将棋における才能とは二種類のタイプがあると思っています。
1という時間で1勉強できる人と10勉強できる人がいる。単純に研究できる量が違うのだから、こういう人は純粋に強くなります。
もう一つは、1という勉強量で10という結果を残す人で、こういう人が将棋の世界では目立って天才と言われやすかったりするということです。
私は、将棋界における天才とはこの二つをどのくらいの高いバランスで持っているのかで決まると思っています。
名人にしても、インタビューでは自分は努力型などと言っていたりするじゃないですか。自分は努力しているから強いのだと。確かに相当努力しているとは思うんです。
普通の人は10って時間勉強したら、10っていう結果を残します。
名人が、つまり1の時間で10勉強出来る人が、10の時間勉強して、100の勉強をする。その100の勉強で1000の結果を出しているっていうのが事実なんだと思います。側から見たら、10の勉強時間で1000勝っている風に見えるんですよ。
これが努力型だと語る天才のからくりなんだと私は思います。
~ 玉将リーグ戦 リーグ出場者インタビュー 「才能と努力」 生石龍華にインタビュー より 一部抜粋 ~
「お父さん、わたしも研修会に入りたい。」
その日、私は我慢が出来なくなった思いを父につげた。
「将棋は諦めろって言ったよな?」
父はイラついたようにタバコをふかしながら私を睨みつけた。
父は私に将棋を指してほしくないのだ。
「お姉ちゃんみたいに才能がないのなんてわかってるよ。それでも私は将棋を指していたい。」
八一くんが連れてきたあいちゃんは研修会に入っているという。
確かに年齢を考慮すれば、あいちゃんの才能は段違いだろう。
私はあいちゃんみたいに脳内に何個も将棋盤を持っているわけでない。
詰将棋もあんなに早く解けないし、将棋をはじめて三カ月でこんなに強くなったなんて想像もつかない。
でも、今現在の私の棋力とあいちゃんの棋力にそんなに大きな差があるとは思えなかった。
お姉ちゃんが奨励会の有段者になったころくらいからお父さんは私に将棋を教えてくれなくなった。
お姉ちゃんと私の才能の差に気づいたからだ。
だから私は将棋は基本的に見て学んできた。
道場の人の対局を、父の対局を、姉の対局を。
わからないところは図書館や古本屋で本を読んで学んだ。
高校に入って、将棋部に入って、もっといろんな人と指したいって思った。
いつも引っ込み思案な私が、飛車を振ってどうどうと攻めている時は自分らしく生きている気がした。
そして何より、真剣勝負に生きているお父さんとお姉ちゃんに憧れない理由がなかった。
お父さんから目を逸らしたら負けだ。
ここで逸らしたら、今までと何も変わらないままだ。
「言ってもわかんないみたいだな。…あいちゃん、ちょっとこっちに来てくれ!」
お父さんはあいちゃんを私にぶつけて、私の心を折ろうとしているのだ。
だけど、それは私にとってはチャンスだった。
「もし、あいちゃんに、研修会員のあいちゃんに勝てたら、私に研修会に入る許可をください!」
このチャンスを逃す気なんて私にはさらさらなかった。
先手番のあいちゃんが中飛車、それに対して私が指したのは中飛車だった。
「おい、飛鳥。将棋をなめているのか?」
お父さんから怒気の混じる声が聞こえる。
先手と後手が同じ戦形を選択した場合一手遅い後手の方が不利になるのが常識だからだ。
でも、私にはこれしかなかった。
「私は中飛車が好きだから!」
それに、お父さんも、お姉ちゃんも大事な時に中飛車で勝ってきた。
お父さんが公共放送杯で優勝した時も、初めて名人からタイトルを奪った時も、
お姉ちゃんが三段リーグで昇段を決めた時も、玉座のタイトルを奪った時も、
大事な時は中飛車で勝っている。
だから、私も中飛車で勝つ!
堂々と真ん中に飛車を振っている時だけは、もっともっと、前に行けるから!
局面は私優勢に進んでいく。
自玉が危なくなるにつれて、あいちゃんの集中力も上がっていくのを感じる。
「こう、こう、こう、こう、こう、こう、こうこうこうこうこう…」
頭を揺らして考えるあいちゃんに気圧されそうになる。
弱気になるな、私。集中しろ。
今、私の方がいいんだから。ここで下手な手を打って食いつかれるわけにはいかないんだ。
「私の中飛車は、道だ!」
たった二週間の勉強で、小学生に抜かれるほど、私の中飛車は甘くない!
「…あつい」
道場の中の誰かがそうつぶやいた。
「…負けました。」
私はどうにか勝った。
相手の投了を聞くのと同時に、父の方に顔をむけた。
お父さんは渋い顔をしていた。
「…この世界に入ると一生、龍華と比べられながら生きることになる。女流棋戦でいくら結果を出しても、龍華の妹だからで流されてしまう。そんな世界だ。それでもいいんだな?」
「…うん、私、将棋が好きだから」
そう言い切ると父は破顔した。
そして、私の後ろに向かって声をかける。
「だとさ、龍華」
いつの間にか後ろにいたお姉ちゃんは私の頭をなでると、一言
「あつい、いい将棋だったよ」
私のヒーローである私の姉は、私の一番近くで、見ていてくれていたのだ。
やっぱり、お姉ちゃんは私の一番のヒーローだ。
毎回冒頭で書く、書物やらインタビューやらって実はいらないって思われてたりするんんですかね?
まぁ、不評でも続けますけどねw