ショート ストーリーズ   作:犬屋小鳥本部

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「俺が最強だ」と奴は言った。


激突!鮭の反乱

昔むかしあるところに激弱悪魔の群れがいた

 

 

 

ような気がした。

 

激弱悪魔たちが上司とあおぐのはサタンであった

 

 

 

はずである。

 

サタンは弱かった。魔界を支配するはずのサタンであったが、とても弱かった。それでも、一応魔界を治める努力はほどほどに

 

 

 

していなかった。

 

ある時、神様が召喚した勇者軍団によって魔界は制圧された。神様は言った。

「サタンよ。いくらなんでも無給で悪魔は働かんぞ」

激弱悪魔たちは給料はもちろん休みもなく、食料は1日米1粒という人間界のブラック企業もビックリなブラックぶりで働かされていたのである。

激弱悪魔たちは勇者軍団に倒され

 

 

 

なかった。

 

勇者軍団にはあまりにも可哀想だと同情の目で見られ、何もしなくてもそのまま倒れ死にしそうな激弱悪魔たちは神様にお願いしたのです。

「我らを転生させてください。このままでは悪魔として死にきれない」

神様は頷きました。

「魔界が荒れたのは君たちのせいではない。紙に、好きな転生先を書くといい」

 

 

 

 

そうして、激弱悪魔たちは霞む視界の中でそれぞれ希望する転生先を書いたのです。神様は1体ずつ丁寧に丁寧に彼らを転生させていきました。

神様は、転生した激弱悪魔たちに魔界の行く末を委ねたのです。

転生を望んだ悪魔たちは皆、こう思っていました。

「2度とあんな上司の下ではたらくものか」

サタン以外なら誰でもいい。いっそ、自分が皆の上に立ってもいい。

そうだ、自分が王になればいい。王になろう。

神様、お願いします! 転生先はキングデーモンで!

神様はその希望に応え

 

ようとしましたが、なにぶん激弱悪魔たちは今にも死にそうな状態であったのです。イメージ重視の為、お年を召されている様に見える神様の眼は老眼に老眼を重ねていました。

つまり、正しく文字が読めなかったという悲劇が重なってしまったのです。

 

 

 

「後は任せたぞ…」

そう呟き、神様は魔界を去りました。

 

 

 

そして、時間は流れたのです。

 

 

 

 

 

 

 

魔界歴114514年。

目覚ましい発展を遂げ

 

 

 

そうで遂げない魔界は、かつてへっぽこ上司とさえ言われたサタンの爪痕を残すことなく戦国の時代を迎えたのであります。

魔界のあらゆるところに転生した前途有望な元・激弱悪魔たちが潜伏しているのが見えるでしょうか。見えないでしょう。見えないようにカモフラージュしているのです。

なぜそんなことをしているのかって? 決まっているでしょう。

 

「天敵」に見つかって狩られでもしたら、せっかくの舎弟たちが泣きます。路頭に迷います。

自分の部下を、領土を守るために身を隠しているのです。負けないためにはまず戦わない。初歩的な戦略でした。

 

しかし、それでも転生した彼らには戦わなければならない時があるのです。なぜなら…

 

 

 

彼らは王に転生したのだから。

 

 

 

見よ。今、命をかけて川を上っている鮭たちの群れがいる。産卵の時期を迎えた脂がとてもよく乗った鮭たちである。

今、脇の草むらからぬっと大きな影が現れた。腹を空かせた大きな茶色い熊。その腕には王冠の模様が刻まれているではないか。

彼こそ、熊の王。キンググリズリーであった。その姿は、かつて激弱悪魔と呼ばれた1体の悪魔が転生を経て手に入れた王たる力。

その鋭い眼が1匹の鮭を捉えた。瞬間、キンググリズリーはその巨体を川の中へ躍らせた。そして、右手に持つ鋭い爪を空気を切り裂き大きく振りかぶる。同時に水から1匹の鮭が飛び上がった。

熊と鮭の鋭い眼光が火花を散らす。狩るか、狩られるか。

熊の爪が、今まさに鮭の腹を抉ろうとした瞬間、足元を大きな衝撃が襲った。王たる熊らしからぬ落ち度であった。体勢を崩された熊は咆哮をあげながら川の中に倒れ伏した。

牙をギリギリと音が出そうなほど噛み締めながら、熊は横を泳ぎ去っていく難を逃れた鮭を見逃すしかなかった。

そんな熊の王に背後から声がかけられた。

 

「爪が甘いぜ」

「くっそ」

 

一回りも二回りも大きい鮭。その尾びれにはキンググリズリーと同様に王冠の模様が刻まれている。

彼もキンググリズリーと同様に転生した元・激弱悪魔であった。キングサーモン。熊に勝てる鮭など、彼以外には考えられない。

そして、その脂の乗りも並みではないのだ。

 

ゴクリ、とキンググリズリーが喉を鳴らす。

 

熊の王は自らの誇りにかけて誓うのである。

いつか必ず、その腹を引き裂いてやるぞ。と。

 

 

 

様々な種族に転生し、尚且つ王として生を受けた元・激弱悪魔たち。

キンググリズリー、キングサーモン、キングクラブ、キングタイガー、キングホーク、などなど。彼らは各々の支配する領地を護り、争いを鎮めてきた。悪魔であった頃の力を失っても尚、有り余る程の種族が持つ特化した性質、能力。それらは全く個性を見出だすことのできなかった転生前とは違い、彼らを「個」として確立させた。

俺は俺。お前はお前。あれはあれ。それはそれ。種族が違うのだから違って当たり前。違うが、それを言い訳に強弱を決めつけるべきではないのでなないだろうか。

 

