ハイスペックチート小悪魔天使幼馴染   作:神の筍

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 死愛島 
主人公1


 

 

 第一話「 主人公 」

 

 

 

 

 

 思えば、俺の人生は散々なものだった。

 

 幼稚園の頃、運動会で活躍したと思えばそれ以上に目立つ幼馴染がおり。音楽会で華麗なトライアングル捌きを見せたとすれば、謙虚な衣装を着た幼馴染みが保護者の視線を釘付けにする。

 三年が経ち、小学生になれば学力テストがあるだろう? それで俺が一〇〇点を取れば、幼馴染みは「すごい」と言ってくれるのだが、その幼馴染みが九十八点取ってクラスのみんなに「さすが」と言われるのだ。おかしいじゃないかっ。普通、そういうのは一〇〇点を取った俺が讃えられるべきなんだ!

 どうにかして幼馴染みに勝とうとする俺であるが、結局六年間の間にしてやったりと感じたのはただ一つ。授業中、唐突に閃いたかのように、そして当たり前かのように隣にいた幼馴染みが「私の横顔は、どう見える?」と聞いてきたのだ。周囲に持て囃された育った甘々幼馴染みはきっと、俺に「可愛い!」やら「綺麗だよ!」と答えて欲しかったのだろうが即座に言ってやったのだ。

 

「普通」

 

 と。

 たしかに幼馴染みは、非常に腹立たしいが世間一般的に見れば周りが好むのもわかる顔貌を持っている。しかし、ただそれを伝えればまた俺は負けてしまうので強がりを言ったのだ。それを聞いた幼馴染みも、気にするように顔を撫でていたのでたぶん俺は幼馴染みに勝ったと思う。ただ周知されていない状況下なので個人的には一勝として数えていない。

 俺は周りが讃えるような勝利が欲しいのだ。

 そんな一幕から小学校を卒業し、中学校に上がる。幼馴染みは相変わらずヨイショされ、俺より勉強ができなければ運動も出来ないにも関わらず二位や三位で顕彰されていた。友人が一人もいなかったので真相は定かではなかったが、一年生の頃からイケメンと言われた同級生や先輩と噂になっていたので人間関係的な部分も負けていたかもしれない。ただ、そういう噂が立つとすぐに、源流が枯れたように聞こえなくなることからもしかすると幼馴染みは色んな人のところにのらりくらりとしていたのだろう。

 さて、俺と幼馴染みの関係の転機、というべきか、毎日放課後は一緒にいた日常から離れていったのは中学二年生になった頃だ。幼馴染みはスターズ? とかいう変な事務所? に入ったようで、何やら俳優? 役者? 女優? になるといって新しい挑戦をすると言っていた。今まで自分が周囲にどう見えるかを研究していた幼馴染みであるが、その時期になるとそれにさらに拍車がかかり、何と人の視線ではなく遂にカメラのようなものまで気にするようになったのだ。気配に敏感な俺も無理やり動員され、幼馴染みの実家部屋で、幼馴染みが持ってきたカメラを360°囲んでどのカメラが今録画しているか、などという意味の分からない修行をしていた。武闘家にもなるつもりか。

 そうやって事務所でレッスンを重ねる幼馴染みは努力が実ったのか、少しずつ……いや、そんなことはなかった。最初から二時間ドラマ、それもゴールデンタイムの子役として出演したのである。それが、僅か半年経った頃なので幼馴染みはまさしく天才というのだろう。認めるべき部分は認めるのが俺だ。まあ、俺ほど天才ではないが。

 そして、中学後半から幼馴染みの人気は九十九から一〇〇に上がり、度々ドラマ出演から、映画、バラエティと世間では「『天使』天才子役現れる」と評価されるようになった。この評価に、俺は負けたつもりはない。俺がたまたまそういった世界にいなかっただけで、いたらいたらで評価されているのは目に見えるからだ。やればできるのだ、俺は。たぶん。

 あっという間に芸能界の階段を登り始めた幼馴染みは同年代、即ち未成年の中で並び立つものがいないほどに活躍をし、限定された配役の中でも様々な優秀賞を総なめするなど、当てられるスポットライトは増えていった。

 寂しいことに、立っている土俵が違うような…………なんてことは全く思わず、俺は俺で真っ当に評価されるような分野で結果を出せているはずなので負けていない。今のところ引き分けだ。

 そして、中学校が卒業となる。

 今や引っ張りだこの幼馴染みは、三年生の時期は半分に届くほどしか出席していなかった。放課後、卒業後の進路を聞いたがどうやら女優業に専念するらしい。むしろ、「子役」という垢抜けがなくなるわけで、今まで以上に気を配らなければならないので単純な勉強は事務所で受けるが、学生生活は難しいので高校には行かないとのことだ。

 つまり、中卒だ。

 俺は当然高校に行くので高卒になるわけで、もう差が出てるので勝ちだ。このまま大学に進学すれば大卒になるのでさらに二段階で俺の勝利だ。

 そして俺は高校に、幼馴染みは女優業にと道が分かたれたときに幼馴染みは実家を離れ、都内中心にマンションを借りたと伝えてきた。冗談めいた口調で「一緒に暮らす?」と聞いてきたが、もし男である俺が幼馴染みの家で暮らしているとばれたら大変なことになるので断った。

 俺の信条として、他者を蹴落として勝つ気はない。それは、自信がない者と最初から相手に負けていると自覚している者が行う愚かな行為だ。勝負事は全て、正面から挑む高潔な儀式でなければならない。

