東方機人伝 ~機械人形と写影の賢者~   作:倫鈴

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アイの“目覚め”1日前。


第13話 [蠢く]

アリスに協力を依頼してから丸1日。

紫に頼まれたことの"報告"をすべく、華扇は早朝から紫を探していたが、彼女は一向に見つからなかった。

思いつく限りのアテのありそうな所は探したのだが、どこにもいない。

紫が(一方的に)可愛がっている霊夢の元ですら、最近顔をだしてないそうだ。

頼んでおいて依頼主が失踪とは何事か、と小腹をたてたが、いないものは仕方がない。

現れるときはひょっこり現れるだろう。

 

紫の捜索を諦めしばらく幻想郷の見回りをしていた。

早朝から活動していたため、いつの間にか太陽が真南にいる事に華扇は気づいた。

 

(人里で少し休憩しようかな)

 

例の件を初め、最近は物騒な噂をよく聞く。

紫に頼まれた事の1つもそれらに関係しているのだろう。

にとりとペアを組んでの調査、外の世界の技術調査。

そこで得られたものはなかなかに信じられないものだった。

紫は、どうだろう。既にもう行動を起こしているのかもしれない。私の報告はあくまで確実性をもたらすだけであるから、改善策を生み出すものではない。それなら見つからないのも納得だ。

 

そんなことを考えていると、華扇の元に近づいてくる空飛ぶ自由奔放な巫女。

 

霊夢だ。衣狩りの件があって、ここ最近は忙しくしている。

いつもなら神社の縁側でお茶を飲んでいるだろうが今はそうもいかない。

幻想郷の危険因子、とまでは言い過ぎだが、その衣狩りに話だけでも聞く必要があるからだ。

簡単に言えば何故、人間を殺さず(ほとんど殺しているようなものだが)妖怪は殺すのか。

 

しかしこの姿を見せず、気配もない相手を探しだすのにはなかなか骨を折っているようだ。

密かに霊夢たちより先に衣狩りを見つけたいと思っている華扇だが、未だその姿を直接見たことはない。

 

「華扇、探したわよ。アリスに頼んでたやつが完成したらしいから一緒に来てくんない?」

 

華扇は驚いた。ちょうど昨日にアリスの住む魔法の森へ、霊夢は頼みに行ったのだから、それからまだ1日しか経っていないはずである。

……そんな日数で作れる罠なんて色々大丈夫なの? と、華扇はついつい聞いてしまうと、霊夢からの返答はとてもカラッとしたものだった。

 

「大丈夫じゃない? アリスだし」

 

 

 

 

 

 

アリスの家には霊夢と華扇の他に魔理沙も来ていた。

魔理沙も同じく、アリスの作った人形を見に来たらしい。昨日神社に共にいた早苗はどうしたのかと霊夢に聞くと、彼女はなんとなく呼ばなかったらしい。

完全にはみごである。

 

閑話休題。

 

アリスが1人で作ったというその“人形”は、とても1日で仕上げたとは思えない、目を見張る出来だった。

全く人間と相違ない姿であり、さらにアリスの高度な操術より、人形とは思えない自然な動きを見せる。

 

人形にはアリス独自の魔法がかけられていて、華扇はまんまと騙された。

『モノに人間の気配を纏わせる』というなんとも特殊な、自作の魔法。

自分で新種の魔法を作り出すまでしたのに、数回で使わなくなったらしい。

 

「もう一生使わないと思ってたんだけどね。奇妙な縁もあったものだわ」と、人形の調整をしながらアリスは淡々と答えた。

噂には聞いていたけど結構クールな感じの人なねと、華扇は心のなかで思う。

 

彼女の夢は完全な自律人形を作ることだ。

それなら、人間の気配を纏わせる魔法に“使い道”は大いにあると思うのだが、アリスは

 

「失敗作よ。使い道もなかったし、私の目指す夢が遠のくから」

 

と、どこか強い口調で言い切っていた。

夢の達成にはまだ程遠くもっと研究と修行を積まないといけない、と。

人間と自律人形は違うということだろうか。

その時の、どこか透いたようなアリスの碧眼が印象的だったのを覚えている。

 

何より華扇は簡単に騙すほどの罠である。

効果は申し分ないようだ。

キノコや薬草を採取する“フリ”をするようにしゃがんだり、辺りを探すように歩き回る姿は不自然なところがなく、気配も合わさって、それが人形だと疑う方が難しい。

これもアリスが魔力の糸で操っているというのだから、驚きだ。

 

霊夢いわく、魔理沙にそっくりだという。

確かに金髪ではあったがそこではなくて、霊夢が言うには“動き”が似てるそうだ。

魔理沙とは知り合って長くない仲だからか、華扇にはわからなかった。

アリスはそんなつもりはないと断言しつつも、少し顔を赤らめていたような……していないような。

3人の仲の良さが伺えて、華扇は少しほほえましい気持ちを覚えた。

 

 

 

