友人がVtuberやってるって言いたい 作:未来へと繋ぐ楔の筆
まだV要素薄目
「頼む~、リンリン! Vtuberになってほしいんだぁ」
そう言ってきた親友に、とても新鮮なものを感じて、話を聞いてしまったのが運の尽きだと思う。そこで、私はすべての運を使い果たしてしまった。
あだ名を青眼鏡というこの親友は、中学生の頃からの付き合い。あまり……ううん、全く友達のいなかった私を外に連れ出してくれて、みんなの輪に入れてくれた恩人。そもそも日本語があまり話せず、口数自体も多くはないママや、仕事で忙しくあまり家に帰ってこないパパより、ずっと、ずっと、一緒にいた気がする女の子。
今の私は彼女無くしてあり得ない。彼女との思い出や、彼女が教えてくれた事は全部覚えているし、私の支えになっている。
私の半分以上は、彼女の存在で成り立っていると言っても過言ではなかった。
もう少し小さい頃、私は自身の容姿が好きじゃなかった。嫌いだったかもしれない。金色の髪の毛。
青色の眼。目鼻立ちや顔の輪郭のどれもが、みんなと違った。カワイイとか、キレイとか、そう言ってくる人達が心から理解できなかったし、止めて欲しいと思った。だって私はこの見た目のせいで、みんなに話しかけてもらえない。異質な容姿のせいでいつも遠巻きに眺められるだけ。誰も私を見てくれない。
……今に思えば、少なからず……私にも原因があったのだと思う。自分から、みんなの輪に入ろうとしなかった。誘ってもらえるのを待って、話しかけてもらえるのを望んで、仲間に入れてもらえるものだと信じてた。
そんなことはなくて。小学校は、本当に寂しくてつらい日々が続いた。終わるまで、続いた。
中学に上がって、初めて話しかけてくる子がいた。それが青眼鏡。話しかけてきたと言っても、第一声が「君カワウィーネ」だったから、正直あんまり印象はよくなかった。この人も私の容姿を小馬鹿にする人なのかな、と。そう思ってた。特別視という名のからかいはもう散々だったから。
でも、違った。交わした言葉は三つだけ。
「今、楽しい?」
「まだわからない」
「わかった。任せて」
たったこれだけで、たったそれだけで、青眼鏡は私の事がわかったと言った。私の理解が全く追いつかない速度で、私を理解したと。怒りさえ込み上げるその身勝手な言葉も、彼女が真っ先に引っ張って連れてきた明るい男子と鋭い目の女の子の前に散って消えてしまう。
男の子と、どうみてもあんまり素行のよろしくない女の子。怖い、と思った。
でも。
「アニーちゃん、だっけ。俺はソーイチっていうんだ。よろしくな!」
「京子。この馬鹿とは長い付き合いなんだ。よろしく」
気さくに、まるで「いつものこと」みたいに自己紹介をしてくれた二人に、自然と、私も声を発することが出来た。まるで「今まで当たり前のようにしてきた事」みたいに、壮一君と京子ちゃんの手を握り返すことが出来た。
出来ないと思い込んでいたからできなかっただけで、元々できるんだよ、リンリンは。そう、言われた。
青眼鏡は「ということで」なんて言って私の手を引いて、わいわいと沢山のクラスメイトの集まる教室の中心に、放り込んだ。流石に静まり返るその場に、やっぱり無理かもしれないと顔を背けようとした。けど、青眼鏡が「ほれリンリン、自己紹介自己紹介! 大丈夫大丈夫リンリンのへったくそな英語は誰も期待してないから!」「出来るよ、君は。だってさっき出来たからね」。そう、背中を押してくれた。
私は、驚くことに緊張もせず……自分の名前と、へったくそな、と言われたように英語が全然わからない事と、よろしくね、と。それだけの、簡潔な挨拶をした。
目を瞑る事も、俯くことも無く……そしてそれは、まばらに上がった「よろしく!」「よろしくなー」「アニーちゃんでいい?」「えー、英語教えてもらおうと思ってたのに!」という暖かい言葉に迎えられた。ああ、本当だ、って。大丈夫だったんだ、って。
お礼を言おうと、そして貴女も一緒に、と。
青眼鏡の方を振り返っても、そこに彼女はいなかった。
