友人がVtuberやってるって言いたい   作:未来へと繋ぐ楔の筆

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R15・ガールズラブ要素多め、かも?


開拓く次の景色

 Vtuberには収益化という一大イベントがある。簡単に言えばスポンサーが応援してくれるかどうか、みたいな感じだ。スポンサーと直接関わるというわけではなく、運営を仲介に「広告費で広告元にも運営側にもお金を入れてくれる存在」と認識される事で、動画や生放送のアーカイブに広告を点けたり、スーパーチャットを投げてもらえるようにしたり、メンバーと呼ばれる有料会員……メンバーシップの発行が可能になる。もっと簡単に言うとお小遣いが稼げるようになるイベントだ。

 その収益化、意外にもリンリンは結構な時間をかけた。デビューしてから三週間ほど経ってから、ようやくだ。その日はスパチャ祭りだったらしい。今もだけど。らしいというのは、私がぐーすかぴーすか眠りこけていた時の配信だったから。昼間に寝るなんてあんまりしない癖に、その日だけ眠っていたのだから私の運は-Dだろう。槍兵が死んだ!

 

 んで。

 

 リンリンは企業勢なので、収益はそのままリンリンの元へ、というわけではなく一旦企業を挟んでからリンリンにお給金の形で渡される。無論一律突っぱねて定額ほい、というわけではないらしく、スパチャとメンバーと広告、そのすべてが都度都度割合計算されてリンリンの手元にわたるので、金額が高ければ高いほどリンリンの元へ渡るお金も大きくなるスンポーである。喜べオタク。お前らのスパチャは届いているぞ! 税金はしこたま抜かれるがな!

 そんな感じで収益化はVtuberにとってめっちょ大事なイベントなのだが、稀に、これを外されてしまうVtuberがいる。

 運営側のミスの場合もあるけど、放送内容が広告主の基準に即していない、みたいな文言と共に、収益化を止められてしまうのである。ガッデム。まぁ収益化した時まではゲーム配信とか企画とかやってたVtuberが、いきなり公序良俗に反する放送してたらそりゃあね? そんなのにお金出したくないと思うのは当然だろう。

 私は一応、これでも、一応ね? 一応女子高校生なワケで。そうJKなんです私。ジェイッ! ケイッ! なワケですよ。だからあんまりホラ、エルォイお話とか、下世話な話とか、不快な想像しちゃう話とかされると、ウ゛ッッッってなる。オタクな私でさえそうなのだから、一般ピーポーな広告主様たちはもっとだろう。

 

 そーゆーことで、まぁ。

 

 外されてしまったらしいのだ。

 

『それで、どういう対処をしたらいいか、聞きたいの』

「私一般ピーポー。わかってる? Vtuberでもないし、マネジメントパートナーでもないし、カウンセラーでもないの。馬鹿なの?」

『バーカ』

「切りまーす」

『ねぇ真剣に聞いてるんだよ?』

「真剣に返したのはこっちなんだよなぁ」

 

 土曜日。正午を過ぎたあたりか、一通の着信があった。リンリンだ。リンゴンリンゴーン^q^。

 リンリンからの無料通話。

 

「それで? なんだっけ、黒天使ニュニュ☆ニャン? であってる?」

『うん。合ってる』

「が、収益化外されたって? ……いやまぁ、うん。正直納得なんだけど」

『お友達になったから、どうにかしてあげたい。お願い天才青眼鏡!』

「えぇ~~そんなに褒められると拙者困るでござるなぁ~~」

『神! 悪魔! 外道! オタク!』

「褒めてなくない?」

 

 こんな感じである。黒天使ニュニュ☆ニャンというVtuberと友達になったんだけど、最近収益化外されちゃって落ち込んでるからなんとかならないか、と。

 いや無理じゃん。私にどうこう出来る話じゃないじゃん。私が広告主だ、とかならまだわかるけど、一般ピーポーの家の一般ピーポー娘に何ができると。

 

 考える事は出来るけど。

 

「ん~……でもさ、黒天使ちゃんの配信チラっと見てるけど……センシティブと暴言と水音と……三大BAN要素が全部詰まってるワケですよ。まぁ水音に関しては本人そのつもりないんだろうけどさ」

『えろかわだよね』

「おいおいあの純粋なリンリンをどこへやった! 貴様何者だ!」

『いつまでも夢見る少女じゃいられないんだよ……!』

「純粋なリンリンなんていたっけ」

『中学で出会ったどっかの誰かさんに汚染されてから消えたかな……』

「ダレカナー」

 

