ハイスペックチート小悪魔天使幼馴染   作:神の筍

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幼馴染み1 主人公2

 

 

 

 私には一人、幼馴染みがいる。

 

 幼稚園の頃、初めて臨んだ運動会。

 それなりに運動能力が高かった私は、家族にも一番を取れるように応援され、当然私も一番を取れるように頑張った。家から幼稚園に着くまで走ってみたり、仕事帰りの父親を迎えに行く体で駅まで走ったりと運動会がある月は毎日練習していた。そして当日、新しい運動靴と共に走り出した結果は誰が見ても、大差を付けられて――二位だった。

 初めて明確に頑張って挑んだ勝負に私は負けたのだ。誰かと競おうとしていたわけではない。名も知らぬ一位の子は、同じ組の子と遠くから励ましの声をかけてくる家族の間に一人で立っている。

 私はきっと、泣いていたのだろう。

 運動会が終わって、悔しかった私は一位の子の下へと両親に何も言わず向かった。安っぽいメダルを首に下げた彼が、どこかつまらなさそうな表情をして、門前の小さな池を眺めていたことを覚えている。

 

「ねぇ、おなまえは?」

 

 一位の子に話しかけると、彼はどこか面倒くさそうな様子を見せて振り返った。

 

「わたしのなまえはね――」

 

 私の名前を伝えると、今思えば歳不相応に顎に指をあてて宙を見て、「ああ、二位の子」と呟いた。

 腹が立った。

 それから毎日、私は今までの友達をおいて一位の子を誘って遊んだ。おままごと、かくれんぼ、おにごっこ、ザリガニ釣り……色んなことをして、両親に頼んで色んな場所に連れて行ってもらった。一位の子の両親も、私と遊ぶのは大歓迎と私と私の両親に言って、海に行った思い出もある。

 やがて小学校に上がる頃、一位の子と離れ離れになってしまうんじゃないかと危惧したが、住んでいる場所が同じ地域だったので、小学校は一緒のところだった。

 そこで両親は私に言った。

 

『お前とあの子は、幼馴染みだな』

 

 最初は意味が分からなかった。

 幼馴染みと一位の子。そこに一体、どういう差があるのだろう。でも、一位の子から幼馴染みとランクアップしたかのような関係に、喜んで幼馴染みにまとわりついていた記憶がある。

 幼馴染みは、小学校に入っても何も変わらなかった。つまらなさそうで、こだわっていない。むしろこだわらないことにこだわっていそうな雰囲気に、私は気にせず幼馴染みと遊んでいた。特に一番楽しかったのは虫捕りだ。幼馴染みと違って私には友達がいたので、誘う子は幾らでもいたのだが、やはり女の子が虫捕りというのは敷居が高い。男の子を誘おうとも、幼馴染みほど落ち着いていなければ、「女子なのに虫が好きなんて変」と偏屈な価値観を押し付けてくるため好きになれなかった。だから私は、私を出せる幼馴染みと放課後は毎日遊んでいた。

 そんな時間を過ごしているある日、本当にふと――私は私がどう見られているのか気になった。

 たぶん、その日の前日に見たテレビ特集なんかが要因だったのだと思う。詳しくは覚えていない。でも、私が今の私である始まりの記憶。心底気になった私は、真面目に授業を聞いていた隣の幼馴染みに聞いた。すると幼馴染みは、

 

「普通」

 

 と、答えたのだ。

 私の容姿は、率直に言って世間一般の女性より可愛い部類に入るだろう。これは決して傲りであるとか、誇張しているなどではなく、歴然とした客観視から来るものだ。現に、今も私の評価の根幹を成す重要なマテリアルの一つだと理解している。だからこそ私は、幼馴染みの言った酷く遠い「普通」という二文字に戸惑った。正確には、「普通」という言葉にではなく、「普通」と言われた自分自身に対してだ。

 彼には私が「普通」に()()()()()

 その日から私は、周りが私をどのように見ているのか取り憑かれたように、周りにバレないように研究し始めた。

 中学校に上がっても幼馴染みとは同じ中学校だった。本当は地域的に二校から選べたのだが、幼馴染みがどちらに進学するのか聞いて私もついて行ったのである。

 中学生になって、容姿の恵まれた私はよく告白を受けるようになった。サッカー部の人気者や、学年でカッコいいと噂になっている同級生。はたまた小学校の頃、私に「虫捕りが好きなんて変」と言った子までもが私に告白をしてきた。すべて断った。理由は言うまでもなく、興味がなかったからだ。たしかに容姿的にカッコいい子はいたのだろう。だが、私にとってそんなものは些細なことで、むしろ幼馴染みもまた、成長するにつれて本人の知らぬところで人気がある容姿を持っていたので今更だった。

