永琳が出産してから1週間後、文夜は退院する永琳と咲夜を迎えに病院まで来ていた
「ではここにお名前と住所を…」
「ん、分かりました」
文夜は受付で書類にサインなどをしていた
「…はい確認しました。どうぞこちらへ」
受付の看護婦は書類に不備が無いかを確認した後、他の看護婦に受付を任せて文夜をある部屋に案内した
「荷物などは既にまとめております」
「そうなの?ありがとね」
後ろをついて行く文夜は看護婦にお礼をしたが…
「それが仕事ですから」
と振り向かずに看護婦は答えた
「うーん…素直に喜んで欲しかったのに…」
「別に私が荷物をまとめておいた訳ではありませんから」
「真面目だね…」
「仮にも人の命を預かる身ですから」
「そういえば何で永琳が入院していた部屋って他に患者さんがいなかったの?」
文夜はふと疑問に思った事を前を歩く看護婦に尋ねた
「ベッドも二つしか無かったし…」
「あのお部屋は普通のお部屋では無いのです」
「普通の部屋じゃない?」
看護婦は昔を思い出すように答えた
「あのお部屋は八意家が所有している部屋なのです」
「あの部屋だけ?」
「はい」
「変なの…」
文夜がそう言うと看護婦は足を止めて文夜の事を見た
「知ってますか?文夜さんと私って会った事があるのですよ?」
「え?僕は覚えてないや…」
「それはもちろんです。何せ文夜さんはその時産まれたばかりでしたから」
看護婦は懐かしそうに言った後再び歩き始めた
「あの時は私も新人でしたがまさか部屋一室まるまる買われる何て思いもしませんでしたよ」
「柚希さん…だよね…」
「そういえば何故特別にあの部屋だけ買ったかは聞かされてませんでしたね…あっもう着きましたよ」
「え?本当だ…」
二人は会話に集中しすぎていた為、既に永琳が待つ部屋の近くまで来ている事に気がつかなかった
「では…失礼します」
看護婦はノックをした後に部屋の中へと入った
「旦那様がお迎えに来ましたよ」
「迎えにきたよ永琳」
文夜も部屋の中に入ると永琳は寝ている咲夜を抱っこしながら椅子に座っていた
「待ちくたびれたわよあなた。咲夜と一緒に寝ちゃいそうだったわよ」
「ごめんね遅くなっちゃって」
文夜は永琳に近寄り咲夜の頭を撫でた
「咲夜はいつも寝てる気がするよ」
「トイレと空腹の時以外はあまり泣かないから私としてはすごく助かるわね」
「あのー」
看護婦は荷物が入ったバッグを差し出しながら文夜達を呼んだが二人は会話に夢中のため気がついていないようであった
「尻尾の手入れはちゃんとしてあげてる?」
「もちろんよ。小さい頃のあなたも尻尾は結構気にしてたみたいだったしちゃんと手入れしてあげてるわよ」
永琳が咲夜の尻尾を優しく撫でていると看護婦はバッグを文夜の顔目掛けて投げた
「いてっ!」
「出口はあちらですよ」
看護婦はにっこりしながらドアの方を指差していた
「す、すいません…今すぐ帰りますね。はい永琳」
「ありがとうあなた」
文夜が手を差し出すと永琳はその手を空いている方の手で持ち立ち上がった
「一週間ありがとうございました」
永琳は咲夜を文夜に預けた後、看護婦に頭を下げた
「いえいえ、私はただ単にこの部屋の担当責任者であるだけですから顔を上げてください」
永琳は顔を上げたが申し訳なさそうな顔をしていた
「さ、帰ろっか永琳」
文夜が声をかけると永琳は文夜の咲夜を抱いていない方の腕に抱きついた
「行きましょうあなた!」
「す、すごく歩き辛いよ…」
「男なんだから頑張ってちょうだい!」
二人はイチャイチャしながら病室を後にした
「…さてお掃除をしますか」
一人残された看護婦はベッドの手入れを始めた