 件の黒天使ちゃんは、センシティブだった。事あるごとに言葉の端々で「んっ」とか「あぁんっ」とか出すタイプ。たまに狙ってやってない人いるけど、この子は完全に狙ってる。衣装も肌色率多めだもん。肌露出多いゴスロリとか多方に喧嘩売ってるよね。甘ロリいいよね。

 そして言動も結構……なんというか、ウチの京子に似て、ヤンキー染みているというか。ゲーム配信で「死ね」とか「クソ野郎!」とか「この短小が!」とか……最後のはとてもとても私めの口からはとても。そんな暴言、罵詈雑言がポロッポロ出るタイプの、あんまり一緒にゲームしたくない系女子。そら収益化も剥がされますわ。

 

「黒天使ちゃんって企業勢?」

『あ、うん。ウチの人だよ』

「企業勢でよく……いや、何も言うまい。というか、企業勢なら別によくない?」

『企業勢だから収益化止まるとやばいんだよ? 会社にお金入れられないじゃん』

 

 いやさ。

 

「別に収益源って広告メンバースパチャだけ、じゃないでしょ? ボイスとかグッズとか出してるんじゃない? ぶっちゃけ運営仲介料たっかいでしょ。じゃあ収益化とか完全につっぱねて、グッズ系統に専念して良いと思う。黒天使ちゃんの魅力がこのセンシティブさと暴言にあるっていうんなら、収益剥奪を怖がってその魅力を削いでしまうより、ガンガン押し出してってグッズボイスでオタクにお金使わせるのがいいよ。企業ならライブとかもあるだろうし。オタクはお金使いたいオタクと使いたくないオタクの二種類がいるんだけど、使いたいオタクは使えないとフラストレーション溜まるからね。吐き出せる場所があったらガンガン買ってくれるよ。使いたくないオタクはメンバーシップが存在しないって事で狂喜乱舞だろうし」

『……』

「今「いきなり長文で何コイツキモ」とか思わなかった?」

『いや、そういうトコは会ってからずっとだから何も……』

「ガッデム。あるいはジーザス。神は死んだ」

 

 私は高校生なので。高・校・生! なので。見たことは無い。みーたーこーとーは、無いけど。無いけど、世間に……主にインターネット上にはR18作品というものがあるのは知っているし、なんなら普通に映画とかドラマとかでR18な制限のつくコンテンツがあるのを知っている。見たことは無いけどね!?

 あるっていうことは、需要があるってことだ。暴力表現や暴言もそう。暴力的な作品なんてたくさんあるからね。その上でまだオタク君たちが……ファンがいるっていうことは、黒天使ちゃんの暴言に、あるいは声やゲームのプレイスキルに魅力があるって事だと思う。

 

 なら、それでいいんじゃないか。

 

 別に隠さなくたって。別に閉じ込めなくたって。

 別に、変えようとしなくたって。

 

「ソル曰くバーニング混沌。もとい、運営(カミサマ)の庇護なく生きられる程強いのなら、そんなものには熨斗付けて返してやれ! ってね」

『……』

「な、なんとかいってくれよぅ。オタクは自信ないんだぞ! 独り言なら身の丈を越えた発言できる程イキれるオタクだけど、人前である事を自覚すると途端にか弱き生物になるんだぞ知らないのか!!」

『……』

「り、りんり~ん……?」

 

 え、なにこれなにこれ私やらかした系? やらかしちゃった系? なにを間違えた? ソルじゃなくてサンだった? 混沌じゃなくてチャオスだった? ちゃおっす!

 そうじゃないそうじゃない。もっと根本的な……あぁっ、高校生がそんなお金の相談に乗ること自体間違いか! あぁ神よ! とぅふるくーふたぐん! 千の仔を孕みし森の黒山羊よ! 

 

『……いやさ』

「あ、はい」

『なんだかんだ、頼りになるなぁ、って』

「えーと」

『ニャンさんがお礼言いたいってさ。代わるよ』

「おいおい嘘だろ隣にいるのかよ聞いてないぞ今のイキりはリンリン相手だからであって知らんひ」

『まずは、ありがとう。私の動画を見たうえで、否定しないでくれて。そしてもう一つ、ありがとう。今の今まで嫌っていた私を肯定してくれて。重ねてありがとう。ちょっと運営の人と相談する事が出来たわ。本当にありがとう』

 

 どっへえええ!