中学三年生の頃、色々と悩む時期があった。進路とか勉強とか資格とか、色々。色んな人に相談して、青眼鏡にもいろいろ聞いて……でも、その時からすでにもう、ちょっとした煩わしさを感じていたのだと思う。聞いた部分だけじゃなく、聞いていない部分にまで「こうしたらいいんじゃないか」とか「こうするときっとよくなるよ」とか、そういう……なんだろう、助言のようなものを出してくる青眼鏡に少しだけ嫌気が差していた。
……その助言に従うと、私にとって良い事が必ず起きるから、さらに悔しくなった。天気予報の一つだって、青眼鏡は外さない。どれだけ外が晴れていても、ニュースで降水確率がゼロだと言っていても、青眼鏡が「傘を持って行った方が良い」というと必ず雨が降る。もしくは、傘が必要な場面に立ち会うことになる。
それは「天才」なんていう小さな言葉では言い表せない……予知とか予言とか、そういう類のことじゃないかと疑ってしまうような程で。彼女曰く「ちょっとした推理だよ」というそれに、仕方なく従う日々が中学の終わりまで続いた。何の損もない、本当に幸せで楽しかった──どこか効率的な、学校生活だった。
春休み……というか高校進学のための準備期間に入って、冒頭の言葉を投げかけられるに至る。
今まで「こうした方がいい」という助言ばかりをくれていた彼女が、「これをやってほしい」と頼み込んできた、珍しい出来事。
彼女が齎してくれた幸運の中でもとびきり最上級の、もうまたとないだろうチャンス。
私はそれを受けて──Vtuberになったのだ。
〇
調子に乗っていたんだと思う。
ファーストフード店や文房具屋さんでバイトをした事がある程度の職業経験しかなかった私が、青眼鏡の仕業とはいえ大企業の面接を受けに行くことになり──しかも、受かってしまった。私だってアイドルやモデルなんかのタレントへの憧れは人並みに持ち合わせている。だから、形は違えど「マネージャーさんを付けられて」「トレーナーさんとダンスや歌の練習をして」「カメラの前で、話して、歌って、踊る」。
そんな存在に自分がなったのだ、という事実は、でもプレッシャーよりも誇らしい気持ちが勝った。なんて幸運なんだろうと思ったし、そんなに自分は「出来る子」だったのかと、嬉しくなった。
ママもパパも、Vtuberという職業に理解はなかったけど、その大企業の名に「すごいじゃないか」と言ってくれた。凄いことなんだと、改めて思った。
高校入学を挟んで、二か月。
前代未聞のスピードで100万人の登録者を越え、120万人が私を見ているという時になって、ようやく、ちょっとだけ怖くなった。私はそんなに面白い人間なのか、と。
……それさえも肯定してくれた青眼鏡によって、私はさらに自信を持つことになる。
そして段々と調子に乗り始める。自信は確信に変わる。自分は面白いのだと。自分は実力で、ここまで登ってきたのだと。
私にはもう、青眼鏡の助言は必要ないのだと。
彼女は自虐的に「自分は付き合いが悪い方だ」と良く言っていた。でも、彼女と少しでも関わった事がある人からすれば、何を言っているんだろうと思うだろう。確かにちょっと口は悪い。でも、面倒見が良いし面倒事の解決能力が高いし、何より頭が良い。学業でも恋愛でもその他の事でも、なんだって相談に乗ってくれて、解決までの道筋を示してくれる。生徒だけじゃなく先生まで彼女に相談をするくらいだ。どれほど頼られているかなんて、推して知るべしだろう。
青眼鏡は私の事を「クラスの人気者」とからかうけれど、それを言うなら彼女は「学校全体の人気者」だ。確かに人と遊ぶことは少ないし、あんまり会話にも加わってこない。積極的に人と話すタイプじゃないのはわかっているけど、どれほど楽しそうにみんなが騒いでいたって、あんまり輪に入りたがらない。彼女自身の言う通り内向気質であるのは間違いないんだろう。
でも、私なんかよりずっと顔が広いし、様々な学年・学科の生徒・先生が彼女を頼りに来る様を「人気者」と称せずしてなんと言えばいいだろうか。ぶっきらぼうで、先生以外には不機嫌な顔を隠そうともしないけれど、それを受けて尚周囲が集まってくるほどの──有能。もしくは、天才。それが青眼鏡だった。
でも、だから、やっぱり。
