友人がVtuberやってるって言いたい   作:未来へと繋ぐ楔の筆

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前に書くことなんかないが?


破砕く涙の過誤

 リンリンはパツキン美少女である。所謂ダブルというやつで、ともすればファンタジーなんかに出てきそうな容姿をしている。なお主言語はバリッバリの日本語で、なんなら英語の成績は最悪に近い。むしろ私や京子の方が出来るくらい、最悪である。常に赤点と言えばわかろうか。

 そんなリンリンは、その優れた容姿と裏腹に、あんまり友達がいなかったらしい。少なくとも中学生までは積極的に遊んでくれる子が全くいなくて寂しい思いをしていたのだとか。まぁ周りの子の気持ちもわからんでもない。小学生時点でこんだけの美人さんだと、話しかけづらいってのはあるだろう。小学校なんて村社会みたいなもんだし。

 

 そんな中、ずっと不安だった中学デビューで一番に声を掛けてきたのが──私、と。

 いやー。

 やっちまったな、って思ったよね。なんかめちゃくちゃ良い思い出話、みたいな語り口で言われた時には「あ、これは完全にやっちまいましたね」って思ったよね。

 何を隠そう、中学の頃の私は「とりあえず人気者っぽそうな子の取り巻きになってれば旨い汁が吸えるだろうげっへっへ」みたいな思考だったから、クラスで一番の美少女に声を掛けに行った、というのが真相なわけですよ。リンリンの思うような「真っ暗闇の中から手を差し伸べてくれた人」的なソレじゃないのである。まぁ陰キャは陰キャでも自分の身の振り方を考えられるタイプの陰キャだったからね。身の振り方は考えられてもまさか希望に思われてるなんて思わないよね。

 

 そんなすれ違いがあったのだけど、なんやかんやウマの合う性格だったらしく、私達はすぐに親友となった。リンリンが孤立していたのはリンリンの魅力を外部に出力する機会に恵まれなかった、あるいは媒体が存在しなかった事に起因しているというのはすぐにわかったので、積極的にリンリンの活躍できる舞台を探したり、人の集まっている所に無理矢理連れて行ったりしてあげればもうすぐに人気者である。リンリン本人は明るく元気な子なんだけど、成功経験が小学校時代に無かった事が勇気を失くす原因になっていたみたいなのだ。

 ちなみに私はその輪に入らずリンリンとみんなを眺めている事が多かった。何故って、体力がないからね!! オタクが運動できると思ったら大間違いだぞ!!

 

 晴れて人気者な中学時代を過ごしたリンリンは、今……つまり高校に入っても最初っから人気者だ。元々の容姿の高さからやっかみを受ける事は……まぁ何度かあったけど、リンリンは気付いていないのでオッケー。たとえどんなに人気者になっても頭は小学校から変わっていないというか、飾らずに言うのならバカである。暗記は出来るので暗記のみで行ける教科はそこそこできるけど、応用するとなると途端に点数が落ちる。成績も落ちる。

 卓上電子計算機略して電卓を使っていい物理は得意みたいだけど。

 バカなので、嫉妬娘たちの皮肉が効かないのだ……! 強いぞリンリン! バカだなリンリン!

 

 そして同じ中学から進学してきた数十人の中で、特に仲の良い四人が私とリンリンと壮一と京子になるわけだ。私はリンリン以外と仲が良いつもりはないけど、リンリンは四人をひとまとめにしたがるので仕方がない。だって陽キャとヤンキーだよ? 仲良くできる要素がない。

 

「青眼鏡。ノート」

「一回くらい自分で取れ」

「サンキュ」

 

 リンリンとの関係修復は今だ成っていない。まぁあれから話してすらいないので当たり前ではあるのだが、うーむ。どうしたもんかね。

 

「お昼買ってきたけど、青眼鏡は焼きそばパンで良かったっけ? あ、鮭おにぎりはこっちおいとくぞ京子」

「うむ」

「何故私が焼きそばパンを食べたいと知っていた」

「青眼鏡が食うもんなんか毎日同じだろ」

「……ほれ、300円」

「手数料はいらないって言ってんのにホント律儀だよなー」

 

 今リンリンは教室にいない。先ほど私達以外の友達に誘われて教室を出て行った。どこかでお弁当を食べるのだろう。目で追ってしまうくらいには気になるけど、私が行ったら冷風吹き荒れて氷河期が来るので行けない。毎日のお弁当のおかず一品貰う、が出来ないのがくやしくやし。

 

