黄金の幼獣www
春という季節には変なものが湧く…
それはどこで聞いたか零は考えながら自分の家に向けて歩いている。
いや、正確には幼女3人に連れ去られている。
その姿はまるで犯人のように見えなくもないが、連れているのが幼女ということもあってシュールな光景だ。
しばらく進むと二階建てのどこにでもある一軒家が見える。
普通の家と違うのは庭が広いということだ。
庭の敷地だけでもう一軒家が建つのではないかというくらい広かった。
幼女3人で高校生の少年を支えながらの移動は普通ならば疲れて当たり前なのだが、
「我、力持ち」
先程、零に『オーフィス』と呼ばれた幼女の御陰でその心配は必要なかった。
玄関を開けて家の中に入ると、外とは違いヒンヤリとした空気に満ちていた。
「あら、おかえりなさ…レギア様!?
一体何があったんですか!!」
家の中にいたのは黒髪のおっとりした女性だ。
零の姿を見ると血相を変えて騒ぎ出す。
「朱璃、レギアを頼む。私は那月と共に『水銀』のところで薬を貰ってくる。」
朱璃と呼ばれた女性は零もといレギアを受け取りすぐさまレギアを2階にあるレギア自身の部屋のベッドへと連れて行く。
勿論朱璃の後ろにはオーフィスがトテトテとついて行っている。
ベッドへと寝かされたレギアの体調は朱璃の目からみても大分悪い状態だ。
顔色は悪く、息も荒い…
「なんか、喘いでいるみたいですね…」
台無しだった。
「朱璃…病人に突っ込ませるようなことを言うな…」
レギアは本当に限界のようで、そう呟くと目を瞑って寝てしまう。
大戦以前から生きているレギアにとっては風邪程度なら気力で捩じ伏せていつもどおり振舞うのに対して、
今回はおかしい…
朱璃の想像どうりレギアが罹ったのはただの風邪ではない。
「我、レギアの傍にいる」
オーフィスが寝ているレギアの顔を覗き込むのを朱璃は止めなかった。
今までもオーフィスが来てはレギアを勧誘に来ることはあったがその度に無理やり連れ去るなどの行為をしなかったからだ。
二人の様子をまるで兄妹のようだと思いながら朱璃は1階に降りてレギアが起きてきた時のためにお粥を作る。
レギアを家にいる朱璃に預けた二人はすぐに家を後にする。
「それで『エルス』行き先はいつものとこでいいのか?」
朱璃に那月と呼ばれた少女は隣にいるエルスに問いかける。
「ああ。それでいい」
エルスの返答に那月は沈黙で答える。
そして彼女等の姿は消え、別の場所に現れる。
転移だ。
二人の目の前には一つの建物があった。
若干古ぼけた感じの店だ。
店の扉を開けると、カランカランと来店を知らせる音が店内に響く。
「おやおや、これは珍しいお客様だ…」
声の主はローブを纏った長髪の男だ。
二人はその声に反応せず店内の奥へと入っていく。
そこには先程の男が鎮座するようにいた。
「久方ぶりだな、『メルクリウス・カリオストロ』…」
「ああ。そうだな、『エルシェラント・アノイアンス』、『南宮那月』…」
メルクリウスは立ち上がり店の奥へとローブを引きずるように歩いていく。
エルスと那月は沈黙を保ったままメルクリウスについていく。
店の奥には広めの部屋があり、そこには一人の少年が本を片手に部屋の隅にある棚と部屋の片隅にある机を行ったり来たりしている。
「ハイドリヒ、少し店番を頼む」
「うん。わかったよ、『カール』」
腰辺りまである長い金髪を揺らしてハイドリヒと呼ばれた少年は本を持ったまま先程メルクリウス達が来た道をテクテクと歩いていく。
3人になった部屋の中央には藍色の光を放つ魔方陣が出現していた。
「おい、なんでラインハルトが幼児退行しているんだ?」
エルス那月の二人が信じられないモノを見たという表情で呆然としていて、やっと再起動したエルスの叫び声にも似た質問にメルクリウスは涼しい顔で答える。
「いや、こないだ新作の薬が完成したのでハイドリヒの食事に遊び半分で入れてみたらこうなってしまったのだ…
どうだ、未知であろう?」
得意げな顔をするメルクリウスにエルスと那月は殺意を覚えたが、レギアのために薬が必要なため殺気を向けるだけに止める。
だが、二人の殺気を受けてもメルクリウスはその笑みを崩さない。
「そんなことはどうでもいいだろ、エルス。
私たちにとってレエギア以外は無価値だ」
不機嫌そうな表情で言う那月にエルスより先にメルクリウスが反応する。
「おや、レギア様がどうかしたのか?
今日はお見えになっていないようだが…」
「ああ。体調不良でな…恐らく『悪魔式インフルエンザ』だと思うが…」
『悪魔式インフルエンザ』
悪魔が罹るインフルエンザといえばわかりやすいが、これは相当な危険な病気だ。
基本的に悪魔は病気に罹らないが、『眠り病』等例外が存在する。
この悪魔式インフルエンザも例外の一つだ。
軽い症状ならば人間の罹るインフルエンザと同様の症状だけなのだが、
重い症状にもなると体内の魔力が暴走を起こして精神が崩壊する危険性すら出てくるからだ。
「それはいけない。ならば急ぐとしよう…」
メルクリウスの声で床に描かれた魔方陣が怪しく光り始める。
光が収まると部屋の中に3人の姿はなかった。
深い霧に周りを囲まれた巨大な森がある。
冥界でも屈指の広さと深さを誇る樹海だ。
そのほぼ中央に大きめの建物と農作物を育てるための畑があった。
人里から大きく離れたその建物には大勢の孤児が暮らす大型孤児院だ。
その孤児院から少し離れた森の中に魔方陣が浮かび上がり3人の人影が転移してくる。
一人はローブを着た男、メルクリウス。
二人目は金髪メイドのエルス。
三人目はフリフリドレスの那月だ。
孤児院はかなり大きなもので6階建ての宿舎のような建物だ。
孤児院の外では子供達が引率されて遊んでいる。
どうやらドッジボールをしているようだ。
遠くからでもよくわかる遣り取りにエルスと那月は平和だと思っていた。
子供の声は遠くにいるエルス達の元まで響いていた。
「はわわ!危なかったのです」
「大丈夫、電?」
「大丈夫なのです」
「ハラショー、暁残念だったね?」
「暁はレディーだからこの程度で悔しがったりしないわ!」
「お前ら、怪我だけはすんなよ?」
「「は~い」」
引率しているのは白髪の男だ。
その男にはエルスと那月の両方と面識のある男だった。
「ほう、あの『ヴィルヘルム』も丸くなったものだな…」
「昔は人を見かけたら直ぐに喧嘩を売る奴だったのにな…」
エルスと那月の二人は4人の少女を引率している白髪の男を眺めてそう呟く。
彼の昔を知っているだけに驚きを隠せなかった。
「ああ、ヴィルヘルムか。少し前に『蓮』と喧嘩をしてな…
どうやら青春的展開でああなったようなのだ」
メルクリウスの言葉に二人は釈然としないが理解はしたようだ。
二人の感想は、男という生き物はこれだから…というものだった。
二人は昔のヴィルヘルムの世話を何度かしたことがあったために複雑な心情だった。
だが、そんなことを気にしている余裕はない。
二人の目的はレギアの症状を緩和する薬品をメルクリウスからもらうこと。
その為、孤児院に向けて再度足を向ける。
レギアを苦しみから解放するために…
幼獣はいろいろと人気が出そうだな…