腕振って、飛車振って、   作:うさみん1121

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前回のあらすじ 

龍華に振り飛車を習うことになった桂香さん

しかし、同門は居飛車党ばっかり!

「名人戦で中飛車が指されたときにカチンときた。名人の伝統を馬鹿にされたと感じた。」

そう語る師匠 

「振り飛車を絶滅させようとして研究し続けた。」

と公言している天才の弟分

「振り飛車なんて消えてなくなれ!」

と振り飛車党総裁に文句を言った妹分

こんな環境で1人だけ振り飛車党になるなんて、、、
一体どうしたら良いって言うのよ!

(一回やってみたかった)


第10話

間違いなく俺の娘は将棋の歴史が始まって以来の天才と言っていい。

歴史を見ても匹敵する人がほとんどいない。有史以来、龍華と並ぶ天才を挙げるとするならば、

 

江戸時代から現代将棋の感覚を持っていた天才、天野宗歩

戦後の将棋界を作った大名人 十五世名人

前人未踏の境地に立つ絶対王者 名人

AIが発展してきた将棋を打ち崩す西の魔王 九頭竜八一

 

そうして最後に生石龍華。どこにでも自在に飛車を振り、人々を魅了する将棋を指す。並みの天才を焼き焦がす程の天才。

 

同じ時代に同程度の天才が生まれてきてくれた事を親としてはほっとしている。ただ1人の棋士として娘以上に脅威に感じるものは無い。

 

~ 著 生石龍華 「腕振って、飛車振って」 終わりに変えて 文 生石充 ~

 

 

 

「飛鳥が将棋を教わりたがっているだぁ?」

 

「ええ、気づいていましたか?」

 

巨匠に初めて飛車を振って勝った直後、俺は以前に飛鳥ちゃんに言われたことを巨匠に相談した。

 

「そりゃあなぁ、薄々は気づいてたさ。飛鳥はな、子供のころから俺や龍華、客の指す将棋を見ていた。最初は構ってもらいたがってだったんだが。普段は優しいお姉ちゃんが、将棋をやってるときに邪魔をするとすっごく怒るんだぜ?そりゃあ、何をやっているのか気になって当然だ。」

 

駒を片付けながら、父親の顔で語る巨匠をなんだか新鮮に感じた。

 

「俺だって、子供が生まれる前から子供と将棋の仕事が出来たらなんて何度も夢を見てきたさ…親子で将棋を仕事に出来たら楽しいだろうなって。ただ、飛鳥には才能がなかった。」

 

昔を思い出すように語るその口調には、どこか思うことがあったのだろう。

いつものようなサバサバとした感じはなく、どこかジメジメとした暗い空気を感じさせるには十分な声色だった。

 

「そもそも、名前だって飛鳥じゃなくて飛車にするつもりだったんだぜ。龍華の時も竜王にしようと思っていた。今でもこの時のことでカミさんと喧嘩になるぐらいだ。」

 

無茶苦茶だなぁ。この人。

 

「カミさんの大反対にあってなぁ、結局飛鳥に落ち着いたんだが、今にして見れば正解だったな。飛鳥には才能がない。龍華とはちがってなぁ」

 

タバコをふかしながら、どこか遠くを見るような目をして深く息を吸い込む巨匠は棋士としての顔と父親としての顔、その両面から苦悩が読み取れる気がした。

 

「学生の大会ではそれなりにいい線行ってる。そりゃあ女流棋士にはなれるかもしれない。だけど、この後一生比べ続けられる相手は人類史上もっとも将棋が強い女だぜ?」

 

つまりは姉である、生石龍華。

史上初めての女性棋士にして、現タイトルホルダー。

 

「この世界に入ったら一生この世界で生きることになる。一生龍華と比べられながら生きることになる。この世界で才能がなくて生きていくことがどれほど大変か知ってるだろう?」

 

「はい」

 

志半ばで奨励会を去った人を何度も見てきた。将棋さえあれば良いと思ってきた少年が、将棋を憎む青年になってこの世界から消えていくのを何度も見てきた。

 

