それを見越してアストレアは秘策を用意していた。
「本当なら、今日が貴様の専用機の出番だが・・・」
「これが・・・俺の?」
そこには「白」がいた、完全な白、ではないが、まるで待っていたかのように座していたISは、操縦席を開け、新たな主をここに座らせんと待っていた。
名前は白式、先生曰く、一夏専用のISらしい。
「はい!これが織斑くんのIS・・・「白式」です!」
「セッティングとフォーマットは今やる。貴様が負けた時のために用意はしなければな」
織斑先生・・・織斑千冬がこちらを睨んでくる。まぁ、無断で対決先を変えた挙句、せっかく用意した専用機の初陣を邪魔したんだ、そう見られてもおかしくは無い。
レーゲンの隣では俺が準備運動と機体調整をしていた。対決前だと言うのに、ここには焦りというものが無い。
「・・・貴様は良かったのか?」
整備をしている隣、篠ノ之箒が声をかけてくる。腕は相変わらず胸の前で組んでいて、豊満な胸が押し上げられるがそんなのを気にしている余裕はない。
目の前の青い鎧を丁寧に触れる、新品のような肌触りがしっかり身に馴染む。
ガンダムフレーム、「キマリス」これが俺の専用機にして厄災戦で戦いを終わらせた力、ガンダムの名前を冠された72機のモビルスーツの1つ、そしてこれはそのコピーである。
キマリスの手に装備されているのは大型のランス「グングニール」。側面には砲門もあるが、これはあくまで牽制用だ。
「さて・・・準備をしろ、時間があまりないからな」
「了解ですよ。さて・・・キマリス、動いてもらうぞ?」
まるで鎧のような装甲に足、腕、胴が包まれ、最後には頭もしっかりと装甲が装着される。全身が包まれるのはなんとも言えない感覚だ・・・。全身に重りが着いているとも言えばいいのか。しかし、予想よりは軽い。
槍の柄の部分をしっかり握り、出撃デッキへと移動する。レーゲンからは何も言われていない。
(・・・好き勝手暴れてやるか)
「出撃だ!」
「ガンダムキマリス、アストレア・ボードウィン!出るぞ!」
◇
「最後のチャンスですわ。降参するなら今のうちですわ」
「おいおい。戦う前から決められるとは・・・俺も舐められたものだな」
俺の上には青い機体、ローアングルだと色々辛い。機体識別、一致、「
だがログを見る限り、格闘用の武装はない。つまり詰めればこっちが有利だ。
「私が勝つのは目に見えていますし?まぁ、どうしても謝罪したいのであるなら許してあげますわ?」
「・・・若干一名は許す気が無いくせによく言うぜ」
「あの方は私の祖国をバカにしましたのよ!?因果応報ですわ!」
「まったく・・・プライドの高い女だ。その高いプライドはへし折ってやらねばならんな!」
俺の不意打ちから勝負は始まる。リアアーマーに収納されていたコンバットナイフを彼女の頭目掛けて投げつけたことから勝負は本格的に始まった。彼女は見事に躱し、レーザーライフル「スターライトMk-III」をこちら目掛け発砲する。青いレーザーが俺を避け、先程まで通っていた道に砂煙と爆発が発生する。
背中と足のバーニアを吹かせて回避行動を取りながら「グングニール」に着いているオプションの砲門で牽制する。
「んんん・・・もう!ちょこまかと!!」
「さすがに代表候補生様の射撃力でも俺に当てれんか?」
「むきー!」
キマリスの速度は速く、俺はブルー・ティアーズの周りを加速力を活かして飛んでいた。そこから煽りのように「グングニール」のオプションの砲門から弾が飛んでくる。戦っていてこれ以上に嫌なことがあるだろうか。
だが向こうにはこちらが確認したスペック上、近距離武器がない。なら向こうがしびれを切らしたところが俺の真価を発揮するところだ。
試合の主導権は完全に俺が握っていた。そこからはひたすら避けては打ち返しての繰り返しだった。
(だが向こうが焦る様子はない・・・まだ隠してることがあるのか)
「どうして当たらないんですの!?まぁここまでは計算通りですが!見せてあげますわ!私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる
「
我慢出来なくなったのか、とうとうブルー・ティアーズの翼から本機の代名詞でもあるビットが飛んでくる。有線式かと思いきやバリバリの無線式だった。
翼から一気に展開し、それぞれのビットが俺に向けてレーザーを放ってくる。的確にこちらを狙い、狙撃してくる。幸いこちらのスピード、旋回力、緊急停止速度は速いので、最悪かすり傷だけで済む。致命傷を受けるのは慢心している時ぐらいだろう。
次は種探しだ。有線じゃないとしたらどこかにこいつらの「目」があると言っても過言ではない。自動じゃない限りはどこかに本体が・・・。
「あっ」
あった。この戦場に一つだけ、この翼達を操る本体が。それは空を飛びながら俺が足を止めるのを待っている奴だった。
