『M-デイ(X-MENでの事件)みたいなことが起こったら?』 作:蜜柑ブタ
赤弓みたいになっていくオールマイトの話を書きました。
あんまり赤弓っぽくはないかも。
ザワザワ……ヒソヒソ…。
オールマイトは、優れた聴覚で野次馬達の声を聞き取った。
怖い。恐ろしい。化け物。暴力。いつか、私達を…。
そんな声を聞きながら、オールマイトは、自分の手を見つめた。先ほど殴り飛ばしたヴィランに堕ちたかつての同胞であるヒーローの鼻血がついたのか、少し血がついている。
事件現場を包囲していた警察隊のところに救急車が到着し、オールマイトが殴って意識を飛ばさせた元ヒーローのヴィランを搬送していった。
人質にされていた子供達も家族に抱きしめられて泣いていた。その子供中に、擦り傷を負っている子供を見つけ、オールマイトは、絆創膏を取り出して近づこうとした。
すると、ヒッ!と子供とその家族が青ざめた顔で短い悲鳴を上げて固まる。
「これを使いたまえ。」
「イヤー! ヴィラン怖いよー!!」
目線を合わせて絆創膏を差し出したのだが、子供は母親に抱きついてギャンギャン泣いた。
子供はオールマイトをヴィランだと叫んだ。
「そうか…。私が怖いか。では、ここに絆創膏の箱だけ置いておく。消毒してから使ってくれたまえ。」
オールマイトは、絆創膏が詰った箱を近くに置き、立ち上がって背中を向けて離れていった。
事件現場で警察との事件のまとめをしている中、オールマイトはさりげなく、視線を……、置かれっぱなしになっている絆創膏の箱に向けたのだった。すでに子供達もその家族も帰っていていない。
これが……、S-Day以降からのヒーローへの社会からの扱いだった。
僅か数パーセントしか残らなかった個性持ちの人間は、無個性が大半を占めることになった新しい世界で、ヒーローであろうと、ヴィランであろうと、一般人であろうとも、ヴィランと一括りにされ恐れられるようなってしまった。
それを悲観し、そして個性を失ったので深く絶望したかつてのプロヒーロー達が、自ら死を選んだり、引きこもったり、本来のヴィランの分類に身を堕とすことが相次いだ。
それが、結果的にヒーローとして生きることを選んでいる者達を苦しめたのは皮肉だろう。オールマイトは、まさにその典型であった。
かつて平和の象徴と謳われ、向けられていた羨望の眼差しや、歓声は消え、いつヴィランに堕ちるのかと危険視される日々。どれほどヒーローとして使命を貫こうとそれは覆らない。いつしか彼の顔からあの笑顔が消えた。
オールフォーワンとの戦いの後遺症が強く残っていた身体が、なぜか改善されたのは、S-Dayの影響の可能性が考えられた。
オールマイトは、知っている。
S-Dayの真実を。なぜなら、彼もまたS-Dayの真相を探っていたヒーローの先頭を走っていたからだ。
そして知ってしまったS-Dayの真実。そして、その原因…。
たったひとりの少女が、絶望、怒り、悲しみの末に無個性から力を覚醒させて暴走し、そしてあっという間に世界を改変したという事実。
そしてそのトリガーとなった原因は、同じく無個性だった双子の兄の自殺であったこと。
その兄の特徴の情報や写真を見たとき、オールマイトは、どれくらいかぶりにザーッと血の気が引いた。
そう……、ヘドロのヴィランを追撃していたときに出会い、無個性でもヒーローになれるかと問われて、現実を見なさいと自分が答えた少年だったのだ。
その少年が翌日に自殺した。そして葬儀の日に、彼の妹が個性を覚醒させて、世界をまるっと改変させてしまった。
その改変により、兄の死は無かったことになり、無個性がほとんどを占める世界になった。
無個性だからと兄が夢を持つことさえ否定された少女は、あまりにも深く個性というものと、それが当たり前の世界を憎んだのだろう。その結果が、今の世界だ。
なんということだ……、なんてことはない…、個性のあった世界を殺したのは、そしてその後押しをしてしまったのは己じゃないかとオールマイトはすぐに理解した。