 動画の時と声の印象違い過ぎて腰抜けるわぁ! もっと若いと……大学生くらいだと思ってたけど、これやっべー大人だぁ! 私なんかガキンチョ扱い出来る人だったぁ! 偉そうに色々言ったけどありがとうとか……ありがとうとか。ありがとう?

 ん?

 

「あ、えーと」

『青眼鏡ちゃん、で良かったかしら』

「何故あだ名の方を!? あ、リンリンか」

『さっき自信がない、みたいなことを言っていたけど……安心して。貴女は凄いわ。今、一人の人間を勇気付けられたくらいには。彼女をVの世界に引き入れたのも貴女なんですってね。誇っていいわ。貴女の眼は、誰にも劣らぬ天眼よ』

「あぁ目薬」

『八十階からでも()せるでしょうね』

「それは痛そう」

 

 べちーん! ってなりそう。

 

『さて、私はすぐにでもマネージャーと話さないといけないから、この辺で。アニー、素敵なお友達の紹介、本当にありがとうね』

「うん! 頑張って」

『全く、配信内容をもっと健全なものにしてください、とか言ってきたあのマネージャー……ふふ、首根を掴んで言う事聞かせてやるんだから』

 

 類は友を呼ぶ。ドSはドSを引き寄せるのか。Vtuber界怖い。

 

『お疲れ様ー』

「お給金いくらでますか」

『んー、今度会うときマッサージしたげる』

「……け、結構です」

『遠慮せずに~。じゃあ、私もまだ用事あるから、切るね~』

「遠慮じゃないです切れたァ!?」

 

 く、不味い。次会うときまでに体表面の皮膚を固くしておかねば!!

 リンリンのマッサージはマッサージという名の責め苦!! 特に喉を! 喉の保護を!! あと脇腹の保護をしなければ!!

 

 どうやってだよ!!

 

 

 ●

 

 

 突然だが、私には一目惚れしてしまった人がいる。二人いる。どちらかを選べ、なんて……私には出来ないッッ! あぁ、でもどっちか一人っていうんなら、電車の……いやベレー帽……いや電車の……あぁ選べない! ブラン!

 というのも、私は高校に通うのに電車を使っている。ちょっとだけ遠いのだ。ギリギリ自転車通学範囲外。一駅挟んで向こうの高校だから、定期券で悠々電車通学である。通勤時間帯よりかなり早い時間を選んでいるので、電車には誰もいない。事が多い。

 だけど、いやこれは本当に私に気があるとしか思えないのだけど、いやこれはもう本当に私に惚れていると信じてやまないのだけど、毎日毎日同じ車両の同じ席に、一人。めちゃくちゃカッコイイ系の女の人が座っている。その場所と言うのが私の前なのだ。対面挟んで私の眼前。セーラー服に身を包み、学生カバンを膝に乗せ、携帯の勉強アプリを開いて勉強している私の眼前で、見るたびに音楽を聴いている女の人。お姉さん。

 私はこの人に一目惚れしている。現在進行形で好き好き大好き超愛している状態。だってかっこいいんだぁ。

 

 こう、厨二的な形容をするなら、†すべてを諦めた眼をした女性†だろうか。ごめん言ってて超恥ずかしい。でも、本当に……なんだろう、死んだ眼、とかじゃないんだけど、達観とか諦観みたいな言葉が似あう人だ。身長は低いんだけど……大人! って感じがする。語弊を恐れずに言うなら、お婆ちゃん……違うな、仙女とか天女とか、そういう人じゃないモノ、みたいなイメージ。あくまでイメージね。

 会社員らしく、一度だけ社員証を見た事がある。勿論完全な盗み見だ。あ、違うぞ。見えちゃっただけだから! 見えちゃったものは仕方ないから! 

 見えたのは名前のローマ字の頭文字だけだし……。

 

 それ曰く、Kさん。ケーさんだ。計算!?

