うんだ。ユイリかイレーナさんのどちらかが動く事が出来ない状況なのか、それとも……ソフィさんのところまで辿り着いたものの、目を離せない状況とかね……。それにもし不覚をとって捕まっちゃったとしても……、それなら助けに行く為にやっぱり潜入すべきなんじゃないかな?」

「……それが、お前やシェリルさん、それに託されているアルフィーを危険に晒す事になったとしてもか……?」

 

 そのように言われて、グッと言葉に詰まりそうになるも、

 

「……僕たちの事は最大限に注意を払うさ。シェリルは勿論、アルフィーも……、ジーニス達も含めて無事に戻って来れる様にする……。でも、それは僕たちだけじゃない、レンだってそうだし、ユイリやイレーナさんだって同じことだ。何より……海賊たちに捕まっているソフィさんを助け出す事こそ、僕らがここにやって来た最大の目的だの筈だよ。だったら……ここで二の足を踏んでいる場合じゃない」

「…………そこまで言われちゃ反対出来ねえな、仕方ねえ……」

 

 レンはそう溜息をつきながらも、アジト潜入を了承してくれた。

 

「ごめん、レン……」

「ユイリの言葉じゃねえが……、お前の無茶振りには慣れてる。アイツは怒るだろうが……、それについては心配させんなって後で言ってやればいいさ。……俺だってユイリ達を心配してない訳じゃねえんだ。だが、これだけは言っとくぜ?」

 

 一度言葉を区切った後で、僕の方に向き直ると、

 

「前に挑んだ『泰然の遺跡』でも言ったが……、俺がこれ以上は無理だと判断したら、お前とシェリルさん、それにアルフィーは『離脱魔法(エスケープ)』で撤退しろ。天然のダンジョンである可能性が高いからな……、脱出は魔法でないと難しいかもしんねえ……。ジーニス達も同じだ。お前らも色んなダンジョンに挑んで経験も積んだようだが……、あの海賊共は『最期の刻(ダイイングメッセージ)』で見た限り、かなりの手練れなのはわかっただろ? ……命を落としかねないような無謀な事だけはすんじゃねえぞ?」

「……わかったよ。シェリル、確か『隠蔽魔法(バイディング)』も使えたよね? 一応できる限りの事はして潜入しよう。無理な戦闘は避けたいところだから……」

「わかりましたわ、コウ様。皆さまにもそれぞれお掛けしますね……。シウスやぴーちゃんにも……」

 

 そう言ってシェリルは『隠蔽魔法(バイディング)』をそれぞれに施していく……。その様子を眺めながら、

 

(……ユイリ、君には悪いけど……、僕たちは行くよ。無事でいるとは思うけど、君も膠着状態に陥っている筈だ……。だから、怒らないでくれよ……)

 

 そして無事でいてくれ……。僕は祈る様に呟きながら、シェリルが皆に魔法を掛け終わった事を確認し、アジトへと乗り込んでいった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まだ捕まんねえのか? さっきの2人は?」

「ああ、全く網に掛からなくなったな。……ここでは隠蔽(バイディング)も通用しねえってのに、一体どうなってんだか……」

 

 管制室ともいえるような場所にて、侵入した者たちを魔力スフィアモニターで探しながら、海賊の一人が答える。

 

「獣人の女の方は手傷を負っていた筈だぞ? それなのに何で見つかんないんだよ……っ! 折角の獲物で、しかも2人とも上玉だ……。あの歌姫さんはボスがいたくご執心の様子だから、俺たちには当分下りてこねえだろうが……、だからこそ逆にこちらで好き勝手出来るチャンスでもあるんだぜ!?」

「わーってるよ! ったく、そんならお前が見つけてみろよ……。システムにも洗わせてんのに、未だ反応がねえんだ。これ以上どうしろってんだよ……」

 

 アジト内に設置された疑似ダンジョンコアに干渉してシステムをフル回転させているのに、一向に女たちの足取りが掴めない。恐らくはまだアジトに潜入したままだとは思うが……、何処に隠れているのかは見当がつかなかった。

 

「かなりの手練れだな……。普通の連中じゃすぐに袋の鼠になるのによ……。ん? また侵入者か? 今度は結構人数も多いな、あの2人の仲間か?」

「そのようだが……、野郎ばかりか。女は2人しかいねえが……!? お、おい、このフードを被った女……っ!!」

 

 侵入者たちを確認していく過程で、ある一人の女に目が留まり、皆一様に言葉を失う。フード越しからもわかる、女の魅力……。そこから覗く容貌は、それだけで極上の美女であると有無を言わせず伝えてくると同時に、その場にいないのにも関わらずその雰囲気までも感ぜられる程。

 様々な種族の者たちを拉致し、何人も奴隷へと売り捌いてきた海賊たちであったが……、その美人を前に息を吞むしかなく、暫く沈黙が部屋を包み込んでいた。

 

「へへっ……、攫うしかねえな。歌姫さんを見た時は、もうこれ以上の上玉はお目に掛かれないだろうと思ったもんだが……、まさかすぐにこんな美女が見つかるなんてよ……!」

「お頭があの歌姫さんに夢中になってる今がチャンスだな。俺たちで奪っちまおう。それで他の連中には内緒で、例の部屋に監禁して愉しませて貰おうぜ……っ! もうあの2人は取り合えず置いとけ。全てのシステムをあいつらに切り替えろ!」

「……俺も行くか。俺たちだけで愉しみたいところだが……、それで逃がすような事になったら目も当てられねえ! お頭に伝えそうな奴を除いて、応援を募っとけよ。エテ公どもを嗾けるのも忘れんなっ!」

 

 下卑た笑みを浮かべつつ、そう言って部屋を出て行く海賊。欲望を滾らせながらシステムを操作して、新たに侵入した者たちへと集中させる。早く秘密の部屋へと繋いであの美女を……!

