友人がVtuberやってるって言いたい 作:未来へと繋ぐ楔の筆
吹雪く春の欠片
Vtuberというのは、非常に身近な存在だ。コメントに反応してくれるし、トイッターのリプライにも反応してくれる。こっちが名前を出すと、人に依るけどすぐさまイイネをつけてくれる。ラジオの向こう側の声優とか、テレビの向こう側の芸能人と違って身近で生きている感じがする。バーチャルだけどリアルなのがVtuberだ。
元声優オタク。今では立派なVオタクとなった私は、そんなVtuberの配信の中でも「Vtuberの話す思い出話に登場する友人A」に憧れていた。ニッチな憧れではないと思う。これこれこういう面白い事があったよ、という話をする時に出てくるAさんは、とても面白い。面白い人の周りには面白い人が集まるんだな、というのを何度思った事か。Aさんの行動が配信のネタになるくらいだから、相当だろう。
同時に、身バレが禁忌とされているようなVtuberの世界で、配信活動をしている事をバラしても尚付き合っていられる友人関係、というのにも憧れた。仲良しっていいよね!
私自身は配信とかそういうのはちょっと……というタイプだ。毎日毎日話すような事思いつかないし。死ねとか言われたら普通に傷つくし。一週間保ったら良い方だと思う。メンタルよわよわ侍。斬りッ!
なので、Vtuberやってそうな友人を作る事にした。
他力本願寺在住のメンタルよわよわ侍です。
しかし、残念ながら見つからなかった。というかVtuberやってる? なんて聞いて答えてくれるはずもない。やってるなら友達になろう、なんて言えるはずもない。は? で終わりだと思う。誰だってそーする。私だってソース。君はウスター。君は中濃。
仕方がないので、私の友達の中で唯一の陽キャに相談してみる事にした。
Vtuberやってくれないか、って。
「おねげぇしますだよリンリン。Vtuber、やってくんろ……?」
「まずそのキャラは何なの……?」
「お役人様に慈悲を乞う町民だよ見てわからないのこの無知!」
「人にものを頼む態度じゃないね!」
そうでごぜぇやしたへぇ。
ははーっ。
「でも、リンリンだけしかいないんだ……Vtuberやって大丈夫そうなメンタルの持ち主は!」
「京子ちゃんは?」
「あいつは陽キャじゃなくてヤンキー。まぁVtuberってヤンキー多いっぽいけど」
「壮一君は?」
「男Vの女友達とか彼女扱いされる奴じゃないですかヤダー! やだよ壮一の彼女とか死んでもヤダ」
「可哀想」
平身低頭。猛虎落地勢。DO☆GE☆ZA。
リンリンの足元に額を擦り付けて、お尻をフリフリして服従のポーズを取る。これ、リンリンのお母さんとかが見たらドン引きするんだろうなぁ。ウチのお母さんなら「誰が洗濯すると思ってんのよ」で一蹴される。家族仲はいいよ!
「……Vtuberって人に言われてなるものなの?」
「いや多分違う。なりたくてなるもの」
「じゃあダメじゃん。そんな気持ちでやったら失礼だよ」
「大丈夫。リンリンの面白さと可愛さと歌の上手さと金髪と子供っぽさとバカっぽさは私が保証する」
「ねぇ馬鹿にしてるよねさっきから」
してます!
あ、してません!!
「まぁやってみるのは良いけど、そんなやってみよう、って思って出来るものなの?」
「……素人調べだけど、機材とか色々かかる……ポイズン」
「そんなの持ってないけど」
「webカメラなら私のを貸そう。というか、配信する予定なんかないのに配信設備一式揃っているウチの機材を全部貸そう!」
「なんで揃えてあるの……?」
「オタクだからだよ……もしや自分にもできるのでは? 顔出ししなければ配信者出来るのでは? そう思っていた時期が私にもありました。三日坊主って本当にあるんだね!」
ゲーム実況者に憧れたとか、生放送見てたら自分もできる気がしたとか。そういう「気の迷い」でそろえた機材がいっぱいある。もう使うつもりないのにパソコンの周りに置いてある。オタクあるあるだと信じている。……信じてるよ……?
