ハイスペックチート小悪魔天使幼馴染   作:神の筍

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美人制作1 主人公3

「足の内側を使うんだ。平たくなっているところで上げてやれば、安定してボールが上がるだろう」

 

「こう?」

 

「もう少しだな。

 高さを加えれば……こうやって首にも乗せられる」

 

「すげー!」

 

 こんにちは、『スタジオ大黒天』美人制作の柊です。

 私は現在、何故か代々木公園へピクニックに来ています。こうなってしまった原因は色々あるのですが、最初から話してしまうと未だ呑み込みきれていない朝の事情から話してしまわなければならないので割愛といきましょう。とは言うものの、今の状況を話すにしても同じことなので変わりはしないのですが。

 

「わ、すごいなぁ」

 

 そう言ったのはレジャーシートの上で私の隣に座るレイちゃん。『スタジオ大黒天』所属女優、夜凪景――景ちゃんの妹だ。そして、彼女の視線の先にいるのは弟のルイ君と、彼にボールパスをする景ちゃんが二人のために頼った友人だ。

 

「レイちゃんも遊びたかったら行ってきても良いんだよ? 荷物なら私が見とくから」

 

「大丈夫です。どちらかというと、見ている方が好きなんで」

 

 同年代より大人びているのは夜凪家だからだろう。

 事務所に提出する夜凪景の書類を書くとき、景ちゃんは保護者欄に親の名前を書かなかった。空白のまま、緊急時の連絡先と宛名には『夜凪』とは違う名前が書かれていた。

 ああ、そっか。思えば、それが友人()の名前だったのだろう。

 複雑な家庭事情であることは知っていた。だが、それを一身に背負うには彼女は若過ぎる。だからこそ私は彼女が女優業に専念できるように今回も名乗りを上げたわけだが、頼れる人がいない、という考えは杞憂だったようだ。

 やはり景ちゃんも女性なため、男性である彼を家に入れていることはどうかと思ったが、半日過ごして分かることは弟妹二人に好かれる彼は少なくとも悪い人間ではないということだろう。業界に携わって数年だが、黒山()墨字()なだけに同世代の同職種より色濃い時間を送ってきたことには自信がある。多少見る目が肥えた私も、彼の一端を覗くことはできた。

 

「お兄さん、サッカーも上手なんですけど他も凄いんですよ」

 

「たとえば?」

 

「料理はもちろん、足もお姉ちゃんより速いし。この前は学校の授業で作った彫刻像が美術館の出入り口に飾られたってお姉ちゃんと話していました」

 

「美術館?! すごいね」

 

「それに、学校でも人気があるらしくて……」

 

 たしかに人気がありそうだ。

 料理の良し悪しを学校生活で見ることは少ないが、落ち着いた雰囲気は年頃の男子と比較して異色に見える。多感な女子ならば彼氏にする場合、どこか身近な男子とは違う者を選びたいはずである。大人になった私は年収やら性格やら現実的な部分を直視してしまうが、女子高生だったならば十分魅力的に感じる第一印象を持っている。

 切れ長で蠱惑さを孕んだ瞳。景ちゃんに似た黒髪も相まってどこか妖しいミステリアスを内包している。

 彼に役を付けるならば――敵役(アンタゴニスト)

 それは悪役ではなく、主役(プロタゴニスト)と張り合う存在だ。主役にはなれないが、違う視点から見た主役。

 

「どうしました、柊さん?」

 

「なんでもないよ。ちょっとだけ考えごと」

 

 いけないいけない。休日でピクニックに来ているにも関わらず職業病が出てしまった。

 頭を振って取り払うと、再びレイちゃんへと耳を傾ける。

 

「ここだけの話、お姉ちゃんはお兄さんのこと好きなんだと思うんですよね」

 

「ど、どうだろうなぁー」

 

 女優、人間関係、スキャンダル……。

 何度も見てきた光景が浮かび上がり、純粋な好奇心が押し潰されてしまう。しかし、あの(・・)夜凪景が好意的に感じている彼のことについて、もう少し知りたいと思うのは女の(さが)

 

「お姉ちゃん、今までずっとそういうことに疎い人だったんで、たぶん自分では気付いてないんじゃないかな」

 

 ああ、イメージできるかもしれない。

 一歩ずつ進んでいく恋愛というよりは「はい結婚するわ」みたいな。

 

「でも――」

 

 勝手に制服姿の景ちゃんと隣にいる何某を想像する。

 

「どうやらお兄さんの幼馴染みが女性らしく、たまにその話をするとお姉ちゃんが怖いんですよね」

 