そんな天才さんの助言で今の自分がある、というのがあんまり好ましく思えなくて、段々と彼女の元から離れるように──Vtuberの活動の方に集中していった。
私は私の実力で駆け上って、そして、あの天才の横に、天才の言葉無く並び立てるようになる──なれる素質があるのだと。
……その思い上がりは、残酷なことに、打ち砕かれなかった。
〇
歌も。ダンスも。配信も。動画も。何もかも──評価される。それも、いい方向に。
リスナーのみんなからだけでなく、会社の人達からも褒められる。誇らしかった。だってこれは、青眼鏡の助言のない領域。青眼鏡は歌もダンスもあんまり得意じゃないし、配信なんてやらないし、動画も出していない。だからこれは私の実力で、その評価は全部私のみに向けられたもの。
あれだけ嫌だった「かわいい」とか「綺麗」とかいう言葉も、Vtuberとしてのキャラクターを通してなら心地良く感じられたし、持て囃される事が楽しくなっていた。青眼鏡にさえ「面白い」と認められたその事実に鼻を高くして、どんどん調子に乗っていったのだ。
友達も沢山増えた。同い年の友達より、年上の……大人の友達が。ニャンさん。春藤さん。ユーリカさん。花ホルダーさん。色々な経験をしてきた人たちが、私の事を褒めてくれる。青眼鏡の関係のない所で、私を見てくれる人達がこんなにもいる。
嬉しかった。嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて──。
私は青眼鏡に、今まで思っていた「嫌な事」の一部をぶつけた。
……その時は、上手く行った、と思った。ニャンさんに「キスをするのは恋人同士という証よ」という話を聞かせてもらった時は耳まで赤くなってしまったけど、不思議と自分が言う分には恥ずかしくなくて……なにより、いつも冷静な──言動はハイテンションだけど──青眼鏡が焦っているのが面白くて、自分の行動が彼女を驚かせていると言うのが嬉しくて、本当にキスまでしてしまった。
呆けた顔で私を見上げる彼女に心から──征服欲のような、「私はこの子に勝てるんだ」という思い上がりが体を満たしていくのを感じた。
キスも、首も。今まで
だから、その支配に少しでも見せた反抗心に、イラっと来てしまった。
〇
まだ言うか、と。
キスをされて、それを受け入れても尚、彼女は私に「助言」をしてきた。そっちにはいかない方がいいよ、と。何様なんだと思った。それくらい私は、思い上がっていた。
貴女の主人は私だと言わんばかりに。
だから、主導権はこっちにあるんだとわからせるために、彼女をベッドに押し倒した。噛みついてくる犬には躾が必要だと思ったから。イライラしていた。凄い。凄く。
気に入らない。気に食わない。その、私は心配しているんだよ、とでも言いたげな瞳が──心から、嫌い。
でも、嫌いになってしまうよ、と言っても、友達に向ける目じゃない、なんて自分を棚に上げて指摘しても、彼女は止めなかった。どころかもっと強い意思で私を窘めるように言葉を放つ。
ふざけるな、と。そう思った時には手が……ああ、膝が出ていた。
暴力に走るようになってしまうくらい、理性のタガが外れていたのだ。
でも、どんなに苦しめても彼女はその目を止めなかったし、その優しい声を止めなかった。情に訴えても、正当性を主張しても、彼女は今なお私を
なんで、この子は……私を認めない。私が上にいる。だって私は沢山の大人に認められる実力があって、沢山の人に見てもらえる魅力があって、貴女を支配する力があって!
あんなに、簡単に、貴女は私を
それとも、何?
もしかして貴女は、私を……主人でも、友達でもなく、ゲームのキャラクターか何かのように見ているの?
だから、私の「本気」が伝わらないの?
そうやって思いの丈をぶつけている内に、とうとう……ううん、ようやく、彼女が抵抗を見せた。
「リンリンが私の事見てくれたら、考えるよ」
──。
ゾッとした。
あれ? と。あれ? と。あれ? と。
おかしいな、と思った。
私の拘束なんか簡単に抜けられて、乾いた声で何か、酷く聞きたくない言葉を吐いて。
「もし、不快だったら。早めに切り捨ててくれていいよ、私なんて」
そっか。そう言って
あれ?