 

 ということで、私はこの人を電車のKさんと呼んでいる。寺生まれじゃないしTでもない。

 

 私はKさんが大好きだ。喋ったこともないし、まともに目を合わせた事も無いけど、本当に好きだ。漠然とした憧れ……カッコイイ女性、というものに憧れがある。適うなら「お姉さま!」と呼びたい。空間転移したい。呼び慕いたい。

 目下、私の大学卒業後の進路先はKさんの会社である。名前知らないからどうにかして聞き出すか……尾行()けなきゃいけないけど。ハッ、また思考が悪い方向に! リンリンのメアド勝手に使ったのだって普通に犯罪だからな! わかってるのか!! チッ、反省してまーす。

 

 そして、もう一人。

 こっちもカッコイイ系の女性。私の一目惚れした人。

 

 二股になってしまうのは理解している! けど! けど! 私には選べない……。

 

 こっちの人は名前も知らない。ベレー帽の人、と呼んでいる。

 学校と駅の間の通学路でよく見かける人で、身長はそれなりに高く、そしていつも色鮮やかな服を着ている。ひと昔前のオタク女子、みたいな恰好に最新鋭のデザインを加えたみたいな、アンバランスな服。おかげでめちゃくちゃ目立つ……んだけど、彼女の出す「私、目に映る人間全員嫌いです」みたいなオーラが何人たりとて近づけさせない。

 オーラというか目つきというか。さっきカッコイイ系と言ったけど、ちょっと怖いが入っているくらい、目がキツい。何度か話しているのを聞いたけど、言葉もキッツい。時たまオタク用語が入るので、あぁこの人もオタクなんだ! みたいな喜びも束の間、二言目には「ゴミね」とか「死んだ方が良い」とか……黒天使ちゃんのソレよりは幾分か柔らかいけど、めちゃくちゃ言葉のキツい人だ。

 

 しかーし!!

 

 かっこいいのである……。かっこ、いいのである!!

 友達の誰かと携帯電話で話している時の姿! 嫌いですオーラを突き抜けてきた阿呆なナンパ男を竦ませる物言い! あと一瞬で、何の容赦も躊躇もなく警察に電話しちゃうその行動力! 手を上げようとしたナンパ男をさらりと躱す身体能力! 私が自然を装って後ろから抱き着こうとしたのにさらりと避ける察知能力!! 私が勇気を振り絞って「あ、あの!」と声を掛けても完全に無視できるその精神力!!!

 かっこ、いいのである……かっこいいのである!!

 

「ねぇその話もう何回目? 聞き飽きたんだけど……」

「何回でもするよ……ふっふっふ、リンリンは見たことが無いからわからないだろうけどね、本当にかっこいいんだぞう。多分リンリンも惚れる。あ、だめだ、リンリンは上げられない……加えてお姉さん達も私のものだ!!」

「私は別に誰かのものじゃないし、その人達も同じだと思うけど」

「反抗期かね? よろしいならば戦争痛い無理無理ギブギブ」

「よっわ」

 

 この「二大カッコイイお姉さんの自慢話」を聞いてくれるのは、リンリン含む私の数少ない友人たちだけだ。カッコイイお姉さまに憧れる、というのを分かち合えるのが陽キャ馬鹿な壮一だけというのが死ぬほど悔しい。陽キャのくせに! 陽キャのくせに!

 ちなみにだけど、この感情は所謂百合だのレズだの、なんかこう……恋愛的なものじゃない。「ああなりたい」が正しいかな。そりゃあ一対一で話す機会があったらオタクらしく盛大にキョドる自信があるけど、いやもし惚れてるんです大好きです一緒に住みましょうとか言われたら全然OKなんだけどいやいやもし告白……受けてくれますか? とか上目遣いのギャップでウワァァァアアアア!!

 

「まぁ、そんなに言うなら会ってみたいけどね。でも名前も知らないんでしょ?」

「……KさんとBさん」

「KさんはともかくBさんはベレー帽さんでしょ」

「よくベレーの綴りがわかったな」

「BERER?」

「やはり馬鹿だった」

 

 バ行は全部Bとか思ってそう。ん、バ行……。

 

「そいで、今日はなんぞや」

「こないだ旅行、行ったじゃん」

「ああうん。スパチャで旅行。今考えても心苦しい温泉三昧」

「リスナーさんから、『出来たらでいいからああいう旅行配信とか今後もやってほしい』って言われてさ」

「……別に、言われたからって無理に行く必要はないんじゃないかなぁ」

「勿論言われたから行くんじゃないよ。ただ、ちょっと夏休みは忙しくなっちゃいそうだから、早い時期に行っちゃいたいなぁって」

「まぁ日程教えてくれたら取るけどさ。あ、配信はやること。あと私は声」

「出さなくていいから。あ、でも……その、さぁ。出さなくて、いいんだけど」

「なんだね」

 

