友人がVtuberやってるって言いたい 作:未来へと繋ぐ楔の筆
みくさんと私 / 友人たち
「折り入って相談したいことがございます」
「聞くだけ聞いてあげるわ」
「その……みくさんは、同性愛について……どう思われますか?」
なんというか、みくさんは大量の砂糖を噛み潰したかのような顔をした。
「……同性愛そのものは、別に。どうとも思わないわ。好きになった相手が男だったか女だったか、という違いがあるだけで、男だから好きになる、女だから好きになる、なんてフィルタリングはしないでしょう。逆を言えば、好きだけど同性だから好きって思ってはいけない、なんてことも無いわ」
「でも……」
「ネット上では相手の性別なんかわからないでしょう。それでも言動で、文章で、創る音楽で、描く世界で……作品ではなく作者を愛する事はある。恋愛と好悪はそう大差のないものよ。上品ぶって甘酸っぱいものに仕立て上げたいのが恋愛、気恥ずかしさを感じずに純粋な思いを伝えたいのが好悪。相手を想う気持ちに相手の性別は関与しないわ」
なんか、意外だった。みくさんの口から「相手を想う気持ち」だとか「純粋な思い」とか……なんだろ、ちょっとピュアめの言葉が出てくる事が。いや失礼極まりない思考だなやめよやめよ。
「ただ、アンタの聞きたいことはそれじゃないでしょう。同性愛の正当性ではなく、友達から受けた告白の対処法、じゃない?」
「……まぁ、みくさんには散々LONEで相談してますから、バレますよね」
「本当に告白されたのかしら」
「いえ、その……あー、その、言葉を選ばずに言うと……襲われた、と言いますか」
「警察に突き出しなさいそんな奴」
ぴしゃり。いやまぁそうなんだよなぁ。リンリンのあの行動は、私以外にやっていたら普通にヤバイというか。和解したとはいえこっちの合意なしにキスしてきたり首絞めてきたり手足縛ってきたりお腹に乗ってきたり……。あれ、本気で犯罪行為。
い、いやいや。過剰なスキンシップと思えば……うーん。
「アンタはそのレイプを愛情表現と受け取った、ってワケ?」
「れっ……い、いや、そこまではされてないっていうか、別に私に危害があったわけでもないし、痛い思いを……いや痛い思いはしてるけど怪我をするほどじゃないし、その」
「縁を切るのだけは絶対に嫌だから擁護するけど、レイプに関してはどうしても受け入れられない、って事ね」
「……はい。あ、ほんとにそこまではされてなくて」
「合意がない過剰なスキンシップは普通に違法よ。安心なさい」
そういうことじゃないんですけど!?
「私だったら、絶交するわ。そんな奴。友達ならまたどこかで作ればいいし。家族はそうもいかないけど、言ってしまえば友達なんて赤の他人よ。似た性格の奴なら世界中探して回ればどっかにはいるでしょう」
「それは……嫌です」
「じゃ、諦めなさい。無抵抗であることを諦めなさい。本気で抵抗すれば……ああ、アンタの細腕じゃ無理か」
「そうなんです……いつも抑え込まれて、馬乗りに……そこから首絞めとかキスとか」
「想像よりも激しいわね。今軽く引いたわ。嘘よ。ドン引きしたわ」
常識がある人っていいなぁ。
しみじみ思う。リンリンに常識が無いとは言って……言ってるわ。うん。リンリンには常識が欠けていると此処に断言しよう。
「縁を切るのも嫌、襲われるのも嫌。抵抗するのは無理。じゃあ二人きりになるのを避けるか」
「それも、ちょっと無理ですね」
「……本当に嫌がってるのか怪しくなるわね。それ、自分から空腹のワニが幾頭もいる檻に裸で入っていって、食べないでくださいって懇願しているようなものよ。私はここにいたいんです、って。無理があることぐらいわかるでしょ」
「でも良いワニなんで……」
「じゃあ噛みつかれるのも食べられるのも許容しなさい。もしくは、ワニにハムスターになってくれ、と懇願するか。どっちかね」
「あー……うー……」
そう、だよなぁ、って。
いや客観視すればするほどリンリンが悪者に見えてくるから怖い。違うか。私が自ら襲われに行っているように見える、のか。リンリンが悪いと言うよりは、私が無防備すぎる。でもなぁ。抵抗……うーん。怪我をするレベルの喧嘩になるのは避けたいし……。
