ハイスペックチート小悪魔天使幼馴染   作:神の筍

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act-β 主人公10

 劇場内で、二人の男が向かい合っていた。

 

「どうだ、あいつの様子は?」

 

「……まぁ、無難なモンにはなるだろうな」

 

 舞台端で片膝を立てながら座っているのは『銀河鉄道の夜』に出演する夜凪景が現在世話になっている巌裕次郎だ。対して、正面の赤い座席に巌を前にして媚びた様子を見せぬ男はその夜凪景が所属する『スタジオ大黒天』の代表、黒山墨字である。

 

「無難、か。らしくない言葉だな」

 

「言っとくが、褒めたわけじゃねえぞ」

 

「わかってるよ」

 

「どれだけ売れようが無難なことしか出来ねぇ人間なら、俺の演目に入れるつもりはない」

 

「臭い役者じゃなければそこには立たせない。それが昔から変わんねぇアンタの根っこだからな」

 

「はっ、知った口を利きやがって」

 

 元来の険しい顔貌から不機嫌そうに見えるが、巖は重低音の響く声で薄く笑った。

 

「それでもアンタがあいつを残してるってことは、最後に化けるとわかってるからだろ?」

 

「さぁな。中にはいきなり化ける奴もいるが、それが舞台上なのか、それよりも後なのか……だが、あと一つ――カムパネルラとしては足りねえ」

 

「……?」

 

「そこの一石は俺が投じるがな」

 

 巌は自身の言葉に眉を上げた黒山を見ることもなく、独白のように言う。

 

「それに、お前もそのつもりで俺んとこに預けたんだろ?」

 

「ああ」

 

 一切の建前がないのがこの二人の関係である。

 巌と黒山の関係は旧知の間柄……黒山が数々の映画賞でその名が知られるより以前から続くものだ。生意気だが実力と、何より撮りたいものに実直であるその姿勢は分野違いと言えど巌の鼻が反応した。師弟、とは当人たちや当時のことを知る者も到底思わぬものの、どこか厄介な縁が存在することは二人をして事実だった。

 

「それで……」

 

 ゆっくりとした――いや、老躯を捩じりながら巌は腕を後ろにやる。その手には丸まった紙束があった。

 

「お前、あいつどこから引っ張ってきたんだ」

 

 黒山はふと、丸めた台本は保存するのが面倒くさいからやめてくれと柊に言われたことを思い出した。

 

「あん? スターズのオーディションだよ。偶然、俺が担当してたグループにあいつがいてな」

 

「……歳のせいか、主語を抜いて話すのが悪い癖になっちまってるな」

 

 溜息を吐いて、寂しい頭を撫でた。

 

「黒山、夜凪じゃねえよ。お前んとこがうちの仕事を手伝いに来たときにいた――制作と一緒にいた男だ」

 

 巌は手に持った紙束を捲りながら言うが、黒山は余計に先ほどよりも余計に眉を顰めた。

 それもそのはず、黒山にとって、あのとき『劇団天球』の手伝いに行ったのは柊と“夜凪の友人”であって決して“巌が気にするほどの人物”ではないのだから。黒山が急遽外せない仕事が入って、その代用として夜凪の友人の手を借りたことは知っていた。事前・事後連絡でしっかりと報告が入っていたからだ。

 黒山は姿かたちの知らぬその“夜凪の友人”を脳裏に浮かべながら考える。

 

 ――そういえば、実際に会ったことはなかったか。

 

 『デスアイランド』の長期撮影時にレイとルイの世話を担っていたとは聞いていたが、黒山自身は結局男手が“夜凪の友人”とやらで事足りるということで、基本的に柊に任せていた。それは女性である柊のほうが二人も接しやすいだろうと、何だかんだ面倒見の良い黒山の配慮だったのである。むろん、“夜凪の友人”に用事があった場合は事務所で遊ばせたり、たまに職場見学と適当に銘打って撮影現場に連れて行ったりとしていたのだが、そういった連絡もすべて柊が行っていた。

 

「……夜凪の友人? だな、そりゃ」

 

「あいつの友人か」

 

「そいつがどうしたのか?」

 

 夜凪が弟妹二人を任せられるほど頼っているならば、別のことでもまた頼る可能性があるので機を見て顔合わせをしておいたほうが良いかと黒山は考えた。個別で会うのも相手の不信感を抱かせてしまう。夜凪がカムパネルラ役として出演することが決まった(・・・・・・・・・・)この舞台の当日にでも、会えば良いだろう。