「一週間以内」

「無理だな」

「でなきゃ私が困る」

「俺も困る。けど、無理だと思う」

「……わかってるよ、それくらい。今考えてるのはどう謝るか、じゃなくてどこで二人きりになるのがベストか、だ」

「強制的に話し合うつもりか。よしそれでいけ。そろそろ空気が不味い」

「他の人なら止めるけど、青眼鏡とアニーに限ってはそれで正解な気がするなぁ」

「今リンリンの下校経路から無理矢理腕引っ張って連れ込んでギリギリ振り払われなさそうな距離のカラオケ探してるから少し黙っててくれ」

「発想が犯罪者だよね」

 

 リンリンに折れる気がなくて、私に折れる気がないのならこうするしかない。無理矢理二人きりになれる場所……事前に予約を入れておいて、さっさと入って扉側に立って閉じ込めてしまえば話さざるを得なくなるだろう。問題は私の腕力がそこまで強くない事。体幹も弱いから、本気で抵抗されたら無理だ。まぁリンリンも仲直りしたいとは思ってくれているだろうからそこまで抵抗することは無いと思うけど……いや、楽観視は無しの方向で。

 とりあえずピックアップした三つの店。改めて探すとこの辺カラオケ店多いんだな、ということがわかった。なんてどうでもいい気付きなんだ。

 

「桃ソーダ、いる?」

「なんだお前有能か? 150円持っていけ」

「これ90円だぞ」

「ボーナスだが」

 

 普段なら陽キャを褒めるなんてことはしないが、喉が渇いていたので正当報酬を払って桃ソーダをゲットする。学校の自販機は確かに安いのだろうが、買ってくる手間を考えたら40円くらい加算できる。タイミングが良い事でプラス20円。

 ぷしゅ、という音。レナさんを思い出した。

 

「……そうだ京子」

「ん」

「お前の姉さん渡勝大行ってなかったっけ」

「流石だな青眼鏡。話した覚えがない事を知っている」

「流石はそっちだよ。働いてるのか聞いた時に大学通ってるっつってたろ」

「大学に通っているとは言った覚えがある。どこに行っているかは言った覚えがない」

「マジ?」

「捏造記憶で正解を引き当てたのだとしたらホントウに気持ち悪いぞオマエ」

 

 本当に気持ち悪いかもしれんぞ私。

 ……いやまぁ、大学に行っている、というエピソードと直近の記憶がそうであってくれ、という願望を元に繋がっただけなんだろうけど。

 

「それが?」

「暇があったらでいいんだが、レナという名前の女性が学友にいないか聞いておいて欲しい。本名じゃなくてあだ名でもいい」

「……私を犯罪行為に加担させようとしていないか」

「珍しく察しがいい。今日までノート見せていただろう」

「チッ……卑怯者め」

 

 犯罪行為だって? ハハハ。

 ストーカー行為ですね! ええ!

 

「俺これ、警察に通報した方が良いヤツか?」

「馬鹿野郎私の進路先に必要な情報なんだよ理解しろ」

「中学から一緒にいて今まで青眼鏡の思考を理解できた瞬間が無い気がする」

「さっき焼きそばパン買ってきただろう」

「……本当だ!」

 

 とりあえず計画は出来た。実行は今日の下校時。電車の時間も見ておかなければいけないか。最悪母親に迎えに来てもらう……いや「自己責任」って言われて終わる気がする。お父さんに頼むか……ちょうど帰ってくる時間だろうし。まぁそんなに遅くなるつもりはないんだけど。

 桃ソーダを飲んで、焼きそばパンを齧る。うむ。いつもの味だ。

 

「明日には元通りになっている事を願うよ」

「任セロリ」

「明日になってもギスギスしてたらオマエぶん殴ってもいいか」

「鼻にタバスコ突っ込んでやる」

「私の方が速い」

 

 うるへー。なんだその漫画みたいな台詞。「──私の方が速い」的なアレじゃん。オサレポイントバトルで勝てそう。その後技の説明して負けそう。

 

 そんな感じで昼休みが終わる。時間ギリギリに帰ってきたリンリンは、やっぱり私の方を見ようともしなかった。

 

 

 ●

 

 

「……何?」

 

 諸々端折って、ミッションコンプリート。一人でとぼとぼ帰るリンリンの腕を掴み上げ、「やめて」だの「ちょっと」だの言う彼女の言葉をガン無視し、予約を入れておいたカラオケ店へゴーシュート。店員さんは怪訝な顔をしていたけれど、リンリンも流石に逃げる気はなかったのだろう、大人しく部屋までついてきてくれた。

