カンピオーネ~生まれ変わって主人公~《完結》   作:山中 一

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六十五話

 ああ、どうしよう。

 晶はベッドの上で布団に包まりながら、ひたすら念仏のように同じことを考えていた。

 その日は朝から快晴で、日課とまではいかないものの、習慣となっていたランニングには最適な日和だった。朝の澄み切った空気、眩い朝日、そして冬を目前にした冷たい空気。それらが合わさって、さわやかな一日の始まりを予感させたのだ。

 おまけに、神社では護堂にばったりと出くわした。

 護堂もランニングをしていたらしい。

 なんという偶然。

 自分と同じく、朝にランニングをする。ただの偶然だろう。しかし、護堂との共通点が――――たとえ、その日限りの偶然でも――――存在したことが嬉しかった。

 だから、精神的にもハイになっていたのかもしれない。

 まさか、あのようなところで、唐突に告白まがいのことをしてしまうなんて。言った瞬間に、天から地に落ちたような気分になった。それまでの多幸感が地平線の彼方に吹き飛び、ただ胸中には焦燥感だけがむくむくと膨れ上がった。

 やってしまった、と思った。

 口が滑ったのだ。言わなくてもいいようなこと。気づかなくてもいいようなこと。先延ばしにしていればいいようなことを、自分から口に出してしまった。

 勇気だとかではなく、何も考えていなかったのだ。だから、それは決して誉められるようなことではなく、朝の自分を呪うばかりなのであった。

「はあ……」

 一際大きなため息をついて、晶は天井を見上げた。

 何もかもどうでもいいと、投げ出してしまえたら楽なのに、とてもそのようなことはできなくて、結局想いを形にする努力すらも放棄して、今までの距離感を維持したいと思っている。

 誰かが動けば崩れる程度の、危うい均衡の上に成り立っているものだと分かっていても、居心地のよいところからは動きたくないのだ。

 鬱々とした晶が、顔を枕にうずめたとき、枕元に放り投げていたスマートフォンが振動した。

「んあ?」

 晶はもそもそとスマートフォンを取り、画面を見た。

 電話の相手は甘粕冬馬となっていた。

「こんにちは、叔父さん」

「ええ、こんにちは、晶さん。早速で申し訳ないのですが、今、どちらにいます?」

「家ですけど?」

「そうですか。それはよかった。窓から学校の方を見てください」

「学校?」

 要領を得ない説明に晶は首を捻るが、冬馬が何の益体もない電話をするはずもない。晶はベッドから出てリビングに向かった。リビングからバルコニーに出て、外を眺めた。

「な、なんですか、アレは?」

 晶の目に飛び込んできたのは、巨大な竜が悠々と宙を舞っている姿だった。

 晶の家から現場まで、それなりに距離があるため、小さく見えるが、それでも周囲の建物と比較しても二十メートル以上はありそうだった。

「ティアマトーの眷属、というのが祐理さんの見立てですがね。神獣以上、『まつろわぬ神』未満と言ったところらしいですよ」

「そうなんですか……」

 祐理の霊視結果が冬馬の下に届いているということは、祐理はすでに現場近くにいるということだろう。すると、必然的に護堂が同行していることになる。

 胸の内に、ムッと不快感が湧き上がった。

 晶が竜の様子を眺めていると、地上からオレンジ色の閃光が打ち上げられた。

 竜の身体を掠めた弾丸は、それだけで竜の巨体を揺るがす威力を持っていた。

 晶の動体視力を以てしても捉えきれない弾速。護堂の権能による攻撃だろう。

「それで、晶さんにも現場に向かっていただきたいのですが、今すぐに出られますか?」

 このまま晶が現場に向かっても、結局敵を倒すのは護堂である。晶にできることはそれほど多くはない。しかし、僅かでも手助けになることができるのであれば、それでかまわない。

「わかりました。すぐに向かいます」

 晶は、呪術で戦闘用の衣服に着替えると、すぐに部屋を飛び出して行った。

 

 

 

 ■

 

 

 