 そんな海賊たちの劣情がモニター越しに届いたのか、対象の女性がブルっと体を震わせるのを見てニヤリと顔をあわせると、その劣情を現実のものとする為に、確実に女を捕らえるべく行動を起こすのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――同時刻、大公令嬢引き渡しの交渉現場にて――

 

「だから、王女を速やかに渡せば人質は解放すると……」

「そんな事信じられる筈がないでしょう? せめて、ソフィ嬢の顔を見せて下さい。本当に無事なのですか?」

 

 こちらが本当に王女をこの場に連れてくるとは思わなかったのか、向こうは終始王女を渡せとしか言って来ずに交渉は難航していた。本来ならばすぐに交渉を打ち切り、要求を呑まなかったのは其方だとばかりに事を運ぶつもりだったのだろう。予想外の展開に、海賊共も随分と慌てているのかもしれない。

 

「……グラン隊長」

「……まだだよ。事を起こすのはユイリから連絡が入った後だ。もしくは……、向こうが強引に王女殿下を奪おうとしてきた時だね。その時までは、この場で待機だ」

 

 僕を伺う部下にそう言い聞かせる。わかりましたと言って持ち場に戻っていく部下より、再び視線をフローリア宰相たちの方に戻すと、

 

「人質ならこうして何人か見せてるだろ? コイツラが生きているんだ。一番大事な人質は無事に決まってんだろうが。現在の状態がわかるように『映像中継魔法(リアルタイム)』も見せてやってる! これ以上何を望むつもりだ!?」

「このふざけたオークション中継の事を言っているのですか? 此方はわざわざ交渉に臨む為に王女であるレイファニー殿下にこうしてお越し頂いたのですよ? ならばあなた方もせめてソフィ大公令嬢をこの場に連れてくる事が筋というものではないですか?」

「彼女をこの場に出して、汚い手を使って救出を目論んでいるかもしれないだろう!? 今だってテメエらの国の『英雄』ともされる部隊が詰めてんだ……。そんな状況で、大切な人質を簡単に連れて来れる訳ねえだろうがっ!」

「……汚い手を使ってソフィ嬢を捕らえたあなた方に言われる筋合いはありませんが。まして、ストレンベルクの王女を要求するという有り得ない要求をしてきたあなた方に応える為に、こうしてお越し頂いたレイファニー殿下を守る為にも、グラン隊長に来て頂くのは当然の事でしょう? あなた方が約束を守らず、一方的に王女殿下まで奪われるなんて事を許す訳にはいきませんしね……」

 

 そう話すフローリア宰相だったが……、そもそも王女殿下を海賊に……なんて事は普通有り得ない話だ。何処の世界に一国の王女を交渉で相手に渡すなんて話があるのか……と僕は苦笑してしまう。最も……、フローリア宰相の傍に居る王女殿下は、もしもの時の為にと国で用意している影武者である。影武者として必要な教育を叩きこまれた女性で、秘密裏に扱われている為に生半可な事ではバレる事はないだろうが……。

 

「ぐっ……、ひ、人質は間違いなくこの船に居るっ!これ以上無理を言うなら交渉は打ち切るぞっ!?」

「……あなた方は王女殿下が目的なのでしょう? ここに王女がいらっしゃるのに、交渉を打ち切るというのですか? そもそも……、私たちが求めている事はそんなに難しい事ですか? ソフィ嬢をこの場に連れてきて欲しいと言っているだけなのですよ?」

「黙れっ! お前ら、この状況がわかっていないのか? ……試しにここにいる人質を殺してやってもいいんだぜ? 確か、歌姫さんの侍女だったか……、いいのか? 俺達はやるといったら……本当に殺るぜ?」

 

 交渉についていた海賊が人質の女性にシミターを突き付ける。余計な事を喋らせない為に猿轡を噛まされていて、悲鳴は上げられないものの……死の恐怖に慄いていて、涙を流し続けているその姿に飛び出してしまいそうになるが……、ここはグッと我慢する。

 

 ……今は只管に時間を稼ぐ必要があるのだ。ソフィ嬢がここにいない事はわかっているし、それを奴らに悟らせる訳にはいかない。然るべき時が来るまで、この茶番劇を続けるしかないのだ。そこへ、今まで黙っていた王女殿下の影武者の女性が口を開く。

 

「……あなた方のお話はわかりました。ソフィ嬢をこの場に連れて来れない理由が(わたくし)たちを警戒してという事ならば、これ以上無理強いは致しませんわ。なら……、せめてそこにいらっしゃる人質を解放して頂く訳には参りませんか? 流石に(わたくし)がそちらに赴くのは、ソフィ嬢との引き換えにという事ですので、他の条件を示して下さいませ。身代金をと仰るのでしたら、ここに用意してきてあります」

 

 本物の王女と違わず、そのように語り掛ける彼女に、海賊たちは些か冷静になっていく……。『貨幣出納魔法(コインバンキング)』や『収納魔法(アイテムボックス)』にて、大量の大金貨や宝物庫の財宝を幾つかこの場に積んでいくのを見て、交渉に応じてもいいかなという雰囲気を醸し出していた。

 

(……彼女のお陰で、これでもう少し時が稼げる……。後は、ユイリ……頼んだよ)

 

 恐らくはアジト内に潜入しているであろうユイリに心の中でそう呼び掛けると、僕は再び海賊たちが暴挙に及ばないかを注意していく……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっ……、次から次へとっ!」

 

 海賊達のアジトへと足を踏み入れた瞬間、魔力の壁のようなもので退路を塞がれてしまうと共に、間髪入れずに猿のような魔物が僕たちに襲い掛かって来ていた。

 

 

 

 RACE:闇の類人猿(ダークラウー)

 Rank:40

 

 HP:211/230

 MP:19/19

 

 状態コンディション:普通

 

 

 

「……このっ、邪魔をするなっ!」

「ギャッ!? グゥ……」

 

 闇の類人猿(ダークラウー)と呼ばれているらしい魔物を吹き飛ばすも、すぐに他の魔物が襲ってくる。それを剣で受け止めるも、立て続けに攻めて来られては堪らない。休憩も出来ず一方的に攻め立てられて、ジリ貧になりつつあるこの状況を変えようと奥へと進んでいたが……、

 

「おらっ、この魔物がっ……!」

「ウキャッ!?」

 

 隣にいたジーニスが手にした鋼鉄製の長剣で横から援護してくれる。僕の前にいた闇の類人猿(ダークラウー)が倒れ伏すと、ジーニスが背中合わせにしながら話し掛けてきた。

 

「大丈夫かよ、コウ!? 気を抜くなよ!」

「あ、ああ……すまない、ジーニス。助かったよ……」

 

 そうしている間にまた新手の闇の類人猿(ダークラウー)達が現れ、僕たちに飛び掛かろうと隙を伺っているようだった。背後にいるジーニスと示し合わせると、それぞれ分担して魔物たちを相手取った。でも、この闇の類人猿(ダークラウー)ばかりに気を取られている訳にはいかない。何故ならば……、

 

「!? 向こうから敵が弓で狙ってきてるっ!」

「くっ、マジか……!」

 

 海賊の一員であろう男の殺気に魔法が反応し、ジーニスに注意を呼び掛ける。間髪入れずに飛んできたボウガンの矢をジーニスが斬り払い、なんとか事なきを得た。

 

 『敵性察知魔法(エネミースカウター)』……。『評定判断魔法(ステートスカウター)』を使い続けた事で新たに会得した魔法だ。評定判断魔法(ステートスカウター)のように詳しい情報までは掴めないが、敵意を察知して瞬時に伝えてくれる敵性察知魔法(それ)はさながらレーダーの役割を果たしてくれる。

 このアジトに乗り込む前に使用していたのだったが……、結果としてそれは大正解だった。

 