 珍しく。歯切れの悪い。歯切れってはっきりしゃべれの略って知ってた? 嘘ぴょーん。

 

「その……旅先での事、配信で喋っていい? 名前は伏せるからさ」

「ええええええええ!!」

「あ、やっぱりダメ? だ、だよね。声出すの嫌がってたし」

「違う違う待て待て待って待ってウェイトプリーズフリーズプリーズスタンダップ!」

「体重ください凍ってくださいスタンプ」

「いいよ! 話して! 全然! ノープロブレム!」

「映画泥棒」

「それはノーモア!」

 

 ね、願っても無い機会来た! っていうか喋ってなかったんかい!

 おおおおお! 夢が! 叶うよ!

 

 あ、やば、ネタとか考えとかないと! 面白い事しないと!!

 ってなってるネタは基本面白くないから自然体でいかないと!! 自然体? 自然体ってなんだ……自然……無……意識を……止めて……。

 これが──この世の理──!

 

「ねぇ、聞いてる?」

「ム?」

「む、じゃなくて。どこまで話していい? やらかし話もいいの?」

「全部イイヨ! あ、でも話す配信は教えて欲しいみざわ」

「それは勿論。……あー、でも、その……嫌なこと言う人いたら、その」

「大丈夫大丈夫ブロックするよ速やかに!」

 

 オタクは自衛が出来るのだ。いや見たら死ぬほど傷つくと思うけどそれはそれこれはこれあれはそっちにこっちはあっちに。

 というか、えー。リンリンの可愛さの前でもそんなこという奴いるの? えー。もしかして……。もしかしてだけどさぁ。あぁ。もしかしてだけどさぁ。うわちょっと自己嫌悪強いんだけど。やば。

 

「ねえリンリン」

「なに?」

「嫌なこと、ない? 傷ついてない? ごめん、そうだったわ。私利私欲でリンリンをVの世界に送り出したけど……メンタル強いって思ってたけど、そうだよね、嫌なこと言う人いるよね。ごめん。辛いよね。ごめん……ごめん」

「え、何いきなり落ち込んでるの!? さっきまでテンションぶち上げだったじゃん」

「自己嫌悪がすごい。すまない……親友をネットの海に晒したままケアしないとか……最悪過ぎる……」

「うわー、想定外の所で落ち込んでる。あのさ、私がそれくらいでへこたれるように見える?」

「見えないけど……見えないだけで傷ついているかもしれないし……私にこそ見せたくない涙みたいなものがあるだろうし……うううううう」

 

 やば。自分の後方保護者面もキモいんだけど、それを余りある自分の見通しの甘さに呆れる。なんだよメンタル強いから大丈夫って。こわ。そんな勝手なレッテルで親友を矢面に立たせられる過去の私こわ。今リンリンを困らせてまで自己嫌悪入ってる私もメンヘラすぎてやば。早く立ち直れ。はい、3、2、1。

 っしゃぁ!

 

「という事で、今回の旅行はリンリンに尽くすからォァァアアアアア!?」

 

 女子高生にあるまじき声が出た。アルマジロかよ。は?

 

 リンリンはあろうことか、座っている私の足を払ったのである。意味が分からないだろう私もわからんわかっていればこんな声は上げん。

 簡単に言えば、お尻の方を足で掬い上げつつ肩を押して上体を倒し、そのまま持ち上げた、という状況。所謂お姫様抱っこだけど、私とリンリンの身長体重は同じくらいなので、とてもバランスが悪い。グラグラ、グラグラとしたあと、ぼふん! とベッドに座り込んだ。あ、ちなみにここリンリンの部屋ね。

 

「なんでせうか」

「えー? 気に食わないなぁって」

「その顔こっっっわ」

「リスナーさんに可愛い笑顔って言われるヨー」

「じゃあ120万人全員見る目がないよ……」

「この間130万人行きましたー」

「それはおめでとう!」

 

 それはおめでとうだけど! だけどもだっけっど!

 何気に食わないって。どこでそんな言葉を覚えた! 京子か!? あの腐れヤンキーめ!! 腕力では敵わないから今度ブラの中にミミズ入れてやる!! あ、私ミミズ触れないや!!

