東方機人伝 ~機械人形と写影の賢者~   作:倫鈴

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――話はアイの“目覚め”2日前に遡る。





第12話 [罠]

「“衣狩り”?随分ヘンテコな名の妖怪なのね」

 

 

鈴奈庵の事件から数日前の昼。

 

博麗神社に立ち寄った時、霊夢からある話を聞いた。

最近“衣狩り”といわれる妖怪が、人間や妖怪を無差別に襲っているというのだ。

 

 

「ヘンテコって。まぁ実際“中身”もそうっぽいけど」

 

 

華扇は紫から依頼されたある“外来物”の調査で、七日間外の世界にいた。

一週間という期間の中で、華扇はそこそこ密度の高い日々を送っていたが、それは霊夢も同様だったらしい。

 

ちゃぶ台を囲んで座る2人は華扇のお土産の、トーキョーの饅頭を食べながら、華扇と霊夢は話していた。

 

 

「聞く限りじゃ、相当に変な妖怪ね。

人は殺さずに衣服だけを奪って、人外は首を潰して確実に殺すと。人外の服は対象外らしく放置。

被害を受けた人間や妖怪等に共通点は見られないのなると……。

手当たり次第に襲ってるようにしか見えないわね」

 

「人は殺さないって言っても実際は半殺しなんだけどね。全員、例外なく首を折られて重い障害が残った。

でも死んでないんだよね。

殺さない程度に首を折れるなんて、どんな奇跡の使い手なのかしら」

 

霊夢は横目で自称、“奇跡の使い手”を見る。

 

「え、ちょっとやめてくださいよ霊夢さん!

奇跡なんて簡単に出せるもんじゃありませんよ。……というか私、違いますからね!」

 

縁側に座る緑髪の少女は東風谷早苗。

山の頂にある守矢神社の風祝だ。

今は膝に乗せた高麗野あうんの腹をくすぐりながら、霊夢に抗議した。

あうんはご満悦な表情を浮かべている。

 

「ふふっ。まぁ奇跡云々は置いといて、常人にできる所業ではないわね。

武芸を極めた者、例えば“紅美鈴”程の実力者でも、首を折りつつ生かすことは難しいんじゃないかしら」

 

「紅魔館の門番?あいつ強いと思ったこと1度も無いんだけど。しかもたまに寝てるし。敵が来たら真っ先にやられそうな気がするわ」

 

霊夢は頬をついて興味無さそうに答える。

 

あぁそうか。霊夢は美鈴とはスペルカードでしか戦ったことがなかったんだ。

今度修行という名目で霊夢に模擬戦をやらせよう。

 

体術限定で。

きっと痛い目を見るだろう。

痛い目を見るというのは己の成長という面で大事なことである。

 

紅美鈴は武芸において相当な実力を持っているのだ。

魔力にはさほど恵まれなかったようだが。

 

「それに“衣狩り”にやられたやつら全員を見てみると、どうも不意討ち臭いのよ。

気にくわないわ。

人間はともかく、妖怪に至っても争った形跡がほとんどない。

そこそこ力のある妖怪も、綺麗に頭だけ潰されていたらしいわ。

頭が悪かったり、姑息で好戦的な妖怪は昔掃討されたって聞いたけど、まだ残っていたってことかしら」

 

霊夢は不機嫌そうに饅頭を一口食べた。

もごもごと口を動かしつつもその顔に笑みがこぼれたのを華扇は見逃さなかった。

お口に合ったようで。

 

(ふむ、不意討ち、ねぇ……)

 

そんなことを考えながら華扇も饅頭を口にする。

 

スペルカードルールが制定されてから、決闘において『潔さ』と『美しさ』がより重視されるようになった。

跡を残さないという点ではある意味美しいのかもしれないが。

“卑怯”だと非難されるのも当然だろう。

 

幻想郷は人間と妖怪のバランスで成り立っている。

勝手に妖怪や人間の数を減らされるのは、最終的に幻想郷の崩壊にも繋がってくる。

 

思慮の浅い妖怪の仕業なんだろうか?

