東方機人伝 ~機械人形と写影の賢者~   作:倫鈴

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第14話[黒と闇の化け物]

 エタニティラルバだと、彼女はそう言う。

 その振る舞いはただの無邪気な少女だと言わんばかりの、わざとらしいものだった。

 

 “外側”はそうなのだろう。

 だけど“中身”は違う。

 

 あくまでエタニティラルバに成りきろうとしているだけ。

 ……いや、真剣に成りきろうともしてないのだろう。

 目の前の相手は妖精の皮を被った何者だ。

 それが何であるかはまだ華扇には分からないが、目の前の黒い妖精からは妖精とは無縁のはずの闇の霊気が、身体から溢れ出していた。

 

「私は茨木華扇。“行者”よ。それで、私に何か用かしら」

 

 化け物は嘲るように答える。

 

『行者ってことは……まだ修行中の身だってこと? ははっ、謙虚なこと。仙人の鑑ね』

 

『でも自分のことを“鬼”とは言わないのね。そっちの方が本職でしょうに。茨木さん』

 

 

「…………」

 

 華扇はなにも言わずにただ目の前の相手を見据える。

 確かに華扇が鬼ではないかという、疑いの目を向ける者はそこそこいる。

 しかし、初対面で華扇を鬼だと完全に見抜く者はそういない。

 鬼の邪気が長い間失われていることに加え、仙人の力をもってその微かな鬼の痕跡すらも隠しているからだ。

 しかし目の前の黒蝶は華扇の秘密を見抜いた。

 その様子はカマをかけてるのではなく、おそらく本当に知っているような様子である。

 華扇の警戒レベルはもう、数段上がっていた。

 

『フフ、まぁ良いわ。そう、用があるのは貴方じゃなくてその棒だったのだけれど、ちょうどいい』

 

 そう言い、黒のエタニティラルバは一枚のカード、スペルカードを取り出した。

 

 

<黒蝶符[ミニットスケールス]>

 

 

 その声に応じるように、背後に明るい黄緑色に黒い蝶の霧を纏った、アンバランスな色彩の弾幕が出現すると、黒ラルバのサインで一斉に散開発射された。

 比較的遅い弾であるから華扇は柔らかな動きで難なくかわす。

 

 が。

 

(この弾幕、ただ遅いだけじゃない)

 

 華扇が回避した弾は大きな音をあげて地面を深く削る。

 弾に込められた魔力量は普通よりも数段多いのは誰から見ても明らかだった。

 

(1つ1つの弾が“重い”のね。速さを捨てて攻撃力を増してるんだわ)

 

 華扇は最小限の動きで弾幕をかわす。

 それ自身は奇怪な弾でも、弾幕自体は簡単なものであるから、華扇はわざわざ空を飛ぶ必要がなかった。

 

「いきなりスペルカード宣言。血気盛んなのは嫌いじゃないけどね」

 

 華扇の手に持っているお祓い棒は今は邪魔になると判断し、後ろの崩れた社の上のそっと置く。

 華扇はその社に保護の結界をかけ、黒ラルバの弾幕で壊されないようにすると、すぐさま華扇も1枚のカードを取り出し、宣言した。

 

 

<雷符[微速の務光]>

 

 

 華扇の蒼白い弾幕が黒ラルバの弾幕を相殺する。

 弾速は遅いが込めた霊力を多めにしたスペルカードだ。

 黒ラルバの弾幕は威力こそ高いものの、遅い上に脆いため、単発の威力に劣る華扇の弾幕にあい消された。

 

(……下っ!)

 

 地中から急な魔力の気配を感じて、華扇は緊急回避する。

 大きな音をたてて黒黄緑の魔力弾が地を突き破った。

 しかしそれが最後の1発だったらしく、華扇に向かってくる弾幕はもうないようだった。

 

「こすい。ぬるい。美しくもない。もしかして私、遊ばれてるの?」

 

 これならそこらの妖精の相手をした方がまだましだ。

 弾幕というものが何か、相手が分かってないことはもはや明白だった。

 挑発する華扇に黒ラルバは飄々として返す。

 

『そうねぇ。遊んでるというより、“実験紛いの好奇心”ってところかな。何せ“弾幕勝負も初めてなもんでね”』

 

