ショート ストーリーズ   作:犬屋小鳥本部

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どうしてもそこに入りたくなる


狭いところが好きなのです

虫の話です。

虫以外にも、カエルとかにも言えることかもしれません。

彼ら、何処かに寄って行きますよね。

 

走行性って言うらしいんですけど、例えば蛾。街灯や蛍光灯にわらわらわらわら集まります。

カブトムシとかも集まってきます。

逆に光を避ける、嫌うタイプもいます。

 

光が好きとか嫌いじゃなくて、これは彼らが持ってる性質なんですよ。

 

で、ここからが実際に聞いた話です。想像はしない方がいいですよ?

 

準備はいいですか?

いいんですか?

 

それではいきましょう。

 

 

 

コンビニとかスーパーではないのですが、知り合いが働いている所で中華まんを扱っていたらしいです。聞いた話だと、それは春のこと。

地元野菜の直売所に併設されている場所だったので、床はコンクリート。店の周りは畑や田んぼが近くにある。

使っていた蒸し器はコンビニにあるものとほぼ同じ。

不衛生ってことではないです。

ちゃんと掃除してましたし、消毒もしてました。

ついでに言えば、定期的に業者の人が虫とネズミとかのチェックをしに来てくれます。

不衛生ってことではないんです。

 

だから、そいつは偶然来たんだな、と思ってください。

 

蒸し器は使用中加湿し続けます。機械の中に水を入れておくスペースがあって、その水を汲み上げて蒸気にします。営業時間が終わると中の水を棄てます。

水を排出するために蒸し器には管が付けられていて、そこから流します。

いつも、最後にはそこから水、お湯かもしれません。それを流します。

 

知り合いから聞いた話ですよ? 実際に見たことではありません。

 

営業時間が終わって、管から残った水を流したそうです。

ざー、っと。

ざー、っとね。

 

その時、出てきたらしいです。

管から。

 

ずるぅり、って。

 

大きな蒸し上がったムカデが。

 

管の中にいたんでしょうね。

でも、前日も前々日もちゃんと掃除してたんです。だからその後で入ってきたんでしょう。彼ら、狭いところが好きそうですから。

入っちゃったんでしょうねぇ。

 

で、朝営業が始まってスイッチが入れられて。

蒸されちゃったんでしょうねぇ。

 

異常に大きいムカデ。多分、蒸されて膨張しちゃったムカデです。

普通のムカデでもかなり大きいです。

それが蒸されて、胴体の黒い部分がパンパンに膨れて赤黒くなってしまった。多分、数倍の大きさになっていたことでしょう。

 

それが、管からずるぅりと流れるように出てきたそうです。

 

管の中は狭いし暗いし温かいから、入っちゃったんでしょうね。

 

聞いただけの話なんですが。

見る機会がなくて本当に幸せです。

 

 

 

さて、この話。続きがあります。

前日はそんな風に悲鳴を残したまま営業終了となったその職場。次の日も通常通り営業します。当然同じように中華まんを仕込んで、売って、営業終了となったら掃除を始めます。

 

また出てきたそうです。

前日と同じように。

管の中から蒸し上がった赤黒い巨大ムカデが。

 

ずるぅり、って。

 

 

 

その日を最後に中華まんの販売をやめたそうです。

そりゃあそうですよね。

毎日そんなムカデを見るのは、あれですもん。

 

 

 

彼らは性質なのか、単に好みだったのかはわかりませんがそこに導かれるように入って行ってしまうんです。

入ったら出てきませんよね。あとは蒸されて捨てられるのを待つだけなんです。

 

自分だったら絶対にそこへは入りたくありません。死ぬのがわかってて、其処へ行くはずないじゃないですか。

でも彼らは同じように蒸されて、次の日もその次の日も管から出てくるのでしょう。

 

だって、しょうがないじゃないですか。

 

彼らはそこが好きなんですから。




どうしてもどうしても、そこに入りたくなる
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