第1話 [目覚め]
暗闇のなかで声が聞こえた。
無機質で単調。
生物の暖かみは感じられない。
ただその内容だけを伝えるために発せられているようだった。
『……周辺エリアをスキャン。半径5㎞以内に敵対反応なし。全システムのリカバリーを開始します』
そしてひどく聞きなれた声だった。
(os……?)
五感システムが復旧されていき、徐々に感覚がハッキリとしてきた。
これは、風が吹いているのだろうか。
柔らかな風を感じながらゆっくりと目を開けると、深い茶色の太い幹がしっかりと天に伸び、枝についた遠くの無数の葉は、太陽の光に照らされ輝いていた。
どこからかチュンチュンと鳴く音が聞こえる。
仰向けの視界からではその音源は捉えられなかった。
(ここは、一体……)
体を起こすために上半身の各所に信号を送る。
まだ運動回路への接続が不十分なためか腰部分だけでとはいかず、両手での補助も加えて起き上がった。
……両手?
まだ足を動かすことが出来なかったため臀部をついて座った状態のまま、私は両手を見た。
粉砕したはずの右手がある。外見の損傷箇所すら見当たらない。
リカバリーした分析機能で両手をスキャンしても、運動回路への接続が不十分なだけで、内部にも異常は検知されなかった。
運動回路への完全な接続も時間が経てば完了するだろう。
今私の内部で働いているのは自動修繕機能ではなく、再起動による回復が行われているだけだった。
……一体何が起こっている。
あのとき私はリダクスを誘爆させるために自分自身をオーバーヒートさせた。
エネルギーコアに過重負担をかけ、そして……
そこまで考えて私は胸部のハッチを開けた。
コアは破壊されたはずだ。
リダクスを誘爆させるにはエネルギーコアを強制的に爆破させるしか方法はなかった。
しかし開かれたハッチのなかには緑に輝く球状の物体。あるはずのないエネルギーコアが胸の装置に取り付けられていた。
それは今もなお全身にエネルギーを供給し続け、私はこの異常事態についての思考を巡らすことができていた。
全身のスキャンもしてみたが、私を構成している12000のパーツ、そのどれもが、損傷、エラーのない、いわば万全の状態だった。
……あり得ない。
全てがあり得ない。
澄みきったosの思考のなかで今の不可解な状況を整理する。
1つ なぜ私はまだ稼働しているのか。
2つ なぜ私の機体が無傷なのか。
そして3つ ここはどこなのか。
自爆だけでもosへの損傷は甚大だ。
たとえosが運良く修理可能レベルの損傷だったとしても、リダクスの爆発で塵すら残らない。
機体も同様に消滅しただろう。
バックアップの貴重な機体は戦いの中で使いきってしまったはずだ。
「ではなぜ……なぜ私は今存在しているのだ……」
微かな言葉が口からこぼれる。
穏やかな自然のなかで小鳥達は俯いたその姿をただ見守るだけだった。