(……ここはどういう訳か、魔法が異常に使いづらいからな。言霊(ことだま)魔力素粒子(マナ)が上手く噛み合わないというか……。何て言ったらいいんだろう……)

 

 早く目的地に向かいたいのに、手足に重しをつけられて思ったように進めない……、そんなもどかしい感覚に似ている。さらには通信魔法(コンスポンデンス)等の連絡手段も遮断されてしまう構造となっているらしく、ユイリが連絡してこれなかった理由がわかると同時に、僕たちにとっても非常に不味い状況となってしまっていた。

 

「……大いなる神の御力にて、彼の者に蓄積されし疲労を癒し給え……『疲労快復の奇跡(デファティーグ)』!」

 

 そんな状況の中で、シェリルの詠唱が完成し、彼女から齎された神聖魔法が降り注いで、自身の疲れが和らげられていくのを感じる。続いて隣のジーニスにも魔法が掛かり、散漫になりつつあった彼の動きが見違えるようになっていた。

 若干このアジト内の影響によって、彼女にしては魔法の詠唱が何時もより遅れているのかもしれないが……、僕たちがこうして戦えているのは偏にシェリルのお陰であるのは言うまでもない。既に『全体加速魔法(アーリータイム)』や『全体堅牢魔法(ディフェンジングウォール)』、感覚を研ぎ澄まさせる『感覚強化魔法(シャープネス)』を掛けてくれている事に加え、今のように神聖魔法で回復してくれる彼女がいなければ、すぐに撤退を考えなければならなかっただろう……。そしてもう一人……、

 

「……偉大なる我らが神よ、祝福されし生命の風にて傷つきし者達を癒せ……『安らぎの奇跡(ヒールウインド)』!!」

 

 遅れてフォルナが『安らぎの奇跡(ヒールウインド)』を発動させ、僕やジーニス達が受けた傷を癒してくれる。……術者が仲間と認識した複数の者達を同時に癒す『安らぎの奇跡(ヒールウインド)』はかなり高等な神聖魔法と聞く。いわば『癒しの奇跡(ヒールウォーター)』を複数(マルチ)化そしたもので、それを使える程成長したフォルナもまた、戦線を維持させる事が出来ている証明でもある。

 

 尤も、成長したのはフォルナだけではない。ジーニスやウォートルも以前『泰然の遺跡』で一緒に探索した時とは比べようもないくらい成長している。Cランクの、今や新進気鋭の冒険者として注目されているようで、複数の冒険者やクランが参加したりする『共同依頼(ジョイントミッション)』等にも積極的に加わり、色々経験を積んでいる彼らは様々なクランから勧誘を受けているとサーシャさんから聞いていたっけ……。

 

「シェリルさん達に近付くんじゃないっ! はぁっ!!」

「グゥゥゥ……ッ! ガウッ!!」

 

 そんな声にふとそちらを伺うと、後方にいるシェリル達を守るような形でアルフィーとアサルトドッグのシウスもまた闇の類人猿(ダークラウー)と戦っていた。僕と模擬戦をした時と同じ、某国民的ゲームに出てくる『ドラゴンキラー』に似た形状の武器を腕にはめて、そこからアルフィー自身の魔力を具現化させた刃を駆使しての戦闘スタイル……。魔法に関してはここでは上手く使用できない事もあり、剣技のみではあるがしっかりと闇の類人猿(ダークラウー)と渡り合っている。

 そこにシウスも援護するように加わり、その爪で切り裂き、鋭い牙で闇の類人猿(ダークラウー)の喉元に噛み付いたりしている。何だかんだで上手くやっているアルフィー達にホッとしつつも、その先にいるレンの姿を捉えた。

 

「……邪魔な奴らめ、纏めて蹴散らしてやる……! 『撃墜剣(ブレイクダウン)』!!」

 

 裂帛の気合と共に振り下ろされたレンの剣に呼応するように、剣弾のようなものが闇の類人猿(ダークラウー)達に降り注ぎ……、それぞれに致命傷を与えていく。一瞬でかなりの魔物たちを葬っていくレンだったが、それでもゾロゾロと闇の類人猿(ダークラウー)達が奥から現れる。

 

「……やっぱり、ここはダンジョンなのか? だが、その割には出入口の封じ込め方は人為的なものをだったけど……。しかし、魔物達の出現率は、ここに住んでいるにしても腑に落ちない点が多いし……」

「おい、コウッ! 気を抜くんじゃ……って何だ!? 触手、だと!?」

「えっ!? しまっ……!」

 

 ジーニスの叫びにハッとした時には複数の触手が僕たちを目掛けて殺到してきていた。『敵性察知魔法(エネミースカウター)』に反応が無かった触手による攻撃に、思わず対処が遅れた僕の前にウォートルが割って入る。大盾を構えて立ち塞がり、自分の代わりに攻撃を受けてしまった。乱れ突きとでもいうように怒涛に押し寄せる触手を受け止めるウォートルに、僕とジーニスの声がハモる。

 

「「ウォートルッ!」」

「……大丈夫だ。全て『防御』した」

 

 僕とジーニスが慌てて駆け寄るも、何でもないとばかりに一言そう告げるウォートルにホッとするも、幾つか千切れた触手を見て、

 

(この触手、まるで生きているみたいだ……。でも、触手を伸ばしてきた生物みたいなものは見られない……。まさか、このアジト自体(・・・・・)から伸びてきているとでも言うのか!? それも意思みたいなもの持って……? そんな、馬鹿な……)

 

 それが本当だとしたら、このアジトそのものが生き物という事になる。考えついた信じられないような事実に驚いていたその時、

 

「きゃあっ!?」

「な、なに、コレ……っ!?」

「!? シェリルッ!?」

 

 聞き覚えのある声に振り返ると、複数の触手がシェリルとフォルナの方へと伸びてきていて、二人を拘束するように絡みついていた。急いで向かおうとするも、また闇の類人猿(ダークラウー)が塞ぐように湧いて出てくる。

 

「邪魔すんじゃねえ、このエテ公がっ! ……『鎌居達』!!」

「道を空けろっ!!」

 

 ジーニスに合わせて自分も『鎌居達』を放つ。『剣士』の職業(ジョブ)を鍛えている内に覚えた剣技であり、その2つのつむじ風のような鋭い刃が重なり合い、魔物たちを切り裂いてゆく……。ウォートルも『決死開通(デスぺレート・ラッシュ)』の能力(スキル)を用いて大盾で強引に道を切り開き……、彼女たちまでもう少しというところで、シェリルの身体に何やらロープ状のものが触手ごと巻き付いた。

 

「コウ様っ! ……ああっ!!」

「シェリル……ッ!!」

 

 シェリルに巻き付いていた物が鞭だとわかった時には彼女の身体が宙に舞い……、シェリルは抵抗することも出来ず、はるか後方の鞭を振るった海賊のところまで引き寄せられてしまった……。

 

「これは……『捕縛打ち』!? しかも、あんな後方から……っ!」

「くっ……! あいつ、シェリルを……っ!」

 

 何とかフォルナの下には辿り着き、彼女に巻き付いていた触手は斬り払うものの……、ジーニスの言った鞭の能力(スキル)らしいものでシェリルは海賊の手に……!