ただ、Vtuberになるための機材が揃っているかと問われると微妙だ。Vtuberになるには3Dモデルが必要なのだから。当然だけど、そんなものを作るスキルは私には無い! モデリングを行うためのソフトなら買ったけどね!!!
「お金がかかるなら、ちょっとママと相談しなきゃ」
「……三日、お待ちください。リンリンがやってくれるというのなら、不肖この青眼鏡、あらゆる準備を済ませましょう!」
「三日で用意できるものなの?」
「ふ、私を誰だと思っている」
「テンションの高いクラスメイト」
顔を上げて、リンリンの手を掴む。ちっちゃ。ロリかよ。金髪ロリとか最強か???
「Vtuberになっても、私と友達でいてね……!」
「薦めてくれた友達と縁を切る人に見える?」
「カッコイイ! 惚れちゃう!」
「電車でいつも前に座るお姉さんとベレー帽のお姉さんはどうしたの?」
「ごめん、リンリン……ッ! 私には心に決めた人がッ!!」
「気が多いなぁ」
カッコイイ人が多すぎる世の中が悪い。私悪くないもーん。
「それじゃあ、リンリン! 三日後! 全ッ力ですべてを用意してくるので、鼻を高くして待ってろ!」
「国を強請って、じゃないっけ」
「首を洗ってだよ!!」
それじゃ、お邪魔しました! と大きく言って、リンリンの家を後にした。さて、何から手を付けるべきか。正直個人勢だと視聴者数の問題で私の理想とするソレとは離れちゃうんだよなぁ。個人勢も好きな人多いけど、流石に企業勢と比べると視聴者数の隔たりがありすぎる。理想は企業勢……それも最大手。
ふむ。募集とかかけてないか見てみるか。某美少年アイドルグループも、親御さんや友人が勝手に応募するケースがあるとよく聞くし。同じ感じで私があることないこと書いて突き出せばワンチャンなんとかなるんじゃね???
いけんじゃね???
●
行けた。
色々いけない事をした。勝手にリンリンのメアドを使ったことは本当に悪いと思っている。事後承諾で許可を取ったので罪には問わないで欲しい。なんでメアドを知ってるか、って……。そりゃお前、親友だからだよ言わせんな恥ずかしい。
PR欄にも結構嘘を書いた。というか私からみたリンリンの印象を書いた。それがそのまま長所短所だ。勿論視点はリンリンに成りきって。オタクは文章を書ける。ふ、小学校に入る前からパソコンに触れているオタクを舐めるなよ! 今では視力が両目とも0.05な高校生はそうそう……いやまぁ最近はいるか! みんなスマホめちゃ至近距離で見るからさ!
色々と嘘を用いた履歴書とPR文を一日目に送り、既存のVtuberを見て特徴やらデザインやらを妄想するのが二日目。最終的には絵師さんとかモデルのママさんとかが決めるんだろうけど、まぁ知ったこっちゃない。配信ソフトの整備なんかは完全マニュアル化しといた。推しが困っている時のために教えられるように配信ソフトの扱い方は全て頭に入っている。過去に見聞きしたエラーやトラブルケースも全てファイリングしてある。オタクは文書作成能力が高いのだ。
そして三日目。
お話させてください、のメールが返ってきたのである。
もう狂喜乱舞だよね。これはすぐにでも予定を合わせねば、という事でリンリンにラブコール。
「リンゴンリンゴーン^q^」
『なに……?』
「明日の十時、予定ある? ないよね? だって春休みだもんね!?」
『まるで私が春休み何の予定もないみたいな』
「リンリン優しいから三日後! って言った私の事信じて予定入れないでくれたと思ってる!!」
『言い当てられるのは癪だけど入れてないよ。なぁに』
うっ、信じられている……!