 

 

 

アリスの罠人形の確認が出来たので、後は夜を待つだけだった華扇だが、霊夢に呼ばれて昼時何も食べてなかったので、少しお腹が空いていた。

里の甘味処で甘いものが食べたいなとふんわり思っているところに今度は、1羽の大きな鷲が翼をはためかせ、華扇の元へと飛んできた。

 

竿打だ。まだ若くておっちょこちょいな大鷲だが、飼っている動物のなかでは比較的素直な子である。

 

衣狩りの件を受けて、動物たちに幻想郷のいくつかの場所を監視をさせることにしていたから、何か報告があるらしい。

 

竿打の担当は確か人里の周辺。

それぞれ二匹一組で監視させて、何かあったら片方が主人に連絡、片方はそのまま監視を続けてと指示を出していた。

うまく機能したようで華扇は胸を撫で下ろす。

 

話を聞くと、人里の空を巡回しているときにふと微弱な霊力を感知したらしい。

 

まるで“漏れている”ような、微かで清らかな霊力。

霊力のなかでも特に清浄の気が強い、神霊級の霊力だという。

博麗の御神体や守谷の神々の霊力、“聖徳王”の霊力などがそうだから、質としては強力な霊力である。

 

竿打は何かの“物体”から発生していると推測したようだ。

生物がここまでか細い霊力を長く出し続けるのは、結構根気がいる。

それに弱いながらも、霊力が1度も途切れることはなかったらしい。

いつ発生したかわからないが、どこぞの妖精のイタズラというわけではなさそうだ。

 

とりあえず指示は機能して、他の動物たちも仕事をきっちりと果たしてくれた。流石は私が育てただけある。もちろん協力してくれた動物達には後でご褒美をあげるとして。

甘味処はまた今度ね、と少し残念に思いながら、華扇は竿打の言う霊力の発生源へ急行した。

 

 

 

 

 

 

そうして華扇は今、その霊力の発生地点に来ている。

人里から少しだけ離れた場所。

里の周りは一面森が続いているのだが、この場所にだけは樹木が一本もない。

切り倒されたような跡は見えない。

まるで最初から生えていなかったかのようだ。

 

そのかわりか地に生えた青く短い草が一定の面積にだけ生えている。

いわば草原だ。森のなかに場違いのように存在する不自然な草原。

上空から見て何とも変な光景だと華扇は思う。

 

そしてその草原の真ん中に佇むのは、木造の壊れた 小さな“社” だった。

 

その社を中心として正方形上に草原が広がっている。

広さはだいたい家屋が縦横3軒ぐらい並べる程だろうか。

見晴らしは良かったが、それがかえって“社”をより際立たせていた。

 

「竿打、久米。ばっちり任務をこなしてくれてありがとう。今日はもう休んで。他の子達にもそう伝えてくれる? 

……えぇ、大丈夫。私もすぐ戻るから」

 

二羽の大鷲はピィッー! と高い声で鳴くと、大きく旋回して山の方へと飛んで行った。

今日は朝から働いてくれたから疲れているだろう。

何より少し嫌な予感がしたのだ。

だから屋敷に帰らせた。

 

華扇はその“社”から少し離れた地点に降りる。

見えるのはしっかりとした石の台に瓦礫のような木の残骸。

特徴的な小さな屋根の形で分かったものの、それがなければ“社”だとは分からなかっただろう。

まるで自ずから崩れた様相だった。

 

「何かの御神体を祀っていたんでしょうけど、どう考えても無事じゃないよなぁ。私こういうのは苦手なのよね……」

 

発生源に近づくにつれて感じられる霊力が大きくなっていく。

 

それと同時になんだか皮膚がピリッとする。

それは霊力からくる威圧か、しかしその祠から出される霊力によって、私は物理的に“焼かれていた”。

服を通り越して全身の皮膚がピリピリして熱い。

ダメージはさほどのものではなかったが、この霊力と華扇の相性は悪かった。

 

霊力自体の量は少ないが相対的に濃度が高い。

なんて変な、不安定なものだろう。

それに万全の状態ではどれ程の威力を発揮するのだろうか。

おそらく私は手も足もでない。

どころか私以外の誰も手出し出来ないとすら思ったまでだ。

“影”の私に効果バツグンである。

 

 

そんなことはさておき、華扇は霊力に軽く焼かれながら、問題の社の前まで来た。

 

「それにしてもなんなのこれ。人里には何回も来てるけど、こんな場所今までなかったはずよね……。これも最近の異変の影響?」

 

誰かに壊された、というよりはやはり劣化で柱が折れたのか、自然に倒壊したような印象を受ける。

 

瓦礫の木の破片をおそるおそる手に取る。

木自体には霊力はなく特に変わったところはなかったが、ひびが入っていたりして簡単に割れてしまう。

朽ちた木、という印象だ。

 

「気がつかなかった、いや、気がつけなかったのかしら。こんだけ古いってことは、それまで存在してたってことよね」

 