 部屋にリンリンを入れて、ドアを塞ぐように立てばオペレーションNKNORAAAI開始である。

 初手、不機嫌に「……何?」が来た、という話。

 

「喧嘩をしよう」

「してるけど」

「口論だよ。どっちかが泣くまで」

「……」

 

 口だろうが手だろうが、面と向かわなきゃ喧嘩は終わらない。いや画面越しにでもできるかもしれないけど、それだって面と向かっていると言えば向かっているだろう。とにかく言葉を交わす必要がある。だから、強制個室が一番いい。

 ずっと黙っている、なんてことも選べるけど……リンリンはそれをよしとはしないだろうし。

 

「確認しよう。リンリンは、私に認めてもらいたいんだったね。私に子供扱いしてほしくないし、人間扱いしてほしい。それについての答えはNOだ。君はまだまだ子供だし、手がかかるし、世話が焼ける。人間扱いしてほしいについては、勘違いだ。私は君を人間扱いしている」

「してない」

「しているよ。しているけど──君が成長している、という事については、無視している」

 

 この「子供扱いしてほしくない」と「人間扱いしてほしい」は同じ問題だ。ただ、単純に……リンリンに私の腕の中にいてほしくて、あの孤独だったリンリンを可愛いと思う自分が愛おしくて、成長したリンリンを無視している、というだけの話。懐古厨、とは少し違うけど、私を頼ってくれる君が好きで、だから私を頼ってくれなくなってきた君を元に戻そうと必死なのだ。

 もっと簡潔に、そしてオタクらしく言うなら──私は「中学の頃のリンリン」の厄介オタクなのである。

 

 変わってしまった推しが嫌だから、駄々をこねている。アーカイブばかりを見て、現在を全く見ていない。

 

「そしてリンリンは、今のリンリンを見てほしいんだろう。だって目の前にいるんだから。こんなにも頑張っているのだから。ようやく──私が好むモノの世界で活躍できる日が来たのだから」

「……」

「気に入らなかったんだろ? リンリンがみんなと遊んでる時、私が遠くから眺めているの。それ自体が」

「……そうだよ」

「一緒に遊びたかったんだろ。勝手に保護者みたいに自分の事を推し出した私も、自分の所に来て欲しかった。そうでなくたって、近くにいて欲しかった。違う?」

「本当に嫌になるくらい、合ってる」

 

 Vtuberになる事を引き受けたのはそういうことなのだ。

 リンリンは、私が間近で見てくれる場所に。私が一緒になって喜んでくれる場所に、行きたかった。そして、裏方からじゃなくて、同じ目線で語れるようになることを望んだ。同じ世界に行けば、同じものが見れると踏んだのだ。

 ……結果は違った。あの出会いのように、すれ違いだ。私側にそういう意思がなかった。私はVtuberの友達のAさんになりたくて、それはどちらかというと裏方である。リンリンの望む立ち位置ではない。勿論リスナーも彼女の望む立ち位置と違うから、そもそもが勘違い。あるいは、リンリンがオタク文化に……配信というものに詳しくなかったから起きた弊害、とでもいうべきか。

 

 もし、リンリンの望む立ち位置に私が就くとしたら、それは同じVtuberになる、という道だけである。

 

 そしてそれは絶対に無い。私は怖いから、ならない。

 

「じゃあ問題だ。どうしたらいいと思う? 私は過去のリンリンを見ている愚か者だ。リンリンは今の自分を見て欲しい頑張り屋さんだ。どうなるのが正解かな」

「……どうしても、今の私は見てくれないの?」

「君が籠の外に行きたいという限りは」

「でも、昔の私のままだと、やっぱり今の私は見てくれない」

「そうだね。八方塞がりという奴だ。わかるだろ?」

 

 私が過去のリンリンを見たいと、見ていたいと思っている限りは、リンリンの願いは絶対に叶わない。リンリンの正当な、極々当たり前で、当然の想いは私に届かない。だからやっぱり、縁を切るのが正解だと……思ってしまう。思ってしまえる、という方が正しいか。あの時に言った切り捨ててくれて構わない、というのはそういう意味だ。

 リンリンはVtuberでやりたいことが出来たと、夢が出来たと言っていた。だからもう、むざむざ辞める、という選択肢を選ぶことは無いだろう。どうやったって、どうあったって、私を置いていくしかリンリンの取れる道がない。

 