 

「っ……! コウさっ、んむぅ!!」

「おっと……へへ、捕まえたぜ。ほぅ、エルフだったか……、しかも、とびっきり極上の……! クククッ、コイツは愉しめそうだ……!」

 

 僕の名を呼ぼうとしたシェリルの口を塞ぎ、覆っていたフードを剥いでエルフである事を確認すると、鞭を手にした海賊の腕が彼女の腰にまわされ、そのまま強引に連れ去ろうとしていた。シェリルも抵抗していたが、両手の自由を奪われ、身体も浮かされる様に引きずられ少しずつ僕らから遠ざかってゆく……。

 

「くそっ……! シェリルさんを離せっ!!」

 

 シェリル達から引き離されていた元凶である闇の類人猿(ダークラウー)を倒し、自力で触手を解いたアルフィーが手にしたジャマダハルに念じると、その意思に従うかのように魔力の剣がシェリル達の下へと伸びていく……! シェリルを捕らえている海賊にあと少しまで迫るも、それを防ぐかのように触手が複数絡みつき……、目標を反らされてしまった。……やっぱり、アジト自体が意思を持っているか、若しくは操っている輩がいるのは間違いない。

 

 さらに追撃の手を繰り出そうとする僕たちに向かって、別の海賊が煙幕弾のようなものを投げつけてくる。辺り一面を煙が包み込み……、一気に視界が悪くなってしまった。

 

「っ! コイツら……っ!」

 

 それでも何とかシェリルの元に向かおうとするも……、新手の闇の類人猿(ダークラウー)達が道を阻む。奴らは匂いで僕たちを感知しているようで、この状況でも関係なく攻撃を繰り出してきた。

 それらを捌きながら早く蹴散らそうと剣を構えた僕に、『敵性察知魔法(エネミースカウター)』が反応する。何かが飛んでくるような気配を感じ、咄嗟に身を躱すと今まで身体のあった場所を矢のような物が吹き抜けてきた。

 

 

 

 RACE:ヒューマン

 JOB :海賊

 Rank:42

 

 HP:179/188

 MP:37/37

 

 状態コンディション:普通

 

 

 

 敵性察知魔法(エネミースカウター)の反応があったところを見ると、その手にボウガンのような物を手にした、先程とは別の海賊の姿を感知した。よくよく見てみると、至る所に身を隠した海賊が視界が悪い中でも僕たちを狙っているのがわかり……、

 

「アルフィー、それにレンも……! 気を付けろ!! 海賊が闇の類人猿(ダークラウー)達に紛れて僕らを狙って来ているっ!!」

「言われなくともわかってらぁ!! だが、急がねえとシェリルさんがやべえぞっ!?」

「ちくしょうっ! この視界じゃ……、狙いも定められない!!」

 

 フォルナはジーニス達に任せ、一人で多数を相手取っていたレンも戻って来たところで、一緒にシェリル救出に向かうものの……、闇の類人猿(ダークラウー)の相手をしながら海賊たちにも注意を払わなければならず、手間取っている内にシェリルが壁際まで移動させられてしまっていた。続々と海賊共がシェリルたちのところまで来ると、エレベーターのようなものが起動し上層へと運ばれていく……!

 

(このままじゃ不味い……っ! でも、どうすれば……? 自分に掛けている重力魔法(グラヴィティ)を解除したところで流石にあそこまでは飛べないし、何よりコイツらがさせてくれない……っ)

 

 だけど、今のままでは埒があかない。僕は自分に掛けていた重力魔法(グラヴィティ)を解くと、精霊であるシルフに呼び掛ける。魔法が使用できないこのアジト内では精霊とコンタクトをとる事も容易ではなかったが……、近くにいたシルフは僕の呼びかけに応えてくれた。

 

(コウ……わかってるよ、きみがたのみたいことは……)

「……頼む、シルフッ!!」

 

 シルフは僕の意を組んで、海賊の放った煙幕を吹き飛ばし、さらには風の結界のようなものを纏わせてくれる。視界が回復すると同時に……、これで海賊の飛び道具を気にしないですむ……。

 

(有難う、助かったよ!)

(……おやすいごようさ。……たのんだよ、コウ……。シェリルを、たすけてあげて……)

 

 シルフの加護を確認して、僕はミスリルソードを構えてシェリルのいたエレベーターのところに狙いを定めると、

 

「グギャ!?」

「ガッ、ギュワッ!!」

 

 僕は行く手を阻む闇の類人猿(ダークラウー)達を切りつけていきながら、神速ともいうべき速さで目標の場所まで矢のように駆け抜ける。その間にいくつもの矢のような物が僕に放たれるが、シルフによる風の加護によって、それは僕に当たる事なくあさっての方向へ飛んでいった。

 

「クッ……風の……障壁、だと!?」

「……そこだっ! ……全てを切り裂け……『風刃魔法(ウインドブレイド)』!!」

 

 僕に向かって矢を放った海賊たちを特定し、僕は古代魔法の風刃魔法(ウインドブレイド)を詠唱する。少し手間取ったが魔法が完成し、幾重にも纏った疾風の刃が海賊を襲う……!

 

「ガ八ッ!? ば、馬鹿な……っ」

 

 『風刃魔法(ウインドブレイド)』をまともに受けた海賊が、持っていた武器を落し膝をつく。他の海賊たちも僕の風刃魔法(ウインドブレイド)やレン、それにアルフィーにやられたようで、敵性察知魔法(エネミースカウター)で確認できた奴らは皆、倒れ伏しているようだった。後は……シェリルを連れて上層へと昇っていく奴らだけか……。

 

「それにしても目を付けた時から思っていたが……、コイツは過去最高レベルの上玉だな!」

「おまけにいいカラダしてやがるし……たまらねえなっ! 早く愉しませて貰おうぜ!! この機会を逃したら、こんな上玉、もう味わう事は出来ねえだろうしよ」

「ああ! どうせお頭はあの貴族の歌姫様にすっかりご執心のようだしな。隠し部屋で囲っちまえばバレねえだろう……!」

 

 シェリルの美貌に当てられた海賊共が舌なめずりするように口々に勝手な事を宣っているのが聞こえる。男の欲望に晒され、厭らしい視線を向けられているシェリルの声なき悲鳴が聞こえてくるようだった。その瞳は涙を浮かべながらも、助けを求める様に僕の方へと向けられていた。

 

「よし、着いたぜ。あとは隠し通路起動させてさっさと連れてくぞ。そうしたら、もう奴らにはどうすることも出来ねえしな」

 

 上層に着くと海賊たちは何やら隠し扉のようなものを起動させているようだった。不味い……、そこまで連れて行かれたら、簡単には追えなくなる……!