でも……さっきみくさんは異性同性は関係ない、と言っていたけど、そう言われたからといって同性からのキスに忌避感があるのは隠しようがないわけで。いや散々っぱらVtuberに、というか声優ラジオに出すメールとかでも百合を強要するような事を言っておいてなんだけど、自分がやるとなると……うう。
「嫌悪感があるんじゃないの?」
「嫌悪感……」
キスが気持ち悪いか、と言われると……どうなんだろう。気持ちいい事は絶対に無いのでそこは置いておくとしても、キスされることが……口の中を転がされる事が気持ち悪いか、というとそうでもない。その、えーと、性的な……快感的なものは一切無い。
あるのは、生理的に無理、という常識の恐怖感だけ。
「ふむ。じゃ、例えば。今私が、アンタにキスをしたい、と言ったら……どう思うかしら」
「え、ええっ! いやそれはその、みくさんがどうしてもというのなら吝かではないと言うか、したい、というのなら受け入れる準備がありますというかそのなんというか私からがっつきたいわけじゃなくこれはあくまでみくさんの愛情表現だというのなら割と行けると言うかでもその前にハグさせていただけないでしょうかとかそういう」
「じゃあ、アンタが嫌なのは同性にキスされることや友人から告白を受ける事じゃなく、襲われる事、ね。無理矢理。強制的に。一方的にされるのが嫌なだけ。もしその子がキスさせてください、って頼み込んできたら、アンタは渋りながらも了承するのよ」
「……」
想像に易かった。
もしリンリンが、しおらしい様子で「キスしたくて堪らないの」って言ってきたら……うわぁ。ドン引きだ。自分に。やば。何このドS思考。うわ。うわー。
「アンタの友人は自分を制御できないサディスト。最悪の部類よ。パートナーに恐怖しか与えないサディストはただの迷惑な奴だもの。ま、偶然にもアンタがその迷惑を「嫌だな」程度にしか思わないヤツだったから、なんとかなってる。怖いとか嫌いとか、閾値の超えた反応をするヤツならとっくに縁を切っているわ」
「相性抜群ってことですか」
「逆ね。何故ならアンタもサディストだから。ただし、自分を制御できる上に隠し通せるサディスト。SにもMにもなれる奴、というのは一定数いるけれど、そういうのの本質はサディストよ。ただ、相手をコントロールする状況を作る事で疑似的にマゾヒストになれる、というだけのね。アンタはそれ。生粋のマゾヒストじゃないから一方的に襲われる事に納得が出来ないだけで……そうね、襲わせている、とでも思い込めば、案外すんなり納得できるんじゃない?」
なんでそう、ナチュラルにサディストとかマゾヒストとかいう言葉が出てくるんだろう……。しかし、うーん。まぁ言われてみれば……私の一挙手一投足に誘われてリンリンがそういう行動に出てしまう、と考えれば……?
いや無理がある。だってリンリンの意思バリ強だもん。
「あるいは」
みくさんは、一つ思いついたように……悪戯を思いついたように。こっちを見た。
ファミレス中に天使が通る。いやファミレスで話す話題ではなかったな、と猛省している所でございます。
「アンタが態度を変えて、高圧的になんか命令してみれば……案外あっちがコロっと転じるかもしれないわね」
●
「ねぇ、リンリン」
「ぬぁにぃー?」
「ちょっと、三回回ってワンって言ってみてくれない?」
「は?」
冷たい……というか、劣悪な空気が流れる。
今まで床に寝そべって足だけベッドの上に上げていた、いっそ清々しい程に姿勢の悪いリンリンが、ものっそい冷酷な目で私を睨む。私はベッドにもたれかかって座っているから、丁度目が合う……んだけど、位置的には見上げられているはずなのに、相対的に見下されている構図。
……くれない、じゃお願いになってしまうか。命令……。高圧的……。
「だから、その場でクルクル回って、犬みたいに吠えろ、って言ってるんだけど」
「……」
リンリンは、持っていた携帯を置いた。そしてゆっくりと体を傾け──私が何かを言う前に、その両足で私の首をがっちりと挟んだ。首四の字固め──いや! ヘッドシザーズ!?