「たとえ報われて女流棋士になれたとしても、女流棋士として結果を残したとしても、比べられる対象は龍華だ。大きすぎる才能は人を焼く。ただでさえ生きるのが辛い世界なのに、これじゃあ、あまりにもでなぁ。」

 

一言づつ区切るようにして言ったその言葉の重みに俺は何も言えなかった。

努力が報われるかわからない世界で、たとえ一つの結果を出しても、それが絶対に報われない事実。

そんなある種の地獄が分かっているのに、そこに好き好んで堕とす親はいない。

 

お互いに何も言えなくなって静寂に支配された道場はずぶ濡れのあいがやってきたことで終わりを迎えた。

 

 

ーーーーー

 

私、清滝桂香が生石龍華玉座に振り飛車を習い始めてちょうど十日の今日は、練習将棋もほとんど行われず、八一君の対局を銀子ちゃんと龍華ちゃんの三人で観戦していた。

三連敗中の山刀伐八段相手にゴキゲン中飛車で挑む八一君。

 

大方の予想では超速3七銀型を使うと思っていた山刀伐八段が指した手は、超急戦5八金右だった。

 

「へぇ」

 

それを見て龍華ちゃんは頬を吊り上げ、笑ったように見えた。

ゴキゲン中飛車は龍華ちゃんもよく使う戦法だ。

どこまで研究が行われているのか興味があるのだろう。

 

盤面は無慈悲に進行し、中飛車の八一君が押され、手が止まった。

これはもう、私から見ても詰ませられる。それほど八一君の方が悪く見えた。

 

「これはもうクソガキが読み切れるかどうかだな。」

 

「どういうこと?」

 

龍華ちゃんの言葉に銀子ちゃんが即座に反応する。

どう見たって、八一くんの劣勢だったからだ。

 

龍華ちゃんは静かにおいてあった盤の駒を動かす。

すかさず、銀子ちゃんが手を打つ。

そうやって出てきたのは三十手も先の局面。

そこで現れた変化は三連続の限定合駒だった。

 

「これが打てるかが今の局面で唯一の勝ち筋や。この変化を読み切れるかが勝負やな。」

 

私も銀子ちゃんもこの盤面に震えていた。

とてつもない奇跡を簡単に読み取り、簡単に変化として出現させる力。

これを見て、私は銀子ちゃんとの研究会が始まった直後銀子ちゃんが言っていた言葉を思い出していた。

 

「男性と女性で同じ棋力でも駒の見え方が違って見える。見えているのは、祭神雷、生石龍華、それと…」

 

「あれはね、将棋星人なの。地球人とは見え方が根本的に違ってくる。特に八一と生石龍華は別格よ。あの二人とは同じゲームをしているとは思えない。」

 

なるほどね、銀子ちゃん。

これが将棋星人ってことね。

自分の目で見るまで信じられなかったけど、確かにこれは、ヤバイわね。

 

盤面は龍華ちゃんが示したように進んでいった。

それを見て、私たちの顔も青白くなっていっただろう。

そうして局面はそのようになった。

 

「ようやく、まともな将棋を指すようになったじゃないか、クソガキ」

 

そう言ってニヤリと笑った龍華ちゃんの方を私も、銀子ちゃんも直視が出来なかった。

 

「しかし、山刀伐さんの研究も大したことないな。まだ、この変化をやってるなんてな。」

 

つぶやかれた言葉に驚く。名人との研究成果を大したことない?まだこの変化?

じゃあ一体この娘はどこまで研究してるって言うの?

 

「来週ちょうど山刀伐さんとの対局があるし、ゴキゲン中飛車で叩き潰したるか」

 

そう言って、龍華ちゃんは帰って行った。

その後ろ姿を見送ったあと、銀子ちゃんがこう言った。

 

 

「ねぇ、わかったでしょう。桂香さん。…あれが、将棋星人なんだよ。」

 

 




飛鳥ちゃんの学園将棋バトルストリー「私のお姉ちゃん」は鋭意制作中!
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