スキル。
機体に様々な強化をもたらす機能だが、その使用にはエネルギーの消費を伴う。
スキルを使用したことでか、黒い女との戦闘で思い出した――障害が回復した記録がある。
私には元々“スキル”という強化機能はなかった。
博士に機体の改造を願い出たのだ。
名前を貰う前のことだったか。
しかしなぜスキルを扱えるように改造したのか。
なぜ元々扱えなかったのかはまだわからない。
ただスキルの使い方だけはハッキリと記憶機能に刻まれていた。
さて、そんなことを考えつつ、少女を背負い、林のなかを歩き続けること数分。
目の前に鉄と木で出来た大きな門を発見した。
その門を守るように、槍を持った2人の人間が門の前で立っていた。
守衛、門を守っているから門衛というものか。
門衛の1人がもう片方の門衛に声を潜めて話しかける。
「おい、あの女の背にいる子供、もしや人食いの妖怪じゃねぇか?
ここの人間の服を来てるが、あの女も今日人里を出た奴らとはちげぇ。
もしかしたらあの女も妖怪か?
此方に向かってるようだが、どうする。追い払うか?」
「いや、下手に刺激して暴れられると厄介だぁ。話だけでも聞いてやろうやぁ」
どうやらそこそこ警戒されているらしい。
それにこいつ、顔がバレてるのか。
しかも妖怪だったのか。
妖怪は人を襲う生き物と記録には書かれてある。
入れるかわからないがとりあえず話は聞いてくれるようだ。
2メートル以内で、その程度のこそこそ話であれば波長を拡大させて声を聞くことが出来る。
これはスキルでも何でもなく、ただの身体機能だ。
「止まれ!
見慣れぬ顔に背には人食い妖怪。おめぇ、何者だ? 妖怪か?」
変な訛りのある門衛が私に問う。
目は半開きだがその視線は確実に私に向けられていた。
「私は妖怪ではない。私はアイ。この幻想郷ではない違うところから来た」
2人の門衛が驚いた顔をする。
もう片方の男が私に訊ねる。
「外来人か。外からの人間がここまで来るとは珍しいな。その背のガキはなんだ、連れ子か?」
少々乱暴な物言いのこの男。
この黒い少女を妖怪と知っていて、わざと知らないフリをしているのだろう。
私を人か妖怪か見極めるために。
…………まぁどちらでもないのだが。
変に疑われないためにも、ここは本当の事を言った方が良いだろう。
「いいや、ここに来る途中に襲われたんだ。
返り討ちにしたんだが道に倒れさせたままにもいかなくてな。
安全な場所はここだと聞いてここにやって来た次第だ。」
「ふ~ん、なるほど。」
乱暴そうな男はその目を細めた。
まだ私を疑っているようだ。
「良いこと教えてやる。そいつは妖怪だ。
幻想郷には人間を積極的に襲う妖怪とあまり襲わない妖怪がいる。
妖怪相手によく1人で勝ったなとは思うが……そいつは後者。人間を襲う妖怪だ」
ふむ、妖怪といへども好戦的なのとそうでないのがいるということか。
そういうところでは人間とさして変わらないのかもしれない。
「だからそいつは人里には入れられねぇんたよ。
通せるのはお前だけだ。
そいつをここより遠くへ捨て置いたんなら、お前を通してやる。
わかったならさっさと行け!」
なるほど、筋の通った理由だ。
人間を襲う妖怪を人間の里に入れることは出来ないだろう。
黒い少女が人間ならともかく人食いの妖怪だというのだ。
ここは門衛の言う通り、どこか遠くへ捨て置くべきだろう。
「それは出来ない。いくら人間を襲う妖怪といへど見た目は少女だ。少女を危険な外へ置いておくことは出来ない」
…………私は何を言っているのだ?
「あ?いやだから、そいつは人食いの妖怪だからここに入ってくるのは困んだよ。
最近は“衣狩り”なんてやつがいるみてぇだが、そいつぐらいだ。妖怪が妖怪を無作為に殺すやつなんて。
だからそいつをどっかへやってこい!でなきゃお前も入らせねぇぞ」
あぁそうだろう。
聞く限りでは向こうの言い分が正しい。
門衛の言う通りにするのは私のためににもなるだろう。
しかし意図せず出てくる言葉は思考に反する、真逆のものだった。
「でき……ない。
でき、ない。
それは……でき、な、い」
男が怪訝な目つきになる。
変な訛りの男のその細い目も少し動いた。
「ほぉ、そうかいそうかい。
よぉ~くわかったよ、あぁ。
……お前が妖怪だってことがなぁ!」
男が槍を構える。
訛りのある男もただ何も言わず、臨戦態勢に入っていた。
「ここに入りたければ俺達を殺してから入るんだな!妖怪!