政府との情報交換で、S-Dayを起こした少女は、どう調べても無個性としか判断できず、その力の有無が分からないということも分かった。
身を隠して、緑谷兄妹の様子を見に行ったこともあった。
仲の良い、どこにでもいる普通の兄妹だった。とてもじゃないが、S-Dayを起こした元凶だとはまったく思えないほど普通の子供だった。
少女に…、罪などない。あったとしても、その大元たるは、彼女の兄を否定してしまったオールマイトや、改変前の世界の人間達の所業のせいだ。オールマイトがその結論に達するのにそんなに時間はかからなかった。
個性を失ったり、個性を残したプロヒーロー達がこぞってオールマイトに縋った。元の世界に戻すために力を合わせようと。その先頭に立って欲しいと。
だが、オールマイトは、それを拒否し、今のままの世界でヒーローとして生きることを選択した。
そのことに元の世界に戻そうと宣言すると思っていたらしいプロヒーロー達は、驚愕していた。なぜ? なぜだ、と。何度も何度も問われたが、オールマイトは、S-Day以上の悲劇が起こることを危険視したからだと答えた。
そこからは……、まさに裏世界でのヒーロー達の黄昏というべき悲劇となった。
真実を知る者達があの少女に危害を加えようとすれば、オールマイトや、オールマイトと同意見の政府が全力で潰す。真実を世界に伝えようとする者がいれば、精神異常者などのレッテルを貼って真実を隠蔽する。そのためにありとあらゆる手段が用いられた。
個性を失ったあるプロヒーローが怒りと悲しみの余りオールマイトに叫んだ。
こんな生き地獄のような歪んだ世界が正しいと思っているのか、と。
オールマイトは笑みを失った顔で、答えた。
「正しい…、正しくないじゃないのだ。ようは、多くが救われ、傷つかぬ最善の道を選んだのだよ。」
それは、少数を見捨てて、多数を救う道。
それが、今のオールマイトの正義だった。
問いかけてきた個性を失っているプロヒーローは、憤怒と悲しみに彩られた顔でオールマイトに挑んできた。
裏切り者。狂人。その他、罵詈雑言。
オールマイトは、仲間であったそのプロヒーローを拘束し、S-Dayの真実を知っていて元の世界に戻すことを望んでいた者達を収容している刑務所に送った。
そうして、オールマイトは、ステイン同様に、ヒーロー殺しというレッテルを貼られ、仲間であったヒーロー達からも恐れられ、ヒーローの衰退に拍車を掛けた。
だが、オールマイトは、ただただ己の信じた正義を貫いたに過ぎないのだ。そのために行動しただけのだから。
改変された世界で、どれほどに守っている人間達から恐れられ、かつての同胞が堕ち、それを潰そうとも、オールマイトは多数が助かる平和を選ぶ。
それは…、改変する前の世界で、何の罪も無い兄妹を絶望に堕としてしまい、それが原因で世界を死なせてしまったことへの贖罪なのか……、それともオールマイトの狂った善がそうさせているのか。それとも、兄を否定されたことにたいする、あの少女の復讐なのか……それは誰にも分からない。
オールマイトは、今日も、同胞だったヒーローをぶっ飛ばし拘束する。
知らず知らず、すり切れて摩擦していく、狂人のごとき善の心を持つ彼が、かつて平和の象徴、ヒーローの象徴として浮かべていたその笑顔を作ることは……、もう、ない。
S-Dayを経て、なぜか怪我の後遺症がなくなったオールマイトさん。
それが、出久の双子妹の復讐なのかは分からない。
ヒーローとヴィランって……、きっと周りの認識の違いであって、紙一重だよね…?
だって、同じように暴力を使い、個性を使い……、何が違うんだろう?
※2020/04/14
誰よりもヒーローであろうとし、それ以外の生き方が出来なくなってしまったオールマイトと、周りとの摩擦による悲しみを書きたかったんですが、イマイチだったかな?