信じられるとおどおどするのがオタク! だけどこれは夢のためだから!!
「聞いてください黄門様」
『違うけど聞くよ』
「ははっ。明日の十時から面接でございます」
『……何の?』
「Vtuberの」
『Vtuberに面接があるの?』
「あるのです。企業勢と個人勢、というのがありまして」
軽く、そこの説明をする。文字通り企業に所属するか個人でやるかの違いで、個人勢なら自分で始めて自分で終わらせられるから、面接なんかない。企業はバイトの感覚に近いかな、と教えた。本当はもう少し……正社員っぽい扱いだと思うけど、知らないし。
リンリンは話を聞いている内に、段々と相槌をしっかりしたものに変えていく。真剣な表情が伝わってくる。電話越しに頭下げるおじさんいるよね。
『ほへぇ』
「かわいいかよ」
『続けて?』
「辛辣かよ」
『……』
「それで、ほら、一昨日メアドの使用許可取ったじゃないですか」
『ああ。有無を言わさずに取らされたね』
「そのメアドとリンリンのパーソナルデータと嘘PR文で履歴書作って送り付けたらお話させてください、って」
『馬鹿なの?』
「バカに馬鹿って言われた……」
『馬鹿なの?』
「ばーかばーか!」
『馬鹿なの?』
う、コイツ一歩も引きやがらねぇ! く、こうしてても話が進まねえ、私は降りるぜ! 栄! 96000!
「悪いとは思っているんです。送った履歴書のコピーはメールに添付しておいたので読み込んでくれると助かりマックス」
『……送っちゃったならしょうがないけど、変なこと書かれてもそんなアドリブ力ないよ、私』
「一応全部あったことを脚色してるだけだから!」
『「プールを走って渡れるか検証した事があります。12mくらい行けました」これって中学の時の話だよね。ビート板繋げて浮かせてその上を走った奴』
「嘘はいってない! というかそれで12m行けたんだから普通に褒められるべき!」
『「遠くから飛んできた野球のボールをノールックでつかみ取り、投げ返すことが出来ます」これって野球のボールじゃなくてフリスビーだよね? しかも私に投げられたフリスビーだよね?』
「脚色です」
いいんだよこまけぇこたぁよ!
面接官は内容になんて興味ないよどうせその場で脱いで見せろとか言うんだ。
そんなところにリンリンはやれねぇ!!
『……資格とか、検定とか……全部合ってるの凄い嫌』
「一緒に勉強したからね! それはね! まぁ親友だからね!!」
『はぁ。わかったよ。私もこの三日間でVtuberの事勉強したし……。まだあんまり流行ってないんだね。前見せてくれた実況? のやつより動画が少なかった』
「若い土壌であるけれど、将来性は抜群だと思うよ。外から内へ閉じていった実況と、内から外へ広がっていくVtuberでは明確な差がある」
『五文字』
「私に任せろ」
『八文字だよ?』
「八音ではあるね」
Vtuberは今後もっともっと増えていくと思う。ここでなっておくことには、非常にメリットがあるはずだ。そういう打算もちょっとあったりなかったり。Vtuberの友人Aになりたい、っていうのは勿論だけど、リンリンなら大物になれる、っていう予感もひしひしと覚えているんだ。一話見て「このアニメ伸びそう」っていう感覚に似てる。
「明日、私ついていった方がいい?」
『むしろ来ないつもりだったのか』
「いやあちらさん側からしたら私関係ないじゃん? 邪魔かなーって」
『……確かに。っていうか、いると気が散って集中できなそうだからやっぱ来ないで』
「Oh...」
『提案した側がなんで傷ついてるの!?』
「乙女はガラスなんだZE……☆」
私もリンリンもいくつかのバイト面接は受けた事があるから、その辺の危惧は無いだろう。陽キャだし。陽キャは無敵。
「それじゃ、吉報を待つ!」
『はいはい、おやすみー」
通話が切れる。
おやすみ、って……まだ17時だぞリンリン! あんまり早く寝ると4時とか5時に起きちゃうぞリンリン!