 

「ねーねー。そういえば会ったときからそうだよねー」

「な、なにが。揺らすな揺らすな揺れる胸もないくせに痛い痛い太もも抓るのはマジで痛い!」

「なーんかさ、えーと、後方保護者面、っていうんだっけ? 私のやることなす事、危ないからよしなさい、とか、そっちは行かない方がいい、とか、テストはここ勉強しておくといいよ、とか」

「最後のに関しては聞かれたから答えてるだけグエ」

「余計なお世話がさー。お節介がさぁ。多いなぁって。嬉しいんだけどさぁ」

「あの! お腹はダメだと思います! それはボディブローに近い威力が出る! 出る! 色々出るからぁ!」

 

 リンリンは、私不満です! という顔を隠そうともせずに言う。後方保護者面がキモいのは重々承知してるから! 直そうとしてるから! ごめんて! ごめんて! ニエンテ!

 

 ふと。

 リンリンが、こっち()を向いた。顔の位置的に、下を……下にいる私を見下ろした。見下げた。

 見下げ果てた。

 

「ねぇねぇ、いつまで上にいるつもりなの? そりゃ私の頭はそんなによくないけどさぁ。私、まだ並べない? ねぇ、学校一の天才青眼鏡さん?」

「──」

 

 ……え、何その恥ずかしい称号。

 え、知らない知らない。何それ何それ。こわ。こわ。え、やば。何それ。こわ。

 え? 何私二つ名ついてんの? ええーええーーえええーーええ。ええー! それやば。こわ。え、ウチの学校って二つ名つける文化あんの? †赤鬼の京子†とか†クソバカの壮一†とかついてんの? ウケぴ。

 そこに†学校一の天才青眼鏡†入ってるの? ウケ……ウケないわ! なんじゃそりゃ!! おおおおお鳥肌やっば! さぶいぼさぶいぼ!

 

「ねぇだんまり? 私、これでも130万人のファンがいるんだよー。凄くない? 結構頑張った方だと思うんだよね。毎日配信してるし、動画も歌も出してるし、リスナーさんの名前覚えたほうが良いとか、口に出す言葉は一度飲み込んでから出した方が良いとか、言われた事全部守ってるし」

 

 ねぇ、それでも足りないかなぁ。

 

 リンリンは不満気に言う。いやぶっちゃけそんなアドバイス誰でも出来るし誰にだってするし当たり前の事なんだけどな、とか思っちゃいけないんだろうか。これは褒める流れだろうか。いや褒めたらそれこそ後方保護者面じゃないか? よくできましたー、じゃダメだろ。よくできましたー、が嫌いだからこうやって文句言ってきてるわけで、じゃあ違う手法で褒める……喜ばせないと。そう、頑張ったのだから報酬が必要。報酬。何が欲しいかな。

 んー、旅行、は行くとして……奴隷? うわ自分の思考こわ。

 Vに関係あることなら、機材とか? そういえば触覚スーツなるものが。めちゃくちゃ高いらしいけど。バイト何日くらいやれば買ってあげられるかなぁ。

 

「……その顔凄い不快。キスしていい?」

「あぁ、それくら──ダメだが?????」

 

 ゾゾゾッ! と怖気が走った。こわ。

 へ? え? いや、ん? なんて?

 

「ほら、キスって恋人がするものでしょ? 恋人は対等だから、キスしたら対等になれるかなって」

「いやその理屈はおかしい」

「じゃあ何をすればいい? 何が足りない? 私に、何があれば──保護者じゃなくて、友達になってくれる?」

 

 後方保護者面、相当頭にキていたらしい。反省しないと。

 そうだよなー、親友親友言うくせにやることなす事全部にいちゃもんつけてきたら、そりゃ怒るよ。クッ、中学に上がるまで友達がいなかったツケが高校生になった今帰ってくるとは……! 小学校の頃ぼっちだった奴なんて私くらいじゃないか! あいや、いっぱいいるか! なははは! どうせ教室の隅で恐竜図鑑とか唯一図書室に置いてあった歴史系の漫画とか読んで「頭いい子風」を装ってたんだろ知ってるぞ!

 ぐわああああ!!