「弾幕勝負が初めて? 貴方、外の世界から来た妖怪っていうことかしら」

 

『う~ん、当たらずとも遠からず。いや本当はもっと上手く出来ると思ったんだけどやっぱり……』

 

 最後の方は声小さくて、華扇はよく聞き取れなかった。

 

『とにかくこの弾幕勝負とやらは甚だつまらないことは、よく分かった』

 

 華扇の質問に曖昧に答えると、黒ラルバは伸びをする。

 

 めいっぱいに上げられた両腕は先ほどは白かったのに、いつの間にか侵食されたように黒ずんでいた。

 

 その伸びが終わると黒ラルバは、大袈裟な手振りと共に突然語り始めた。

 

『私から言わせればぬるいのは“今の”幻想郷の方だ。弾幕ごっこだって? 笑えるよ。ただの弱者のための救済措置じゃないか。自然の摂理に沿えばこのルールは無くすべきだと思うけどね。私は』

 

 華扇は眉をひそめて考える。

 新参にしては幻想郷を知っているような口振りだ。

 幻想郷には元々住んでいたのだろうか。

 

 もちろんエタニティラルバという妖怪は幻想郷に住む妖怪なのだろう。

 しかし内側にいる者は分からない。考えるに、外来から来た存在という可能性は高いだろう。

 

 ではあの幻想郷とは旧来の仲間的な、そんな口振りは一体何なのだろうか。

 内側のものも、幻想郷に元々いた存在? 

 ならば今まで弾幕勝負をしたことがないなんて、にわかに信じられない話だ。

 初めて弾幕勝負をしたというのが嘘だとは考えにくい。それは先の弾幕を見ればわかる。

 

 何であれ今分かることは、この化け物はスペルカードルールを良く思ってない、第一次月面戦争時に紫が率いて、そして、月の民に駆逐された妖怪達の部類に入る者、その様らしいということだ。

 

 そしてその口に見合うほどの実力も、相手は持ち合わせていないとも。

 

 華扇はそう思考した。

 

「大言壮語。その救済措置は貴方のような者にあるんじゃないかしら。妖精を乗っ取って何を企んでるのか知らないけど、ここで長く生きたいのなら、幻想郷という郷に従いなさい」

 

 華扇は強い口調で言う。

 これは警告であり、華扇なりの優しさでもあった。

 しかし華扇の警告も優しさも、この黒には通じない。

 

『それは無理な話ね。郷に従うより郷を従わせる方が性に合ってるの』

 

 あんな弾幕を見せておいて、余程の自信があるらしい。

 自信家なのは良いが弁える心というのも大事なものである。

 威勢だけの良い相手に華扇はうんざりしてきた。

 

「そ、じゃあ好きにすれば良い。私を攻撃したことは不問にしてあげる。その調子ならそのうち痛い目を見ると思うけどね。私の知ったことではないけど」

 

 そうして華扇は飛び去ろうとした。

 

『そうね、好きにさせてもらうわ。

 ……あ、最後に1つだけ聞かせて』

 

 だが、その直後華扇の動きが止まる。

 背中に投げ掛けられた言葉が華扇の思考を冴えさせた。

 

 

『興味本位に““人里の人間を数人喰ってみた””んだけど、どれも不味くてねぇ。

 妖怪はよくこんなもの嬉しそうに食べるよね。

 美味しい人間の食べ方とかあれば教えてよ。参考にするわ』

 

 

 気持ち悪い笑みを浮かべた黒ラルバの手にいつの間にか握られていたのは、人間の──

 

 

 

 ぐちゃぐちゃの頭部であった。

 

 

 

「……は?」

 

 

 思わず華扇は声を漏らす。

 それと同時に黒ラルバはその頭部をゴミのように投げ捨てた。

 

 華扇の足元近くでそれは静止する。

 ただの人間や妖精の力ではここまで出来ない。

 例の地を抉るほどの弾幕。

 その重さと同等の衝撃を何度も何度も何度も何度も与えたのだろう。

 顔面に至ってはもはや原型を留めていなかった。

 

『なんてね、嘘だよ。私に人肉嗜食人肉嗜食(じんにくししょく)の趣味はないんだ。この人間は本物だけどね』

 

