ハイスペックチート小悪魔天使幼馴染   作:神の筍

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 各話度々後書きにあるように、原作の流れは遵守しつつも細かいところで異なる点があるので原作未読者様方々は是非原作をお読みください……と、予約投稿の時点で書いてたんですが紙も電子も絶版になりましたね。
 
 
 


主人公5 actors-a

 

 

 

「―――ッ!?」

 

 

 

 全身に走ったのは浮遊感、そして痛みを伴った衝撃――いきなりのことにぼやけていた意識は刹那に覚醒して目を開けた。視界に映るのは見慣れた天井とぶら下がった木製調の小洒落た電灯だ。LEDにも関わらず、温かみのある明かりを提供してくれる現代商品には感謝しかない。

 肘を着いて上体を上げるとコンクリート壁の無機質が顔を出している。天井と合わせて自室であることがわかった。

 どうやら、就寝中にベッドから落ちたようだ。

 とりあえず時間を確認しようと枕元で充電していたスマートフォンを取る。

 

「八時か……」

 

 昨夜は二十三時には床に就いていたので、かれこれ九時間も寝たことになる。普段と比較して些か寝過ぎであり、心なしか身体が固まっているような気がした。

 ホーム画面にはいくつか『メッセージが入っています』と通知バナーが表示されている。殆どの知り合いは重要度の高い連絡については電話をかけてくることを知っているので今は無視をした。

 今日の予定は幼馴染のマンションに行くだけだ。昨日のように肩を張るものはない。お昼には行くことを伝えているが、多少前後しても問題はないだろう。

 遮光カーテンを開くと、陽射しと入道雲になりかけのような綿雲が目に入った。

 

「良い天気だな」

 

 ベッドから落ちたとはいえ――心地良い一日になりそうだ。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

「そう――それでこんな記事が出回っていたのね」

 

「本当にすみません。僕の不注意で……」

 

「一度撮られてしまったものは仕方ないわ。このようなことは以降無いように気を付けなさい」

 

「はい」

 

「下手なスキャンダル一つで俳優の人生が一変するのは過去の俳優を見てわかっているでしょう?」

 

「もちろんです」

 

「しかも、よりによって『劇団天球』……親も親なら子も子もね、まったく」

 

 実用性を重視しながらも、自然な上品さを備えた机上には何枚かコピーされた書類が見えた。

 

 ――『“星アキラ”熱愛発覚! お相手は『デスアイランド』で共演した同年代の女子高生か!?』――

 

 昨日の今日であるにも関わらず、見開きいっぱいに文章が並んでいるのは話題沸騰中のアキラだからこそ。いつの間にか相手にされていた夜凪景についても説明されているが、やはりアキラが中心だった。

 

「何より面倒なのは、この娘が黒山の事務所に所属していることよ。俳優の交友関係を気にするような男じゃないのは昔から知っているけど、下手に借りを作るのは厄介なのよ」

 

 腕を組みながらこれからのことを考えているのはアキラと同じ色の髪を持つ――星アリサだ。大手芸能事務所スターズの代表取締役を務め、アキラの母親でもある。

 

「……黒山墨字」

 

「ええ。あなたも名前くらいは聞いたことがあるでしょう? カンヌ、ベルリン、ヴェネツィアの世界三大映画祭すべてに作品が入賞している稀有な日本人監督。本人は名声に興味がないから日本ではあまり知られてないけど、彼の映画に出た当時無名だった女優は今ではトップレベルの存在になっているわね」

 

 アリサは一息吐くと「まあいいわ」と言った。

 

「この件はとりあえず事務所で対応しておくから。それと、昨日観た舞台を思い出しておきなさい。

 次のあなたの仕事は――舞台(・・)よ」

 

 

 

 

 

 第十一話「 めぐり合わせ(中) 」

 

 

 

 

 

 適当なベッドメイキングを済ませると、窓を開けて下の階に降りる。

 我が家は両親が購入した一軒家の三階建てだ。一階は来客用の部屋と小さなキッチンがあるのだが、二階にも住居人用のシステムキッチンが存在する多機能構造となっている。基本的に二階のリビングが暮らしの中心で、俺の部屋は無人の部屋と並んで三階の一番奥に位置していた。

 

「おう、起きたか息子。さっき上から大きな音が聞こえたけど大丈夫か?」

 

 洗面所に向かっているとリビングからハスキーな声が聞こえた。

 

「……帰って来てたのか」

 

「ああ」

 