俺は槍を前に突き出し、足、そして背部、肩部のバーニアを全て吹かせて方向を修正する。目標は・・・。
「な、なんですの!?まさか・・・!」
「くたばれぇぇぇぇぇっ!」
高速のスピードでビットから放たれるレーザーを躱し槍を突き出しながらセシリア・オルコットへ向けて突撃して行く、しかし、ただでは受けてくれないのか彼女もしっかり回避する。しかし、俺の移動速度は彼女が思うそれより凌駕する。彼女が体勢を整える前に俺は既に方向転換、足のバーニアを全力で吹かせて彼女へ向けて突撃していく。
「うそ!?速い!?」
「残念だったな!お前とは性能が違うんだよ!」
しかし俺が放った槍は彼女の手にあった「スターライトMk-III」を突き破り落とす、俺はすかさず無防備な彼女の腹目掛け一撃、シールドエネルギーによりダメージこそ少ないものの、痛みが消えることは無い。彼女が痛みに耐えかね、地上に落ちたのを確認し俺は再び突撃する。
その間に彼女の
「終わりだぁぁぁぁぁっ!」
地上に槍が突き刺さり、大きな砂煙が発生する。視界が悪くなり、無事に槍が突き刺さったのかも分からない。
煙が晴れると、俺の下にはセシリア・オルコットが居た、仰向けで倒れてはいるが俺の胴装甲に、彼女の腰にあった残り2基の「ブルー・ティアーズ」がこちらに向いていた。
「・・・往生際が悪いね」
「まだですわ!ここからが・・・」
「じゃあもう終わりにしようか?」
俺の頭部装甲に取り付けられていた閃光弾を彼女の顔へ向けて放つ、こっちには専用のバイザーが内蔵されているので問題ないが、その分センサー感度が下がる。
しかし下に固定している以上、場所などどうでも良い。再び「グングニール」を持ち上げて彼女の左側のミサイル砲門を落とす、右の砲門は左手で射線をそらすことで直撃を回避する。
ついでに起き上がってくる彼女の身体、肩を蹴り再び地に這い蹲らせる。
「ぐっ・・・」
「そこまでだ!これ以上の戦闘は危険と判断してここで終了する!」
「・・・諦めの悪い女だ。だが嫌いではない」
こうして俺の勝利になった。この戦いは幕を閉じた・・・。
◇
「お疲れ様」
「お前からそんな言葉が出るなんて不服だな」
アストレアが帰ってくるなり、俺たちは手を合わせ鳴らす。キマリスを待機状態に戻す。青い機械のようなチョーカーが一瞬にしてアストレアの首に装着される。
俺は着替え終わったアストレアにタオルを投げつける。彼は掴み取り、汗を拭き取る。
「どうだ?カッコよかっただろ?」
「いつも通りだろ」
「もう少し褒めてくれてもいいんじゃないか?」
「凄かったな・・・お前のIS」
そこに一夏たちがやってくる。その顔はだいぶ驚いたようだった。
キマリスは近接戦闘に特化したガンダム・フレームの搭載機、それをIS化したもの。機体性能はフレームのあった本機に劣るものの、各部にあるバーニアによって高い推進力、機動力を両立させており、基本は宇宙空間や空中において真価を発揮する機体である。
まだ隠し玉はあるが・・・それはまだ秘密ということにしておいてやろう。
また、高機動機の欠点として高機動戦闘時における軌道修正があるがキマリスにはそれを見越して高性能センサーが積まれている。これのおかげで高機動戦闘時にも緻密な計算を行う事ができるのだ。
「まぁざっとこんなものだ。なぁにお前もすぐに出来るようになる」
「さっきの戦い見せられた後だと自信がないぜ・・・」
「なぁに。俺が保証する。お前はできる、なんなら付き合ってやってもいい」
「な、なな!?」
隣で箒が暴れ出すが、いや、そういうことではないと思うぞ、練習に付き合ってやるということだろう。
その後さらに遅れて教師陣がやってくる。山田先生と織斑先生だ。
「貴様・・・どこでその実力を?」
「言わなければなりませんか?先生」
「・・・代表候補生でもないというのに。貴様らはそれを軽く凌駕した。その技量は認めよう・・・だが、ISを専門的に動かせるところは限られている。貴様らは一体・・・」
「悪い予想というのは、時に自分に罰を与えるものになります。無用な詮索はお止めいただければ。と」
俺はその場を後にする。アストレアも一夏たちと別れ俺の隣に来る。一息ついた顔で、俺たちはゆっくり帰路に着いた。
問題はクラス代表だが・・・まぁ、引き受けるしかあるまい。それに目的のデータは問題なく取れそうだしな。
頭の中で考え事を進めるが、その心は晴れることはなかった。
―――次の日―――
「というわけで!クラス代表はアストレア君に決まりました〜皆拍手をお願いします!」
わ〜、わ〜。
その報告を得て、クラス全体から拍手が上がる。
まぁ当然か、昨日の勝負がクラス代表を決める戦いであっただけに、みんな反抗することなく、あっさり認可してくれた。むしろその方が手間が省けていいものだが。