 

「んーっ! んんーっ!!」

「ぼら、もう諦めろって! 抵抗しても無駄だから大人しくついてこいっ!!」

「どれ、俺も手伝うぜ! へへっ……泪なんか浮かべやがって……興奮するじゃねえか……! 肌触りも申し分ねえし、部屋に着いたらたっぷりと可愛がってやるからな……!」

 

 別の海賊に両膝も抱えられ、抵抗も出来なくなったシェリルはなす術もなく開いていく扉のところまで運ばれてゆく……。もうほとんど猶予もないのに、あそこまで助けに行く手段も無い……! 下手に魔法を使ったらシェリルを巻き込んでしまうし、そもそも詠唱が間に合うかどうかも……。

 眼を瞑り、溢れた涙と共に必死に首を振りながら、口を塞ぐ海賊の手から何とか逃れようともがくシェリルを嘲笑うかのように、開かれた扉の奥まで連れていかれるのを、ただ見ている事しか出来なかった……。シェリルを連れ込み、身柄を確保したのを確認し海賊が扉を閉めようと操作したその時、

 

「ピィッ!!」

「うわっ、なんだ!?」

 

 ぴーちゃんがシェリルの両足を抱えた海賊の顔に飛び込むように体当たりするのが見えた。堪らずその海賊はシェリルを離し、目をこするようにして蹲る。

 

「な、何だ、コイツは!? ぐわっ!?」

 

 続けて混乱する海賊の顔にやはり飛び込むと、シェリルを拘束していた鞭を落し、顔を抑えているようだった。

 

「ッ!!」

「しまった!! 女を逃がすなっ!!」

 

 自分を拘束していた海賊たちの手を逃れ、シェリルが閉じられようとしていた扉から抜け出すと、残りの海賊たちもすぐに追ってくる。そこに……、

 

「グルルッ!!」

「なっ!? ア、アサルトドッグだと……!?」

 

 先程まで僕と一緒に闇の類人猿(ダークラウー)と戦っていたシウスが、壁伝いに上層まで駆け上がったのか、シェリルを追おうとしていた海賊に飛び掛かる。さらには2人の海賊を奇襲したぴーちゃんも飛び回りながらもシウスを援護する形で交戦していた。

 

「コウ様っ!!」

「シェリルッ!!」

 

 自分の身体に巻き付かれていた鞭を取り払いながら、自身をここまで運んだエレベーターのところまで駆け出してきて、下にいる僕に向かって叫ぶ。僕もシェリルに応えていると、その後ろから再び鞭がシェリルの左腕に巻き付かれたのが見えた。その鞭の主は……シェリルを捕え……ぴーちゃんに襲撃を受けた海賊。

 

「……アンタは逃がさねえぜ。あの糞鳥……舐めた真似しやがって。後で焼き鳥にしてやるが……まずはアンタだ……」

「ッ……シルフ!!」

 

 シェリルがそう叫ぶと彼女に絡みついた鞭が風の刃によって切断させる。捕まっていた時からシルフとコンタクトを取っていたのだろう。精霊魔法を使用する為の最後の引き金(トリガー)として精霊の名前を呼ぶと同時にシルフがシェリルの意に応えた形となった。再び彼女を引き寄せようとしていた海賊は軽く舌打ちしながら、

 

「チッ……だが、どうする? エレベーターは俺たちじゃなきゃ操作できねえ。ここまでは仲間も来れねえし、あのアサルトドッグも直に片付ける……。アンタが逃げられねえのは変わりはねえぞ……?」

「……」

 

 するとシェリルは海賊から視線を外し、僕の方を見る。ま、まさか……シェリル……!?

 

「余所見をするとは余裕だな!!」

 

 新たな鞭を手にした海賊がシェリルの身体に巻き付くのも構わず、シェリルは引き寄せられる前になんと、そこから飛び降りてしまう。

 

「なっ!? 馬鹿な……! この高さだぞっ!? 正気か!?」

「コウ様っ!!」

 

 海賊は引きずられる前に鞭を手放し、シェリルは僕の名を叫ぶ。僕は衝撃に備えるつもりでで反射的に彼女を受け止められるところまで跳躍した。飛び込んでくるシェリルを空中で受け止め、彼女を抱きかかえると落下時の衝撃に覚悟する……!

 

「グッ……!」

「コウ様……大丈夫ですか? ……助けて頂き、有難う御座いました」

 

 ジーンとくる衝撃に耐えている僕にシェリルは心配そうにしながら、控えめにそっと腕をのばして僕に掴まってくる。

 

「全く……僕が受け止められなかったらどうするつもりだったんだよ……」

「わたくしは信じておりましたから……。ちゃんと受け止めて頂けると……」

 

 海賊たちから逃れるにはそれしか方法がなかったとはいえ……10m以上の高さから飛び降りるのは並大抵の覚悟じゃ出来ない。その腕には巻き付けられた鞭の跡も残っていた。僕はお姫様抱っこの状態からシェリルを地面に下ろすと、跡になっている部分に触れようとして、何かが迫ってきているのを感じた。

 すぐさまシェリルを背に庇い、ミスリルソードを抜きはらって、迫ってきた鞭を斬り払う! 見ると上層にいた海賊が性懲りもせずシェリルに向けて先程の鞭を飛ばしてきたようだ。よくここまで鞭が届くもんだという思いよりも、またシェリルを狙ったという怒りを覚える。

 

「チィッ!! 逃がしてたまるもんかよっ!! あんな上玉を……っ!」

「……人に宿りし秘められた力よ、その力を持って我が敵を撃て! ……『掃射魔法(エネルギーショック)』!!」

 

 せめてもの抵抗とばかりに、閉まっていく扉にぶつけようと唱えていた僕の魔法を完成させると、掌から凝縮されたエネルギーの塊がシェリルを狙っていた盗賊へと一直線に向かっていき……!