 幼馴染みもわかっていたのか「残念」と、そんな素振りもなく返してきた。

 とまあ、長く語ったが俺と幼馴染みは雌雄を決さなければならない、因縁の相手なのだ。最近は向こうが忙しいこともあって中々勝負事はないが、頻繁にくれる連絡から元気にやっているのだろう。一度、高校になって友人が出来たと伝えれば「人となり」「性別」「どう思っているか」を根掘り葉掘り電話で聞いてきたのは参った。きっと幼馴染みは、殺伐とした芸能界で友人が出来ないために僻んでいるのだろう。

 その辺は可愛いやつだと認めてやろう。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「――見て、私映画に出るのよ」

 

「?」

 

 昼休み、もそもそとコンビニパンを齧っているとポケットから取り出したスマートフォンを操作した、高校で出会った唯一の友人がそう言った。

 意味の分からぬ言葉に、目尻だけで疑問を表していると続ける。

 

「ほら、キャスト一覧(ここ)見て。私の名前があるでしょ?」

 

 たしかに島のような薄い背景画の上には友人の名前である「夜凪景」と書かれている。同姓同名であれば冗談を言うなと笑い飛ばせるが、ましてや夜凪、それも景なんて名前は聞いたこともない。同姓同名の可能性は言葉通り万に一つしかないだろう。

 

「いきなりだな……」

 

「遂に私の魅力が伝わったの」

 

 むっふん、と言わんばかりに胸を張る友人。どうやら、事実なようだ。あと大してない胸を張るな。

 しかしどういうわけだ。

 ほんの一月かそれほど前か、とにかく以前は見窄らしい生活を送っていたはずなのだ。一時期から急に弁当の中身のご飯ともやしの中から、肉や卵が見え始めてからてっきり俺は花でも売ったのかと思っていた。スマートフォンを買ったと言ってきてからは「やったな」と小馬鹿にしていたものだ。見てくれだけは俺好みの日本人らしい清楚さを携えていたので――中身は除く――友人として付き合っていたが、変な噂が立つ前に離れようと思っていた。

 しかし、随分と斜め上の答えが出てきた。

 

「私、役者になったって言ったでしょ?」

 

 言ってただろうか。俺は俺以外に関することは三日で忘れる。

 

「ああ」

 

 適当に返事をする。

 

「それで、CMと日本劇場のエキストラには出たから今度は映画に挑めって髭が言ってくるからオーディションを受けたら受かったわ」

 

 っち、こいつまで自慢してきやがったか。

 貧乏で大した長所もないために付き合っていたが……それにしても、俺に負けたくないと思っている奴――誰も思ってない――は芸能界に入るジンクスでもあるのか? もしかすると俺に勝つべき何かがあるのかもしれない。

 

「それでね、お願いがあるの」

 

「む、何だ」

 

 持たざる者の願いを聞くのもまた、持つ者の宿命である。

 

「レイとルイの面倒を来週から見て欲しいのよ。

 私が出る映画、無人島がロケ地で一ヶ月間滞在しなきゃいけないから……頼れる人もいないし、友人も家も知ってて、二人が懐いている人なんて()()()()()しかいないから」

 

 まあ、仕方ないか……こいつは残念ながらクラスで浮いて、俺以外に友人がいないのは事実だ。何度かクラスメイトがこいつを誘って遊びに行こうとしていたが、放課後は弟妹二人の面倒があるため遊びに行けない。遊びたい盛りの年代にも関わらず、自身を犠牲……いや、留めて、献身的に家族を想い遣る部分は評価できる部分だ。

 

「別に構わないが……俺も毎日見れるわけじゃないぞ?」

 

 特に予定はないが、不都合が現れて失敗したら嫌なので保険をかけておく。

 

「うん、それは大丈夫。柊さんにも伝えてあるから」

 

 誰だ柊さんって。

 尋ねてみると、どうやらこいつが所属する『スタジオ大黒天』のスタッフらしい。事務所は柊ともう一人黒山という男の二人が社員としており、今はこいつを中心に仕事が回っているらしい。どこの弱小事務所がこいつを見出してくれたのかは分からないが、余計なことをしてくれたものだ。

 ちょっと待て、こいつ俺に頼れる人は俺しかいないだなんて言って、すぐに違う名前を出してるじゃないか。二枚舌も甚だしい。

 黒山という男はともかく、柊という女が毎日見に来てくれるようなのでそいつと一ヶ月弟妹二人を見て欲しいようだ。

 何故俺が顔も知らぬ女とそんなことやらなきゃならないんだと思うが、「構わない」と言っている手前吐いた唾を飲み込む気はないので了承する。

 

「わかった。何かあればすぐに連絡する。弟妹二人は、一ヶ月の間行事でもあるか?」

 

「ううん、特にないわ」

 

「そうか。

 景も一ヶ月間、頑張るんだ。体調を崩さないように気をつけるんだぞ? 寂しくなったらいつでも弟妹の写真を送ってやるから、連絡しろ」

 

 この一ヶ月間、徹底的に豪華な生活を送らせてこいつとの生活を送れないようにしてやろうかな……。

 

「うん……ありがとう」

 

「ああ」

 

 何を笑ってるんだこいつは…………まさか、自分が映画なんて大そうなものに出ることを慢じてるのか? 

 

 

 






 どうしてもアクタージュのssを書きたくて、千世子ちゃんや景に並べる主人公にしようと、私も造詣深い浮世絵師ならびに日本画を描く主人公を書いたんですよ。七話ほど。すると、すらすらと書いてると登場人物というかヒロイン二人と主人公がばったばったと肉体関係持っていって完全なr18になったので一先ず断念。
 なので、こちらを投稿しました。
 更新不定期、おそらく「羅刹女」までになります。



原作登場人物の背景も少し増やしてほしい

  • 主人公が直接関わるようなら
  • できれば
  • 別に良いかなぁ

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