腕振って、飛車振って、   作:うさみん1121

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一応確認してるけど、誤字脱字を教えてくれる親切な人がいるおかげで確認が甘くなっているのが現状…

申し訳ない半分、ごめんなさい半分


第5話

振り飛車はアマチュアで人気の戦法だというのは言うまでもないことで、日頃から私を応援してくれるファンの方々には感謝が尽きない。

 では、どうして振り飛車がアマチュアで人気なのかというのは諸説あるが、ここでは私の持論を語らせて頂きたいと思う。

 それは、振り飛車が分かりやすく将棋の魅力を伝えられているからなのではないかと私は思う。

将棋の最大の魅力はなんと言っても、相手の駒を取り、その駒を自分の手持ちの駒として扱えるという点である。こんな特殊なルールはチェスにも中国将棋にも存在しない。この点こそが最大の魅力なのだ。

振り飛車の捌きというのはこの面白さを初心者でも簡単に、そして最大に楽しむことができるものなのではないだろうか。

 幼いころに感じたであろう面白さというのを追求することをやめないことがもしかすると私が飛車を振る最大の理由なのかもしれない。

 

~ 著 生石龍華 「腕振って、飛車振って」 第一章 将棋の魅力、振り飛車の魅力 より一部抜粋~ 

 

タイトルを取った後の私は将棋の調子自体は落ちていないものの、重要な局面で勝ちきれないというのが年末まで続いていた。

 

玉将リーグでは最終戦で全勝同士の対決に敗れ、リーグ残留はしたものの、挑戦権は逃す格好になった。

今年こそ、父と良い勝負が出来るだろうとタイトルも取って自信があっただけに残念だった。

 

この気持ちを引きづったまま、盤王戦挑戦者決定変則二番勝負の敗者側からの挑戦でいいところなくあっけなく負けた。

序盤でリードされ、中盤で組付され、終盤でわずかな希望にかけて粘ったが結局負けになってしまった。

 

勝ちきれない将棋が続いていて、このままだと負け癖がつくのではと不安に駆られているだけに、今日の将棋は勝ちたかった。

 

毎朝杯将棋オープン戦。優勝賞金750万円、準優勝250万円のこの棋戦は、一部のタイトル戦の賞金より多い賞金なのだ。また、現在残り2つのタイトル戦ではない全棋士参加の棋戦と比べて多額の賞金なのだ。

トーナメントによる勝ち抜き戦のため、本選を全勝(4連勝)するだけで1000万の大金が転がり込んでくるのだ。

 

一般的に準タイトル戦と言われるこの棋戦で勝ち切ることは、重要な場面で負け続けている現在において、非常に大きな意味を持つ。

 

決勝、準決勝は同日行われ、公開対局となっている。

いつもの畳の上の対局とは違い、椅子に座っての対局になる。

 

準決勝の相手は新進気鋭の水田五段。オールラウンダーで、なんでも指しこなす器用な人だ。

 

対局は先手をとった相手が飛車を五筋に振り、対する私は四間飛車に振った。

父の言葉を借りるなら、相手はオールラウンダーを名乗るスーパー銭湯の振り飛車。

それに対して、こちらは純度100%の振り飛車だ。

負ける気など、さらさらなかった。普段は居飛車を好んで指してるくせに、たまに気まぐれで指すような振り飛車に負けるような脆い将棋を指すなんてありえないのだ。

 

 

ーーーーー

極限まで集中すると色の概念が消えて、白と黒しか存在しない世界になる時がある。

その世界では、自分の目の前には黒く広がった海が存在していて、自分はその海の中で潜っている。

そこは暗く、深く、どこまで行っても先が見えない。

それでも、どこまでも深く沈んでいくと、突然白くなるのだ。

 

そこでようやくはっとして周りを見ると自分の将棋は考えるところは終わっていて、あとは間違えずに詰ますだけになっている。考えていたことは思い出せるのに、同時にあの黒い海に自分がいたという実感が無くならないのだ。

 

この黒い海に呑まれたのは3度目だった。

最初は小学生玉将戦の決勝の時。二度目は三段リーグの最終戦。

どっちにも共通して言えるのは、この経験を経ると自分の将棋の見える量が大きく増えるのだ。

今まで見えなかった手が見えるようになる。

一見悪手に見えるような手も、数手後になって状況が一変するような手になるように見えるのだ。

 

平たく言うと、これを体験した後だと世界が変わったように見えるのだ。

つまりそれは、自分がまだまだ成長できるのだという充実感を私にもたらしていた。

 

この充実感のまま、私は無事に毎朝杯を優勝し、全棋士参加棋戦での初優勝を飾ることになった。




りゅうおうのおしごと!では実際の棋戦の名前は竜王戦、名人戦及び順位戦しか使用してない。現実の棋戦の名前とごっちゃになるかもしれないから、一応ここに現実と作品内での名前の変換について記載しておきます。

(実在名)⇒(りゅうおうのおしごと!の中での棋戦名)

(王位戦)⇒(帝位戦)
(王座戦)⇒(玉座戦)
(棋王戦)⇒(盤王戦)
(王将戦)⇒(玉将戦)
(棋聖戦)⇒(棋帝戦)
(叡王戦)⇒(賢王戦)
(朝日杯)⇒(毎朝杯)
(NHK杯戦)⇒(公共放送杯戦)
(銀河戦)⇒(星雲戦)
(将棋日本シリーズJT杯)⇒(将棋賞金王シリーズSB杯)

この作品でもこの設定に準拠していこうと思ってます。
現実の方の名前で書いてたら教えてください。

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