そのままベッドの方へぐい、と押さえつけられる。わぁ、流石リンリンダンスをやっているだけあって足の筋肉が凄いね! 苦しいね!!
「もう一回言ってみて?」
「ぐぐぐぐう」
「ねえ。何? 言いたいことは遠慮なく言い合う、って決めたのは事実だけど、そこまで行く? ちょっと調子に乗りすぎじゃない?」
「うぐぐぐぐぇ」
「……足に涎かかったんだけど」
……そうか、それが嫌か。
ならこれはキュウソネコカミだと思え!
「うわ!」
JKとは思えない悲鳴を上げ、思わず足を解き、私を解放するリンリン。ふっふっふ、手にすりつけた唾液を塗りたくってやったわ!
……きったな。手を舐めたのも汚いし、それを人につけるとか頭沸いてないか私。
「……ふう。わかったよ。青眼鏡。わかったわかった。そうなんだね」
「えっと」
「じゃあ、私がどこを舐めても、文句は言わないよね?」
「ヒェッ」
いやそれは! キスならまだしもそういうがっつりしたのは本気で嫌でして!
あの。
「そういう気の迷いが起こらないように、みっちり教えてあげる……」
あの。
●
「転がるどころか激化した、と」
「はい……」
「それで、どこまで舐められたワケ?」
「二の腕を吸われて……舐め回されて……本気で怖気が」
「へえ。じゃ、キスマークでも付けられたんじゃない?」
「吸引性皮下出血なら……」
「ロマンの欠片もないわね」
大体こうなる事を予想していたのか、微笑みを隠そうともしないみくさん。彼女の言う通り私の左二の腕には赤い痣がついていて、プールを含む体育の授業がある日じゃなくて本当に良かったと思う。まぁそろそろ寒くなってきたからプールの授業もそうそう無いんだけどね。
みくさんはブラックコーヒーにガムシロとシュガースティック三本を入れた……なんか、そこまでするなら最初からもう少し甘い奴頼めばいいのに、とか思わないでもないそれをストローでカラカラやりながら、さらにスマホを弄りながら私の話を聞いている。あんまり目線合わせてくれないんだよね。
「手の打ちようはありますでしょうか……」
「初めから言ってるけど、相手を変えるのは至難よ。その子はアンタに心底惚れている、とかじゃないみたいだし。多分Mっ気が出るとしたら、惚れた相手にだけ、でしょうね。アンタにはお仕置きとか悪戯とかの意味合い……あと、アンタが本気で嫌がるから、という付加価値だけでやっているのだろうし」
「怖い」
「だから縁を切れって言ってるんだけどね。ま、アンタだってその子に恋愛感情があるわけじゃないみたいだし……愛のないスキンシップ。犬がスカートの中に入ってくるようなものよ。嫌悪感や羞恥心はあれど、そこまで悩む必要はないんじゃない?」
まぁ、そうだ。リンリンからの愛情表現ではあっても、それが告白であるというわけではない。だからまぁ、気にしないでもいいと言えば気にしないでもいい。私がこれ以上余計な事をしなければヒートアップはしないっぽいし……いや舐められる吸い付かれるのは結構、結構な事なんだけど。割と怖気の走る行為なんだけど。
……気にしすぎ、かぁ。愛のないスキンシップだからこそ、意味は無いから問題ない……うーん。そんなに割り切れないけどなぁ。
「次はその場で脱げ、とか命令してみない?」
「……それ、私が脱がされませんか」
「簡単に予想できる未来よね。楽しみだわ」
「私結構真面目に相談したつもりだったんだけどなぁ」