 私が告白を断り続けることで、私と幼馴染みが付き合っているのではないかと噂になった。まあ、放課後は毎日一緒に帰っているので仕方ないだろう。それと同時に、女子の中で私に対するやっかみが起こりかけた。その機を目敏く読んだ私は、事が大きくなるよりも早く鎮火し、結局何事もなく私は私のまま過ごすことになる。

 

 そして、転機がやってきた。

 

 

 

 

 

 第二話「幼馴染み」

 

 

 

 

 

「――酷い台本だなぁ。また、私頼みか」

 

 無機質な部屋の窓際で、少女は体幹トレーニングをしていた。片足を上げ、右手に持ったのは今日郵送された台本。

 

「……そういえば、なにしてるんだろ」

 

 少女が窓の外を見てみると看板があった。オフィスビルに飾られたそれには少女とまったく同じ顔が桃色のルージュとともに存在している。

 台本をテーブルに置き、鞄に入れたままのスマートフォンを取りに少女は部屋を後にした。

 

 

 

 

 

一、

 

 

 

 

 

 目を開けると、襖の間から知らぬ顔が覗いていた。

 

「……」

 

「……」

 

 容姿は凡、髪色も凡、おまけに格好はジャージという凡々尽くしである。

 正直驚いたが、頑ななプライドが外面に影響を及ばずに強いる。叫び声を上げたくなるほど心臓は鳴っている。それでもわざとらしく鼻息を鳴らして口を開いた。

 

「誰だ」

 

 端的に、核心を突く問いを。上辺だらけの言葉は好きじゃない。おや、鼻がむずむずするな。花粉症だろうか。

 目線でのやりとりは数秒、やがて立ち竦んでいたジャージ女が言った。

 

「あの、柊雪なんですけど……景ちゃんのお友達であってるでしょうか……?」

 

「ケイを、夜凪景を指しているならばその認識で合っている……む、待て。柊雪、確か……」

 

 隣で寝ているレイとルイ(二人)を頼むと言われ、そのときのことを思い返す。昨夜も寝る前に言われた記憶があった。

 このジャージ女はあいつが頼んだという事務所のスタッフだ。

 

「ああ、そうか。柊雪。柊さんで良いだろうか? すみません、知らない人がいたんで警戒していました」

 

「あ、うんうん! 大丈夫大丈――」

 

「寝てるので、静かに」

 

「……ごめん」

 

 寝起きで渇いた唇に人差し指を立てて合図する。

 まったく、子供が寝ているというのに気を遣えないのだろうか。こんな大人にはなりたくないものだ。

 枕元に置いていたスマートフォンを確認すると、時刻は七時二十六分。今日は土曜日なので俺も含めて学校はない。昨夜はあいつが朝早くから出るということで、一階で寝ていた。二階で寝ていた俺は二人に付き合って少し夜更かしをしていたが、体力的にも弟妹は八時過ぎに起きるだろう。

 二人を起こさないように布団から抜ける。

 無理に起こす必要はない。かくいう俺も休日は九時前まで寝るタイプだ。拳を握ると骨が軋む。パキッと小気味の良い音がすると目線でジャージ女に下がるように示した。

 

「おはようございます」

 

「お、おはようございます」

 

 廊下に出て階段を降りる。後ろから付いてくるジャージ女はこちらを窺っているようで、一階に到着しても前に出てくることはなかった。

 

「さて――」

 

 このジャージ女が何者であろうとなかろうと問題はない。精々俺の邪魔をしないでくれるのを祈るばかりである。

 昔ながらの台所に入ると、棚からフライパンやヘラを取る。材料は昨日、放課後にあいつと買いに行っている。今日の二人の気分が何かわからないが、とりあえずご飯で良いだろう。

 

「何か手伝えることはある?」

 

「いえ。簡単な朝ごはんなんで大丈夫ですよ。柊さんも食べていきますか?」

 

「いや、別に――っ」

 

 ジャージ女が断ろうとするとお腹が鳴った。

 

「用意しますね」

 

 恥ずかしそうに頬を赤らめ、無言で俯いたジャージ女は小さく頷いた。

 まったく下品な女である。

 こちらを見られ続けて気が散るのも面倒くさいので、居間の窓を開けて風を通してもらい、テレビでも見ててもらう。土曜の朝だ、しょうもない番組しかない。

 朝食の準備を始めてから十数分経つと、階段を降りる音がする。

 

