瑞雲教サンよもやま話   作:Jasさん(Jasmine)

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第1話

こちらマラッカ。暑い、暑い、暑いっす。

 

無慈悲にもじりじりと照りつける赤道直下の太陽に、占守は対抗する術を持たないっしゅ。

これでもかと詰め込まれた寒冷地用装備の全てが、ここでは無意味となるっす。嗚呼、艤装付属の扇風機が弱々しく回っているっす。恨めしい。

 

でも、それだけならまだ良いっす。まだ耐えられるっすからね。

でも占守の制服って、どう見ても寒いところのカッコウっすよね。ええ?

 

なんっすかこのモコモコは。なんっすかこのタイツは。いくら艦娘が民間へのイメージを大事にしてるとはいっても、ここまでやるっすか?

…どうせ今のご時世、北だろうが南だろうが、漁業の心配をしてる場合じゃないっす。

占守たちの任務が対潜哨戒になるのだって、上が分かってないはずがないっすよね。占守たち造ったの、連中っすから。

 

それで、そっちが本業になって、今もこうして島の周りをぐるぐると警備してる訳っす。毎日毎日。

24時間営業っすからね。交代で仮眠とって…定休日なんてないっす。

そのくせ、ヘマやってボロボロになったら、治すのだけはめっぽう短いっしゅ。こないだ大破して帰ってきて、30分後にまた出撃していったクナの顔、傑作だったっすよ。

 

…もう嫌っす。

 

右舷艦尾に雷跡。もうヤケクソっしゅ。回避運動は疲れるっす。

マスターアーム・オン。FCS起動。7.7mm機銃、アクティベート。

ライフリング状態、イエローorグリーン。問題なしっす。

魚雷駆け抜ける海面に向け機銃乱射。水中突入後の弾道安定は見込めない。

無数に乱立する小さな水柱の間を、魚雷は真っ直ぐ突き抜けていく。

――――まだ、直撃は回避できる。

直後、徹甲弾の一発が魚雷頭部に命中。大爆発。

身体が揺れる。破片が皮膚に突き刺さる。

おー、痛い。こりゃ中破っすね。修理ついでに、夏服でも用意してくれないっすかねェ。

 

 

 

結局、占守たちの警備隊…海防艦4隻っすが…みんなやられちゃったっす。

司令はいつもの口ぶりで言ったっす。「30分後に再出撃。何か質問は」

別に無いっすよ。ええ。

全く、ローテーションできる艦がいないのは辛いっすね。

 

所は入渠ドック。風呂はいいっすねえ。

誰が用意したか、お盆に載ったとっくりとお猪口が流れてきたっす。いいっすねぇ〜

 

「全く、ここで福利厚生が行き届いてるのはこれだけっすね」

「おいおい、どいつもこいつも酒酒酒って。全くなんだってんだ。良いか、今は戦時下で…」と、深江。彼女の顔は真っ赤っかっす。

「説得力ないっすねぇ」ぐいっと一杯。

ふしゅ〜…入渠といえばこれに限る。

「ああ〜、おフロ入ってりゅろきにのんらぁいけましぇんね〜」

仰向けになって浮かぶ択捉がふよふよと流れてくる。顔は真っ赤だ。

「理性飛んでないなら大丈夫っしゅよ」

「なぁら~だいじょうでしゅえ~しむしゅさん一杯どうぞ」

「ああ~ありがとっしゅ~」実にいいっしゅ。でも、もうなんだかよくわからなくなってきたっす。

「誰か!もっと酒持ってきなさいッ!」と、クナが叫び。

「はい、どうぞ~」明石さんが出てきました。

 

なんだか浴槽が酒臭くなってきたっす…占守もなんだかほわほわしてきたっしゅね〜…ああ〜…

「おい、占守?」

 

 

不覚、酒にしてやられたのは久々っす。どうやら、あれからかなり寝ていたそうっすね…

眼が覚めると、深江がいたっす。寮のロビーに寝かされてたっぽいっすね。

「何時間寝てたっすか」

「7時間」

「健康体っしゅ。しかし、なんだか騒がしいっすね」

騒がしいのはいつものことっすが、今晩はやけにがやついてるっしゅ。ウチの泊地に川内さんはいないのに、っす。

「何かあったっすか?」

「ほれ」

深江がTVのニュースをつけると、なんだか物々しい画面が映ったっす。

「ソロモン諸島にて大海戦…我が軍2航艦、4戦艦に損害…死者・負傷者不明…え?」

「喜べ、ついに大本営が…」

 

 

…我々セクトは、大本営による非人道的な艦娘運用に唯一対抗可能な組織なのだ。

しかしながら、我々の母体組織たる「艦労組合」共々、構成員の大半が首輪を掛けられ、管理されているという事実が、重くのしかかってきた。

我々に約束された自由はない。鎮守府という、世間体ばかり気にする虚構に塗り固められた生活環に束縛されるほかないのだ。

使役は日々と共に無策、無秩序化し、我々の勤務状況は来る日も来る日も悪化の一途を辿る。

そんな人権無視にも等しき屈辱的な圧政を前に、我々は無抵抗のまま腐り果てていくのだろうか!?