「ここで産まれた二人が大人になってまたここに来るなんて思いませんでしたよ…複雑な感じ…」
看護婦の独り言は辺りを包む静寂の中へと消えていった
その頃文夜達はまっすぐ家に帰る訳では無く繁華街に来ていた
「あっ!ちょっと咲夜用の服を買ってあげたいのだけど良いかしら?」
永琳は服屋の目の前を通った時に思い出したかの様に言った
「じゃあ僕は咲夜と一緒に待ってるからついでに自分用の服も買っちゃったらどうかな?」
「そうさせてもらうわね」
永琳は鼻歌を歌いながら服屋に入っていった
「僕は…アイスクリームでも食べてようかな」
文夜は寝ている咲夜を抱っこしたまま近くのお店に入って行った
「いらっしゃいませ!」
「アイスクリームを3つくれないかな?」
笑顔で出迎えた店員に文夜はすぐに注文した
「バニラとチョコと抹茶がありますけどどうなさいますか?」
「じゃあ一種類ずつちょうだい」
「少しお待ちくださいね」
注文を聞いた店員はすぐさまアイスクリームを持ってきた
「お会計は…」
「はいどうぞ」
文夜は店員が値段を言う前にお金を差し出した
「えーっと…はいちょうどいただきました!それにしても可愛いお子さんですね」
店員は寝ている咲夜を見ながら言った
「先週産まれたばかりなんだよ。初めての子だから大切に育てるよ」
文夜は咲夜の頭を撫でた後にアイスクリームを持った
「ありがとね」
「またお越しください!」
店員が頭を下げた後に文夜は店を出た
「よいしょっと…あっ咲夜おはよう」
文夜は近くのベンチに腰をかけた後、目を覚ましていた咲夜に笑顔で挨拶した
「んーやっぱり美味しいね〜。あれ?咲夜も食べたいの?」
文夜は咲夜が倒れないように膝の上に乗せてアイスクリームを食べていると、咲夜がじーっとアイスクリームを見ていた
「じゃあ一口あげるね。あーん」
文夜はスプーンに一口分乗せて咲夜の口の目の前まで持っていくと咲夜はそれを食べた
口に入れた瞬間、冷えていたせいか驚いたような顔をしたがすぐに笑顔になり嬉しそうに尻尾を振った
「やっぱり美味しいよね〜。小さくても甘いとかは分かるんだね」
文夜は咲夜の頭を撫でていると咲夜はもっと欲しかったのか口をアイスクリームの方に近づけた
「あっ、ダメだよ咲夜。小さいうちから甘いものばかり食べていると虫歯になっちゃうよ?まだ歯はないけど」
文夜は咲夜にアイスクリームを食べさせないようにすると咲夜は泣き始めてしまった
「え!?えーっとどうすれば…」
文夜はアイスクリームをベンチの空いているところに置き、咲夜を抱っこしながら立ち上がり背中を摩った
「どうしたんだろう…アイスクリームもっと欲しかったのかな…助けて永琳…」
泣き続ける咲夜に泣き言を言っているとちょうど永琳が紙袋を一つ持った状態で服屋から出てきた
「お待たせ…って大丈夫?」
「おかえり永琳…じゃなくてなかなか泣き止まないんだよ…」
「はぁ…私に任せてちょうだい」
永琳は紙袋をベンチに置いた後に文夜から咲夜を受け取った
「よしよし…この感じだとお腹が空いてるみたいね」
「よく分かるね…僕じゃ分からないよ…」
「一週間もずっと一緒にいれば分かってくる物よ?はいどうぞ…」
永琳は服をずらし胸を出し咲夜の口に近付けると咲夜は母乳を飲み始めた
「本当だ…おとなしくなった…」
「あなたアイスクリームあげたでしょ?多分それで余計にお腹が空いちゃったんだと思うわね」
永琳は置きっ放しのアイスクリームを見ながら言った
「僕のせいだったんだ…そういえば永琳は人目の付くところで母乳をあげることに抵抗とかは無いの?」
文夜の質問に永琳は優しく微笑みながら言った