心に残った疑問が、消えなかった。
〇
マネさんから初ライブが決定した、という話を聞かされた時も、どこか上の空だった。
幾度となく自分の手のひらを見て、鏡を見て、考える。
自分が何に疑問を抱いているのか、わからないのだ。疑問を抱いたことは覚えているのに、何を疑問に思ったのかを忘れてしまった。忘れてしまった、というか……思い出さないように、脳が隠してしまった、みたいな感じ。
青眼鏡が無理矢理私の腕を掴んでカラオケ店に連れ込んできたときも、勝手に納得した様子を見せつける彼女に怒りを抱きながら、それを考えていた。いつものように自虐的で、自己評価が低い彼女の弁論を聞きながら。全く以て見当はずれな話をしている彼女は、私が支配欲に浸っていた事なんて微塵も考えていない様子で、自分が如何に愚かな視点をもっているか、というのを力説していた。
多分、素直に私の話を……ただの友達になりたいのに、みたいな言葉を信じているのだ。私の内心になんか気付かないで、まるで私が何も知らない馬鹿な子であることを前提として、話を進めていく。
あぁ、やっぱり。
もうこの子の言葉は私には必要がないんだな、と思った。
でも同時に、この子を手放すのは嫌だと思った。中学生の三年間をずっと抑圧されていたのだから、せめて同じ期間以上は返してもらわないと。そんなことを考えて。
「つまりは、私が頑張って、
あぁ、そうだ。主人を見失った犬だというのなら、私以外が見えないようにしてしまえばいい。
そうだ。別に深く考える必要はなかった。ライブで見せつけるのは勿論の事だし、何か形に残るものでも縛ってしまえばいいと考えた。
翌日、リスナーさんからもらったお金で、チョーカーを買って。舌を突き出して上を向く彼女に白い首に、それを着けた時……酷く興奮した。その意味がわからない青眼鏡ではないだろう。だけど、抵抗しないという事は、彼女が私の支配下にあると、彼女が私の下にいる事を認めたんだと。
嬉しくて嬉しくて嬉しくてたまらなかった。たまらない。たまらないと、顔に手を当てて喜んだ。
彼女が帰った後も、首輪を付けた彼女の姿を想像して……優越感に浸った。それほど、私は彼女に抑圧されていた──そう、感じていたんだ。
……でも、それだけじゃ足りなかった。まだ足りないと思ってしまうくらい、私の征服欲は膨れ上がっていたんだ。
〇
ニャンさんとのコラボがあった。青眼鏡と形だけの仲直りをして、だというのにパパから残酷な条件付きで配信頻度を下げろと言われる恐ろしい話があったけど、それはそれとして毎日の配信で。
その打ち合わせ中に、この間教えてもらったキスをした、という話になった。私から振ったんじゃなくて、ニャンさんが言葉巧みに引き出しただけ。でも、唇を交わすだけがキスじゃないのよ、と言われて衝撃を受けた。そこから妙に具体的な効果音や質感で語られる、大人のkiss。ぜひ、やってみたいと思った。
なんでも大人のキスは、されると気持ちいいらしい。上手い人がやると虜になってしまうのだとか。通話越しではあったけど、早速レクチャーを受けた。すごく、えちえちだった。
ニャンさんとのコラボを無事終えて、その翌日。
早速青眼鏡を家に招き、適当な口実を付けて目隠しをして、準備完了。
制止をかける青眼鏡を無視して唇を合わせ、さらに舌を入れる。自分の咥内とはまた違う温度の空気で満たされたそこにいた、驚いたまま動かない肉根をざらりと舐め上げれば、青眼鏡が肩をびくびくと震わせる。気持ちいいっていうのは本当だったんだ。じゃあもっとやれば、もっと虜になるはず。
舌で舌を舐めたり、無理矢理引っ張り出した舌を前歯で甘噛みして、その根元や横合いを舐ったり、頬の内側や歯を撫でまわしたり。息が続くまでやれること全部をやった。アイマスクで目は見えないけど、こうまでされたらあの反抗的な目もとろけている事だろう。ニャンさん曰く視界が塞がれていたほうが効果的ということなので、このアイマスクは取れないけど。
息継ぎをして、もう一回。
青眼鏡の咥内を蹂躙する愉しみが止められない。抵抗できないくらいドロドロに溶かして、私が上であることを思い知らせてあげる。私だけを見るように、Kさんだのベレー帽の人だの、よくわからない人達なんか見ないで済むように。
貴女は、私だけのために──私のいう事だけを聞いて生きていればいいんだから。
だから、また。息を吸って、またやる。
気持ちいいでしょう。虜になってしまったでしょう。私と一緒にいれば、これをタダであげるよ。私に従っていれば、私の魅力を分け与えてあげるよ。だって私はもう、貴女より凄いんだから。
だから、ずっと一緒にいようよ。
散々舐って──青眼鏡が、口を閉じるのを止めた事に気付いた。腕も足も力なく投げ出されていて、さっきから反応も無い。
あれ? と。また、疑問が湧いた。
恐る恐るアイマスクを取る。
「あ……」
彼女は、目隠しの下で尚目を開いたまま──泣いていた。
泣いていた。初めて見た。青眼鏡の涙なんて。
おかしいな。
「ごめん」
おかしい。
おかしいな。
「今までごめん」
違う。違わない?