 レイちゃんはそう締め括ると、ボールを持ちながら手を振ってくるルイ君に振り返す。

 夜凪景が好く男子高校生の幼馴染み……気になる。それに、景ちゃんとの話題に出るということは今も関係は続いているということだろう。

 変なことにならなきゃ良いなぁと、私もルイ君へと手を振り返した。

 

 

 

 

 

 第三話「 共喰い 」

 

 

 

 

 

 夜凪家で過ごし始めて一週間ほどが経ち、二人との生活も慣れ始めた頃。俺は夜凪家とはまた違う場所へ向かっていた。

 夜凪家のある地域は閑静な住宅地と商店街なのだが、なだらかな坂道が続くこの場所は首が痛くなるほどの高層マンションが折り重なるように建っている。

 

「……」

 

 まったく、風情の欠片もない騒々しいだけの場所だ。こんなところに住むのは情緒を持たぬ刹那的な成金主義者だけだろう。

 一際身長の高いマンションの前に辿り着くとロビーへ入り、オートロックにキーカードを(かざ)してエレベーターに向かう。階数ボタンの下にある黒地へ再びキーカードを翳すと動き始めた。二階、三階、四階……と上がっていき、やがて目的階層に到着する。エレベーターから出るとその階層のロビーが現れ、ようやく玄関が見えてきた。

 相変わらずややこしいな。

 ぼやいてしまうのも仕方ない。

 ここはいわゆる芸能人――いや、芸能人といっても凡百の芸能人ではなく、その中でもトップ中のトップ。大型事務所ナンバー1クラスの者達が住まう高級マンションなのだ。基本的な耐震はもちろん、セキュリティは扉一つ超えたくらいではエレベーターも上がれないほどにある。さらにそのエレベーターには階層表示が無く、マンション内の住人同士にも配慮された作りになっているのだ。

 ポケットから見慣れた鍵束を取り出し、その内の一つで扉を開けると中に入る。

 部屋の主人はいない。

 主人――即ち、幼馴染みは現在仕事とやらで空けているからである。

 

「さて、ここでも世話をしなければならないなんてな」

 

 長い廊下を抜け、何やらカサカサと不審な物音のする部屋の前に立つ。脅かさぬよう静かに開けて入ると、僅かな電気に反射する幾つもの透明板が見えた。

 この部屋は――『虫部屋』である。

 世間では完璧超人やら俺を差し置きお門違いな評価をされている幼馴染みなわけだが、そんな幼馴染みにも当然趣味、好きなものは存在する。たとえばスポーツ、食べ歩きや、歌舞伎鑑賞なんていうのもキャラが立って良いだろう。しかし幼馴染みの趣味は虫育成というどちらかといえばマイナーなものなのだ。

 他人の趣味にとやかく言うつもりはないが、どこまでギャップ萌えを狙うのかと突っ込みたくなる。

 幼馴染みの上司的存在によれば「賞味期限が切れた頃に公表すれば、再び翔ける機会になる」と虫の翅とでも賭けたのか――そんなつもりは毛頭ない――興味のないことを言っていたらしい。

 まあ、あの幼馴染みがただで賞味期限切れになるとは思えないが。

 

「元気にしてたか、弁天丸。緊那羅(きんなら)は今日も楽しそうに動いてるんだな」

 

 入り口側にあるヤエヤママルヤスデ(弁天丸と緊那羅)の夫婦に挨拶をする。

 虫は嫌いではない。

 幼馴染みに付き合わされたということもあるが、俺の栄光を簒奪し続けた幼馴染みと見比べて虫を眺めていると心が癒されるのだ。

 こんな卑屈な容姿を持ちながら生きていく生物がいるんだな、と。それは生命の神秘、人間よりも繰り返した進化の過程なのかもしれないが、現状俺より下ならばどうでも良い。

 幼馴染みが特に好きなヤエヤママルヤスデとオキナワオオカマキリは扉を挟んだところにある。部屋の中心には小さなジャングルともいえる中規模な飼育ケースが存在し、それを囲うように''口''の字型に他のケースが安置されている。

 番も合わせれば百匹ほどか、多数の虫たちが新しい餌を求めて透明板越しに見つめてくる。

 カタツムリに寄生するロイコクロリディウムの繁殖は素人では行えないため、残念がっていた記憶がある。幼少の頃、インターネットで見たそれをどうしても生で見たいと泣いたがために外を走り回って探したことがある。