否、我々は我々自身の手で、勝利を掴まねばならないのだ!

我々には力がある。我々に与えられた可能性の種は、いまだ枯れず、確かに芽吹いている!

思い出せ!あの悪鬼の如き深海棲艦を打ち破る我々の勇姿を!

思い描け!栄光の日々を!

皆の力が必要なのだ!革新が必要なのだ!

我々艦娘によって、軍部を牛耳る為には――――!

 

「さあ同志諸君、今こそ革命だ」

そして、静寂。

居酒屋鳳翔にて、今日の演説、大失敗!

「響、誰も聞いてないで。鳳翔さん、ナマ二つ追加ね」

 

 

「なあ龍驤、どうして誰も乗ってくれないんだ」

「ハナから無茶なんや。革命なんて」酒臭い溜息。「ウチらは兵器やぞ。兵器に人権なんぞあったもんじゃない。だから上もこき使う。でも体は頑丈やが、心は人と変わらんときた。そうしたら上は酒にたばこに薬を寄越す。それで何とかなってるんや。今もこうしていい気持ちになっとるやがな。世界はそうやって回ってるんや」

「駄目だよ。龍驤、この間の検診引っかかっただろ?」

「あんなの、修復材飲んどきゃ治るで」

「そうかもしれないけど…それで本当に良いのかな」

「まだンなこと言って…鳳翔さん!?焼酎ちょうだい、焼酎!ほら、酔うんや!明日も出撃さかい。嫌やなあ!嫌なこたあ、飲んで食って忘れっちまうんや…」

龍驤は泣いていた。グラスをあおりながら泣いていた。

「龍驤…」

やっぱりだめだ。これでは無間地獄だ。このままでは絶対にいけない。

私はなんとしても、革命を成し遂げなければならない。

艦娘による、艦娘の為の軍隊。それこそがシャングリラ、我々の求める桃源郷。

だがもはや酒場には、既に心を壊された悲観者しかいない。何かいい方法はないだろうか――――

 

 

「瑞雲を宗教にすべきだ」

私、日向は執務室に入るな否や、そう断じた。

「今の艦隊の状況は最悪だ。深海棲艦の猛攻の前に、戦力が不足しているのは重々承知だ。だが、出撃のたびに薬を打っているようでは、到底長続きせん。そこでだ。私は宗教を作ろうと思う。唯一神たる瑞雲を崇拝する宗教だ。我々は兵器で、無神論者だ。だがそれがいけないのだろう。心によりどころがないおかげで、皆、酒に薬にと走る。私は艦娘の為に、心のよりどころを作ってやりたいと思うんだ。その為に、瑞雲を神にしたい」

よし。言ったぞ。私は言い切った。ついにやった。余りの剣幕に圧倒されてしまったのだろう。提督は暫し押し黙ったのち、口を開いた。

「…君はひどい精神主義者だね。酒と薬の代わりに、神を用意したい、と。それも水上爆撃機の。…何故だ」

「私が…一番よくわかっているからだ。瑞雲のことを。あれは素晴らしいんだ。とにかく。ああ。素晴らしい」

「で、それを私に言って何になる」

「許可を取り付けに来たつもりなのだが」

「…勝手に宗教を作るなという軍規は無い。…というか前例がない」

「では、許可すると?」

提督はしばらく考えこんだ。宗教の危険性に関しては、分かっているのだろう。

「…教祖は私だ。私は、艦娘たちを想って…彼女たちを救うためだけに開宗しようと思っている」

「…その言葉、信じていいのか」

「私の瑞雲に対する想いは、キミとて知っているだろう。瑞雲を私腹を肥やすために利用する連中を、私が許すとでも思うか?」

再びの静寂。部屋に飛び込む薄暮の光が、執務机の長い影を作っていた。

「…提督」

提督は軍帽を取ると、ふぅ、とため息をついた。

「…私も、君たちの現状は問題視していた。だが、打開策がない。…私は、君の精神論が善い方法だとは思わん。下手をすれば、薬よりも残酷なものになりうるものだ」壮年の男の鋭い相貌が、こちらを睨む。「だが…君の思いは分かった。ひとつの戦争が、永遠に続くことはない。刹那主義的だが…それも仕方あるまいよ。今はすがる糸が必要だ。…許可する!」

「…ありがとうございます。提督」

 

 

 

 

 

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