 

「ぎゃっ!!」

「おい、犬っころ! そこから離れろっ!! ……『無双連舞魔法(ウェポンミラージュ)』!!」

 

 僕の魔法が海賊を貫きショックで蹲る中、追いついてきたレンがやはり詠唱していたのだろう魔法を止めとばかりに発動させた。レンの言葉に従いシウスが駆け下りてくると同時に、あらゆる斬撃、刺突、打撃等が海賊たちを襲っていた。……魔法が止んだ時には、敵性察知魔法(エネミースカウター)で確認する限り皆瀕死の状態で……、全て蹲るか倒れ伏していた。

 

「……コウ様っ!」

「無事助けられて良かったよ……。敵は君が狙いみたいだったから……」

 

 新たな闇の類人猿(ダークラウー)の増援もなく、漸く一段落したところで……、シェリルが僕に抱き着いてきた。ぴーちゃんが僕らの周りを嬉しそうに飛びまわり、シウスもこちらまでやって来る。

 ……間断なく攻め立ててきたのは、シェリルから僕たちを離そうとしていたのだろう。そして、離れたところで触手で絡めとり……、捕えるつもりだったのだ。それにまんまと嵌まってしまったが、一先ず敵の思惑を跳ねのける事は出来た。でも……、

 

「まだ気を抜くのは早えぜ……。ここはまだ、奴らの陣地内なんだ。いつまた敵がくるかもわからねえ……」

「……そうだね。シェリル、僕から離れないで……!」

 

 レンの言葉に頷き、そうシェリルに呼び掛けると、わかりましたとばかりに僕の腕をとって体を密着させてきた。一瞬ドキっとするも……、今はそんな事を気にしている場合ではない。

 

「いちゃつくのはその辺にして……早くユイリと合流しようぜ。あまり時間もねえんだ」

「……ごめん、待たせたね、みんな……」

 

 僕らを見ながら少し呆れたように話すレンに苦笑しながらも、待ってくれていたジーニス達にお礼を言って、ユイリと合流すべくアジトの奥へと進むのだった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……あれから敵の動きがねえな。恐らくは管制塔みてえなところからこっちの動きを把握していそうなもんだが……、もしかして泳がされてんのか……?)

 

 大分奥までやって来たとは思うが……、あれからは海賊はおろか、闇の類人猿(ダークラウー)も現れなくなる。あの触手さえ飛ばしてこない事を見ると、流石に変だと俺は思っていた。

 

(恐らくここは疑似ダンジョンコアによって、ダンジョンの様なシステムを構築した場所の筈だ……。だからダンジョン(・・・・・)の意思(・・・)で俺たちを攻撃してくる事はねえ……。だが、それを操る奴らも沈黙するってのはどういう訳なんだ……? クソ、考えたところで俺にはわからねえ……!)

 

 そもそも、そんな難しい事を考えるのはいつも他の仲間に任せていたのだ。『獅子の黎明』に所属していた時も、『王宮の饗宴(ロイヤルガーデン)』に入った時も……。せいぜい、俺が考え決める事があるとすれば……、

 

「今のところ順調に進んでいるが……、どうすんだ、コウ? このままユイリと合流するまで、ソフィさんを救出するまでここを探索するつもりなのか?」

「……レン?」

 

 ……そう、俺がリーダーの時に決めていたのは、現状を正確に認識し……、今後を判断する事だ。

 

「この場でのリーダーはあくまでお前だ、コウ。俺がお前の立場だったら……、撤退する事を考える。……ここは想像以上に厄介なところだ。魔法は上手く使えねえし、連絡を取り合う手段もねえ……。先程の様に魔物どもや海賊、おまけにアジト自身にも触手でもって絶え間なく攻撃されて、何とかシェリルさんやフォルナのサポートでやって来れたが……、そのシェリルさんだって奴らに目を付けられて狙われてるときた。さっきは辛うじて何とか切り抜けたがよ……、今度同じ事が起こっても無事でいられると断言できるか?」

「それは……、でもっ!」

 

 いきなり撤退する事を提案されても、こいつはすぐには受け入れられないだろう。そもそも連絡の途絶えたユイリを心配して、アジトへの突入を決めたくらいだ。そして一番の目的は、海賊共に囚われたソフィさんを救出する事……。その目的を果たせずして、撤退するのは抵抗もあるんだろう。だが……、

 

「……奴らの様子からも、ユイリ達が捕まったという感じはしなかった。アイツの事だ……、多分何処かに上手く潜り込んでいるんだろ。もしかしたら、既にソフィさんの捕まっている場所を特定して、救出すべく張り込んでいるのかもしれねえ……。だが、今ここでシェリルさんまで捕えられたらどうなる? おまけに海賊共はボスにすら内緒で彼女を囲おうとしやがった……。もしもシェリルさんが連れ去られていたら……、ソフィさんを助け出すだけでは済まなくなっていたところだっ!」

「……っ!」

 

 言葉が詰まるコウの後ろで、先程の事を思い出したのか息を吞むシェリルさん。……俺一人なら何とかなるだろうが、流石に誰かを守りながらとなったら厳しいと俺は思っている。コウだってわかっている筈だ。運が悪ければ、シェリルさんは奴らの手に落ちていたかもしれない……。いくらコウやジーニス達が強くなってきたといっても、地の利は明らかに海賊共にある。……ここから脱出した方がいい。

 

「ユイリ達が心配なら俺に任せておけ。俺一人なら何とでもなる」

「だけど……、出入口は塞がれたんだよ? レンは『離脱魔法(エスケープ)』を使えるの!?」

「それと同じ効果のある『帰還の巻物(スクロール)』を持っているから大丈夫だ。冒険者の時に使っていた奴の残りだがな。だから、シェリルさんの『離脱魔法(エスケープ)』でここから脱出しろ、コウッ!」

「コウ様……」

 

 シェリルさんも不安そうにコウを見上げる。アルフィーやジーニス達もコウがどのような決断を下すのか見守っていた。……コウもわかっている。シェリルさんを脱出させる事が最善であるという事は……。だけど、彼女はコウが残るのに自分を脱出させられるのは拒むだろう。従って……、コウとシェリルさんがこのアジトから脱出する必要がある。

 

「……お前が一度決めたら折れねえ奴ってのはわかってる。ユイリが心配で、ちゃんと自分で無事を確かめなければ気が済まねえって考えてんのもな……。だが、それを押し通すにはリスクがでけえって事もわかってる筈だ。……ここは大人しく退いとけ。後は……俺に任せろ……」

「レン……。僕は……」

 

 意を決したように俺を見返すコウが口を開こうとした瞬間、シェリルさんの足元の周りだけ地面が消えたのだ……!

 

「きゃっ……!」

「シェリルッ!!」

 

 突如できた落とし穴に吸い込まれそうになる彼女を咄嗟に掴むコウだったが、シェリルさんに引きずられる形でコウもその穴に……!