妖精のいたずらにしてはいささか暴力的過ぎるし。

 

「幻想郷に来て日が浅い既存の妖怪が暴走してるのか、もしくは新種の妖怪か。

どっちにしろ討伐対象よね?」

 

「当たり前じゃない。いくら殺してなくても人間に大怪我させてんのよ。完膚なきまでに叩き潰さないと気がすまないわ」

 

「あら、あなたいつの間にそんな正義の人になったの。ことなかれ主義な性格なのに。修行の成果かしら」

 

「ふん、別に。巫女の務め、ってのもあるけど、こすいやり方が鼻につくのよ。だからボコる。それだけよ」

 

霊夢は鼻を鳴らす。

公平を好むというより、不公平が嫌いな性格なんだろう。

よくつるんでいる紫なんか不公平を体現したような能力を持っているが、そこはどう思ってるのだろう。

 

「問題はどうやってそいつに出会うか、ね。

神出鬼没で足跡すら残さない。

文が取材しようと飛び回ってたけど見つけられなかったようだし……」

 

霊夢は湯呑みの茶をゆっくりと一口飲む。

途中、早苗の方をちらっと見て湯呑みをちゃぶ台の上に戻した。

 

「ちょっと、そこのいつまでも犬と戯れてるやつ。遊びに来ただけなら帰ってくれる?」

 

「……はっ」

 

陶器のそれを置くと同時に霊夢が鋭い声を出す。

早苗の動きがぴしっと固まる。

 

「そ、そうでしたそうでした。衣狩りの退治について考えるんでしたね」

 

東風谷早苗とは一時期共に行動していた事があったから、顔馴染みになっている。

がんばり屋さんで少しそそっかしいところもある現人神だ。

山でよく会い、妖怪の信仰が厚い守矢神社の神々、八坂神奈子と洩矢諏訪子とも華扇は面識がある。

妖怪の山も被害を受け、今回は守矢を信仰する妖怪達の頼みや、二柱の神の提案もあって、霊夢と共同で問題解決に動くことにしたそうだ。

 

当の本人は露骨に面倒そうな顔をしていたが、断りはしなかった。

『足だけは引っ張らないでよね』と短く言うとそれで終わった。

巫女コンビの完成のようだった。

その後は寄ってきたあうんに気がつき、遊び相手になっていたのだ。

 

早苗はちゃぶ台の前に少し間を開けて座った。

ちゃぶ台と早苗の間には、もはや早苗の抱き枕と化したあうんが、霊夢と華扇をぱちぱちと見る。

難しいことはわからないですーという顔だ。

 

「退治以前にまず情報が少なすぎるのよ。

分かってるのは、そいつは凄く大きなな手を持ってるってことだけ。

そんなデカイ手なら図体もデカイと思うんだけど、何でか見つからないのよね」

 

衣狩りについての情報は衣狩りに襲われる寸前、顔面に迫る手を見たという人間からのと、被害状況から推測できるものしかないのだ。

前者は調査のために永遠亭に来た霊夢に、ベッドの上で寝たきりになりながら、なんとか証言してくれたものだそうだ。

 

「私も山を探してみたんですけどそれらしき妖怪は見つけられませんでした。

気配も跡も残さないなんて。

まるで忍者みたいですね!」

 

興奮した口調で、早苗は両手で印を結ぶ。

彼女はたまにへ……ユーモアのある事を言うところがある。

 

「気配を消すといえば、地霊殿の主の妹さんが得意分野だったわね。確か名前は……」

 

「古明地こいし。さとりの妹よ。あいつ最近地底にこもってるらしいから、この騒動の原因ではなさそうね」

 

「でもこいしちゃんに近い能力は持ってるかもですね。そうすると厄介だなぁ。こっちから挨拶もできないなんて」

 

「でもこのままほっておけば被害は増える一方よ。なんとかしないと」

 

霊夢と早苗が頭を捻り話し合うなか、早苗の元に座るあうんがちゃぶ台の上にある箱をそっと引き寄せた。

手元の箱のふたを少しだけ開け覗き見ると、ふっくらとした白い饅頭を見つけたからか「おおっ」と目が輝いた。

 

「仙人様!こ、このお饅頭、私も食べていいですか?」

 

