ご注文は猫ですか?   作:やんま

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九代目茶々丸

 

 

 

 その日、珠世様は1匹の猫をお救いになった。

 

どうしても体が貧弱に生まれて生き残れない個体が出てくるのが世の常だ。おそらく生後1週間以内、捨て置かれたのであろう三毛猫を、その美しい白魚のような手で文字通り救い上げたのだ。

 

「あぁ、あなたは茶々丸ですね」

 

確信を持った一言だった。

 

 

*

 

 猫は9つの命を持つと昔から言われている。由来や定義はよく知らない。この茶々丸は9代目らしいので今回で最後になるのだろうか。

珠世様曰く。最初の出会いは370年程前、三毛猫だったらしい。

 

「ずっと私と出会ってくれました。毛皮を着替えて生まれなおして、真っ先に」

 

俺が知っているのは8代目茶々丸だけだった。2代目から7代目については教えてもらったが、初代との思い出は珠世様と茶々丸だけの秘密らしい。おのれ茶々丸。

 

本当に9つの命なんてあるのか?どうして同じ茶々丸だってわかるのか?懐疑なんて湧くはずもない。珠世様がそうだと言ったらそうなのだ。珠世様のお言葉is真実。でも疑問は湧くものだ。

 

「珠世様、猫は9つの命を使い切ったら何処へいくのでしょうか?」

 

茶々丸を撫でながら浮かべた悲しげな微笑みは、やはりとても美しいものだった。

 

「この子の行くべき場所へ」

 

声に願望が含まれていることに気づかないフリをした。

 

*

 

 8代目もそうだったが、やはり茶々丸はできる猫だった。言ったことはすぐ覚え、慎重さを持ち、頼まれた任務を確実に熟す。猫生9周目は伊達じゃないということだ。

そうだとしてもやはり心配ごとはある。時折茶々丸は姿消すのだ。敵に見つかったのかと焦るが、珠世様はいつも大丈夫だとおっしゃる。曰く、猫の集会に出席しているのだと。とても大事な集会で、自分たちが覗いていいものではないらしい。それでも俺は心配で、だからあの日茶々丸の荷物に札をつけたのだ。

 

視界を繋げる。月が綺麗な夜の下、茶々丸は人の気配が遠い大きな空き地にいた。目に入って驚いたのはそこにいる数えきれない程の猫の数と種類だ。白猫黒猫斑猫三毛猫トラにキジ。長毛や短い尻尾に鍵尻尾。年齢も性別も問わずといった感じだ。茶々丸はふわふわの毛のさび猫となにやらにゃごにゃご話していた。一体なにを話しているんだか。周りを見渡して、ふと黒い長毛の黒猫と目が合った。まんまるの月の様な瞳。背筋に悪寒が走る。気づけば周りの猫たちはみんな此方を見ていた。

 

記憶はここで一旦途切れている。

 

 

目を覚まして待っていたのは珠世様のお叱りのお言葉。呆れ顔の茶々丸。茶々丸に差し出され、手元には何かの設計図。珠世様曰く、茶々丸が交渉してくれたおかげで今回はなんとかなりました。お礼を言うように、と。申し訳ありません珠世様。ありがとう茶々丸。……その顔やめろ。おのれ茶々丸。同族嫌悪はわかるがその顔やめろ。

 

手元の設計図を見る。茶々丸が背負うことを想定しての大きさらしい。渡されたのだからおそらく作るのは俺の役割になるんだろう。読み進める。……えらく緻密だ。細かい部品が必要になるだろう。………………一体誰がこんなもの考えたんだ。何処の未来技術だ。責任者、いや責任猫出てこい。

 

 

*

 

「何か知らんが通りすがりの猫に助けられたぜェ!!」

 

 

瓦礫に埋もれながら、なんとなく察する。先を越された。おのれ茶々丸。

 

珠世様。絶対にソイツ珠世様の隣へ走ってますよ。猫まっしぐら。

珠世様。猫に行くべき場所なんてありません。あいつらは自分の行きたい場所へいくやつらです。

 

茶々丸は9つの命全て使ってあなたの側にいたやつです。だから、天国も地獄も何処でも関係ありません。燃え盛る煉獄の檻の中だろうと、そこへ行きたいならきっと飛び込みます。

 

あぁ、羨ましい。

 

まだまだやることがある。自分だけやることさっさとやり終えて、後は俺任せか。とりあえず無惨はさっさと死んでくれ。

 

あぁ、羨ましい。おのれ茶々丸。

 

 

 




おのれ茶々丸 生きとったんかワレェ
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