「ひ、ひゃあああ!」

 まどかは地面に伏せて悲鳴を上げていた。

 腰が抜けて、まともに立つこともできない。立てたところで、どこに逃げていいのかもわからない。そもそも、なぜ、ファンタジーの中にしかいないような怪物に自分が狙われているのかもわからないし、隣のクラスの草薙護堂が槍を振り回して竜の吐く塩水の塊(ファンタジー風に言うと水属性のドラゴンブレス)を蹴散らしているのかもわからない。

「落ち着いてください、まどかさん」

 祐理は、まどかの傍に膝をつき、その背に手を当ててやさしく声をかけた。

 深みのある落ち着いた声音は、まどかの混乱した頭に染み込む妙薬であった。

「あ、ま、万里谷さん……」

「大丈夫です。草薙さんの後ろにいてください」

 祐理も、護堂と同じく不思議な力の持ち主のようだが、竜と戦う力はないらしい。

「万里谷さん。本物の巫女さんだったんだ……」

 緊急事態でありながら、まどかの口から出たのはその程度の感想だった。

 混乱が極まった直後に、急速に思考能力を回復したために、現状を正しく認識できていないだけなのだが、

「え、はい。そうですよ」

 祐理は、生真面目にも、そう返答した。

「君たち余裕だな」

 護堂は後ろの二人の危機感のない会話に呆れながら、豪槍を振るう。

 穂先に絡みつく呪力の乱気流が、陽炎を生み出して炸裂する。護堂の槍は、竜が吐き出す水塊の膨大極まりない運動エネルギーをあっけなく打ち砕く。

 戦闘開始から、すでに五分弱。

 それはつまり、巨大な竜が空に舞い上がってから五分もの時間が流れたことを意味している。

 東京は人口密集地域。その住宅街に、巨大な竜が現れたとあっては、大騒ぎは免れない。こんなときのために正史編纂委員会が動き回ってくれているらしいが、それでもあの巨体は、高層ビルからでも見えてしまうだけに、対策は急ピッチで進められながら、遅々として進んでいないのが現状だ。

 一刻も早く倒さなければ面倒なことになるのは間違いない。

 しかし、それが分かっていても護堂は本気になることができない。

 理由は、二つ。

 一つ目は、ここが住宅地だということ。

 この場での戦闘が周囲に出す被害を考えると、迂闊な攻撃はできない。生憎と護堂は周囲への被害を考えて戦うタイプなのだ。

 二つ目は、背後の二人のことだ。

 祐理は最低限の自衛手段を持っているからまだしも、まどかは完全無欠な一般人。今も、祐理のおかげで持ち直したものの、動揺は隠せていない。

 おまけに、どうやらあの竜の目的は護堂ではなくまどかのようだ。

 理由までは思い至らないが、怪異がまどかの周辺で発生していたことと関係があるのだろう。

 敵がまどかを狙い続けている以上は、まどかを庇いながら戦わなくてはならない。護堂が防戦一方なのは、それが大きく関わっている。

「くそ、面倒くさいな。いっそもっと高いとこにいてくれれば、気兼ねなく撃ち落せたものを」

 二階建ての家の屋根くらいの高さに滞空しているせいで、すこしでもこちらの攻撃が外れれば、どこかの誰かが建てた夢のマイホームに槍が突き立つことになる。

『弾け』

 言霊の弾丸が、竜の下顎を跳ね上げた。

 続けて、槍を投擲。閃光となった神槍を、竜は間一髪でかわして見せた。

 護堂は飛んでいった槍をすぐさま破棄する。その隙に、竜は再び水塊を吐き出そうと口内に呪力を溜める。

「南無八幡大菩薩!」

 今にも水塊を吐き出さんとする竜の首に、砲弾の如き速度で一本の槍が突き刺さる。

 槍は激しく大気を震わせ、竜の頭を大きく揺さぶった。さすがに護堂の権能を用いて創った槍だけに、威力は絶大。人間が放った一撃ではあるが、竜に対して十二分にダメージを与えている。