それいけリンリン!
●
1 2 0 万 人 。
リンリンがデビューしてから二か月で到達したチャンネル登録者数である。
えー。
えー。
えー。
「どうかしてるぜ……!」
「ちょっと怖いよね……私、自分のことそんなに面白いと思ってないんだけど」
「いや面白いのは面白いし可愛いし馬鹿だから可愛いんだけど、120万てあーた。120万って痛いッ!?」
「今回のテスト、私の方が物理と現代社会上だったよね」
「いや総合点で圧倒的な差がああ私のプリン!」
リンリンのおうちでぷちぱーてー中です。何度も来てるけど、Vtuberとしてデビューしてからどんどん配信機材が増えて行って、結構ゴツゴツとした印象を与えるそれとなってしまっている。昔はあんなにめんこかったのにのぅ。
まぁ私が唆したんですけど。
「それで、激動の二か月を終えて、私に何をご所望ですか」
「旅行」
「……配信あるでしょ?」
「思ったよりお金入ってきてるから、旅行。行こう」
「ええっ! それはダメですよお姉さん!!」
「同い年だけど。なんでダメなの?」
「お金ってスパチャのことでそ? オタク君は配信機材や配信環境を充実させてね、っていう意味で投げてるから」
「このお金で友達と旅行行ってきな、って言われたよ?」
「後方あしながおじさん!!」
リンリンの配信すべてを追えているわけじゃないけど、彼女の配信は結構な額が注ぎ込まれるスパチャ祭りになっている。動画ではなく配信スタイルをメインにしたVtuberが少なかったのも原因ではあるのだろうが、庇護欲を掻き立てるバカっぷりがあしながおじさん達の財布のひもを緩くしているのだろう。
それに、私みたいなのが恩恵を授かっていいのだろうか。
「い、いや! だめだ……ダメだ、思いとどまれ私! 私はリンリンをVtuber界の星にするまで休んではいけないんだァァァアア!!」
「私だけで行ってもつまんないから一緒に来て、って言ってるの。別にお金は折半でいいから」
「……金土日で行くとして、配信は?」
「お休み」
「じゃあダメ。三日開けたらみんな飽きちゃうよ」
「じゃあ、旅先でもちょろっと配信しよう。ホテルとかで」
「う、うぅう……それなら……」
オタクは毎日更新に弱い。日が空いたものが久しぶりに更新されていても「……まぁこれもういいかぁ」ってなって追うのをやめてしまうのがオタクだ。毎日同じくらいの時間に、もしくは2回、3回行動をしてくれた方が、「追いきれないけど毎日やっているみたいだから時間があったら見に行こう」のポジションに入れる。オタク君たちの生活を鑑みて、夕方から深夜にかけての1時間から2、3時間を毎日配信するのが一番効率が良いように思うけど。
「配信、出る?」
「私はインターネッツに声晒したくない侍」
「友達には晒させておいてよくいうよね」
「ほんとうにわるかったとおもっている」
おっしゃる通りでございます。だって怖いんだもん。声がブスとか言われた日には軽く死ねる。
「じゃあ決まり! ホテルとかその辺は」
「やっておくよ。今日帰ったら色々準備しておくから、リンリンの予定は?」
「どこの土日も大丈夫。……じゃないや。えーと、再来週かな? 23、24は撮影入ってるから無理かも」
「撮影! すげえ、芸能人っぽい!」
「ねー。慣れちゃった自分がちょっと怖いけど、凄いよね……」
Vtuberって身近な存在だと思っていたけど、近くに中の人がいると、むしろ遠く感じるんだなぁって。心の一句。自由律句。
ところで。ところてん! シンタァ!