 黒ラルバは軽く笑う。

 華扇の周囲を凍てつかせる気迫と共に、氷のように据えた目を黒ラルバに向けていた。

 

「……あなたが殺したの?」

 

 華扇の重圧のある言葉にも動じず、黒ラルバはちゃらけたように答える。

 

『だからそう言ってるじゃん。小さな豚小屋のような家で幸せそうに、少ない食物を食べる家族を見つけてね。憎たらしいから全員〆たんだ』

 

 華扇はただ、その場に立ち尽くす。

 黒ラルバはわざとらしそうに大きなため息をついた。

 

『私は幻想郷の人間が嫌い。家畜のような扱いを受けてるのに、極低な文化レベルの生活に満足している。賢者による命の保障のために自ら進化しようとせず本格的に妖怪に立ち向かうこともない』

 

『そう、人間という種族の無駄遣いだ』

 

 まるで演説だった。

 そして彼女は高らかに宣言する。

 

 

『よって私は、この幻想郷に“文明開化”を齎すことにした!』

 

 

 黙る華扇をよそに、黒ラルバは口達者に喋り続ける。

 

『素晴らしいと思わないか? 停滞した人間の文化を開化させることは。

 人間に“力への意志”、つまり、より良い生活を手にするための野心を、この私が、与えようというのだ。妖怪に虐げられてきた幻想郷の人間達が外界の人間と同じように生活を……』

 

「素の口調が出てるわよ、化け物」

 

『……!』

 

 華扇は黒ラルバの話を遮る。

 聞き続ける価値もないと、華扇は判断した。

 

「言いたいことはそれだけ? ならもう言葉はいらないわね」

 

 華扇は霊力を腕に籠める。

 

「妖精には悪いけど、貴方にはここで消えてもらうわ。貴方を生かしておけば碌なことにならないのは明らかだからよ」

 

「固陋蠢愚固陋蠢愚(ころうしゅんぐ)の外道。せめてもの償いとして、自らの罪を悔やみながら地獄に墜ちるが良い!」

 

 華扇は地を蹴って黒ラルバに迫る。

 

『固陋蠢愚の外道、か。懐かしい。“あの女”も似たようなことを言っていたな』

 

 華扇の気迫に物怖じするどころか独り言を呟く余裕を見せる黒ラルバ。

 彼女もまた両腕に黒い霊力をまとわせ、迫りくる華扇を迎え撃つ…………かに思われた。

 

『あぁ、残念。もうこの身体には呪いを移せないようだ。戻るか』

 

 黒ラルバは両手を横に広げる。

 最後の言葉からは闇ではない何かを感じ取った。

 

『ごメんなサ……この妖セイのこト、よろシク』

 

 やんわりとした、どこかかなしそうな笑み。

 

 直後、黒ラルバの背中から禍々しい黒い霊魂が飛び出し、森の中に吸い込まれるように消えていってしまった。

 同時に身体はその衝撃によって前方へ押し出された。

 

「!?」

 

 腕に霊力を籠め戦わんと距離を詰めていた華扇は、慌ててその霊力を解き、重力に従って落ちるエタニティラルバの身体を、片膝をついて、両手でとらえた。

 

 本体の魂だけ分離して逃げたようだ。

 この辺りからはもう、禍々しい雰囲気は感じられない。

 すぐにでも黒い霊魂が逃げた先を追いかけたかった華扇だったが、しかしまだ残された妖精から先のと同じ闇の霊力を感じていた。

 残滓というには残された闇の霊力量が多い。置き土産という言葉が適切だろう。

 このまま放っておけば消滅するか、最悪暴走する可能性もある。とりあえず華扇は妖精に対して何かしらの対処をしなければならなかった。

 

(……一体何者なんだ。衣狩りの件で忙しいというのに。……何か関係があるということかしら。それに最後の“アレ”は……)

 

 突如現れた未知の敵に、うすら寒い何かを感じる華扇。

 

 後に残ったのは華扇と、闇の霊魂から解放され意識を失っている妖精、エタニティラルバだけだった。

ストーリー展開(今時点で起承転結の起4分の3ぐらい)

  • 遅いからもっとスピーディーにしてほしい
  • 普通
  • 早いからもっと展開を練ってほしい
  • 遅いけどこのままでいい
  • 早いけどこのままでいい
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