 そもそも“夜凪の友人”が観劇に来るのかという判断をすることも出来ないほど黒山は彼のことを知らないのだが、そこは強引にでも夜凪が誘うだろうという今までの信頼があった。

 

「――ほらよ」

 

 不意に、巌が持っていた紙束を黒山に放り投げる。ホッチキスで止められていたのであろうそれは空中でばらばらになることもなく、丸められていたからか空気抵抗で煽られることもなく咄嗟に伸ばした黒山の手に収まった。

 

「時間があれば俺ももう一度声を掛けたんだがな……如何せん、時間がない」

 

「どういうことだよ」

 

「それやるから、渡しといてくれ」

 

 黒山は持っていた紙束を延ばして(なら)すと、表紙のタイトルを読んだ。

 

「選考外のモンだが、個人的に面白いと思ったやつだ。選ばなかったのは……まぁ、作れねえからな、そんな舞台」

 

 業界では有名な芸術専門誌の出版社――演劇画報社から出される隔月誌を通して、年に二度催すコンテストがあった。一度目は初夏、二度目は初冬を目安に行われるのだが演劇画報社は今年の創刊40周年を祝い、最優秀作品に与えらえる“演劇画報賞”以外に一つの賞を追加した。“巌賞”、半世紀を超えて舞台を作り続ける演劇界の巨匠を銘打った、間違いなく今年一番の賞だ。

 例年通りならば、巌は依頼された時点で一蹴していたのだが何の事情か今回は参加していた。一時は演劇画報社に特別なコネがあったなどと噂されたが、顔に似合わず愚直なまでに舞台に仕えてきた巌がそういったもので受けるとは考えられず、また演劇画報社側も駄目元で依頼していたため承諾の返事があったときは社内が騒々しくなった。

 

「歳になっても、時間に追われるのだけは変わらんな。まったく……」

 

 パソコンで打った文字と、後から巌が付け足した赤色の文字。

 巌の呟きは、黒山の耳に入ることなく足元の暗闇に吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 第十六話「 牛乳 」

 

 

 

 

 

 昔ながらの牛乳瓶の蓋は少し湿っており、それが返って開封しやすくなる。中身を零さぬよう慎重に開け、手のひらから伝わる冷たさを楽しみながら口を付けた。

 喉越しは最高だ。

 年末年始の親戚の集まりで何度か酒を呑んだことがあるが、それよりもずっと良い。大人になればその良さがわかると言われた事もあるが人それぞれだろう。

 

「――美味い」

 

「――美味しいわ」

 

 俺はいちご牛乳、隣で同じように腰に手を当てて飲んでいたこいつはコーヒー牛乳だ。唇の上に痕を付けるのも忘れない。

 

「やっぱりお風呂に入ったあとは牛乳に限るわ」

 

 梅雨の季節に入った。最近は晴れ間を見ることも少なく、週に一回見るか見ないかである。天気予報で曇りだと言われても折り畳み傘を入れてなければ安心して外出も出来ないだろう。

 

「そうだな」

 

 俺は何故かこいつと二人で銭湯に訪れていた。レイとルイの二人は既にお風呂に入っていたので家にいる。時刻は既に二十一時を回っていた。

 

「おい、また髪をちゃんと乾かしてこなかったのか」

 

「だって早く牛乳飲みたかったんだもん」

 

「子供か」

 

 彼女の肩に掛かっていたタオルを取って頭に被せる。こうするのはあまり良くないのだが、濡れっぱなしの状況よりは幾分かマシだ。

 

「仮にも女優業をしてる奴が髪の手入れをおざなりにするな。綺麗な髪をしているんだ、勿体ないぞ」

 

 髪だけは綺麗なのだ。

 ドライヤーがあれば良かったのだが、更衣室の洗面所にしか設置されていない。俺たちが今いるのは休憩所で、扇風機が回されている。時間も割と遅めであるためか、休憩所にはテレビの前で談笑する年寄りが三人と扇風機の前は空いていたので移動することにした。

 

「涼しい……」

 

 出入口の扉から外を見ると、雨が降っている。行き際も振っていたので覚悟はしていたが、風呂上がりの帰り際くらいは止んで欲しいものだ。

 俺がこうして銭湯に来ることになったのは、別に特別なことがあったとかではなく、ただこいつに誘われたからだ。彼女が連日舞台稽古で少し遅れるため、夜凪家でレイとルイとご飯を食べ、先に二人を風呂に入れていると彼女が帰ってきた。雨と汗のせいか臭かったので風呂を勧めようとしたところ、「身体を伸ばしてゆっくりしたい」と言って銭湯に行くこととなったのだ。