広い森から一部分だけ切り取られたように、綺麗な四角形の範囲に雑草だけが生えている。

その中心にはこの不気味な社。

これじゃあまるで何処からかこの社だけ転移してきたかのようだ。

 

社の屋根をどけて、木片や他の障害物を除きながら、霊力の発生源を探す。

 

「見つけた。これが霊力を発してる元ね」

 

中から見つかったのは黒ずんだ一本の“大幣(おおぬさ)

霊夢が持つものによく似た、俗にいうお祓い棒だった。

いたるところに傷がつき、棒の真ん中部分は盛大に折れている。

お祓い棒の役割はとても果たせない程の状態なはず。

しかしこの神具は最後の力を振り絞るように、清らかな霊力を放出していた。

 

「これは、凄いわね。道具としてはもう死んでるのに」

華扇はそれに並々ならぬ執念のようなものを感じた気がした。

こんな状態のお祓い棒だ。付喪神になっても何もおかしくはない。そうなれば対処しなければならないのは必然であろう。

しかし華扇は不思議にもこれに付喪神の気質を感じなかった。このままこのお祓い棒が付喪神になるとは、何故か思えなかった。「貴方、どうしてそこまで頑張るの?」

 

思わすそんな言葉を投げかける。

すると、その言葉に反応したのかはわからないがお祓い棒の霊力が徐々に弱くなっていき。

ついには消えてしまった。

物理的にも、精神的にも、ピリッとしたものは今はもう感じられない。

 

「霊力が消えた。……ただのお祓い棒ではないことは確かね。一体どういう仕組みなの?」

 

華扇はそっとお祓い棒を手に取る。

霊夢が消えた今なら華扇でも素手で触ることができた。

まだ完全に棒部分は折れきってはおらずぎりぎり繋がってはいるが、粗雑に扱えばすぐに折れてしまうのは想像に難くない。

 

「ここに置いて行くわけにもいかないしなぁ。ただ神社で使われる道具なんてよく知らないし。霊夢なら何か知ってるかしら」

社とは神を祀る建物であるが、崩れたその中に神霊がいるわけでも、何かの御神体があるわけでもなかった。

むしろこのお祓い棒こそ、この社の御神体なのか―

 

 

 

 

『キモい霊力がやっと消えたと思ったら、同じくらいキモい妖怪がいるわね』

 

 

 

 

後方から聞き覚えのない妖艶な声。

紫や隠岐奈に似ているような、底の見えない雰囲気を持っている。

しかし華扇に届いたのはそれだけではなかった。

 

(この嫌な感じ。呪いだ。

強烈な呪いの霊気を背中に感じる)

 

「キモいとは心外。初めて会ってそれはないんじゃないの?」

 

軽口を叩きながら華扇は両手に霊力をこめ、振り返り臨戦態勢をとる。

周りの草原には誰もいなかったが、その奥の森に何かが隠れているのを華扇は感じとる。

姿はまだよく見えないが、おそらくこの声の主だろう。

 

『キモい奴にキモいと言って何が悪いのかしら仙人の鬼。いや、鬼の仙人かな?』

 

「!!」

 

自分の素性を一瞬で見抜いた事に華扇は一瞬動揺するが、すぐに気持ちを落ち着かせる。

(何かの能力か、或いは元々私を知っている人か。何にしろずいぶん好戦的な相手そうね)

少なくとも華扇の知り合いにこんな呪われた威圧をできる者は殆どいない。

 

「まず名乗ってもらえないかしら。もしかしたら貴方と私、知り合いかもしれないし、名前を言ってくれれば思い出せるかも」

 

『知り合い? さぁ。私は知らない。無論、忘れているかもしれないけどね。もしくは私が幾千殺した内の生まれかわりか。どちらにしろどうでもよいが……』

 

華扇は拳を構える。

“それ”が森からこちらに歩いてくるのを感じとったからだ。

呪いの霊気が強くなる。

 

 

『しかし、確かに仕掛けたのは私の方だな』

 

 

そして次の言葉で、急に声色が、それこそ気持ち悪い程に変化していた。

妖艶な大人びた声だったのが、無邪気な子供のような声になる。それが正しい声だったかのように。

“それ”は草原に足を踏み入れて姿を現した。

 

 

「私はエタニティラルバ! 蝶の妖精よ! もっとも今は黒死蝶の妖精ってことになるのかな?」

 

 

彩りもない黒に塗りつぶされた背中の羽。その姿は彼女の言う通り黒死蝶を想像させる。

まさしく呪いの妖精だった。大幣(おおぬさ)




次話は受験勉強が終わったら投稿します。
詳しくは活動報告にて。

ストーリー展開(今時点で起承転結の起4分の3ぐらい)

  • 遅いからもっとスピーディーにしてほしい
  • 普通
  • 早いからもっと展開を練ってほしい
  • 遅いけどこのままでいい
  • 早いけどこのままでいい
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