「真面目に悩んでいる悩み事が、私から見たら真面目に悩む程のものじゃないのだもの。答えの書いてあるプラバンを首に提げて、私はどうすればいいですか、なんて聞いてくるヤツに返す言葉はバラエティー色溢れるエンターテインメントくらいよ。次は指を舐めろ、とか言ってみるといいわ」
「あれ、もしかしてこの人最悪の部類では?」
「失礼ね。正解よ」
カッコイイお姉さん、というイメージがガラガラと音を立てて崩れていく。代わりに中から、まともっぽいことを言いながら相手を惑わす妖怪みたいな見た目のみくさんが微笑みとともに現れた。妖怪は失礼過ぎないか私の脳内。
でもこれは、あれだ。
一番合っている言葉を言うなら。
「相談する人、間違えたかな……」
「アンタの人間関係は大体手遅れよ。安心なさい」
なんなんだこの人……。
●
「アニーとの距離感がわからない? ……熱でもあんのか、青眼鏡」
「青眼鏡とアニーの距離感かぁ。俺に言わせてもらえばわからないのはこっち……というか、みんな、というか」
「7月にあった仲違い事件以降、面倒事は収まったと思ったんだが、また拗らせてるのかオマエ」
9月の教室は微妙に寒いような暑いようなよくわからない空気に包まれていて、除湿のかけられたエアコンがこれまた微妙な送風を行うなまったるい空間に、いつもの三人。リンリンは委員会の仕事で席を外している。
「そう言わないで、親身に相談に乗ってくれると助かる」
「オマエ、助かるなんて単語を知っていたのか。意外だ」
「京子、そのペットボトル取ってー」
自分でもちょいとキモめなのは理解している。こういう風に相談をする事は今まで……まぁあったにはあったけどこうもしおらしいのは無かったから。マイペースヤンキーと正論陽キャに聞くことなんかないわけで。
ただこれに関しては私一人で答えを出すと七月の二の舞というか、あんまりいい結果にならなそうなので相談、という次第。
「距離が近くて困ってるのか? それとも遠いのか?」
「壮一……クソ正論陽キャの癖に、ちゃんと相談に乗ってくれるのか」
「まぁ友達が困ってたらそりゃ手を貸すさ。青眼鏡だけじゃなく、アニーにも関係ある事なら尚更だろ」
……コイツ、ホンマ。
「近くて困ってる。リンリンは……その、私に近すぎる気がする」
「馬鹿だな、オマエ」
「お前にだけは言われたくない」
「馬鹿だろ。別にアニーはオマエに近づいてなんかない。オマエが近づいてるんだ」
「中学で会ったときからアニーのスタンスはあんまり変わってないように見えるっていうのは俺もそう思う」
私が、近づいている。
それは。
「たとえ話だが、その辺の男子連中がアニーに告白したら、オマエはどうする?」
「私を通してからにしてもらおうか、って立ちふさがる」
「それだよ」
「それだな」
「……」
「オマエのそれはボケも含まれてるんだろうが、出会ったときには無かったヤツだよ。そうも過保護じゃなかったし、そうもアニーに入れ込んで無かった」
「中学の時アニーに告白した男子結構いたけど、青眼鏡は"おおリンリン! また告白されたのか……流石!"とか囃してたよな」
「依存しているのはアニーじゃなくて、オマエなんじゃないのか?」
深い──深いため息を吐く。
懐かしい話をする。そして、忘れていた話をするものだ。
こいつらを見ていると、私は本当に……いや、今はどうでもいいか。
私か。体重を預けていたのは。
もうちょっと……離れてみるか。見守っているだけ、というのがお気に召さないようだから、見守っていよう。遠慮はするな、って事だったし。