「赤ちゃんが泣くって事は話せないなりの主張の仕方なんだから私はすぐにそれに応えていきたいのよ」
「咲夜の事をもっと考えてあげなきゃね僕は…」
しょんぼりしている文夜に永琳は優しく言った
「親って物は子供に教えるだけじゃなくて教わる事もたくさんあるんだから。私もあなたも咲夜にいろいろと教えながらもいろいろ学んで立派な親になりましょ?」
「咲夜から学ぶ…か。そんな事考えた事無かったよ」
文夜は咲夜の頭を撫でるとお腹いっぱいになったのか咲夜は母乳を飲むのをやめた
「お腹いっぱいになったのね」
永琳は服をしっかり着た後、咲夜の背中をトントンと叩いてゲップをさせた
「咲夜は…寝ちゃったね」
「赤ちゃんはいっぱい泣く事と寝る事が仕事だもの」
寝てしまった咲夜を文夜に渡したあと永琳はベンチに置いたままだったアイスクリームを食べ始めた
「あっアイスクリームの事忘れてたや」
「溶けちゃうと勿体無いじゃない」
残りを全て食べた永琳はベンチに置いていた紙袋を持った
「ほら帰りましょあなた」
「うん分かった」
文夜はベンチから立ち上がり咲夜を抱っこしてない方の手で永琳と手をつなぎ歩き始めた
「あれ?あまり服は買って無いんだね?」
文夜は永琳の持つ紙袋を見て言った
「咲夜の分しか買ってないのよ」
「自分の分も買えば良かったのに」
「私はあなたが作ってくれたこれがあれば十分よ」
永琳は今着ている青と赤の不思議なデザインの服を見ながら言った
「…嬉しいんだけどもしかしていつも同じ服を着ているの?」
「もちろんよ。一度たりとも洗った事はないわよ」
「えっ…?」
文夜がまるでゴミを見るかのような目で見ると永琳は慌て始めた
「じょ、冗談よ!だからそんな目をしないで!」
「本当に…?」
「本当よ!ただ同じデザインでいっぱい作ってもらっただけよ!」
「良かった〜永琳に変な性癖ができちゃったのかと思ったよ」
「そんなものは私にはないわよ!」
二人は仲良く話しながら家に帰った
3ヶ月後…この日は普段涼しかった日とは違い夏を思わせるかの様な暑さであった
「おはよう永琳…今日は暑いね…」
あまりの暑さで目を覚ました文夜はリビングに行くと永琳が咲夜に母乳を与えていた
「本当暑いわね…エアコンでも入れちゃおうかしら?」
「うーん…咲夜の身体に悪そうだしやめとかない?」
文夜は咲夜を心配そうに見ながら言った
「私達の快適さより咲夜の事を優先してあげなきゃいけないわよね…痛っ!」
「どうしたの!?」
突然の事だったのでドアを開けて風通しを良くしようとしてた文夜は永琳の元へ駆け寄った
「…噛まれたのかしら?」
「え?咲夜に?」
永琳は母乳を飲んでいる咲夜の鼻を摘まむと苦しくなった咲夜は口を開けた
「…あっ!乳歯が生えてきてるわよ!」
永琳は咲夜の口を覗き込むと驚きの声をあげた
「どこにあるの?あっ…」
文夜も覗き込もうとしたが咲夜がぐずり始めたので見るのを諦めた
「咲夜に嫌われちゃったのかな…」
「ご飯を途中で止められちゃったら誰でも嫌でしょ?」
また母乳を飲み始めた咲夜の頭を撫でながら永琳は言った
「咲夜に嫌われちゃったら生きていけないかも…」
「反抗期が来ちゃったらあなたは鬱になりそうね」
母乳を飲み終えた咲夜は口を離した途端ぐずり始めた
「え!?どうしたの咲夜!?」
永琳は咲夜が泣かない様に背中をさすったりしたが咲夜は泣き始めてしまった
「よしよし…どうしたの咲夜?」
「もしかしてトイレとか?」
「触ってみたけどそうじゃないみたいなのよ」
二人はなぜ咲夜が泣いているのか考えてると豊姫がリビングにやって来た
「お邪魔しま〜すってそれどころじゃ無いみたいね」