 

「くっ……!」

「コウッ! シェリルさん!」

 

 コウはシェリルさんの腰を引き寄せ抱えると共に、片手で何とか地面を掴み、落下を防いでいた。慌ててジーニスやアルフィーが駆け寄り、コウの腕を掴む。

 

「……シェリル、ちゃんと抱えているから君はレンに手を伸ばせっ! レンッ、頼むっ!!」

「ああ、任せろっ!!」

 

 コウの言葉に従い、手を伸ばす彼女の腕を取り、そのまま穴から引き上げる事に成功する。後はコウも引き上げればと思ったところで、

 

「……レン、僕はこのまま穴に落ちる。恐らくはシェリルを落とそうとした元凶の下に辿り着くはずだ。ユイリやソフィさんも、この先にいるのかもしれない……」

「……はっ!? お前、何を言って……」

 

 一瞬、コウが何を言っているのか理解できずにいると、さらに言葉を続ける。

 

「……下にどんな仕掛けがあったとしても、状態異常に罹る事のない僕だったら対処できる筈だ。こうなった以上、僕がユイリ達と合流してソフィさんを助ける。……レンはシェリル達を連れてここから脱出してくれ。必ず、戻るから……!」

「コウ様っ!? 一体何を仰っているのですっ!? そんな事……っ!」

「そ、そうですよ、師匠! いくら何でも無茶だ……!」

 

 シェリルさん達が思いとどまるよう説得しようとする中で、コウは俺の方をジッと見つめる。

 

「……レン、シェリルを……、後を頼む……っ!」

「お前……っ!」

 

 最後にそう伝えると、コウはジーニス達の手を振り払い、一人落とし穴に落ちていった……。突然の出来事に皆呆然とする中で、その落とし穴に自ら身を投げようとする人影に気付き、

 

「! ……シェリルさん、駄目だっ!」

「離してっ! 離して下さいっ! コウ様が、コウ様が……っ!」

「落ち着いてくれ、シェリルさんっ! このまま追ったらアイツの思いが台無しになっちまう!」

 

 慌てて俺は半泣きになりながらコウを追おうとするシェリルさんの腕を取り、自身に引き戻す。アイツに任された以上、彼女を危険な目にあわす訳にはいかない。取り乱したようにシェリルさんは涙目で俺に振り返ると、

 

「ですが……っ! もしあの人の身に何かあったら……っ!」

「アイツを信じるしかねえだろっ! アンタまで穴に落ちたら敵の思う壺だ。もっと最悪の状況になっちまう。コウも言っていたが……、アイツは状態異常には掛からねえ。少なくとも五分の状態で海賊共と戦える事が出来る!」

 

 彼女を諭すように言い聞かせながら、その美しい瞳を見据える。

 

「それに……、今のアイツはそうそう後れを取らねえ筈だ。なんたって俺とも互角に戦えるようになってきた。……それに、アイツの言ってた通り、潜伏しているだろうユイリとも合流できれば何とかなる」

「ですがっ、ですが……っ!」

 

 それでも諦めきれない様子のシェリルさんを説得する為、俺はちょっときつめに、

 

「……惚れた男の事が信じられねえかっ!? アイツが、約束を破って死ぬような奴だと、アンタはそう思ってんのか!? 俺はコウを信じる! だからアイツが願う通り、シェリルさんを安全なところまで連れて行く……。シェリルさん、アンタはどうなんだ? 戻ってくると言ったアイツのを、待つ事は出来ねえか……?」

「…………わかり、ました……。あの方の言葉を……信じ、ます……。わたくしが……、コウ様を信じないなど、そんな事……っ!」

 

 力を抜き、消え入りそうな声でそう呟いたシェリルさんを見て、俺は漸く彼女をフォルナに託す。フォルナがシェリルさんを慰めているところにアルフィー達も、

 

「……大丈夫ですよ、シェリルさん。師匠は強いですから。きっと、ソフィさんも助けて戻ってきますよっ!」

「ああ、アイツがやられる筈がねえっすよ! なんたって俺のライバルだ! ここまでも、アイツは不覚を取らなかった。ここのボスだろうがなんだろうが……、何時ものように切り抜けますよ! ましてそこにユイリさんも加わったら鬼に金棒だっ!」

 

「よし……、じゃあ一度撤退する。いつまた罠が起動するかもわからねえ……。シェリルさん、頼む」

「……はい、わかりましたわ……」

 

 こうして彼女は離脱魔法(エスケープ)を詠唱し始める。何時もより詠唱に時間が掛かる分は皆で最大限警戒しつつも、俺はボスの元に向かったであろうコウに心の中で呼び掛けた。

 

(シェリルさんの事は任せろ。お前の代わりにしっかりと守る。だから……、お前はちゃんと戻って来いよ。約束を破りやがったら……タダじゃおかねえ!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ、女は上手く逃れたか……。余計な手間を掛けさせやがって……!」

 

 舌打ちしながらそう呟くのを、私たちは天井裏で息を殺して聞いていた。……ここでは隠蔽工作(バイディング)が無効となるらしく、すぐに潜入を察知されてしまったが……、何とかソフィのいる海賊たちの船長と思わしき部屋に辿り着く事ができたのだったが……。

 

(……シェリル様が落とされなかった事は僥倖だったけど、それでも貴方が代わりに落ちる事もないでしょうに……!)

 

 そもそも勝手にアジトに潜入しない様にと釘を指してきたのに……と思わなくもなかったが、連絡できず心配させてしまったからだと考えると、彼らの事を責められなくもある。

 

 ……現在、私たちが敵の探索システムに察知されずに済んでいるのは、隠蔽(バイディング)の上位の能力(スキル)である私の固有技、『断絶』のお陰だ。『断絶』はどんな探査能力でも引っかかる事はなく、そこに居ない(・・・・・・)事とされる(・・・・・)という特性を持っている。ただ、これを展開していると行動できなくなってしまうというリスクはあるが……。

 

「下に敷き詰めていたスライム共は避けておくか。これでくたばってくれたら手間も掛からねえんだが……、全くどいつもこいつも……! 本当に使えねえっ! 何人かは俺に黙って女を囲おうとしてやがったようだし、交渉現場の方でも一体何をやっていやがるんだか……。予定ではさっさと切り上げるって話だっただろうが……! まぁ、王女が現場に現れたっつうのは予想外だったし、城に向かった筈の魔族と部下共も連絡を寄こさねえから仕方ねえところもあるとはいえ……」

 

 ……やはり城も攻めるつもりだったのね。コウの言っていた通り、か……。聞こえてきた声に、彼の見立て通りだった事に感心する。

 

 現状は手傷を負ったイレーナもいる為、そう簡単には動けない。外に伝えようと思っても『通信魔法(コンスポンデンス)』の類は使う事が出来ず、手を拱いていたというのが実情だ。『影写し』で私の分身を出て行かせる事も考えたが、思った以上に海賊たちの力が強く、無事に脱出できる保証がなかった為、実行には移せていない。

 かといって、この場から離れる事はソフィの置かれた状況を見るに出来なかった。いつ、あの海賊のボスがソフィに手を出すとも限らないのだ。もしもの時はリスクを冒してでも彼女の救出を決行するつもりでいる。

 