 扉を開けて覗くと、買い置きしていた食パンにバターを乗せて食べている『母親』がいた。黒褐色の髪を雑にまとめた姿は几帳面な父親とは正反対だ。

 

「ちょうど良いや、コーヒー頼む」

 

「わかった」

 

 言われるがままにキッチンに立つと、電子湯沸かし器にミネラルウォ―タ―を注いでスイッチを押す。頭の高さにある棚から二つのマグカップを取り、ついで防湿紙に包まれたコーヒー粉を小さじ二杯ずつ入れた。

 

「そいで、さっきの音は何だったんだ?」

 

「ベッドから落ちただけだ」

 

「ふぅん……てっきりちーちゃん(・・・・・)連れ込んで、朝から手を出してしばかれたと思ったんだけど」

 

「そんなわけないだろう」

 

「まあ、ちーちゃんなら息子に朝から手を出されても怒らなさそうだけどな。いや、むしろ出す側か! あっはっは――」

 

 朝から元気なものだ。

 こぽこぽと沸騰音だけが静かな室内に響いていた。

 

「あ、ミルクと砂糖多めね」

 

 タイミングよくボタンが上がったので、カップの半分までティースプーンで掻き混ぜながら注いだ。よく美味しいコーヒーの淹れ方ではお湯を少し冷ましてから淹れるのが(つう)らしいが、別に朝から繊細な味は求めていない。

 片方には砂糖とミルクをたっぷり入れ――――持ち運ぼうと掴むと、俺が呑むはずのカップの持ち手が綺麗に外れた。

 

「おっ、と」

 

 危うく溢しそうになったのだが、中身の重さによって傾くことはなかった。

 

「どうした?」

 

「いや……」

 

 酷使し過ぎたのだろうか? 割とお気に入りのマグカップだったので残念だ。

 

「行き際か帰り際に新しい物を買うか」

 

「お、どっか行くの?」

 

「千世子の家に――」

 

「――ほらぁ。やっぱちーちゃん家」

 

 やれやれ、こうなると母親は面倒くさい。

 俺は普段使っていない新しいマグカップを取ると、母親の分だけ出して自分の分をもう一度作り始めた。

 

 

 

 

 

二、

 

 

 

 

 

 アリサが今後の方針を固め、アキラに次の仕事が舞台であることを告げられると同時に代表室がノックされた。

 

「誰?」

 

「――百城千世子です」

 

「入って」

 

「失礼します」

 

 白いフリルシャツと淡い緑のフレアスカートはどこか子供っぽさを兼ね備えた服装だが、その楚々とした自身の魅力を最大限に生かしたファッションは、周辺の道を歩けばすぐに人が寄ってくることが窺えるほどに似合っていた。

 だからこそ、そんな彼女が持っている大きな紙袋が目立つ。

 

「あれ? アキラ君もいたんだ」

 

「おはよう、千世子くん」

 

「うん、おはよう」

 

 花が開いたような笑顔を浮かべ、千世子は挨拶を返した。

 

「日曜日の朝から自主レッスンかしら?」

 

「はい。次のドラマはドローンカメラを使うみたいで、撮影までに慣れておかなければならないので中庭で動かしてみようかなって」

 

 どうやら、手荷物は最近映画・ドラマ撮影にも活用され始めたドローンだったようだ。アリサはともかく、アキラの頭にはドローンを動かしている千世子の姿が想像できた。

 

「あっ、そういえばアキラ君は『ウルトラ仮面』の撮影で見たことがあるんだよね。このあと時間があれば、どんな感じだったか教えてくれない?」

 

「あのときは僕の撮影じゃなくて、敵役の人が崖から落ちていくシーンに使っただけだから……」

 

「客観的な意見も欲しいから十分だよ」

 

 気にする様子もなく千世子はそう言うと、アキラも頷いた。

 

「中庭のことは私が社員に伝えておくから、正午までは自由にしてかまわないわ。ただ、窓ガラスや敷地外には飛ばないように留意して」

 

「わかりました」

 

「ええ……それで、あなたを呼んだ理由なのだけれど――彼の件よ」

 

「――彼の件……?」

 

 

 

 

 

三、

 

 

 

 

 

 朝食は白米派だ。

 白ご飯と軽いおかず、そして蜆の赤味噌汁によく冷えた麦茶が定番と化している。そのため、今朝の朝食にパンを選んだのは偶然か、それとも母親が食パンを食べていたのを目撃したからなのかはわからない。たまには良いかと思い、冷蔵庫の中にあった野菜とハムを適当に挟んでサンドイッチにした。