「いらっしゃい豊姫ちゃん」
「咲夜が何で泣いているか分からなくて困っているのよ…」
「ふーん…あっなるほど」
豊姫は辺りを見渡した後、何かに気付いたのか空いていたドアを閉め始めた
「何をしてるの?」
「まあ見ててくださいなお父さん♪」
豊姫はエアコンをつけ、懐から扇子を出し咲夜に風を送った
「あら?泣き止んだわね?」
今まで泣いていたのが嘘かの様に咲夜は泣き止み気持ち良さそうに寝始めた
「今日は何時もと違って暑かったでしょ?だから泣く事で暑いからエアコンをつけてくれーって言ってたのよ〜」
「でも赤ちゃんに冷えた風って身体に悪く無いの?」
「エアコンは使いすぎは良くないけどたまに使う程度なら全然大丈夫よ〜」
豊姫は扇子をしまい近くの椅子に座った
「豊姫は何で来たのかしら?」
永琳は寝ている咲夜を抱っこしながら椅子に座った
「これを渡しに来たのよ〜」
豊姫は懐から鞘に入ったナイフを文夜に差し出した
「何これ?」
「前に話したお守りのナイフよ〜」
「へぇよくできて…何これ?」
文夜が鞘から出すと刃の部分は薄っすらと緑色に輝いていた
「そのナイフに私の翼の能力を少しだけ移してみたの〜」
「なんでそんな事したの!?」
「豊姫は悪運を浄化するって意味を込めてやったのよね?」
「ただの手作りナイフだとお守りって感じがしないって思ったのよ〜」
豊姫はのほほんとした感じで答えた
「あっ柄の部分に咲夜って書いてあるね」
「もしも無くしても名前が書いてあれば親切な人が届けてくれるわよ〜」
「…そんな人いるのかな」
文夜が微妙な顔でナイフを見ていると豊姫は立ち上がった
「この後会議があるから私はそろそろ帰るわね〜」
「忙しいなら無理して来なくても良かったのよ?」
「今日来なかったらしばらく来れなかったのよ〜だから早めに来たって訳」
豊姫はドアに手をかけた時に思い出したかの様に言った
「あっそのナイフの鞘はね、鞘から抜きたい!って強い意思が無いと抜けない様になっているから首にかける用の紐でもつけてあげてね〜」
豊姫は鼻歌を歌いながらその場を去った
「ねえあなた?せっかく豊姫が作ってくれたなら咲夜に持たせてあげない?」
「そうだね。きっと何かあったとしてもこのナイフが守ってくれるかもしれないしね」
文夜は紐を妖力で作りだしナイフに付けた後、それを咲夜の首にかけた
〜蓮子の部屋〜
「久しぶり蓮子」
「いらっしゃいメリー」
「冷たいお茶無いかしら?」
「ビールならすぐに出せるけど?」
「ビールは夜に飲むものよ。昼間から飲むのはいただけないわ」
「それもそうね!それにしても最近一気に暖かくなってきたわね」
「もう冬は終わりね…」
「コタツもしまわないといけないね。あっ質問良い?」
「どうしたの?」
「前回文夜と永琳が食べていたパフェってどうなったの?」
「あー…それは残したのよ」
「やっぱり?」
「二人だと到底食べきれない量のパフェを想像してもらえると助かるわね」
「…特大のビールジョッキに入ったパフェを想像したわ」
「あのピザ屋の特大パフェまた一人で食べたいわね…」
「え?現実にもあるの?」
「あるわよ?今度一緒に食べに行きましょ?」
「うーん…太りそうな気がするけど…行きましょうか!」
いろいろ調べてやってみましたが…どうでしょうか?暑くて泣いていたの部分は私が0歳児の時に経験していたそうなのです
私の両親も初めての子だったのでわからない事だらけで大変だったと言う話しを思い出しながら書いていました!
因みに…ビールジョッキに入ったパフェはあります
私は挑戦しましたが全て食べる事はできませんでしたね