腕振って、飛車振って、   作:うさみん1121

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よくよく考えたら四カ月とか空いたけど、それってラノベの新刊一冊出るくらいだよね

久保先生がタイトル戦出たり、名人戦で四間飛車の形になったりでまたやる気が出てきましたので、、、頑張ります




第15話

将棋の歴史は長く、その流れを最初からたどるのは不可能である。

しかし、大衆文化としての将棋は辿ることが出来る。

その中でもプロと言われる棋士の対局がファンにとって当たり前のものになったのは、公共放送杯の影響が大きいことは明らかだ。

 古くはラジオ放送から中継が始まった一般への普及が当たり前になる先駆けになったこの棋戦では未だに女性が優勝したことが無い。

 それもそのはず、女流棋士がこの棋戦に参戦枠が出来たのは平成になってからの事で、そんなに歴史がないのだ。女性棋士枠が一枠のため、この棋戦において女性同士の戦いが起こった記録はない。

 しかし、史上初女性同士の対局が記録された。トーナメントの組み合わせの妙があったが、これは歴史的な対局になったといっても過言ではないだろう。これから、女性同士の対局が将棋の新たな普及の力になることは間違いないが、このような形でお茶の間に届いた事は、将棋の関係者として感動を覚える。

 

~「公共放送将棋テキスト」11月号 「女性同士の一騎打ち ~最強の振り飛車女決定戦~」より一部抜粋 ~

 

公共放送杯。

将棋界がもっともお世話になっている棋戦にである。今年で70回を数える棋戦で、本選において女性同士が当たったことは今まで一度もない。

 

だからこれが史上初の女性VS女性

トーナメントの決定は運営側の仕事なので私たち棋士がどうにか出来る事ではない。

それに私は今年からタイトルホルダー

シード枠で二回戦からの登場だ。だからこそ今年中に公共放送杯で女流棋士と当たるとは思ってなかったのだ。

 

その収録があったのは、まだ夏で太陽が威張り散らしてる時だった。

 

ーーーーー

 

Q 今季公共放送杯戦の意気込みを教えてください

A タイトルホルダーとして恥ずかしくない対局をしたいと思います

 

Q 対戦相手の印象は?

A 最近勢いのある女流のトップで、独創的な一手を指す方です。棋風としては勢いのある攻め将棋といった印象を持っています。

 

Q 視聴者の方に向けて一言お願いします。

A 非常に注目されている対局だと思いますので、ミスのないように自分の将棋を指せたらと思います。

 

ーーーーー

 

振り駒の結果私は後手

 

「時間になりましたので祭神雷女流帝位の先手番で初めてください」

 

記録係の声が無機質に収録所に響くと同時に僅かの間も感じさせずに駒音が響く

 

「今日は、ここ!」

 

そう宣言すると彼女は飛車を横に走らせる。

彼女の飛車が止まったのは玉の真上。5八飛車。中飛車だ。

 

その手自体に何か思いがあるというわけではない。

ただその手を見て、私は彼女と対局をして負けた年配の棋士のことを思い出した。

その先生はもう棋士としては晩年と言ってよくてもうすぐ還暦を迎える方だ。

30代の時にはA級やタイトル戦を経験し、粘り強い負けない将棋が売りの棋士だった。

物腰柔らかく、普段は優しく勝負に厳しい多くの尊敬を集める棋士に対して、前を走ってきた先人の将棋に対して、彼女はあまりにも礼をつくしていなかった。

 

角道を開けて、飛車を振り、三間飛車に構える。

彼女が玉の囲いもそこそこに仕掛けてくる。

勢いよく繰り出してくる銀と中央に居座り睨みを利かせてくる飛車の圧力はなかなかに無視しがたいものだ。

 

そもそも彼女の将棋への向き合い方が気に入らない。

振り飛車占いとファンに言われる戦形の決め方が気に入らない。

振り飛車は居飛車と違い、その性質上必ず自分で戦形の決定権がある。

事前の準備をしているように見えず、その場の勢いだけで将棋を指すようなそれを私は心底嫌いだった。

 

将棋界には色々な無念が形を変え、重しになり、呪詛のように絡まりあいながらうごめいている。

そんなものを知っているからこそ、人事を尽くしているようには感じない彼女の将棋への態度が私は気に入らない。

 

そんな相手に、私は負けない。

 

ーーーーー

 

自分の価値観を変えてしまうほどの負け。

 

私ーー祭神雷は今日まで最強の女は自分だと信じて疑ってなかった。

そんな私だが、もしかしたら自分よりも強いかもしれないと思っていた最強の女との格の違いを知った。

 それは、白髪ブスの銀子でも八一の弟子のチビどもでもない。

正真正銘の最強の女。その実力は私の想像を超えているのか。はたまた私に喰われたいしたことないニセモノなのか。

 

ニセモノだったら、食いつぶすだけ。八一みたいにホンモノだったら、楽しむだけだ。

 

 

食いつぶす気で振った中飛車は、最終的には彼女の受けに潰された。不思議な感覚だった。

気持ちよく、指したいところに指せているのに、気が付いたらその壁は厚く、崩せなかった。

焦って攻める私とは対照的に取った駒を惜しみなく受けに使い、気が付いたら私の攻めは細くなっていき、足りていると思っていた玉までが果てしなく長い道筋に感じた。

 

この女の囲いは平凡な美濃囲いだった。

最初の三間飛車から四間飛車に振り直し、守りの急所を狙われた。

捌きにいった銀を受けに使われ、交換した桂馬でスペースを埋められる。

交換した角は馬になり、攻め急いだ私の飛車は簡単に詰まされた。

二枚の飛車は龍になり、片方は玉を追い立て、片方は出口に睨みを効かしている。

 

指している時に私の中で音がした。

八一と指した時にも感じたもの。剥がれる音。

自分の価値観が剥がれる音だ。

自分が絶対だと信じていたものが剥がれる音。

 

「ギヒヒ…」

 

歯の間から、漏れる息に混ざって出たうめき声が、会場に響いたのを感じながら駒台に手をかざして頭を下げる。顔を上げたときに見た彼女の目は、私を見て無かった。

それは、私が他の女流棋士に向けるものと同質のものだった。

 

感想戦もそこそこにスタジオを後にする彼女を後目に私は決意した。

この人の視界の中に入る。

 

新しい目標を見つけた私は、夕立の中に傘も指さずにフラフラ進むことにした。

はるか先にも、すぐ近くにも感じる夏の西日を目指して。




自分の中で消化不良なので、この話はまた改稿して全然違う話にして投稿するかも

感想を返す気力がなくてすまない…
ちゃんと読んでるから…

今月中に後何個か投稿する予定だけど予定は未定
色々予定が無くなる11月後半から年末にかけて頑張って完結させたい


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