ねえ。これは、そうじゃない……そうじゃなかったよね?
「ようやくわかった。酷いことをしてきた。ごめんなさい」
謝ってほしかった? 私を抑圧してきたことを?
……抑圧。そんなの──本当に、された? ねえ。本当に、された覚えがある?
「だから、もう──やめて欲しい」
そんな顔をされるような。
そんな顔を、させてしまうような。
なんで貴女が──謝っているの。
「今までごめんね」
そんな──もう、いなくなってしまうかのような言葉を。
〇
彼女の助言は、私に幸せを運んでくれていた。
それが、私の幸せが彼女に作られたもののようで、嫌気が差した。
──何を勝手な。その言葉に従う事を決めたのは私で、それを決めたのは、損をしたくなかったから──もっと幸せが欲しいと願ったからに他ならない。無視をする事を恐れたのは、自分だというのに。
彼女に関係のない所で実力を発揮し、それを認められた。
天才の言葉は必要なく、私は自身の努力のみで今この場に立っている。
──本当に? 誰かが声を掛けてくれるのを待つばかりで、Vtuberになったのだって彼女に薦められて。私に起きた物事のあらゆる切っ掛けは彼女が持ってきてくれたのに、彼女は本当に関係がない?
ずっと彼女に抑圧されてきた。私の自由なんてなかった。
だから今度は私が彼女を支配し返し、私を認めさせるんだ。
──彼女は自分のために、私へ言葉を投げかけていた? そんな馬鹿な。全て、私のため。私がもっともっとと強請ったから、彼女は身を粉にして私を守ってくれていた。それを支配と罵るのか。
ああ。
なんて──恩知らずなんだろう。
恩を仇で返す、という言葉があったと思うけど、まさにそれだ。私は。私は。
私は、今までに……彼女に何かを返したことがあっただろうか。
ずっと貰ってばっかりで、ずっと貰っていて、ずっと、ずっと、ずっと……与えられる事を受け入れていたのは、私の方なのに。
全部貰った。私が心から、一番楽しいと思える場所まで貰って、私は何か返したか。
何も。何も、返していない。どころか、彼女の声を無視して、彼女に勘違いの怒りを向けて。何が私の内心になんか気付かない、だ。素直に信じているんじゃなくて──信じてくれていただけなのに。私の言葉が、上の空から出たものじゃないと。心からの言葉だと。
ずっとずっと、彼女は私の事を信じて、色々してくれている。私は彼女の行動を、一切信じられていなかった。親友。どこが、だろう。
気付くべきだった。最初からキスだって、彼女は嬉しがっていなかったのに。私にされることは嬉しいはずだ、なんて勘違いをして──泣かせてしまった。やめて欲しい、と言われた。今まで無抵抗でいてくれたのは、私を信じてくれていたからだというのに。私はそれを裏切って、一線を越えたんだ。
テーブルに置かれたチョーカーを見る。
首輪。親友をペット扱いして、親友に自分を見て欲しいなんて。どの口が言うんだ。
「……あぁ、何やってるんだろ、私」
──"リンリンが私の事見てくれたら、考えるよ"
いつかの彼女の言葉が脳裏を過ぎる。
いつだって彼女の言葉は正しくて、その通りに行動すれば幸せが待っているし、それを無視すれば損をする。不幸になる。予知とか予言みたいな、彼女曰く簡単な推理だという、その言葉。
ああ、正しかった。もしあの時、どうにか踏みとどまって彼女を見ていれば。私を見せればいい、なんて考えだけじゃなくて、私が彼女を見る努力をしていれば、元の関係にまで戻れたかもしれないのに。
去り際の彼女の顔を思い出す。
悲しい顔をしていた。涙もそうだけど、あんな顔も……初めて見る。悲しい映画なんかを見た時のそれとは違う、心から後悔しているような、そんな顔。その表情にさせたのが、私。きゅう、と胸が苦しくなった。痛い。痛い。
痛くて、涙が出る。
ああ……。ああ。
──嫌だなぁ。また、一人になるのかな。
ああ──。
それは、どこから絡まっていたのか。