 そして、連絡がない事に業を煮やしたのであろうコウ達もアジトの中に侵入してしまった。さらに恐れていた通り、シェリル姫も海賊の目に留まってしまったようで……、コウが彼女を助けられなければ状況は今以上に悪化していただろう。

 

「全くむしゃくしゃするぜ……、ここは歌姫さんにこの鬱憤を晴らさせて貰うとするかな……」

 

 ニヤッと笑ってボスの男がソフィの拘束されている寝台にまでやってくる……。そして……、

 

「むぅっ!! ううんっ!!」

「へへっ……いいおっぱいだぜ。さっき測らせたところによると、確か100センチを超えてるんだったか? さぞかし貴族様らしく羨ましい生活を送っていらっしゃった賜物なのかねぇ……。ま、今後のアンタの人生はもう俺たちのもんだ。オークションも終わったようだが、凄いぜ? アンタの初めて(・・・)はなんと、大金貨300枚以上の値がついた。性奴隷としてなら3000枚出してでも欲しいという奴もいた。あの大人気歌姫様の、それもこんな立派なカラダを好き放題できるって事がそれだけの価値を見い出してんだろうな。どっちにしても、俺たちとしては有難い話だ」

 

 そう言ってソフィの胸を揉みしだく海賊のボス。

 

「だけどアンタを売り飛ばすのは勿体ねえな……。処女だって俺が奪いたいくらいだぜ。おっと、何時までも猿轡させて悪かったな。もう自死する力も入らねえだろうし、その可愛い喘ぎ声を聞かせてくれよ?」

「――はぁっ! ……っ、もう、止めて下さっ、あぁっ!! ……くぅ……」

 

 ソフィの反応に気を良くした男は、嗜虐的な笑みを浮かべつつ彼女の体をまさぐり、その蛮行を続ける……。今すぐにでもあのケダモノの首を掻っ切りたい衝動に駆られそうになるのを必死に抑えるが、

 

「どのみちカラダの具合は色々確かめなきゃならねえんだ。折角だし、アンタも愉しみなよ……!」

「いやあっ……、やめ、てぇ……っ!」

 

 もうこれ以上は……! 取り返しのつかない事になる前に突入する覚悟を決めてイレーナと頷きあったその時……、ドシンと何かが落ちてきたような大きな衝撃音が轟いた……!

 

「痛ぅ~~っ!! 何だ何だ!? 落とし穴に落とすんだったら、普通クッションみたいな緩衝材を敷き詰めておくだろ!? 仮にもシェリルを落とそうとしたんだったら……、いや、代わりに落ちたのが僕だったからこうしたってのか……」

 

 …………今の声は、彼の……! 私とイレーナは思わず顔を見合わせる。続けて彼のぼやく様な声が聞こえてきた。

 

「ああ、この端に固まっているスライムみたいなヤツで本来受け止めるつもりだったのかな……? まあいいや、さっさとこの扉みたいなヤツを……、ん? 何? 邪魔する気?」

「……落ちたくらいでは死ななかったか。全く、いいところで邪魔をしやがって……」

 

 舌打ちしながらソフィから離れ、コウの声がした部屋の入口へ向かっていくと……、なんとその扉が突然蹴破られたのだ……!

 

「っ……何のつもりだ、貴様……!」

「スライムみたいのが何やら襲い掛かってこようとしてたから、入り口毎吹き飛ばしただけさ。……お前がここの海賊共の船長か? 本当に好き勝手にやってくれたね……」

 

 やっぱり、コウだ……! でも、何時もの彼と違ってどこか……、怒気、というよりも殺気を纏っている……? そんな彼の姿を見たのは初めての事で、少し戸惑っていると、

 

「……自分が何をやったのかわかっていねえようだから、特別にもう一度聞いてやる……。一体何のつもりだ? こんな真似をして、ただで済むと思っているのか……?」

「最近、自分の欲望に忠実な奴がふざけた事ばかりしているからさ……。本当にウンザリしているんだよね……。ああ、勿論わかってるよ? そっちこそ、シェリルにまで手を出そうだなんて舐めた真似をして……、覚悟は出来ているんだろうな……!」

 

 海賊の殺気にも怯む事無く、むしろ前面に怒りを押し出すと、ベッドに拘束されたソフィに目を遣り、コウは静かに告げる……。

 

「……そこにいる女性(ヒト)を返して貰うぞ。この下衆野郎が……っ!」

「貴様ぁ……、自分が何を言っているのかわかってんのか……っ!? 雑魚の分際でこのジェイク様に敵うと……何っ!?」

 

 ジェイクと名乗った男がコウに気を取られている隙に、私とイレーナはそこから降りるとすぐにソフィの解放に向かう。そして、サッと縛めを解き放つと、イレーナに彼女を任せ、コウを援護しようと海賊の男越しに彼と目が合うと、

 

「ユイリ、やっぱり無事だったんだね……、よかった……」

「全く、私が合図するまで突入しない様にと言っていたのに……。シェリル様に何かがあったらどうするつもりだったのよ」

「…………ここまで俺をコケにする奴らは初めてだぜ。覚悟は出来ているんだろうな……貴様ら……!」

 

 私たちを遮る様に、海賊は会話に割り込んでくる。……この男? ソフィを取り返されたというのに……、焦っていない? それに、様子を伺っている時よりわかっていたけど……、流石にボスというだけあるわね……。

 

「……コウ、わかっていると思うけど……」

「ああ、わかってるよ……。奴は強いね、とても……」

「……それがわかっていて、とる態度がそれか……。俺も舐められたもんだな……」

 

 そう言うと、自分の武器なのだろう三日月刀(シミター)を静かに抜き放つ……。それもただの三日月刀(シミター)ではない……。あの刀剣の輝き、あれは恐らく魔力付与(エンチャント)された魔法の剣だ……!

 しかも……、三日月刀(シミター)を持つ逆の腕は義手だったようで、手の部分を取り外すと鉤爪のようなものが音を立てて出てきた……! そうして戦闘態勢を整えた海賊の船長は、不敵な笑みを浮かべながら悠然とコウの下へ……。

 

「ユイリ……、君はソフィさんのところに居て……。コイツ、何か企んでる……。イレーナさんは負傷しているようだし、もしもの時の為に……」

「無茶よっ! この男の実力(ちから)は、貴方一人で戦える相手じゃ……!」

「俺はどっちでもいいぜ? 貴様一人だろうが、二人がかりだろうがよ……。尤も、そこの男が死ぬことは最早決定事項だがなぁ!!」

 

 海賊ジェイクはそのように言い放つと、手にした三日月刀(シミター)を振りかざし、ミスリルソードを構えたコウへと躍りかかったのである……!

 

「コウ……ッ!!」

 

 そんな私の叫び声と共に、今回の事件を引き起こした海賊の船長と勇者の資質を秘めたコウとの戦闘が切って落とされたのであった……。

 

 

 

 

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