ただ、簡単にいくとは思うなよ?」
「あ、ならいい。今日は出直す」
「……え?」
聞き直された。耳が悪いのだろうか。
「だから出直すと言ったんだ。この少女のための別の安全な場所を探してからまたくる」
訛りのある男が久し振りに口を開ける。
「探してからって、夜が更ければ俺達この門の鍵閉めて家に帰るぞぉ?
明日朝まで開かねぇけどそんでもええのかぁ?」
「あぁ。
お前たちに迷惑はかけられない。
では。」
不明なエラーが出てしまい、少女を捨て置き人里を通ることはどうしても出来なさそうだ。
ならば少女を、別の安全な場所へ移動させてから人里に来るしか他あるまい。
「ま、まて!」
去りかけた私に声をかける乱暴そうな男。
「なんだ?」
私は応答する。
「お前、本当に人間か?」
人間か。
機械人形等と言えば後々面倒なことが起きるかもしれない。
あうんに言ってしまったのは、霊夢からここは異なる世界だと言われる前である。
ここは人間で通しておく方が得になると推測した。
「あぁ、人間だか、なにか?」
男が唾を飲み込む。緊張、いやこの男高揚しているのか?
「ならば俺と勝負をしないか?
見たところお前は武器を持っていない。
ということは素手でその妖怪を倒したってことだよな。
その優れた武術を私に見せ勝利すれば、その妖怪とお前の通行を許可するぜ。」
戦闘の申し込みか。
報酬は黒い少女と私の通行許可か。
受けない選択はないだろう。
「良いのか?そんな簡単に。
こいつは人食い妖怪なんだろう?」
「その人食い妖怪をのした実力があれば、暴れだしても抑えられるだろうよ。
それが嘘じゃなければな」
私は少女を茂みの近くに横たえさせ、男は訛りの男に槍を預けた。
出来れば一発で終わらせたいな。
両者が拳を構える。
男が動き出すのを視認し、私も同時に足を出して攻撃を――
「よぉ!お前ら元気いっぱいなようだけど、何かあったのか?」
両者の動きが止まる。
いや、正確には男が動きを止めたのを見て、私も動きを止めた。
訛りのある男が空へ話す。
「おぉ!マリサちゃんじゃねぇかぁ!
ちょっとこっち来てくれぇ!めんどくせぇこと起こってんだぁ!」
「おいめんどくせぇってなんだ、元康。
俺は門番の仕事を果たしていただけだ」
男が戦闘態勢を解く。
それに応じて私も構えを解くと、訛りのある男が呼んだ方へ視線をあげる。
そこには箒を跨いで空に浮いている――魔法使いそのものの姿だった。
「えぇめんどくさいのはやだなぁ。ま、声かけてしまった以上しょうがない。ちょっと聞いてやるか」
私と男の間に入るように、マリサという少女は箒から降り立った。
私の方をちらっと見ると、マリサは門衛の方へ向き直った。
「それで?そのめんどくさい事ってのはなんだよ。急いでるから手短に頼むぜ」
マリサが門衛から話を聞いている時、私はこの魔法使いを観察していた。
誤解のないように言っておくと、この何の変哲もない箒にまたがって、なぜ空を飛んでいたのか、箒とこの少女をスキャンして分析していた。
箒自体に特殊な仕掛けは施されていない。
古い木から作られたごく普通の箒のようだ。
しかしこの少女。
体はただの人間のようだ。
だが、体内に何かが流れている。
それは電流のような、また炎のようなものが、体に流れている。
黒い少女にも同じものが流れていたが、人間ではない体のつくりをしているためだと推測していた。
人間にもこの妖怪と同じ未知のエネルギーが流れているのか。
いや、しかし門衛の2人にはそのようなものはなかったな……。
私がまた考察に勤しんでいると魔法使いが門衛との話を終えたようだ。
今度はこちらに向かって話しかけてくる。
「まぁ大体分かった。お前らを通してやるよう話はつけたが私から少し質問させてくれ。
あ、私は魔理沙な。
お前の名前は聞いたぜ。アイ、だろ?」
中性的な口調。
いや、むしろ男よりか?
魔理沙は後頭部で手を組みながら私に言う。
「あぁ。合ってる。
私はアイだ。
それで、あなたの質問に答えれば通してくれるってことか?