「明日の昼、購買のパン二つでどうだ」
「おう」
「俺はいらないけど、まぁ手を打つ、って言っておくよ」
ありがとう。助かった。
というのは、口には出さないで。
●
「青眼鏡……なんでそんな隅っこにいるの?」
「別に」
「……?」
いや離れて見守るってこういうことじゃないってわかってるんだけど、流石に突然距離を離すのは露骨すぎてヤな感じなので、とりあえず物理的な距離を離す事にしてみた。リンリンは何やら動画編集をしているようで、つまりほぼほぼ無言のままリンリンの部屋で時を過ごしているわけだ。
いつもの三倍、距離を取って。
当然怪訝な目で見られた。
「……」
「……」
無言の時間が続く。そうだ、これでいいんだ。これが出来る関係がちょうどいい。親友ではなく、友達として。いやまぁそれぞれが違う事をしているのに同じ空間にいる、というのが単なる友達に出来るかどうかと問われると微妙な顔をせざるを得ないのだが、そこは考えないものとする。
ふと、真剣な表情でPCに向き合うリンリンを見た。リンリンのその横顔を。
……かっこよくなったなぁ、と。あのか細い、か弱い中学生リンリンはもういないんだな、と。それでいいと思うし、それは寂しいとも思う。成長期かな、私も。中学生リンリンだけを見ていたかった私がだんだんと小さくなっていって、今のカッコイイリンリンを見れるようになってきている。
もっと早くこれが出来れば……なんていうIFは、やっぱり考えないものとする。
こんなにかっこいいんだ、告白してくる男子も絶えないだろう。
それは……ああ、ちょっと複雑だけど、喜ばしいことなんだ。そう、思えないといけない。
「視界って案外横に広いんだよ?」
「さっきからこっちをチラチラ見ていた事なら知ってるよ」
「……何? 私の顔、そんなに面白い?」
ひと段落ついたのか、大きく伸びをしたリンリンが私に向き直る。胸はあんまり成長してないね!!!
「いんや? いつも通りのリンリンだよ」
「ふぅん。ま、いいけど。暇ならちょっとゲームの相手してくれない? 今回声は録らないから喋っていいからさ」
「またボコしていい感じ?」
「co-opだから、ガンガン無双してくれていいよ」
「へえ」
珍しい。私に勝つことに必死で、対戦ゲーばかりしてきたリンリンが。いやバトルロワイアルFPSゲームみたいに私が勧めたやつで協力プレイだったものはいくつかあるか。それでもリンリンから、というのは珍しい。しかも声を録らないという事は……ダイジェスト形式で投稿するのかな?
「PCゲーなの?」
「リスナーさんが作ってくれたやつ」
「……有能あしながおじさんがよ」
ファンメイドのゲーム、というのは……割とある。溢れている、とは言わないが、二次創作についてのガイドラインをしっかり設定している企業であれば、そういうゲームをツクーレルアプリやソフトを使い、二次創作的なゲームを公開する事も少なくはない。
それの、リンリン向けのやつ。しかも二人プレイ可能ときた。
……そんなことあるか?
「A子ちゃんとやって、ってさ」
「ご指名ですかい」
「リスナーさん達には仲の良いエピソードしか話してないからね……私達は互いの身体を洗いっこするような関係に思われてるみたい」
「うわぁ……」
オタク君、百合妄想好きだねぇ。
「操作はコントローラ?」
「ううん。wasdとijkl」
「うせやん」
なにその特殊キー配置。しかもそれ、体くっつける必要ない??
