悪魔城。
廊下。
「……。」
「……」
直輝と少女は城内に入ってからずっと、ほとんど無言で歩いていた。
赤絨毯が引かれた厳かな雰囲気の廊下には、二人の足音だけが響いている。
「!」
突然、それは何の前触れもなく、気づいた時には既に二人の前方に存在していた。
何重にも衣服を重ね着した巨大な球体状のそれ。
それは、二人の行く手を阻むように浮遊していた。
「こんばんは」
それは突然、そう喋った。
「話は聞いているよ。少年」
「……。」
「ふふふ。まあ、そう警戒しないでおくれよ。儂は少年の願いを叶えに来たんだから」
「……。」
「少年。君はその少女のことが好きだそうじゃないか。なのに、せっかくのチャンスを、自分の気持ちに素直になれなくて無駄にしてしまった? そうだね?」
「……いや、……そんなことは」
直輝が言い終わらないうちに、服の塊は言った。
「隠さなくたって良いんだよ。君はその少女のことが好きなんだろう? 好きな人の肉体を求める……。男なら、いや、人間として当然のことだよ。少女よ。君もそう思うだろう?」
「えっ……」
「ふふふ。だから、悪いことじゃぁないんだよ、少年。例えばほら。君は今、隣にいるその少女の裸を見たいと思ったりしても決して攻められることはない。それは人間として当然のことだ。良いんだ、それで。見たいだろう。彼女の裸を」
「……。」
「彼女の白い柔肌を、やわらかくふっくらとした美しい胸を、可愛らしい乳首を、なまめかしく脈打つ陰部を……、彼女の裸を。それは君のすぐ隣に、あるんだよ? その服の下に、君と同じ空気に触れて、手を伸ばせば触れられる距離に、そこに、ほら。君のすぐそこに、あるんだよ」
「……。」
「少年。君は今まで長い間、その少女のことを思い続けてきたんだろ? その間、幾度となく夢見てきただろう? その少女の裸を。それが今、現実に、君の目の前にあるんだよ。その薄っぺらい布の裏側に……。見たいだろう? 少女の裸を、見たいだろう?」
「……、そう、だな。」
「ふふっ。そうだろ! そうだろ! 見たいだろう。なら見せてあげるよ。儂の力で! 裸を見たい。その欲望を糧に、儂はその相手を裸にすることができるんだ。こんな風にね!」
……。
少女の服は、何の変化もなく、少女の体を覆っていた。
悪魔の言葉とは裏腹に……。
「……、なんでだ。なんでだ。どうしてだ? なんで裸にならない! 魔力は? 魔力が? みなぎらない! どうしてだ! どういうことだ! 少年! 見たいんだろう! 見たいだろう? 少女の裸を。まさか! 見たくないとでも言うのか?!」
「いいや。見てぇよ。見たくて仕方がねぇ。この人の裸をな。」
「ふふふ……。そうだろ? そうだろ?」
「あぁ……、見てぇよ。」
「ふっふっ」
「魂の裸がなぁ。」
「ア?」
「薄っぺらい建前の裏に隠された、本気の心、魂の裸。俺はソイツが、見てぇんだよ。」
直輝は言い終えるなり悪魔に向かって走りより、そのまま勢いよく右拳を打ち込んだ。
「ふっ。儂は何重にも重ねられた服に覆われている。どんな
「気合で殴った。それだけだ。」
そう言うと直輝はもう一発悪魔を拳で突いた。
「ぐぅっ! なっ、なっ、小賢しい……。押し潰してくれるわ!」
途端に今まで浮いていた悪魔は直輝に向かって倒れこんだ。
「ぐふっ!」
直輝は悪魔にのしかかられる形で、地面に押し倒された。
「ふははははは! その貧相な体ではこの重み、耐えることなどできんだろう。ほらほら、どんどん重くなるぞ? 潰れ死ね!」
「……、ハァッ!」
直輝は勢いよく起き上がり、悪魔を撥ね飛ばして立ち上がった。
「なっ!」
「そんな重さ、俺の背負ってるもんに比べりゃあ……、俺の思いの重さに比べりゃあ、なんてこたぁねぇよ」
そういうと直輝は着ていたTシャツを脱ぎ捨て、自分の上半身を裸にした。
「アァ? 何をしている?」
「気が変わった。」
「ア?」
「人を裸にしてぇなら、まずはてめぇが裸になれってことだよ。」
「んん? なんだ? 裸を見る気になったのか? ぐふふ。感じる……、感じるぞ! 裸を見たがる欲求を! 魔力が……、魔力がみなぎるぅぅぅ!」
「ああ、裸を見せてくれ。でも、その前に……。」
そういうと直輝は振り返り、少女に向かって言った。
「目、瞑ってて下さい。」
「……」
少女は強張った表情で直輝を見つめた。
「お願いします。」
直輝は少女の目を見つめ、言った。
少女は少しの間直輝を見つめ返し、諦めたように目を瞑った。
「おい。もういいか?」
「あぁ、頼む。」
「ふははははは! これでお前達はもう終わりだ! 所詮は愛など幻想! 体が欲しいだけ! その女は好きでもない男と体を交え、淫魔への第一歩を踏み出すのさ。ふへへへへ! さあ、その手始めとして! 裸になれい!」
「あぁ、てめぇがな。」
「アァ?」
その瞬間、何重にも重なった服の塊からすごい速さで服が脱げていき、廊下中に大量の衣類が散乱した。
「なっ、なっ、なっ、なっ」
そして、
「っ……、っ……」
口をぽかんと開け、呆然と虚空を見つめるその悪魔に。
直輝は静かに歩み寄り、悪魔の目の前で立ち止まると片膝をついた。
「俺の大切なもんを、俺なんかの前で脱がそうとするんじゃねえよ。」
そう言うと直輝は、肩膝をついたまま悪魔の米神辺りを右フックで打ち抜いた。
「っ……」
悪魔は声もなく床に倒れた。
直輝は、近くに落ちていた子供用の小さなシャツを取ると、悪魔の裸体をそれで
「……。」
少しの沈黙の後、直輝は少女の方を振り返り言った。
「もう、目ぇ開けていいですよ。」