「遅くなりました。先輩方!」

 転送の術で槍を手元に戻し、晶が護堂の傍に駆け寄った。

「晶さん!」

「万里谷先輩。大丈夫ですか!?」

「はい、わたしは問題ありません。わたしよりも、彼女のほうを」

 晶は、万里谷の隣で縮こまっている見知らぬ少女に目を向けた。

「詳しいお話は後にしましょう。あの竜の狙いはまどかさんです」

 祐理は早口で晶に何に気をつけるべきかを伝えた。なぜ、このような事態になっているのか気になるところではあるが、祐理の言うとおり、話は後にするべきだろう。

 おそらく、この少女は祐理の知り合いで、あの竜の出現に関わっている。だから、竜に狙われているし、護堂が竜の出現と同時に戦うことができたのだろう。とはいえ、当の本人は狙われている自覚がないようで、「え、わたしィ!?」などと、素っ頓狂な奇声を上げている。

「晶」

「はい」

 緊急事態で気が引き締まっているおかげか、普通に返事をすることができた。そのことに安堵しながら、晶は護堂の次の言葉を待つ。

「その人を連れて安全なところまで離れてくれ」

 端的な指示。

「わかりました」

 晶は、二の句なく従う。まどかの隣に膝をつき、手に持っていた槍を消す。

「失礼します」

「え、ちょっと何?」 

 未だに何がどうなっているのか分かっていないまどかを置いておいて、晶はまどかをお姫様抱っこする。

「口を開けると、舌を噛むかもしれないので気をつけてくださいね!」

「え? あ、ちょ……」

 晶は、呪力で全身を強化して、思いっきり地面を蹴った。

「ぎゃああああああああああ!?」

 その跳躍力は一息に家を一軒飛び越せるほど。急加速と急上昇に、まどかは晶の忠告も忘れて全力で叫び声を上げた。

「万里谷は巻き込まれないように、そこでジッとしててくれ」

「はい」

 祐理も護堂に言われたとおりにした。戦場の真っ只中でも表情を変えることなく泰然としている様は実に堂に入っている。

「案の定か……」

 竜は護堂を気にしつつも、まどかが気になって仕方がないといった様子だ。

 護堂に背を向けることへの危機感と、まどかを追いたい欲求がせめぎ合っているのだろう。

 護堂は滞空させていた槍を射出する。対する竜は水塊を吐き出してこれを迎撃。だが、精彩に欠ける攻撃だ。まどかを気にするあまり、護堂への対応が疎かになっている。

「まどかさんは、あの竜にとっては母親のような存在なのかもしれません。ティアマトは大いなる地母神。だから、もっとも身近な女性であるまどかさんを気にしているのでしょう」

「母親を求める子どもか。それを聞くと討伐しにくいな……」

 護堂の攻撃が止んだところで、竜は身体をくねらせて頭を晶とまどかに向けた。

 大きな翼を羽ばたかせ、竜は空に舞い上がった。家々の屋根を駆け抜け、飛び越える晶でも、空を飛ぶ竜から逃れるのは至難の業だ。

「逃がさないぞ」

 そんな雑な逃走を護堂が認めるはずがない。

 鎖を生み出し、竜の羽の根元に絡み付けると、

『縮』

 空間を縮めて竜の下に向かう。

 竜は向かってくる護堂に気づいたが、もう遅い。

 一瞬の油断が命取りになる戦場において、本能を優先してまどかを追った竜と、常に隙を探していた護堂。

 その一点が、戦いの結末を別つ要因となる。

「今ここに顕現せよ。天を翔け、地へ降り下る者。蛇にして豊穣の主。地下深く眠る死者の総帥よ、大いなる雷の神威を我が前に顕し給え!」

 解き放たれる雷撃。

 至近距離からの絶大無比な雷の力が、竜の身体を貫き、蒸発させる。

 砕け散った肉片も、その大部分が雷撃によって焼き払われている。

 地上に落下する前にすべて呪力に還元されることだろう。

『縮』

 言霊を発し、地上との距離を零にして着地する。

 うまいこと、竜が上昇してくれたおかげで、落下物による被害を抑えることができた。

 神獣以上とはいえ、所詮は『まつろわぬ神』にも届かない脆弱な存在でしかない。護堂の権能の中でも最大級の威力を持つ大雷神の化身を受けて無事でいることなどできるはずがないのだ。