 

「あれ、もう行くの?」

 

 リビングのソファに置いていた財布を手に取ると、同じようにテレビを見ていた母親から声を掛けられる。ちなみに食休みをしてから既に外行きの格好に着替えている。この季節は夏服にするか微妙なところなのだが、今日は風も吹いているので半袖にジーンズといったありきたりなものだ。

 

「ついでに新しいマグカップを買いに行こうと思ってな。もし何か必要なものがあれば、帰り際に寄ってくるが」

 

「別にかまわんよ……いや、やっぱりMrs.Donut(ミセド)で生クリームのやつ買ってきて」

 

「わかった。他にも適当に数を買ってこよう」

 

「はいよー」

 

 欠伸をして毛伸びをする姿は寝起きではなく徹夜明け、恐らくこれから寝直すのだろう。

 一階に降りると、もう何年も使っていない部屋が三つある。念の為、週一回程度は掃除をしているので急な来客にも対応することは可能だ。むろん、布団もいくつか仕舞っている。

 家がここまで広いのは、(ひとえ)に父親の発案で、息子の俺が友人を連れて来たときに十分な部屋を確保出来るように考えた結果であったりする。子煩悩で愛されているのは嬉しいが、今もなお昔のように名前を君付けで呼ばれるのは少し抵抗感があった。さらに言えば、結局父親が望んでいた部屋を満たすほどの友人は連れて来られないでいるのだから、妙に親不孝で、申し訳ない気はある。

 この家に入ったのは精々幼馴染くらいだろう。これでも幼稚園の頃はクラスの中心だったのだが——甚だ勘違いである——少しずつ、思えば小学生に上がってからは顕著に周囲のクラスメイトに避けられているような気がする。ううむ。

 玄関に辿り着くと、靴箱を開けて今日は何を履いていくか思案する。むろん、式典などに履く革靴は論外だ。最近では山登りと市街歩きに併用可能な靴も販売されている。歩きやすく走りやすい、それでかまわないだろう。

 

「む――」

 

 靴紐を解くと、そのままの感触で鳩目から千切れた紐が顔を出した。

 

「新しい靴紐も買わなければならないな」

 

 本体自体に問題はなく、どうしてか靴紐だけが引っ張られたというよりかは捻り回したかのように裂けていた。粗末な扱いをした記憶はないのだが……まぁ、不良品だったのだろう。

 ついでに幼馴染の好きな松前漬でも手土産にしてやろうかと思いながら、俺は別の靴を履いて家から出た。

 

 

 




 
 
 
Character№2――「母親(名称不明)」
誕生日:1月23日
好物 :蕎麦
→さばさばとした性格で、関西の方の出自である。仕事は西洋建築物研究を大学の講師を勤めるとともに行い、一年に数度書籍も出版している。また、仕事柄海外に出張することが多く、マイルを使用して何度も無料で海外旅行に行けるくらいは溜まっている。
 容姿はややくすんだ黒色の髪を適当に伸ばしており、自身の容姿にこだわる性格はしていない。
 

 ~原作未読者の方向けの説明~(当二次小説に沿って)
①劇場内で夜凪が行方不明。
②関係者スペースにアキラ君が入る。
③あっ、夜凪君の姿が!
④「勝手に行ったら駄目じゃないか」「ここに来るって聞いて」
⑤劇団員登場。
⑥夜凪乱舞(20××年発売)
⑦『デスアイランド』の共演と、二人で一緒にいたことから勘違いされる。

『 ゴ シ ッ プ 完 成 』

⑧スターズは夜凪とアキラを舞台共演させることで一緒にいたことの理由付けにする。

 ここと、アキラ君が舞台出演になるのは原作既読済みでなければわかり難いため、後書きで補填させていただきました。
 さすがにアキラ君を舞台出演させないのは、このあと彼が海外修行に行く流れを潰してしまうので原作通りです。帰国後、夜凪と共演しようって話もあったので……。

 また、原作通りにいくとスターズ事務所内で「テレビ報道されたのを見て」から星アリサが動きますが、特定のプライベート関連はマスコミが予め「こういう報道もしくは記事を書く」と事務所に先に送るのが現実に伴った流れなので今回のような形になりました。

 そう考えると、原作のいきなり報道ってなかなか悪質なような……?
 
 
 

原作登場人物の背景も少し増やしてほしい

  • 主人公が直接関わるようなら
  • できれば
  • 別に良いかなぁ

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