 

「ねえってば」

「す、既にお友達かと……。私は親友だとばかり」

「嘘ばっか。言葉では親友親友言ってるけど、私の事子供だと思ってるじゃん」

「そんなことはないぞぅ」

「じゃあ私が傷付いてそうだから、って勝手に落ち込まないでよ。傷付いた時に相談するから、その時一緒に泣いてよ。勝手に背負わないで、共有しようよ」

 

 なんか言葉が全部詩的だなぁ、とかツッこんだら今度こそ首を絞められそうなので自重するとして。

 いやはや。うーん。共有しようよ、と来たか。うーーーん。ううううーん。うーぅぅうううううぅぅううん。ドップラー。

 でも切っ掛けが私にあるからなぁ。私がVtuberになって! とか言わなきゃ、付かなかった傷だし……。つまるところ、私がつけたようなものだし……。リンリンを傷モノに……ハッ!? じゃあさっきのキスっていうのは、嫁になるということ……!? リンリンは俺の嫁、ってそういうこと!?

 

「キスがダメなら、首を絞めるよ」

「なんでそうなる!?」

「確かにきっかけはそっちかもしれないけどさぁ、この前も言ったように、私にはもう夢があるの。Vtuberでやりたいことが出来たの。もうすぐ配信機材も新しいの買うよ。ずっと借りっぱなしだったものは返せる。まだダメ? さっき130万人とか言ったけど、もっと上を目指すよ。今いる人も新しい人も惹きつけて、誰よりも有名になるくらい頑張る。それでも足りないかな」

「あー、配信機材はあれそこまで質の高いものじゃないから、新しいの買った方が良いのは事じグエ」

「そういう話してないじゃん。そんなのわかってるくせにさぁ。ねえ!」

「へいギブギブへいギブギブそれ以上は爪痕が残るゥ」

「キスダメって言ったから、キスマークの代わりに爪痕くらい残させてよ」

「爪痕(物理)とは恐れ入りますねぇ!」

 

 深く──鋭く、首にめり込んでくる爪の感覚。いやいやそこ人体の急所って知ってます!? 大事な血管とか神経系がたくさん詰まってるとこって知ってます!? あぁ、でも首絞めよりは息苦しくないかなー、とか首絞め基準に考えちゃう私の思考やば。

 

「ねえ! ねえ! どうしたらいいのか教えてよ! 私やだよ、ずっと距離離れたままなの!」

「あ、あんまり大声を出さないの……ご両親が」

「リスナーさんからプレゼントで防音材貰ったから大丈夫だよ」

「後方あしながおじさん多すぎる……」

 

 しかしクラスメイトの首を絞めて恐喝する、なんて目的で使われるとはだれも予想していないだろう。ひぃ、殺される。

 ……にしては、大分力が緩んできているけど。

 

「あー、んー、うーんとね。まぁとりあえず130万人くらいじゃダメだね」

「……」

「歌動画の総再生数も、一番多いヤツで200万回だっけ。ダメダメ、そんなんじゃ認められない」

「……」

「あとテストもダメダメだね。一番ダメ。私を超すくらいじゃないと」

「それは難しい」

「私が教えるよ。認められたかったら、私に教えられるくらいになってよ」

「……」

 

 対等と認めていない、だって?

 当たり前じゃん。そんなの。だって、ずっと。ずっと。

 

「あのね、その程度で私に並ぼうとか……ちょっと笑えない。私はもっと高い所にいるよ」

 

 ずっと、見上げていた。リンリンがはるか遠くにいて、私はそれをずっと追いかけていた。Vtuberの友達になりたい、という話をリンリンに持ちかけたのは、何も友達の中で唯一の陽キャだったから、だけではない。もっと。もっともっと……私欲に塗れた発想。

 Vtuberは身近な存在だ。だから、リンリンがVtuberになれば──彼我の距離が縮まるんじゃないかと、期待した。結果はまぁ、見ての通り。遠い存在になって、さらに遠くに行こうとしているようだけど。

 

 相互理解のソの字も無いほど、遠くに。

 

「……今、これ、手。力入れたらどうなると思う?」

「え、そういう距離!? 生殺与奪権という点においては今リンリンが最も近く握っているね!」

「そっちじゃなくて、こっち」

「ふわぅ!?」

 

 ざらり、と。頭。後頭部で指が動いた。私の身体を支えるための腕が二本。内一本を首に持ってきていて、残った一本は頭の後ろにある。そこに力を入れて……もし、持ち上げたのなら。

 

「まさか首を取ると!?」

「こうなる」

 

 ──。

 

 ……。

 ……。

 ………………。

 

 ん。

 う。

 

「っぷは」

「……え」

 

 私の──いつだって、夜眠るときだって止まる事のない思考が真っ白になった。いや結構嘘だけど、真っ白になったのは本当。

 え。え。ダメって言ったじゃん。

 