 護堂は竜の身体が消滅するのを見届けると、改めて視線を空に向けた。より正確に言えば、護堂の真横に建つ家の屋根の上にだ。

「さっきから、俺を見てるのは誰だ?」 

 いつ頃からか感じていた視線。その主が、すぐ近くに迫っていることを察して、護堂は問いかけた。ひりつくような沈黙を挟んで、屋根の上に立ち上がったのは、小さな人影である。

「ホ、ホホ。さすがは、神を殺めた男。隠形には自信があったんじゃがのう」 

 老人だ。

 しわがれた声に、小柄な身体つきは今にも倒れそうである。しかし、その身から放たれる呪力は並の呪術師とは比べ物にならない。もちろん、それはカンピオーネである護堂の足元にも及ばない程度であるが、それでも、この老人が油断ならない怪人であることを裏付けるには十分だ。

「ふむ」

 老人は、空を見上げる。そこにある何かを見つめているように視線を彷徨わせ、長く伸びた口髭を五指で梳く。

「綺麗さっぱり打ち砕かれたようじゃの。あれだけの《蛇》の気、多少は持ち帰ることができると思っておったが」

 呟いて、護堂を見る。皺だらけの顔に浮かぶ、不気味な笑顔が空恐ろしい。

「なるほど。直に見ると凄まじいの。主の権能は」

「あんたは、誰だ?」

 なおも護堂は問う。

 だが、答えを聞かずともわかっている。この老人は、油断ならぬ怪物であり、その正体は――――

「わしは、蘆屋道満。今はそのように名乗っておる」

 護堂は瞬時に剣を生成した。

 言葉を交わしている暇はない。この老人が、スサノオの言う蘆屋道満であるのは明白だ。『まつろわぬ神』に戻る前に、叩くのがベストだ。

 このとき、護堂がまったく予期していなかった場所から、膨大な呪力が発生した。

「な……ッ!」

「オオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 護堂は驚愕に目を見開き、それを見た。

 身の丈三メートルはあろうかという巨漢だ。肉体は黒く、赤と金の鎧で胸と腰周り、そして両肩を守っているが、それ以外は岩石を思わせる筋肉を露出させている。

 特徴的なのは、なによりもその頭部。

 その部分だけは人ではなく、牛であった。

 牛頭人身の神。

 大地と深く結びついた《鋼》の軍神。

 その巨腕が、護堂の頭を目掛けて大きな戟を振り下ろす。

「ぐ、おおおおおッ」

 とてつもないエネルギーだった。振り下ろされた戟は、護堂を十挺の剣ごと弾き飛ばし、アスファルトを吹き飛ばして四方の民家に甚大な被害を与えた。

 護堂は地面を転がりながらも、回る視界で状況を把握する。左手で地面を叩き、上体を跳ね上げて吹き飛ぶ勢いを利用して立ち上がった。

「ほう、やはり戦い慣れておるの」

 道満は、軍神に視線を向ける。

「それに、こちらも不完全であったか」

 カンピオーネに不意打ちを仕掛け、十数メートルも吹き飛ばすという偉業を成し遂げた軍神は、道満が漏らしたように『まつろわぬ神』という段階にはないようだ。

 肉体はすでに透けている。その上、護堂に攻撃を仕掛けた際に、一撃を受けて右腕が半ばから断ち切られている。

「よいよい、今日は善き物を見た。此度はこれで幕としよう」

 待て、という頃には、すでに道満の姿はそこにはなかった。大規模な破壊を撒き散らした軍神も、霞のように消えてしまい、後には護堂と破壊痕だけが残された。 

 護堂は頭を掻いて、苛立ち紛れに小石を蹴飛ばした。

 

 

 

 ■ □ ■ □

 

 

 

「すごい。竜が一撃で……」

 晶に抱きかかえられたまどかは、当初こそわけのわからない状況に混乱し、喚き散らしていたが、ある程度時間が経つと、自分が置かれた状況を認識するだけの余裕を得ることができていた。

