こんな時間にどうしたの
探し物をしています
それはとても綺麗に輝くもので
昼には光に紛れて見えなくなるもの
どこかで見かけませんでしたか?
今夜は残念 見つからない
明日もあなたはふらふら歩く
あなたは何を探しているの
あなたは誰を探しているの
いつも下を見てばかり
いつも上を見てばかり
あなたの顔は真っ白で
いつもなんにも写していない
どこで落としてしまったの?
昨日はあんなに笑っていたのに
昨日はあんなに泣いていたのに
探しものをしていたはずが
落とすものばかり増えていく
あなたに何が残っているの
何も残っていないはず
今夜もあなたはふらふら歩く
そんなあなたを見ているわたし
あなたはわたしを見ないけど
探すことに夢中なあなた
頭はすでに夢の中
ふわふわふらふら夢の中
あなたはわたしを見ないけど
わたしはあなたを見続ける
こんなに暗い夜の道
探せど探せど見つからない
あなたの探す探しもの
わたしが先に見つけた探しもの
わたしの持ってる探しもの
あなたがわたしを見ないから
気づかず 毎夜 さ迷い歩く
あなたの探しものは
ずっと目の前にいるのに
ある夜のことであった。
暑くもなく、寒くもなく。雨が降るでも雪が降るでも、風が強いということもない、ありきたりの夜。
変わったことといえば、そうだ、その夜には月が出ていない。
空に月が出ていない、ある夜のことである。
道を行く、一つの影があった。影さえ夜の闇に溶けてしまいそうな道ではあったが、私にはその影が誰だかわかってしまう。
「こんな時間にどうしたの」
そして、声をかけてしまうのだ。
道には他に誰もいない。虫の声さえ聞こえなくなった、そんな時間に何をしているのかと私は訊ねてみる。
「探しものをしています」
その影はそう答えたではないか。
こんな時間に一体何を探していると言うのだろうか。夜道は闇に呑まれ、黒色一色で塗り潰されているというのに。
その影はこう続ける。
曰く、それはとてもきれいに輝くものらしい。
曰く、昼には光にまぎれて見えなくなってしまうものらしい。
「どこかで見かけませんでしたか?」
影は私に聞いてくる。私には影が探しているものが何かわからない。
だから、私は首を横に振るのだ。
残念。影は今夜も探しものを見つけることはできないだろう。
明日もきっと、夜道にはその影が出歩くことになる。
結局のところ、その影というのはあなたのことなのだ。私は知っている。
こんな夜の中でまであなたの探すものは何なのだろうか。それとも、誰かなのだろうか。
いつもあなたの視線は下ばかり。上ばかり。
私はあなたの顔を見る。まるで、病人のように真っ白な顔をして何かが抜け落ちてしまったかのようではないか。
あなたは何かを探している。
私は思う。探している何かはあなたとは別のものではなく、もともとあなたの中にあったものではないのかと。探すあなたの顔を見て、私はそう思わざるをえないのだ。
あなたはいつから探しものをしているのだろうか。いつ、探しものがあることに気がついてしまったのだろうか。自分に何かが足りないのだと、いつ気づいてしまったのだろうか。
自分に何かが足りないと知ってしまった瞬間から、あなたは今夜のように夜道を歩き続けるのだ。
夜道は果てしなく長く永く続いている。
この道のどこに、何があるというのだろうか。私には何も見えない。
私は思い出す。探しものを追い始める前のあなたの姿を。
それは昨日のことのようだ。
あなたの顔には様々な活きている表情が描かれていた。笑い、泣き、怒り、悩み、悲しんでいた。
それらは、全て昨日に置いてきてしまったのだろうか。
今のあなたには何も描かれていない。
あなたは探しものをしていたはずではなかったのだろうか。
私には、あなたが歩くこの夜道に落としものをしてきてしまっているように見えるのだが。それは、探しものとは別のものなのだろうか。