「配信ネタ。困ったりしてないですか!」
「結構やることいっぱいあるし、ゲームもほら、いっぱい買ったから大丈夫。見て見て、ひとりじゃ絶対やらないホラーとかも買ったんだよ」
「邪音!? あの映画原作の……これめっちゃ怖いけど大丈夫?」
「リスナーさん達と一緒にやるからヘーキヘーキ」
「……配信中に漏らしたりしないようにね」
「しないよ!?」
配信映えしそうだから前は手に取らなかったゲームを手に取ってみるって、凄く素敵な事だなぁって思う。それで好きなジャンルが増えたら良いし、好きにはならずとも「そういう世界があるんだ」って事が知れる。私はホラーとか絶対にやらないけどね!!!
「ほんとはVRのホラーが良かったんだけどねー」
「うちにHMDあるぞえ」
「……ちなみに聞くけどなんで持ってるの?」
「普通にVRゲームやるため。……なんだねその疑いの目は!! 私だって普通にゲームくらいやるわ!!」
「本音」
「一回やってみてめちゃくちゃ酔ったし首痛くなったから全然使ってない」
あんなに重いとは思わなかったんだよッ!
「声、出したくないならその間どっかいってる?」
「布団被ってる」
「……知ってると思うけど、私配信中キャラちょっと作ってるよ」
「私! みんなの事! 大好きだから!! ぐええええええ首絞めぐええええ」
「馬鹿にしてるよね?」
「ギブアップギブアップ死んじゃう死んじゃう」
「馬鹿にしてるよね」
「ごめんなさいごめんなさい!」
ようやく放してくれた。げほげほ。くそ、このドS女め……笑顔で首絞めとか、違う扉を開いてしまいそうになるじゃないか!!
持って……かれた……ッ! ナイ──ッ!!
「笑わないでよ?」
「わ、笑わないよーやだなー。あーストップストップそう手を下ろして首から放して。……まぁ、ふざけないでいうけど、笑わないよ。私が思ってた以上にリンリンが真剣にやってることなんて、私が一番よく知ってるし。歌みたも出してたじゃん。凄かった。カラオケで聞くやつの何百倍も凄かった。私、歌みた系しか出さないVtuberあんまり好きじゃないんだけど、リンリンならその路線もいけるな、って思うくらい……凄かった。配信も面白いし、元気貰えるし。凄く、応援してる」
「……」
え、なにこれ恥っず。え、なにこれ恥っず。え、なにこれなにこれなにこれ恥っず。なんで無言なの? 長文乙wwとか言ってくれないの? 言わないかぁリンリンオタクじゃないもんなぁうわーやば。やばやばやばみざわじゃんやば。
やば。
「あ、えーと、良い天気で」
「嬉しい」
「ほぇっ」
勝手に焦って、勝手にキョドって……リンリンの顔を見てみると、そこには太陽があった。あ、満面の笑みがあった。さっきのドSスマイルじゃない。同性の私でさえ惚れてしまいそうなほどの。
「嬉しい。結構不安だったんだよ。なってほしい、って言われてなったVtuberで、ちゃんとやれてるのかなって。その青眼鏡に、オタクの青眼鏡には適うのかなって。無理してるように映ってないかな、とか。笑われてないかな、とか。リスナーさんから面白い、って言われるのとは、やっぱり違う。不安だったんだ」
「リンリン……」
「今は私にも夢が出来たし、やりたいことも沢山できた。ねぇ、これでVtuberになれてる?」
あぁ。この子は、なんて素直で可愛いんだろう。これが天然か。養殖で作り上げたカワイイでは到底及びつかない自然の可愛い。エモい。エモすぎるぜリンリン。
脳内をてぇてぇが走る。うるせぇてぇの者! 今はだーってろ!
「誰が否定しようと、私が肯定するよ。リンリンは──立派なVtuberだ」
「ありがと」
脳裏をさらにてぇてぇが駆け巡る。消えろ消えろ! 散れ散れ! 友情にてぇてぇはいらねぇんだよ!!森羅万象てぇてぇになったら無価値になっててぇてくなくななるだろうが!!