 そして、思考が正常になると浮かび上がってくるのが『この人たちは何者なのだろう』という今さらな疑問である。

 それを、晶に尋ねることができたのは、晶側にも竜が護堂によって蹴散らされたことでゆとりができたからだ。

 晶は、まどかを路上に降ろした。

 護堂によって竜が殲滅されたので、これ以上の逃避行は意味がないからだ。

「わたしは、呪術師ってやつです」

「呪術師?」

「魔法使いみたいなものです。まあ、炎とかを出すよりは、槍を振り回したり銃撃したりするほうが得意なんですけどね」

 晶は、まどかの質問に、簡単な答えを返してくれた。

 ファンタジーが現実になった。そのことに多少感動はしたけれど、本物の竜に命を狙われていたという実感もまた、同時に湧き起こったため、まどかは身震いしてしまった。

 竜が現実にいて、魔法がこの世界には存在する。

「それなら、草薙君は?」

「先輩ですか。あの人は、そうですね。一番わかりやすく説明するのなら、王さまってところでしょうか」

「王さま……」

 晶や祐理のような、特別な人間のさらに上に君臨する人。それが、草薙護堂。

 晶の言葉の意味が理解できないわけではない。なにせ、今目の前で、護堂が青白い光線を放って竜を吹き飛ばしたのだから。

 あれは、おそらく既存の兵器を上回る威力があっただろう。それを、一個人で振るえるとなれば、護堂の存在価値はどれほどのものになるのだろうか。

 まどかは晶と祐理しか知らないが、もしかしたら呪術師という存在はそう珍しいものではないのかもしれない。小説でよくある、正体を隠して裏から世の中を守っているということもあるだろう。今回のような事件が起きたときに、彼らは人知れず戦っているのだろう。

 だが、護堂は別だ。

 『王さま』という表現からも読み取れるように、護堂の力は呪術師の中でも抜きん出て強い。それこそ、まとめてかかっても意味がないくらいにだ。

 それゆえに、護堂は王なのだ。

 唯一無二の、最強の存在として、呪術師から尊崇の念を一身に受けているに違いない。

「詳しい説明は省きますけど、概ねそういう理解でいいですよ」

 晶も、そんなまどかの理解を否定しなかった。

「冷静になってみると、すごいことに巻き込まれちゃったな」

「そうですね。一生に一度あれば奇跡というレベルかもしれませんね。竜に襲われるのは」

 当然だ。

 竜に襲われるなど、そう頻繁にあっては堪ったものではない。一狩り行くほどの力すらないまどかでは、あっけなくエサになって終わる。

「あなたはどうなの?」

 まどかは、晶に尋ねた。

 常日頃から呪術に触れている晶は、こういったことには慣れているのだろうかと思ったからだ。

「まあ、そうですね。今年は、いろいろとありました」

「そう。いろいろあったんだ……」 

 そのいろいろが気になって仕方がないのだが、これ以上踏み込むと大変なことになりそうなので止めた。

「それがいいと思いますよ。関わらなくてもいい業界に関わるのは、身の破滅に繋がりますので」

「こ、怖いこと言わないでよ」

 明日にでもエージェントが来て、記憶を消されたりしないだろうか。

 まどかは、黒服に囲まれる自分を想像してぞっとした。

「うち、そんなひどい組織じゃないですから。大丈夫でしょう。たぶん」

「たぶんって!? 断言して! 大丈夫だって! お願いだから!」

「そう言われても、処分を決めるのは上司なんで……」

「じゃ、じゃあ草薙君は!? 草薙君、王さまなんでしょ!?」

「まあ、そうですね。それが無難な解決策だと思います」

 護堂なら、まどかを無碍に扱うようなことは許さないだろう。

 護堂は、呪術の秘匿を意識しているが、それでも絶対に守らなければならないとまでは思っていない。まどかの事情を優先して、馨に掛け合ってくれるはずだ。

「とりあえず、先輩と合流しましょう」

 晶は、まどかの今後のためにも、早めに護堂のところに戻ろうと思い、まどかをつれて、道を引き返した。




ジャドドバゲゲデビダゾ、ザザレスンジョ!
ゾンドグビバガギダダバギザダダ。ザガ、パダギパボシボゲダゾ!

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