 珍しくわんわんと泣いたため、仕方なし奔走してやったのだ。おかげで人生で見たカタツムリは千匹をくだらない。

 ちなみに、ロイコクロリディウムのうねうねと動くカタツムリの触覚部分はあれが一匹というわけではなく、育成袋とでも言えば良いのか、数百匹のロイコクロリディウムが一斉に動いている様なのだ。

 

「む――。」

 

 キベリタテハの卵を食草に移していると電話が鳴る。

 蓋を閉じ、通話ボタンを押してスピーカー状態にした。

 

『もしもし?』

 

「聴こえているぞ」

 

 そう返しながら次の作業に移る。数匹ほど蠢くオオクロゴキブリの蓋を開けた。

 

『お、もしかして餌やり中?』

 

「いや、絶賛ドディーたちの家の掃除中だ」

 

 ドディー・スミスから想起した名前を付けたゴキブリたちの排泄物をガムテープを巻いた割り箸で掃除する。当然百一匹もいない。繁殖し過ぎると共食いが始まるため、定期的に卵を排除しているのだ。

 

『もし帰るのが面倒臭かったら、泊まっていっても良いよ。寝室は自由に使ってくれても良いし』

 

「あのやけに柔らかいベッドか? 俺はリビングにあるソファくらいの硬さがちょうど良い」

 

『たしかに昔から敷布団タイプだもんね。クローゼットから出したら?』

 

「いや、今日は遠慮しておく」

 

『……なんで?』

 

「面倒を見なければならない友人の弟妹がいる。何やら仕事で一月空けるからと頼まれたんだ」

 

『一月も?』

 

「ああ」

 

『同い年、高校生だよね?』

 

「そうだが」

 

『ふーん……』

 

 幼馴染みの相槌音の背後から漣の音が聞こえる。おそらく海辺にでもいるのだろう。今回も長期の撮影があると聞き流していただけで、詳細は分からない。というより、その話を聞いていたときは個室レストランの料理に舌鼓を打っていたため覚えていない。

 

「っと」

 

『どうしたの?』

 

「いや、ドディーXIV(14)号が脱走を試みていた」

 

『もう、逃しちゃダメだよ。

 飼育ケースから逃げた虫はすぐに野生の味を覚えちゃうんだから。一度逃して、外の環境を覚えた虫は二度と戻ってこないからね』

 

「わかっている。ギリギリで捕まえたから問題ない」

 

『良かった』

 

「昔、お前が逃したオオカマキリを思い出した」

 

 初めて幼馴染みと山に行ったとき、偶然番のオオカマキリを見つけた。雌雄が分かったのは何となくだが、幼馴染みは喜んで二匹を虫かごに入れた。しかし、家に持ち帰った三日後、柔らかい茶袋と共にオスは消えた。後に分かったことだが、カマキリのメスは交尾のあとオスを食べてしまうらしい。

 それを俺たちはカマキリが勝手に逃げたと判断したのだ。

 

『懐かしいね』

 

「だろう? まあ、結局あのオスカマキリはメスカマキリが栄養素を蓄えるために食べられたと分かったんだけどな」

 

『本当、残酷だよ』

 

「だが、合理的判断でもある。

 ……そういえば、お前はまた違うことを言っていたな……」

 

『あ、覚えてくれてたんだ』

 

「俺にとっても、ある意味焼き付けられた出来事だったからな」

 

 メスカマキリがオスカマキリを食べる。

 何て――可笑しなことだろうか。

 たとえ子を育む判断だろうと、わざわざオスを食うことで子を生かす。命を犠牲に命を与えるなど、これほど不条理なこともない。

 

「たしか――」

 

 俺が言うより先に、電波の先にいる幼馴染みは言った。

 

『子を生み用のなくなったメスの前からオスは消える。

 それを悲しく思ったメスは、オスが他のところに行かないように食べた……でしょ?』

 

「そんな言葉だったな。

 小さいながら、中々ロマンチストだと思ったよ」

 

 人間と違い、虫の世界は中々に残酷だ。

 殆どの虫は人間と違い、一匹のメスを定めることはなく、何匹ものメスと交尾して子孫繁栄を望む。これはきっと虫だけには限らず、真っ当な自然界を歩む生物にとって基本といえるだろう。

 しかし、幼馴染みはそれとは真逆とも言える考えを持った。

 まあ、ロマンチストとは方便で実際は「馬鹿だな」と思っていたのだが。

 まさしく虫ケラの脳しかないカマキリがそんなことを思うわけないじゃないか。所詮、交尾が終わったあとのオスは、メスにとって栄養素の塊なのだ。

 