「おはよーございます」

 

「おはよー」

 

 眠気まなこなルイと、はっきりとした意識のレイが降りてきた。

 

「おはよう、二人とも」

 

「レイちゃんルイくん、おはよう」

 

「あ、柊さん。おはようございます」

 

「兄ちゃん今日のご飯なに?」

 

 ルイがそのまま台所に入ってこようとしたので身体を持ち上げて反転させる。

 

「の、前に柊さんが挨拶したんだから返さなきゃいけないだろう?」

 

「あ、ごめんなさい。柊さんおはようございます」

 

「うん。おはよう」

 

 こういうのは子供の頃から躾けなければロクな人間にならない。どんな屑な人間であろうとも挨拶を無視する奴はそれ以下だ。

 

「もうすぐ朝食ができる。先に顔を洗ってくると良い」

 

 二人に洗面所へ向かうように指示をして、焼き鮭が乗った皿の上に卵焼きを添える。姉のレイは甘い方が好きなので一人だけ砂糖仕立だ。ジャージ女はわからない。まあ、あのくらいの歳はしょっぱいものと安酒好きが相場と決まっている。普通ので良いだろう。

 ご飯と味噌汁を居間の食卓に並べる頃、前髪が少し濡れた二人が戻ってきた。

 ジャージ女含む四人が座る。

 

「ルイ。頼めるか」

 

「手を合わせて、いただきます」

 

『いただきます』

 

 食事中に喋ることははしたないなんて言うが、そこまで改めるつもりはない。むしろコミュニケーションの場と化した現代では陋習といえるだろう。

 

「やっぱり兄ちゃんのご飯美味しい」

 

「私も、お兄さんの甘い卵焼き好きです」

 

 当たり前だ。これでも家庭科の料理でトップを取るために料理研究は日頃欠かさないでいた。毎日釣ってきた魚を捌いている月もあり、懐石料理もお手の物である。

 

「へぇ、二人はそんなに食べてるの?」

 

「はい。特に最近はお姉ちゃんが仕事で遅くなることもあったので、そのときはお兄さんが来てご飯を作ってくれます」

 

「ふーん」

 

 まじまじとした視線を向けてくるジャージ女。

 

「なんで『お兄ちゃん』って言ってるの?」

 

「そのままの意味で、『お兄ちゃん』みたいな人ですからね。お姉ちゃんがいなかったら私たちに頼れる人はお兄さんしかいないですから」

 

「なるほど……」

 

 話している二人を尻目にテレビを眺める。ちょうど『デスアイランド』のCMがやっていた。撮影が終わっていれば1シーンくらいは流されるのだろうが、残念なことに真っ最中。漫画コマが怒涛に映されて最後に原作者とイラストレーターの名前が横切った銃弾とともに出てきて終わりだった。

 

「二人とも、お昼は何を食べたいとかあるか?」

 

「特にないかなぁ」

 

「私も、お兄さんが作るものならなんでも」

 

「わかった」

 

 何だかんだ一番困る返しだが、適当にサンドイッチで構わないだろう。お昼は二人を連れて公園でも行くとしよう。

 

「柊さん、午後は仕事ですか?」

 

「いや、基本的にうちは今景ちゃん中心で回ってるから、今月の土日は大事ない限り休みなんだよね。墨字さんもどっか行ってるだろうし……ああ、『スタジオ大黒天』の代表の人」

 

「なるほど。

 レイ、ルイ、お昼は代々木公園にでも行くか?」

 

「本当? サッカーしたい!」

 

「ああ、構わないぞ。レイも大丈夫か」

 

「はい! レジャーシート出して置きますね」

 

「わかった。柊さんはどうしますか?」

 

「柊さんも行こうよ、人がいた方が楽しい!」

 

「うーん……用もないから、私も行こうかな。

 そのかわり私もお昼手伝うね?」

 

「ええ、お願いします」

 

 万年喪女みたいな格好をしているが、それが役立つように動き回ると良い。

 一先ず話に区切りをつけ、再び食事を再開した。

 

 

 

 





「柊ちゃんのジャージズボンを お尻の幅だけずらしたい欲は 三大欲求より強い」 
                   by.不明




原作登場人物の背景も少し増やしてほしい

  • 主人公が直接関わるようなら
  • できれば
  • 別に良いかなぁ

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