「そうは、思わない」

「……そうかな」

「つまりは、私が頑張って、風音に今の私を見たい! って思わせればいい、ってことだよね」

「そんな事は思わないが」

「夏休みに、予定が入ってるって言ったでしょ」

「ああ、結構な期間が」

「まだ発表してないけど、初ライブをすることになった」

「……早くない?」

 

 リンリンがデビューしてからまだ数ヶ月だ。というかVtuberのライブって……どうやるんだろう。大型スクリーンでも使うのか。盛り上がるか、それ。

 ……いや、130万人のファンがいる、と考えれば……出来ないことは無いか。 

 

「来て」

「そりゃまぁ、行くけど」

「ちゃんと見て。私が今、どれだけの事をしているのか、どれくらい"先"にいるのか、見て」

「……先にいたら、私はそこには行かないよ? 過去のリンリンが好きだか」

「来たくなるから。ゼッタイ来たくなる。昔の私なんて霞ませて、今の私を見たくて仕方がなくなる。それくらいの事をする」

 

 ……。へえ。

 大層な自信だ。強い目をするようになったと最近思う事が増えたけど……ああ、強い、なんてものじゃない。意思のある目だ。爆弾みたいな感情の籠った、目。目の前のリンリンは、牙を剥くような表情で、凄惨に笑っていた。

 あぁ、もうそんなところにまで。

 ……やっぱりまだ、見たくないと思ってしまうな。あの……か弱かったリンリンを、可愛いと思ってしまう。結局私は、私の手でリンリンが変わっていく様が好きだったのだ。浅ましく愚かしく、その程度の友情を親友だのと名付けていた。それを……この子はまだ、続けようと、より強固なものにしようとしてくれている。

 

「わかった。楽しみにしているよ」

「うん。じゃあ、喧嘩は終わりね」

「いいや、一時休戦だ。私がそのライブを見ても尚、考えを改めなかったら……その時は」

「その時は私の部屋に閉じ込めて考えを変えてくれるまで出さないよ」

「まさかの監禁ルート」

 

 ……昼間、壮一が私の発想を犯罪者だと言ったけど、リンリンの方がよっぽどだ。よっぽど、バイオレンス。

 

 ──誰が一番、その子に影響を与えたか。

 

 脳裏でニヒルに笑うレナさんを今だけは、と追い払う。

 

「じゃあ、仲直り……じゃないけど、形式上の仲直りということで、一曲歌わない?」

「何時間取ったの?」

「一時間」

「じゃあめいっぱい歌おうよ。一曲なんて言わずに」

「アニソン、行くかぁ!」

「教えてもらったのしか歌えないけど」

「いけるいける!」

 

 こうして。

 完全な和解、とは行かないけれど……とりあえず夏休みのライブまでは、元の仲良しに戻る事になった次第である。ヤッタネ!!

 

 

 ●

 

 

「や」

「あ、レナさん。こんばんわ」

 

 帰り道。というか帰りの電車。いつも乗らない時間帯だったから混んでないか心配だったけれど、そこまでの人数は居らず、普通に座れる事に安心したのも束の間。この表現で合っていない事は重々承知だけど、あえて言おう安心したのも束の間──レナさんが声を掛けてきた。丁度、いつも私の座っている席に他の人が座っていて、レナさんの横に一人分空きスペースがあったのだ。空きスペースって頭痛が痛いよね。

 声を掛けていただいたからには座らざるを得ない。クッ、乗車時間がもっと長ければ自然を装って寄りかかったりできたのに!! あるいはお疲れのレナさんが寄りかかってきてその髪の毛が私にブワァってファサァってあぁ!!

 

「座らないの?」

「座ります」

 

 妄想もそこそこに、レナさんの隣に腰を下ろす。

 

「遊んできたんだ」

「あ、はい。友達とカラオケに」

「いいね。どんな曲歌うの?」

「あ、えーと、その……アニソンを少々」

 

 ベレー帽の人はオタク用語連発してたからオタクだろうな、という親近感はあるんだけど、逆にレナさんはアニメとか全く見なそうな……陽キャとも違う、浮世離れした人だから、ちょっとだけ言い淀んだ。いやもう私のキョドりっぷりとかオタクっぽいとこは見られているんだろうけど、カッコイイ人の前で見栄を張りたい気持ちが抑えきれず。しかしアニソン以外の音楽ジャンルを全く知らないため、結局アニソンと答えたわけである。アニソンってジャンルなのか……?