あうんは箱を指差して、恐る恐る華扇に聞く。

 

「もちろん。みんなのために買ってきたものだから、遠慮なく食べて」

 

「やった!いただきます!」

 

 

華扇はにっこりと笑うとあうんは速攻で箱を開け、五目状の仕切りに入った白いものに手を伸ばす。

 

「あ、ちょっと!それ私がもらった饅頭よ!」

 

「霊夢さんだけ独り占めなんてズルいです!はむっ!」

 

あうんの動きに気づいた霊夢は声をあげるが、時すでに遅し。

手のひらに収まる程の饅頭を3つ、まるごと口の中に入れた。

3つも饅頭を入れたからあうんの頬は大きく膨れていて、まるでリスみたいだった。

 

「あっ、この犬、3つも!!」

 

霊夢があうんの大きな頬袋を掴んでグリグリした。

あうんは動じずに、幸せそうな顔で口を動かしている。

 

「こら霊夢!はしたないことはやめなさい!……あうんちゃんも、霊夢だけに独り占めなんてさせないから、1つずつ食べて。お行儀もよくないし、喉に詰まったら大変よ」

 

「ご、ごめんなひゃい。たくひゃん食えたくてついつい……」

 

もごもごしながら喋るあうん。

口のなかは餡子でいっぱいだろう。

 

「誰がついついで3つ同時に食べるのよ。あ~あ、せっかく大事に食べようと思ってたのに」

 

「そういうところよ霊夢!全く、まだまだ修行が足りないわね。あなたはもっと分け合う心というものを……」

 

華扇はこんこんと説教を始める。

これも博麗の巫女である霊夢のためを思ってのことなのだが、霊夢はそれを分かってくれない。

全く聞いてくれないわけではないが、大抵うんざりした顔をするのだ。

 

「あはは、まんじゅうがあれば私の神社におびき寄せそうですね。あうんちゃん、守矢神社にいつでも来ていいんですよ~?」

 

ん……?おびき寄せる?

 

早苗はあうんをのぞきこんで見る。

あうんの返答が来る前に、霊夢も何かに気づいたようだった。

 

「……そうよ、こっちから会えないなら、あっちから“会いに来させれば”良いのよ!」

 

突然の言葉に首をかしげる緑の巫女と狛犬。

 

しかし華扇はその意味を理解していた。

 

「会いに来させるっていうよりは“おびき寄せる”ね。つまり“罠”を張るってことよ。何らかの罠を作って衣狩りをおびき寄せて、接触する」

 

華扇が早苗に説明する。

 

「なるほど!無意識を操るといえども実体がない訳じゃないから、落とし穴とかにははまりますね!」

 

「まだ無意識を操るかは分からないし、そんな原始的な罠じゃ意味ないわ」

 

続けて霊夢は話す。

 

「相手は襲う奴を選んでる。人と妖怪の被害の差がその証拠。人型の妖怪も妖怪だと認識してるようだから、それなりに知能はあるみたいね」

 

「適当な細工じゃ見破られてしまうわけですね。でもどうします?私や霊夢さんは結界とかなら張れますけど、引っ掛かってくれるかは運ですし……結界を広くしたら気づかれるかもしれません」

 

早苗が懸念を示すが、霊夢はあっさり答える。

 

「私たちには作れないわよ。

この場にいる誰よりも、こういうのに適してる人がいるじゃない」

 

霊夢はよいしょと立ち上がる。

そして縁側へと歩くと、霊夢は振り向かずに言った。

 

「アリスのとこへ行きましょ。あいつ器用なこと得意だし。

それに彼女はこの話にのるわ、絶対。

今の状況を考えればね」

 

華扇は思い出す。

たまに博麗神社に顔を出す、傍らに可愛らしい人形を従える金髪の少女がいるのだ。

 

 

フルネームは確か――アリス・マーガトロイド。

魔法の森に居を構える七色の魔法使い。

 

 

そして幻想郷随一の、“人形遣い”だ。




見易い行間がわからぬ。
見にくかったりアドバイスあれば是非とも感想で伝えてもらえると嬉しいです。
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