腕振って、飛車振って、   作:うさみん1121

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第3話

自分がプロであるということの証明のために強く意識していることがある。それはアマチュアの方に夢を持たせることが出来るのかということだ。プロの将棋は居飛車が多い。居飛車の将棋ばかりでは振り飛車党の人はつまらないと感じることが多くあるのではないかと思う。いや、実際にそうなのだという声をファンから聞く機会はある。(もちろん、私のファンが振り飛車党であるということもあるが…)そんな時に私は、たまらなく申し訳なく思ってしまうのだ。

それに、ソフトが指しても居飛車、プロが指しても居飛車では代り映えしなくてどうもつまらないと客観的に思っている自分がいる。プロであるということは夢を配らないといけないということだ。次の世代に夢を見せないと将棋は新しい時代に繋いでいけないのである。

極論、私から言わせれば居飛車の高度な戦いが見たいなら、ソフト対ソフトの対局を見ていればいいのだ。ソフトでは指せない人間味あふれた志向の一手を指す。そのためにプロがいるのである。プロでなくては絶対に指すことの出来ない一手。それを指すことこそがプロの道である。故に私は自分の欲する心に従って飛車を振るのだ。

 

~ 著 生石龍華 「腕振って、飛車振って」第二章 飛車を振る意味 より一部抜粋 ~

 

玉座戦というタイトルがある。このタイトルは名人の牙城としても有名だ。それもそのはず、このタイトルは平成に入ってから名人しかなってないと言っても過言に聞こえないのだ。19連覇含む24期。これ以上の連覇記録はこれ以上出ないだろうと言われている。福田九段の「永世前玉座」というギャグは有名だ。一時期不調に陥った名人もこのタイトル戦だけは落とさなかった。

 

この棋戦では毎年名人の強さのための生贄のようなものだ。玉座をただ1人奪取に成功したのは棋界に1人しかいない永世竜王資格保持者のみで、それも翌年には名人に奪い返されている。毎年勝率の高い若手有望株や30代、40代のタイトル経験者が生贄となっているのだ。そしてその生贄の座に今年は私が選ばれた。

 

だが私は生贄になる気などさらさらなかった。

 

運命の舞台となる場所は玉座戦第五局神奈川県元石湯陣屋

二勝二敗で迎える最終決戦。振り駒の結果、私は後手番になった。名人の初手は案の定2六歩。居飛車明示だ。

対して私は角道を開けずに五筋を突く。中飛車である。

 

私は先手が欲しかった。プロの将棋というのは先手の方が勝率が高いというのは有名だ。これは最初に指せる一手分のアドバンテージをプロは維持して勝利につなげることが得意ということだ。

だから私の選んだ戦法は先手をくださいという戦法だ。

 

汚いやり方だと感じる人もいるだろう。正々堂々戦えというファンの声もあるだろう。

 

それでも私は勝利が欲しい。父と肩を並べる棋士である事を証明するためにも、負けるわけにはいかないのだ。先手を取り返すために着想を得たのは古の技だった。

 

風車 である。

 

風車とは本来は居飛車穴熊に組まれ攻められた際に柔軟に対応する陣形である。しかし、この陣形はプロの棋譜はおろかアマチュアの棋譜にすら滅多に表れない陣形だ。それは何故か。

 

勝つ気がない陣形なのである。攻撃を耐え、忍び、例え負けそうでも自分からは攻め入らず、ただ嵐が過ぎ去るのを待つだけの陣形である。勝つために将棋を指すならまず現れない形なのだ。

 

この風車の特徴は銀という明確な攻撃目標を作ることで攻めを誘発させ、受け潰し、千日手に持ち込むというものだ。手損も駒損もして、良くて千日手という酷い手なのだ。

 

それでも、私は勝つために先手が欲しかった。

 

午後のおやつの時間の少し前に私の思惑は成功した。

 

「87手を持ちまして、千日手が成立しました。対局者は一時間の休憩の後、先後を入れ替えて指し直しになります。」

 

この後の千日手指し直し局を制し、私は玉座のタイトルから名人を叩き落としたのだった。

この話はワイドショーでも話題に上り、世間を騒がしたがそんな話題はこの二カ月後に最速、最年少で最高のタイトルをもぎ取った九頭竜八一新竜王に流されてしまうのだった。

 

 

ーーーーーー

 

この日関西将棋会館にて生石充玉将は歓声に沸く、棋士室の真ん中にいた。

俺がやったわけでもないのに、周りが勝手におめでとうと俺に言ってくる。

俺がやったわけでもないのに、記者が俺に質問を飛ばしてくる。

非常に不思議な感覚だった。

 

将棋を指すようになってから、誰かを応援することなんてなかった。

応援なんてしなくても龍華は勝手に強くなって、さっさと俺の手元から飛び立って行ってしまった。

 

東京に行ってしまってから、全然会ってもない娘の顔を思い出す。

そういえば最後にしゃべったのはいつだったか。

玉将戦の時はろくにしゃべれなかった。

盤を挟めば、親子と言えど敵なのだ。

 

向こうで、友達はいるのか、元気でやっているのか、

 

聞きたいことは無限にある。

 

ケータイが鳴り、メールが来たことをつげる。

 

勝ったよ。

 

たった一言だけ書かれたメッセージに頬が緩む。

 

俺は、「おめでとう」と一言だけ返し、すっかり暗くなった夜空を見上げる。

月が祝福するかのように光っていた。

娘がタイトルを取る、こんな事は自分以外に経験をした人間がいないかと思うとさらに気分が乗ってくる。

 

今夜はいい酒が飲めそうだ。自分がタイトルを初めて取った夜よりもずっと。

 




それっぽい戦法をそれっぽく書いてるけど、実際にこんなことは出来ません。
作者は観る将で、昔の人の棋譜とか並べるのが好きなのです。
妄想がはかどってます。
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