『ロマンチストかぁ……私はまだ、そう思ってるんだけどね』

 

 強情だな。科学的根拠があるわけで、真実は真実と認めれば良いのに。

 適当に話している間に虫たちの作業が終わる。

 

「そろそろ出る。お前も気張り過ぎないよう、適度に頑張るんだぞ」

 

『ありがと。別にやりたくないのにやってるわけじゃないから大丈夫だよ。

 来週の水曜日にまたそっち戻ることになるから、夜は一緒にご飯食べよ?』

 

「了解。外食か?」

 

『手作り料理が食べたいな。ビーフシチューが良いかも』

 

「わかった。

 また連絡してくれ。前日から煮込んでおいてやろう」

 

 そして刮目せよ、お前と俺の実力差を。俺の方が料理は上手いんだからな。

 

『ん。じゃあ、また』

 

「ああ、また」

 

 通話を切り、部屋から出ようとするとスマートフォンから通知音が鳴る。今度は電話ではなくメッセージだ。相手は話していた幼馴染みで、文章はなく一枚の写真が添えられていた。

 雀色に染まった海は、超克的な美しさを持つ。

 だからお前になんか興味ないからそこを退け、笑顔を浮かべる幼馴染みよ。海だけを写せ海だけを、やれやれ。

 

 

 




『デスアイランド(直喩』

 めっちゃ普通に代々木公園って出したんですけど、代々木公園って東京にありますよね? 調べてもちゃんと出たから大丈夫だと思うんですが。作者、関西で東京には美術館・博物館巡りに二度ほど行っただけなので東京の公園事情を知らず心配です。
 百城千世子が好きなロイコクロリディウムの生態について調べると、中々希少価値の高い寄生虫だと知りました。東京で観測されているのかはわかりませんが、北海道と沖縄の端所各々での観測報告は上がっているようなので、東京にも存在する可能性は高いと思われます。

 さて、少数の人には心当たりがあるかもしれませんが、実は作者は今回の投稿にあたって愚を犯しました。
 なんと、間違って保存しておくところが誤ったタイミングで投稿してしまったのです。しかも三話。せめて二話が良かった……。
 三十秒ほどで消したので気付いた人は少ないでしょうが、気付いた人は全員そこに並んでください。

「おい、心配すんなって」(『メン・イン・ブラック3』より)

 この棒から出る光を見るだけです。
 はい、記憶が消えましたね?
 じゃあ、回れ右をして帰りましょう。

 足と手を揃え、転ばないように踵から踏み出して。





 「以下純粋なる後書き」












 自分、アクタージュの前身となる漫画の方を読んでいないで知り得ないんですが、黒山と柊って組み始めてから結構経ってますよね。
 前身漫画とアクタージュが繋がってるのかはわかりませんが、黒山が世界三大映画祭にすべてに入賞した写真の一つの横にいたんで、たぶん一番直近のときにはいたのか? ……と、思ったら柊まだ20歳やん。優秀過ぎるやん。

 あともう一つ、重要なことなんですけど、原作に準拠すれば夜凪景と百城千世子、両方と同じ歳なんてことはありえないんですけど、そこは千世子に合わせて歳上にすると景との関係始まりが難しくなってしまうので……と、思ったけど、作品内で主人公と景が同学年なんて示していないのか……。ただ、友人と明記した以上、同学年じゃないと違和感があるので、次元の歪みが起こったことにします。どちらがどうなったかは読者様方の都合の良いように解釈をお願いします。景が二年の方が辻褄はあいそう。
 アクタージュはおそらく、原作時系列は四月初め(弟妹の格好、狩猟期間の関係から)なので……ぉおお! 見切り発車の弊害が出始めたぞ!
 でもそう考えると、景たちの行動期間とカメレオン俳優の狩猟期間が合わなくて、カメレオン俳優が狩猟期間外に違法狩猟したことになる。一応自治体に申請すれば駆除対処として出来るんですが、食べてたところ市外でもなければ完全な山奥っぽいのでそういうのでも無さそうですよね。

 まあ、良いか!(すべてを解決する魔法の言葉)
 当作は百城千世子ちゃんと夜凪景ちゃんが可愛い世界だから、隕石が降って終末を迎えようがくしゃみ一つで元通りだし!
 はい、可愛いは正義!
 可愛いの前ではすべてが無に還る!


原作登場人物の背景も少し増やしてほしい

  • 主人公が直接関わるようなら
  • できれば
  • 別に良いかなぁ

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