 

「涼むのはけっこうだが、少し下を向いてくれるか」

 

「うん」

 

 休憩所の造りは銭湯や温泉にはありふれた畳の敷かれた座敷型で、座っている彼女の背後に胡坐を掻くように俺も座った。

 頭頂部から梳くように指を通す。金砂のような滑らかさ――いや、これこそ絹髪なのだろう。毛先まで、艶を確かめるように動かすと指先には水滴。根元もまだ濡れていたようだった。

 

「次からはしっかりと乾かすんだぞ」

 

 毛先から挟むようにしてタオルで拭う。

 比較するのもどうかと思うが、正直幼馴染に匹敵するほどのものを持っているだろう。それに、幼馴染は少し値の張るシャンプーやトリートメント、週末は自然に香る程度の香油を用いているのだから、同じことをすれば凌駕するかもしれない。

 このポテンシャルは幼馴染といえど侮れないだろう。

 

「毎日やってくれたら楽なのに」

 

「出来るわけないだろう。これくらい自分でこなしてみせるんだな」

 

 とは言ったものの、役者を始める前からこいつが注意して身なりを整えていた様子はなかった。今も間違いなく変わりはしないだろう。その状況で映画や巌裕次郎の舞台に主演で出ようとしているのだから、大丈夫なのか……?

 

「これが若さか」

 

「なにそれ」

 

「いや」

 

 だが、歳を重ねれば衰えは自ずから出てしまうので、若い頃からその状態を維持する努力は必要だ。

 

「ほら、終わったぞ」

 

「ありがと」

 

「ああ――何度も言うが自分でやることだからな」

 

「……」

 

 返事をしろ。まるで手のかかる妹を見ている気分だ…………こいつが妹だったらレイとルイも俺の弟妹か。そう考えると……悪くない。

 使い終わったタオルを畳み、ビニル袋にしまう。鞄にそのまま入れてしまうと悲惨なことになる。最近は環境に考慮してコンビニでも有料になってきたが、何だかんだこうして生活の役に立つのが憎いところである。

 

「いちご牛乳、どんな味だった?」

 

「景には難しいかもしれないが、いちごと牛乳を混ぜたような味だったな」

 

「そう。分からないから、飲んでも良い?」

 

「ダメだ。まだ飲む」

 

「飲みたい」

 

「俺のだ」

 

「コーヒー牛乳あげるから」

 

「いらん。責任を持って自分ので我慢しろ」

 

「……――っ」

 

「――遅いな。そう簡単に取らせるわけないだろう」

 

 横に置いていたいちご牛乳が奪われる前にこちらに寄せる。風呂上がりに半分飲んで、出て行く少し前に残りすべてを飲むのがルーティンなのだ。コーヒー牛乳は通常の牛乳といちご牛乳に比べて僅かに喉にかかる感触がある。風呂上りはそのまま喉に入っていく感じが良いので俺は牛乳かいちご牛乳を選ぶのである。ミックスジュースもあるが、あれは時たま気分が乗ったときに飲む。

 

「争う気はないぞ。汗を掻くからな」

 

 何となく、こいつが飲んでいたコーヒー牛乳に目を向けた。

 

「っく……あ、いちご牛乳くれないなら飲ませてあげないわよ!」

 

 口元の部分から垂れるように瓶に一筋を作っていた。

 牛乳を入れるとき、水よりも妙に垂れやすいがあれは何故なのだろうか? 俺はそんなことを思いながら、しまったばかりのタオルを再び取り出した。

 

 

 

 ――夜凪景が『劇団天球』の稽古に参加し始めてから、約(ひと)月が経つ。

 

 

 




 
 
 
 ドラゴンに襲われて、パソコンが壊れたので遅れました。





 以下、純粋なる後書き。




 景ちゃんと兄妹になること考えるより景ちゃんと結婚すれば兄弟妹になれるし、さらに千世子ちゃんとも結婚すれば景ちゃんと千世子ちゃんも姉妹になってみんな幸せやん!

 前回の後書きに書いた通り、少しお休みです。

 「帰りし」「行きし」が関西弁でびっくりしました。標準語だと思ってた。

 千世子ちゃんはドSかドMの両極端で景ちゃんは間違いなくソフトMで異論はないと思う。
 でも主人公が不意に攻勢的になったときのよわよわ千世子ちゃんを見たい。
 
 
 



 

 

原作登場人物の背景も少し増やしてほしい

  • 主人公が直接関わるようなら
  • できれば
  • 別に良いかなぁ
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