今のところ他のクラスの専用機持ちに関してはなんの情報も得ていない。このまま戦いを挑むのは無謀か。
「何を考えてるんだ?」
「別になにも」
「異論がないならこれで決まりだ!以上、授業の準備をしろ!」
―――授業―――
運動場で、これからISの実技授業が始まろうとしていた。ISを操縦するときの服に着替え、全員先生の前に整列していた。専用機持ちはその横に来ていた。
「これよりISの基本的な飛行操縦を実戦してもらう。セシリア、一夏、アストレアやって見せろ」
「俺はやってどうしてレーゲンはやらないんだ?」
ここのクラスにいる専用機持ちは4人、本当ならレーゲンもカウントされるはずだが・・・、生憎、レーゲンのは専用機ではなく、量産機をベースに改造した指揮官機と呼ばれるもの。個人用ではなく専用に調整も済んではいない。
さらに言えばレーゲンの
「それにこれを見せるのは忍びないと思ったからだ」
「ケチだな」
「ケチだねぇ」
「ケチですわ」
三者三様の言葉が飛んでくるがレーゲンは無視。今それを見せても面白くないのは理解できるがこれはなぁ。
「さっさと準備しろ」
織斑先生からお怒りの言葉が飛んでくる。流石に遊びすぎたか、俺たちはそれぞれISを展開する。一夏が少し遅れて装着するが、起動に問題は無いようだ。
安心するのもつかの間、今度は「飛べ」と指示が出されるので俺たちはそれぞれ空へと飛翔する。
セシリアが先行、俺が後に続く。一夏も遅れてくる。
「まったく快適だな。こんな授業中にも空が飛べるなんて」
「慣れてるやつはいいな、スイスイ飛べるからよ・・・イメージって難しいな」
「イメージは所詮イメージですわ。自分がやりやすい感覚を探すのがよくてよ」
セシリアの言葉は理解できるが、一夏はさらに唸ってしまう。まったく、これは基礎から教えてやらんとダメなのかもしれないな。
「セシリア、よかったら君が教えてやらないか?」
「私がですの?」
「あぁ、見たところ代表として勉強はかなり積んでるみたいだしな、それに俺もまだ模索段階でな」
「なるほど、そういうことでしたら是非」
「三人とも、急降下と完全停止をやって見せろ」
無茶苦茶だ、俺とセシリアはともかく、一夏は初心者だぞ?事故でもあったらどうするんだ。
有無を言わさず、先にセシリアが急降下していく、一気に加速し地上まで降りて・・・いや落ちていく。
そして地上付近で一気に体勢を戻し、バーニアを吹かせる。滑らかにまるで滑り台にでも乗ってるかのように曲線的に地上へと足を付ける。
「すげぇな・・・俺にも出来るのか?」
「原理は簡単なんだがな。慣れるまでってやつだ先に失礼するぞ」
キマリスの加速を最大まで引っ張り地上が見える所まで落ちていく。その後脚部のバーニアを開き急停止してみせる。むぅ・・・完全停止までとは行かんか。
「微妙ですわね」
「キマリスの加速が強くてな。まったく困ったものだ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
その後遅れて一夏が落ちてくるが、嫌な予感がする。
上を見ると見よう見まねで降りてきた一夏が哀れなことに腕を前でクロスしていたからだ。このままでは地上と激突し地上が大きく穴が空くかもしれない。
「くっ・・・」
空中へ飛び、受け止めてやろうと思ったがこうも地上と近いと間に合わない。一夏が思いっきり地上に衝突するかと思ったが・・・その時青い光が一夏の身体をつかみ引っ張っていき、ゆっくりと地上に降りてくる。
「・・・あれ?」
「まったく・・・気をつけろよ」
そこにはギャラルホルン製のIS、シュヴァルべ・グレイズを纏ったレーゲンが居た。腕の中には先程まで空を飛んでいた一夏が居た。
一夏はレーゲンの腕の中から解放されるとゆっくりと地上へと足をつける。
「大丈夫か?」
「あ、あぁ・・・なんとか」
「一夏さん!大丈夫ですの!?」
俺とセシリアは慌てて一夏の方へと走る。一夏もゆっくりとISを解除する。
「お怪我はありませんの!?」
「だ、大丈夫だよ、ありがとなレーゲン」
「あぁ、今度は気をつけろよ?初めは速度を落としてやるのが一番だ」
「でもとりあえず保健室に行きましょう!なんなら私が・・・」
「その心配は無用だ!それにISを装備しているのだから怪我などあるわけないだろう!」
そこに篠ノ之箒がやってくる。相変わらずの鬼の面は外れない様子で、一応・・・心配はしていたのだろうが。
「まぁまぁ」とアストレアが間に入るがセシリアはそれを押しのけるように前に出る。
「あら、篠ノ之さん?他人を気遣うのは当然のことでしてよ?」
「「ぐぬぬぬ・・・」」
まったく。どうしてこの2人は仲が悪いのだろう。隣の一夏も似たようなことで悩んでいた。女というものはこれだから分からない。
その夜はクラスパーティーで盛り上がった。その次の日に・・・恐ろしくも厳しい出会いがあるとも知らない。