 ダメだが????? って言ったじゃん。

 

「これで堕ちてきてよ。高いとこにいるなら、今突き落としたよ。足に紐かけて、今引き摺り落した。ほら、高い所(あそこ)に戻りたいなら」

 

 一緒に行こうよ。

 

「……わかった──なんて言うと思ったか! 馬鹿め、エモ空間でエモに適応できるのはVtuberだけだ! ハァーッハッハ! エモい言葉言えばオとせると思ったか馬鹿め! 馬鹿め、馬鹿め、ばーかばーか!!」

「ふんっ!」

「ム──?!? !?!? !!!! ??!! ???! ??!? !!??! ?? !?!!? ?!! !?! ??? ?!?? ?! 」

 

 に、二回目だと!?

 こいつ、本当に高校生か!?

 

「ね、なんで私が首絞め好きになったかわかる?」

「やっぱり好きになってたんだ! 誰だそんな性癖教えたやつ!!!」

「いいから、なんでか。答えて」

「……相手が苦しそうなのが見てて気持ちいいから、とか?」

「変態」

「ええええええええ」

 

 リンリンは、私の首を撫でる。先ほどまで爪が食い込んでいた所を。さらさらと撫でる。

 変態はどっちだよ……! 一番変態なのはリンリンのリスナーだよ!! あ、私のリンリンを変な目で見るんじゃねえ! 散れ散れ!!

 

「首を絞めるとさ、痕がつくじゃん」

「痕がつくほどキツく絞めたらそりゃね」

「首輪みたいで、良い」

「こわ」

 

 こわ。

 

「だって、言う事聞いてくれないワンちゃんには首輪つけるでしょ?」

「私が犬だっていうのか! チワワよりボルゾイがいい!」

「首輪とリードつけておけば、とりあえず遠くには行かないと思うから。下にも上にもさ」

「ひえ」

 

 ドSドSだと思っていたけど、そこまでか……。

 おいおいおいおい、私の純粋なリンリンを返しておくれよ……。誰だこんなドSに育てたやつ!

 

「一番近くにドMがいるんだもん。そりゃこうなるよ」

「誰だそいつ! とっちめてやる!」

「鏡、見る?」

「そんなに痕になってる?」

「……ばっちり!」

「マジかよ明日学校いけねーじゃん休もうかな」

「皆勤賞は?」

「そんな真面目ちゃんに見えてた?」

「いや、電車のKさんを一目見るっていう」

「そうだった危ない危ないありがとう!!」

 

 そうだ。私にはその日課があるのだ。いやまぁ学校のない土日とかは見てないとはいえ!

 ベレー帽の人と違って、必ず起きるイベントなのだから逃す手は無い!

 

「……あーと、そう。そうだ! とりあえず旅行の日程組むから、スケジュール教えておいて。あとは」

「あとは?」

「……そっちがどうかは知らないけど、本当に親友だと思ってるから。それだけは、嘘じゃないから」

「ふーん」

「ふーんて」

「いや、他は嘘だったんだなーって」

「そういう意味じゃないよ!?」

 

 いやそういう意味に聞こえるけどさ! ああ言葉選び間違えたよ申し訳ございませんねぇ!

 

「わかってるよ。うん、いつも頼りにしてるから」

「ちなみに聞きたいんだけど、†学校一の天才青眼鏡†って言ってまわってるのって、誰?」

「先生」

「……」

「担任」

「……嘘でしょうやめてください死んでしまいます」

「された人がいじめだと思わなかったらいじめじゃないんだよ」

「された人がいじめだと思ったらいじめですよね!?」

「いじめだと思うの?」

「……──~~~~~思わないけど!」

 

 思わないけど!

 

 けど!

 

「いいじゃん、全部事実なんだし」

「じゃあ今度からあの教師の事†世界唯一の真球ハゲ†って呼ぶ事にしよう」

「先生、まだ両側に髪の毛あるよ?」

「直に抜け落ちる。今呪いをかけた」

 

 人を呪わば穴二つ。

 ふ、バーリア! 90番台以下の呪いは効かぬ!

 

「それじゃあ、降ろしてくれませんかね」

「お昼寝しようよ。一緒に」

「またですか……」

「嫌?」

「……へいへい、お姫様」

 

 ……嫌じゃないけどさぁ。

 

 嫌じゃない、んだよなぁ。これが。




書くことは何もない。
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