え、もしかしてそれが狙い? だとしたらそのリスナー害悪だよリンリンマジモンの害悪。そして天才。
「しかも無双ゲー……さらに言えばこれツクーレル奴じゃないじゃん。雲丹艇の……かなり作り込まれている……!?」
「だからプレイして動画にしたいな、って」
「なるほど」
お優しい事で、とか言わない。
まぁこれだけ心血注がれていれば、とりあえず触ってみたくなる気持ちはわからないでもない。自分をゲーマーなどと騙るつもりはないけど、新作ゲームならフリーゲームでも触ってみたいのが人間のSAGA。
しかし距離よ。離すつもりだったのに、近づきMAXENDだよ。
「スキルは数字キーで使うらしい。青眼鏡はテンキーだね」
「スキル要素があるんだ……あれ、それだとリンリンやりづらくない?」
「だから青眼鏡を
「無双してもろてってそういうことね」
強い方にハンデをつけて均等にするより、強い方を動きやすくして無双した方が色々映えるのは事実だ。でもリンリンファンに「でしゃばるな」とか「NYMUちゃんを活躍させるのが当たり前だろ」とか言われないかな……空気読めねえなコイツとか言われたら私傷付くんだけど。
「リスナーさん達、早くA子ちゃんとコラボしてほしいってうるさいくらいだから大丈夫だと思うよ」
「言いそう……」
「一索」
「最近のリンリン麻雀配信多いよね」
軽口はそのくらいに、リンリンが普段使っているゲーミングチェアをどかして、丸椅子二つに座って……ゲームを開始する。肩が擦れ合うほどの距離。うう、なんだかなぁ。
「逃がさないから」
「え?」
「始まるよ。結構スピード感あるから気を付けて」
「そもそもこのゲームis何? ジャンルは?」
「ゾンビ無双ゲーム」
……リンリンの配信と何の関係があるんだ……?
〇
京子ちゃんと壮一君に、青眼鏡から相談された、という事を聞いた。
正直な話をするなら、青眼鏡が誰かを頼るというのは意外だったし、彼女にも何かしら変化が起きているんだなぁという事実に複雑な気持ちになったり。
その相談内容と言うのが、私との距離感がわからない、というもの。彼女は近すぎると感じていて、京子ちゃんは青眼鏡が近づいたからだ、という事を言ってやった、と言っていた。
京子ちゃんと壮一君は私のこの本性を知らないからそういう事が言えるんだろう。私から青眼鏡に向かう依存心がどれほど強烈かを知らないから。
でも、というか、だからこそ。
無理矢理纏めた考えを実践実行に移すのが速すぎる青眼鏡の事だから、今日ウチに来た時くらいには「距離感の調節」みたいなのをやってくるんじゃないかと想像した。
そしてそれは、想像通りだった。先読みは青眼鏡の専売特許じゃないんだ。青眼鏡に関する事なら、ちょっとずつ読めるようになってきたことにふふんと鼻を鳴らす。
多分、まずは形から、という感じで明らかに座る位置を離してきた青眼鏡。
昨日つけたキスマークがまだ残っている事に青眼鏡の虚弱さを感じつつ、動画編集の合間合間に彼女をチラ見する。その度に目が合った。つまり、青眼鏡は私の横顔をガン見していたということだ。
あんまり心地良い視線でない辺り、多分私が成長したなぁ、みたいな後方保護者面な事を考えているんだろう。それに対して必要以上に嫌悪を示すことは無くなったけど、嫌なものは嫌なので仕返しをする。
やる機会がなくて取っておいた、何故か責任を感じていたニャンさんからのプレゼント。キスの話を私にしたことが友達と仲違いをさせてしまった、と勝手に自分を責めていたものだから、励ますのに結構時間がかかった。いや軽率に友達と喧嘩した旨をニャンさんに話した私が悪いんだけど……。
それで、仲直りをするなら「体を密着させて」「息を合わせて一つの目標に向かい」「同じ達成感を味わえばいいわ」とのことで、このゲームを作ってきたのである。
そう、作ってきたのだ。ソロモードもあるこのゲーム、結構普通にゾンビゲーをしていて面白い。なんでも元居た会社のノウハウとのことだけど、夏休みの一か月間でこのクオリティを出せる人はかなり優秀な人材なんじゃないかとちょっと震えた。なんでこの人ライバーやってるんだろう、って。
ともかくこの「ゾンビパニックで仲直り! 肩を寄せ合って生き残れ!」というキャッチコピーのセンスはないんだなぁ、なんて失礼なことを考えてしまうゲームをリスナーさん作と偽って、青眼鏡にやらせることにした。
逃がすものか。
これだけ私を依存させたのだから、勝手に離れる、なんか。許さない。近すぎる事に震えてほしい。私の熱で青眼鏡を焦がし続けてあげると決めたんだ。逃げるなんて許さないからね。
……私も絶対、逃げないから。
ぷるぷるの二の腕は吸い甲斐があった、とのこと。