あなたが探しものをする度に何かが落ちる。それに気づかずあなたは歩く。
あなたが探しているものが何なのか私は知らない。だから、落としたものをあなたに差し出すことはできないのだ。
歩き続けるあなたに何が残っているのだろうか。まるで病人のように、幽霊のように彷徨う姿はとても朧気だ。
探しものを手にする前に、あなたは消えてしまうのではとも思ってしまう。そうだ。きっと、その探しものはあなたにとってとても大切なもの。
何も残っていないあなたにとって大切なもの。
ああ、あなたは今夜もふらふらと歩き続けるしかないのだ。
夜道に現れるあなたを私は何度も何度も見つける。そして、じっとあなたが何かを探す姿をただ見ているのだ。
何度か声もかけたこともあっただろう。しかし、言葉を返してもあなたのその目は私を見たことは一度もなかった。
あなたは何かに夢中なのだ。それは探している「何か」なのか、それとも探すこと自体なのか。
あっちに行ったりこっちに行ったり、ふらふらふらふら、頭まで揺れ出したではないか。
あなたが歩くこの夜道が夢の中にあるのなら、あなたは既に夢の中。
そんなところで探しものは見つかるだろうか。
声をかけてもあなたはきっと上の空。夢の中で、あなたは今日も何かを探す。
私を見ることのないその目で、夜道を探し続ける。
あなたはいつまで夢の中をさ迷い続けるのだろうか。それは夜が明けてもわからないことだろう。
今夜も夢の夜道を歩くあなたを、私は見つめる。
夜の道は幾夜も幾夜も繰り返す。
あなたの歩く真っ暗な道には、望むものが現れない。見つけることのできない夜は明日も続く。
あなたは何を思っているのだろうか。本当にまだ探しものがここにあると?
探しものなんて、始めからあったのだろうか。どうか教えて欲しい。あなたが探すものが、一体何なのかを。
毎夜毎夜繰り返される私の問いかけ。あなたは一度だってそれに答えたことはない。だって、あなたの目には私が写っていないのだから。
見えない私の声は、きっと、風が吹き抜ける音にしか聞こえないのだろう。あなたは私を見ようとしないのだから。
しかし、気づいているだろうか。
実のところ、この道には何もないのである。
光が差す昼の道を歩いたことのある私にはわかる。
この道には、何もない。雑草も、花も、家も、虫も、鳥も、石ころでさえもない。
あなたには特別なものが見えているのだろうか。あなただけにしかわからない「探しもの」が、どこかにあると感じているのだろうか。
もしも、それにうなずくことができないのならば、私はあなたにこう言おう。
「ここには何もありませんよ」
私と、あなたと、ただの道しかありませんよ。
あなたの探すものがこの道にあるのならば、この道の上に立つ私は何だろう。
「探しもの」が何か言えないのならば、私は既に手に入れている。探しものなんて物は始めからなかったのだ。この夜道のどこにもないものをいくら探しても、ないものを探し出すことなどできない。
私はその「答え」を持っていた。
見つけたものにこう言えば、それは探していたものとなるのではないかと。
「私はあなたを探していました」
自分が探していたものが「あなた」なのだと言えば、本当かどうかはさておき「あなた」が「探しもの」となるのだ。
どうか見つけて欲しい。
何もないこの夜道に、私が立っていることを。あなたを見続ける存在が、あなたの目の前にいることを。
私の探しものは、あなたなのであった。
今夜もあなたは夜道を歩く。
探しものは見つかるだろうか。
今夜こそ、あなたは見つけてくれるだろうか。
探しものはいつだって、探す必要のないくらい近くにある。
そんな場合もあるのだと、誰かが教えてくれた。
残念。今夜もあなたは見ようとしない。
何かを見つけることができないまま、夜が過ぎていく。
探しものはいつまでだって、あなたを待っている。
そんな夜はどこまでも続く。