それなら喜んで、答えることが可能なものは答えよう」
「おし。質問と言っても1つだけなんだけどな。
ここまで来た経緯を教えてくれ。
外来人が誰の案内もなしにここまで来れるのは珍しい。
それになんでお前がルーミアを連れているのかってのも気になるからな」
経緯。
質問は1つだが聞きたいことは複数あるようだ。
それを上手く経緯という言葉を用いてまとめあげたな。
まぁ答えたところで特に困ることもないだろう。
私は魔理沙にこの世界に来てからの経緯を簡潔に話した。
目が覚めたら森のなかにいたこと。
博麗神社での出来事、そこで霊夢に地図をもらい人里へ向かうよう勧められたこと。
ルーミアと呼ばれるこの黒い少女、元は成人女性に近い姿だが、それと戦ったことなどだ。
魔理沙は私の話を、相づちをうちながら黙って聞いていた。
すべてを話終えると、魔理沙は納得したような顔をして私を見た。
「大方わかった。
そんでもってまた聞きたいことが増えたけど、まず約束を守るぜ。
お前たちも聞いただろ?霊夢から阿求の地図を貰ったやつだ。
悪いやつではないって、霊夢の勘が言ってたんだろ。
だから良いよな?」
魔理沙が門衛2人に話しかける。
話をつけたのではなかったのか。
「まぁ、元より悪いやつではないとは思っていたがよ……」
「博麗の巫女がそういうのなら、大丈夫じゃねぇかぁ?」
そう言って門衛が人里への門を開けた。
通行を許可してくれたようだ。
……話をつけたとはなんだったのか。
「入れるみたいだぞ!良かったな!
私に感謝してくれてもいいんだぜ」
……まぁ終わり良ければ全て良しという熟語があるくらいだ。
ここはそのまま感謝しておこう。
「ありがとう。
余計な戦闘を避けることができた」
そう言い、私はルーミアを背負う。
「あ、あれ、結構素直なんだな。
というかお前、そいつ背負ってどこか行く当てがあるのか?
ルーミアは人里が棲家って訳じゃないと思うぜ?よくふわふわ浮いてるけど」
「……確かに。人里が安全だと聞いただけで、その内部はなにも知らない」
それに人食いの妖怪が人間の里に住み着いているわけがない。
門衛の言う通り、どこかの茂みにでも置いておいても問題無かったはずだ。
妖怪なのだから。
でも外見が少女だからだろうか。
私は何故か、どうしても“捨て置く”ことがあの時出来なかった。
言い方を変えれば、“見捨てる”ことが出来なかった。
その時だけ、思考と行動がそれぞれ独立したかのように感じた。
障害の起きている記憶が何か関係しているのだろうか。
「まぁ霊夢が懇切丁寧に教えるとは思えねぇしなぁ。
それなら良いところがあるから連れてってやるよ!
人間側だが、妖怪への良識もそれなりに持っているやつだ。そこならルーミアを預かってくれるかもしれないし、お前の求める情報も聞けるんじゃねぇか?」
魔理沙がニカッと笑う。
「良いのか?ここまでやってもらって、さらに道案内までお願いして」
「どうせ用事で、今から人里の上を通るからな。
だからお前とも会ったってわけだが。
ほら、さっさと乗った乗った!」
そう言って魔理沙は箒を跨ぐ。
「乗る?乗るって箒にか?」
「決まってるだろ?。
ルーミアはまぁ、私が担ぐから安心しな。
そら、行くぜ!」
魔理沙にルーミアを担がせ、私は疑いながらも箒に跨がる。
次の瞬間箒が宙に浮き、そのまま空へと上昇していった。
さらに不思議なことに態勢が全く崩れず、私が箒から落ちることはなかった。
「さぁ、捕まってろよ!門開けて貰ったのに使わなくてすまん!じゃあな!」
魔理沙は下の門衛に謝罪すると、先に見える人里に向かって進み始めた。
訛りのある門衛はこちらに手を振り、乱暴そうな門衛は不満そうに、門を閉める準備をしていた。
先ほど言っていた、帰る時間というのが来たのだろう。
訛りのある門衛も門を閉める準備に取りかかったようだ。
そして上空。
そこそこのスピードが出ているにも関わらず、やはり私を含む3人が箒から落ちることはなかった。
あまりにも不可解な現象だった。
「この箒は一体どういう原理で動いているんだ?」
魔理沙に聞く。
「いや、箒は動いてないぜ。
実はお前を私の魔法で宙に浮かしてんだ。
当然、私もな」
魔法。
全くもって非合理極まる。
なんの機械装置もなしに人間が空を飛ぶことなどあり得ない。
そんなものは科学的な根拠のないものだ。
架空の存在だ。
そう考えて気づいた。
あぁそうか。
だから幻想郷という名の世界なのかここは。
妖怪、妖精、魔法、そして緑いっぱいの自然。
ここは科学に支配され、否定されることのない、幻想の世界。
科学で出来た私にとって、知ることは無かったはずの世界なのだと。
高高度からみる黄昏時の空は、とても美しかった。
1話分消費する話じゃないって??
アイの変なバグのせいです
けーね先生のところへ行きます