腕振って、飛車振って、   作:うさみん1121

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第13話

その対局は虐殺というのが相応しかった。

竜王戦決勝トーナメント一組三位対二組優勝ーー山刀伐八段対生石龍華玉座

研究家で知られる山刀伐八段の研究を生石玉座が完全に踏みつぶした形だった。

先日の九頭竜竜王が指したゴキゲン中飛車での死闘は記憶に新しいが、今回のは違った意味で記憶に残る闘いとなった。

 

九頭竜竜王との対局では、圧倒的な研究の厚みを見せた山刀伐八段だったが、今回の対局では生石玉座の研究の深さを見せつけた形だった。

戦形はゴキゲン中飛車。

生石玉座の中飛車が、山刀伐八段の超速を喰い破ったのだ。

一手パスをし、手待ちをすることで端歩を入れさせ、後々の角の筋を先に消させ、逆に猶予を与える形に誘導した。

五筋から飛車と銀で喰い破り、桂馬と銀の応援で囲いは囲いとしての役割を果たすまえに、潰された。

むしろ、玉の周りに寄せた駒のせいで上部脱出による延命すら出来ず、74手という短手数での決着となった。

 

勝った生石玉座はインタビューで、

 

「九頭竜竜王との対局を見て、研究がまだまだ行き届いてないと確信した。彼(山刀伐八段)の研究は怖いが、研究が行き届いてない戦形ならと思い中飛車にしようと思った。」

 

「トッププロは居飛車が多いので、居飛車の研究が優先になるのは当然のこと。今回はその隙をつかせてもらう形になった。」

 

「無事に勝ちを拾えてよかった」

 

と語った。

トッププロですら舌を巻く研究の山刀伐八段を研究が行き届いていないと指摘する生石玉座の研究の深さ。

その事実に多くの棋士が唖然としていることだろう。

研究の深さでもその存在感を見せつけた「捌きの女帝」が竜王戦の挑戦者に向けて好発進を切った。

 

~ 毎朝新聞 将棋欄 竜王戦決勝トーナメント より 一部抜粋 ~

 

 

その対局を中継で見ていた俺ーーー九頭竜八一は正直言葉も出なかった。

圧倒的としか言えないその結果に鳥肌がたった。

俺が手も足も出ないほどの研究をしていた山刀伐八段に研究で圧倒したのだ。

これがタイトルホルダーだと、そう主張するかのような圧巻の差し回し。

宣言された通り、挑戦者として生石玉座が挑戦してきた事を想定する。

今回はゴキゲン中飛車だったが飛車を振る場所は中飛車だけではないのだ。

四間飛車、三間飛車、向かい飛車。その全てを指しこなす。

電王戦の時に袖飛車、そして右四間飛車などの居飛車の戦法を力戦形で指す可能性も考えられる。

特に角交換振り飛車の勝率はすさまじいものがる。

今回のゴキゲン中飛車、角交換四間飛車の二つのエース戦法。

後手番で力戦形で相手を叩き潰すダイレクト向かい飛車。

どこにでも振れる。なんでも囲える。研究は棋界でトップクラスの研究を足りてないと指摘する。終盤は文句なし。

 

…俺は挑戦者の本命は名人を想定している。次点で歩夢。

もし、龍華さんが名人を破るようなことがあったら、本命は龍華さんだ。

龍華さんは昨年名人から玉座のタイトルを奪い取った。可能性は十分に考えられる。

もし、龍華さんとタイトル戦を戦うことになったら俺は勝てるのだろうか?

 

急に襲ってきた漠然とした不安を払拭するべく、対ゴキゲン中飛車の研究をすることにした。

 

 

ーーーーー

 

完璧だと思っていた。

才能がないと周りに罵られながらも、必死に研究を続けてきた。

矢倉、角換わり、相掛かり、横歩取り、中飛車、四間飛車、三間飛車、向かい飛車。

 

才能がないと言われ、プロにはなれないと罵られ続けてようやく23でプロになった。

プロになっても、いや、プロになったからこそ周りは天才だらけだった。

俺ーー山刀伐尽には才能がなかった。

だから天才と闘うために周りに馬鹿にされようと、すべての戦法を研究した。

天才のように全ての戦法に対応できない。

天才のように一つの戦法のスペシャリストになれない。

凡人に出来ることは研究だけだった。

天才の発想を盗み、天才の手を分析し、天才以上の手をしらみつぶしに探しあてるしか、出来る事がなかった。

全部に対応できるだけの研究をした。

研究は天才を凡夫に変えるための武器だった。

 

その武器が目の前で圧し折られた。

 

天才と闘うための武器が、武器の性能でも負けていた。

この武器の有用性が神に認められ、一緒に研ぐようになり、百戦錬磨の鬼を倒し、A級にまで上り詰めた。

完璧だと思っていた武器は張りぼてだったのではないだろうか。

 

八一くんのようにこの武器の隙を突かれたのならよかった。

真正面から研究が足りていないと言われるのは自信を無くすのには充分だった。

 

あの日から、研究しても研究しても、頭のどこかから

 

「研究が足りてない」

 

玉座の声が消えなかった。

自身の指す手は震え、頭の中は不安が支配していた。

 

もう以前のように自分の研究を振りかざす気概を持てなくなっていた。




凡人の心を圧し折るのが天才の務め!
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