彼らは王となった。

 

王となり、その種族の頂点に立つことで他種族を侵略しないという取り決めを交わしたのである。

 

熊は鮭を食べる。鮭は熊に食べられる。そうしなければ生き物として生存していけない。

だが、友になってはいけないということではない。

熊が困っていれば鮭も助けるし、鮭が困っていれば熊も助ける。

鮭と熊が困っていたら鷹が手伝い虎が力を貸す。

 

魔界はそんな世界となったのである。

 

全ては、サタンというくだらない上司の下で馬車馬のごとく命が尽きるまで働かされた悪魔たちの絆であった。

自分達は下の者の、部下であるものの気持ちがよく解る。だからこそ、上司がどうあるべきか解る。

 

自分は王だ。民を傷つけて何になる。

あいつは王だ。あいつも王だ。かつて隣で生気のない目で肩を抱き合い、頑張れ、頑張ろうと励まし合った同僚だ。苦労も、抱えているものも、理解し合える同志だ。

自分は王だ。自分達は王だ。世界をおさめなければならない。

より良い国に。より良い世界に。

今日も頑張って、素晴らしい魔界にしていきましょう!

 

王として。王だからこそ。

激弱悪魔という前世から、王へと転生したその身だからこそ解ることがあるのではないだろうか。

 

彼ら王は手を、あるものはヒレや翼を、取り合い魔界を変えていったのである。

 

 

 

こうして平和になった魔界を、今日もキングサーモンはその美味たる身で泳いで

 

「はははっ! とうとう転生を果たしたぞ、馬鹿共め!!」

 

いるばかりではいられなくなったのでした。

 

腐っても怠惰でもバカでもへっぽこでも、サタンはサタン。

長い時間をかけて奴はとうとう転生してしまったのです。

 

キングデーモンに。

 

 

 

「弱い…弱すぎるなぁ!我が足元にも及ばぬぞ?

いや。我が強すぎるのか?

はははははっ!!!」

 

自力で転生してしまったキングデーモン、もといサタン。その力は大地さえ揺るがすほどのものだったため、本人は宙に浮くという余裕を見せつける始末でした。

まともに立ってさえいられない王たちは誰もが膝をつきながら歯を噛み締めます。

 

「あんな奴に、俺たちはまた従わなければならんのか…?!」

奴だけは認めてはならないと本能が訴えます。前世の二の舞だけは踏んではならないと。

今度こそ、自分達の手で魔界を守らなければいけないのだと。

 

「力が!力が欲しい!

新たな力が…魔界を救うことのできる力が!」

キングサーモンは叫びました。

「キングサーモン…」

キンググリズリーは怪我をおったキングサーモンを美味しそうな目で見つめます。

 

「我こそが最強だ!!」

キングデーモンは勝利を確信し嗤います。

しかし、その時。

 

 

 

「待たせたな!」

海の上から流氷に乗って誰かがやって来たのです。

「食らえ!」

小さなその影は口から吹雪を、もう一つの似たシルエットの影は口から炎を吐き出しました。

「ぐっ…」

突然現れた援軍にキングデーモンは気づけず、攻撃をその身に受けました。

 

王たちの元へと滑り寄った二つの影は、互いに手を取り合い、そして高く掲げました。

 

「俺たちは一人じゃない!」

「今こそ、共に戦おう!」

 

小さな影の一つはキングペンギン。ペンギンの王でした。そして、もう一つは皇帝ペンギン。王と皇帝は互いに争っていたはずでした。理由はどちらが上か。

そんな二匹は、キングデーモンに勝つためとうとう手を組んだのです。手を…

 

組んだのです?

 

その時、森の方からも声が聞こえました。

 

「ワタクシたちもいましてよ!」

高い女性の声。王たちが目を向けるとそこには

 

何もいませんでした。いないように見えました。しかし、よーくよーく目を凝らすと

 

まだ見えません。

 

「…誰かいる?」

「いない」

「気のせい」

「幻聴?」

「このお馬鹿さんたちが!」

 

王たちは互いにボソボソと言い合いますが、誰の目にも小さすぎて写りません。

なんとそこには軍隊という群れを率いた女王蜂と女王蟻がいたのです。女は弱い? 虫は弱い? 小さいは儚い? そんなことはありません。

時に女性は強く、時に虫は己より何千倍も大きい生き物を殺すのです。カマキリのメスはオスを食べます。

本当に怒らしてはいけない存在はお母さん。

 

そんな女王さえ力を合わせようというのです。

 

キングサーモンは目を輝かせて言いました。

「勝てる…勝てるぞ!」

 

これからが俺たちの本当の戦いだ!

 

 

 

「どれだけ数を揃えようと、我に敵う者なぞおらん」

「今度こそお前を倒してみせる…

 

父さん!」

 

キングサーモンの親はキングデーモン…イクラと鮭の関係ではありません。転生前では血が繋がった親子として生を受けたキングサーモンは、あまりにサタンがあまりに愚かであったため寝返っていたのです。

激弱悪魔として一生を終え、転生したキングサーモン。前世も、今世も素晴らしい同志と巡り逢えたキングサーモン。

 

この転生者の集う魔界で、今度こそ覇者となれるのか?!

 

 

 

じゅるり

 

すぐそばで涎を垂らす仲間がいるぞ!?

 

 

 

そして、古の谷からは古代の暴君竜がその眠りから解き放たれようとしていた。

 

ぐるルルルル…

 

『我こそが魔界の覇者なり』




元ネタ
「最弱悪魔が転生してキングデーモンになろうとしたけど、神様のちょっとしたミスでキングサーモンに転生しちゃった」
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