 

「アニソンか。あんまり詳しくないや」

「予想通り……!」

「あぁ、でも……ボーカ……ああ、合成音声の曲は聞くよ」

「ボカノを知っておられる!?」

 

 ボーカノイドという合成音声を編集して歌を歌わせるジャンルがある。割とオタク寄りのコンテンツだから、レナさんの口からその単語が出るとは思わずびっくりしてしまった。あ、声は押さえてるので! 所かまわず騒ぎまくる迷惑客じゃないので!!

 

「友人がね、曲を作ってるんだ」

「ボカノPのお知り合い!?!?!??」

 

 こ、小声で驚いてますから! 大丈夫! 大丈夫だから!

 

 しかし、人は見かけによらない……というわけでもないか。別に、レナさんがボカノ曲を作っているわけじゃないんだし。しかしボカノPの知り合いとは……凄い。凄く正直な所感を言うと、ボカノPはVtuberよりかなり遠い存在だと思っている。天才の集まりだ。いや売れてない、埋もれているボカノPももちろん沢山いるんだろうけど、曲を作れるという事自体が凄まじい。

 そういえばリンリンもオリジナル曲出してたけど、つまり作曲家さんと知り合いになったという事だよな……しゅごい。

 

「歌、好き?」

「あんまり得意じゃないですけど、好きです」

「わたしも好き」

 

 え。

 告白!?!?!??!?!?!?

 

「いいよね。歌うと、わたしってこんなにいっぱい感情を持っているんだ、って……わかるから」

「ああ、やっぱりレナさんって感情薄めなんです……ってすみません!」

「正直でいいね。好感が持てる」

 

 何を言っているのだこの口は。いや私自身はすさまじく感情豊かというか、壮一曰く感情百面相らしいので感情の出口は死ぬほど持っているからあんまりレナさんとは共感できないんだけど、その共感できないという部分が何故感情薄めとかいう罵倒表現に繋がるのか! 少しは言葉を抑える努力をしろ!

 

「気にしないでいいよ。自覚してる」

「本当にすみません……」

「でも、青眼鏡ちゃんの周りの友達は楽しそうだね。こんなに感情露わにしてくれたら」

「……あー」

 

 好きな人の前だとこうなるけど、そうでもない人の前だとすんごい冷めた感じになるんですよね……。態度で好悪がわかる代表例とか、「人によって態度を変える」というのを辞書に収録するなら私の名前を載せるとか言われるくらい。

 だからみんながみんな楽しいかどうかというと微妙……。なんてことをわざわざ言う必要はないか。合わせておくのが最善。

 

「いいんじゃない?」

「そうなんで、え?」

「友達が楽しければいいと思うよ。興味ない人とか、嫌いな人とか。そういう人の前で自分を出さないのは、特に間違ったことじゃないし。自分が一緒にいて楽しい人の傍でだけ、自分が楽しい、という事を表現出来るのなら……それは素晴らしい事だよ」

「……」

 

 多分、そんな意図は無かったのだろうけど。ちょっとだけ刺さった。

 私は今──今のリンリンの前で、自分が楽しい、という事を表現出来ているだろうか。過去のリンリンを投影して、その前で自分を出しているだけになっていないか。

 私は彼女といる事を、楽しめているか。

 

「楽しめないのは、楽しむ努力をしていないから、かもね」

「……楽しむ、努力」

「そ。例えば、手に取った本を、それが全く知らないジャンルであっても、とりあえず楽しんでみる。そうすると不思議と、好きになる。自身の変革を恐れて"絶対に楽しまないぞ"、なんて気持ちで臨んでも、好きなものは増えないし、好きになることは無いよ。変革はしなければならない、なんてことはないから今のままでも何も問題はないけど」

 

 もし、好きなものを増やしたいのなら。

 まずは楽しむ努力をしてみるのも──選択肢に入れておくといい。

 

 そう言って、レナさんは立ち上がった。

 降車駅だ。

 

「折角わたしと出会ったんだから、自分の中に何か気付きがないか、探してみると良いよ。それじゃ、悩み悩んで苦しむと良い。頑張れ若人」

 

 そんな風に、また後ろ手を振って去っていくレナさん。ぷしゅー、という音を立てて、電車のドアが閉じた。

 

 ……楽しんでみる。楽しむ努力……。

 

 難しい事言うなぁ。

 というか本当に何者なんだろうあの人……。

 

 本当に仙女だったりして。

 仙女がイヤホンで音楽聞いてたらそれはそれで嫌だな……。

 

 まぁ、楽しむ努力。頑張ってみよう。




後に書く事はあったかもしれない。
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