「二か月前の質問。返すよ」
「にゅ?」
「何、にゅって」
「ごめんごめん。なに、続けて」
「うん」
言葉を少なくするとエモくなる。やめてほしい。Vtuberではないのでエモに耐えうる体構造をしていない。あまり過剰に摂取すると焼け死んでしまう。太陽光ォォォオ──!!
ぎゅ、と手を握られた。ひぇ。
「Vtuberになっても……私がこの先、もっともっと有名になれたとしても、友達でいてくれる?」
「は?」
「は? って……傷つくなぁ」
「あ、いやごめん。何言われるかと思ったら想定外すぎて。友達でいてくれる、って。当たり前じゃん? 私がなってって言ったんだし。というか、Vtuberの友達になる事が私の夢なわけで」
「なにそれ。変なの」
「あ、言ってなかったっけ。ん、まぁいいや。だから、友達止めたら夢を捨てることになるじゃん?」
「じゃあ私がVtuberやめたら?」
「元に戻るだけでしょ。Vtuberの友達から高校生の友達に」
全くこの不思議ちゃんは……というかお馬鹿さんは……。
何を言っているのかさっぱりわからんぞ。
「ん、スッキリした。じゃあ旅行の日程、お願いね!」
「ぱーちー終わらせる雰囲気だけどまだ13時だからね?」
「なんでこんな時間にぱーちーしてるんだっけ」
「夜に配信あるからって自分で言ってたじゃん……」
本当に大丈夫かこの子。頭。
「あのー、首に手が当たってますけどなして」
「今馬鹿にしたでしょ。心の中で」
「し、してませんぐぇぇえええ」
「……ねぇ、ちょっとだけ、一緒にお昼寝しない?」
「幼稚園児かなグゲェ」
「わ、ここ押すと面白い音でる」
「ちょいちょいちょいちょいグゲェ」
この子怖いよぅ。ドSが過ぎる!
で、なんて? お昼寝? ん?
「そう。お昼寝。しよ?」
「高校生にもなってお昼寝……?」
「 し よ ?」
「はい」
首を抑えられたまま、リンリンのベッドへ行く。同時に寝転がるって、顔を合わせる。首は押さえられたまま。なにこれ拷問? もしかし拷問される?
相変わらずにこにこしたままのリンリンは、私の喉をさらさらとさすりながら言う。
「先に寝てくれると嬉しいな」
「無茶なことを……」
「先に寝たら、放してあげる。私は意識を失う前に力を込めるから」
「おやすみ!」
よほど首絞めが気に入ったのか。だとしたら大変な性癖を植え付けてしまった。リンリンの未来のパートナー、ごめんなさい。あぁ!? リンリンが欲しけりゃ私を通してからにしろ! そう簡単にリンリンはやらねぇぞ! 町内会のおじさんおばさんとリンリンのリスナー120万人を引き連れてカチコミいったるからなぁ!
だめだ。興奮しては。
寝なければ。
「……」
「……」
シーサーペントが1匹。シーサーペントが2匹。シーサーペントが3匹……。
「……」
「……」
シークワーサーが一個。シークヮサーが一個。シークヮーサーが一個……。
「……」
あれ。喉を押さえていた力が消えた。腕の重さだけで十分に圧迫感はあるけど、これなら抜けられる。細心の注意を払って抜けて、改めて彼女を見れば──すやすやである。
眠かったのか。
……この子、ちゃんと寝てるのかなぁ。私が夜寝る時いつも配信してるけど。体調崩したら元も子もないってわかってるのかなぁ。
はぁ。
毛布を掛ける。これくらいはね。してあげないと。
「……添い寝がご希望のようですし?」
それくらいの要望も、叶えてあげますかぁ。
一応18時に目覚ましをセットして。そんなに寝ないと思うけど。一応ね!!
おやすみ!
後書け。