ショート ストーリーズ   作:犬屋小鳥本部

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タイトル、間違えてません。


A、book

「今、あなたはどこにいますか?」

道を歩くあなたに聞きたい。

桜の花が舞う桃色の道。若葉と深緑がざわめく緑の道。落ちる木の葉と銀杏が鮮やかな紅葉の道。冷たい空が広がる白雪の道。

流れていく周りの景色。時間。人。

「あなたは、今どこにいますか?」

傘を広げて足下を濡らす雨の道。全てが飛ばされてしまいそうな風の道。倒れてしまいそうな日の照らす道。

 

毎日毎日同じことの繰り返し。

昨日が過ぎて、今日が流れて、明日がやって来る。

日は登り落ちていく。

命が生まれて死んでいく。

何かが気づかないうちに始まって、気づかないうちに終わっていく。

毎日毎日同じことの繰り返し。

 

特別なことを望みたい。特別なイベントを望みたい。自分に都合のいい、ハッピーでラッキーでスペシャルな出来事を望みたい。

時にはほんの少しだけ、不幸で不運で残酷なことを望んでみたい。

見たことのない世界を、望みたい。見たことのない世界を、みてみたい。知らない世界に足を踏み込んでみたい。

毎日毎日つまらない。同じことは何度も何度も回って巡って飽きるほど繰り返す。

 

「あなたは今、どこにいますか?」

あなたは今、そんな道に立っている。

何度も何度も数えきれないくらい、数えるのもやめるくらい通過した道に、今日も立っている。

 

 

 

 

 

 

ほんのわずかな気紛れで構わない。私はあなたにそこの道へ入ってもらいたい。

ほら、そこに見える、細い道。目を凝らさないと気づかないような細い道。

その道の奥には、一軒の本屋がある。私はあなたに、そこへ立ち寄ってもらいたい。

「今、あなたはどこにいるの?」

あなたは一軒の本屋の前に立っている。小さな本屋だ。人の気配が全くしない、小さな本屋だ。

 

さあ、入り口の前に立って。

看板は見つかっただろうか。見つからない? ほら、よく探して。

ヒントをあげよう。その本屋の名前は、あなたが望む本のタイトルだ。

ほら、一軒の本を探して。

看板が見つかったなら、今度は扉を開いてみよう。入り口の扉を、ゆっくり開こう。

中の住人には許可を取ってある。さあ、扉を開いて。

 

開いた先に待つのは大量の本棚。丁寧に丁寧に、順路が組まれている。

ちょっと待って。そっちは最後だ。いきなりラストから読み始めるのは無粋だろう。

 

まずはカウンターから。そこにはいないはずの店主が残したメッセージが置かれている。中身を隠すように二つ折りにされたメモがカウンターに置かれている。

中には何が書かれていた? 当たり障りのない挨拶。本当にそうだった? よく見てみて。それは二枚重ねのメッセージ。最後まで開いてみないとわからない。そんなメモを店主は残したらしい。

 

メモをポケットに仕舞い込み、あなたは順路を進み始める。

今度はちゃんと一から進んでいただきたいものだね、お客様。

店主の残したプロローグというメモは、あなたの手に無事収まったらしい。

 

 

 

 

 

 

さあ、本棚に書かれた数字を順に辿って。

 

1、2、3

この世界の仕組みには馴れただろうか。

4、5、6

あなたの常識で歩を進めていると、あるところで突然違和感を覚え始めることだろう。

7、8、9

はい、土台はしっかり。これであなたは戻れない。

 

「あなたは今、どこにいますか?」

まだ順路は四分の一を過ぎたところ。手始めにあなたのハートを掴んだものは、きっとその部分の何処かに潜んでいたはず。

 

さあ、次の順路へ進んでみて。

 

 

 

 

 

 

10、11、12

何かがおかしい。何かが違う。所々重要な部分が見えているようで見えていない。

13、14、15

どうしても進めない数字がある。どうしても気になることがある。どうしてどうしてとイライラし始める頃には、数字は既に次の数。

16、17、18

次第に思考は迷路の中へ。誰かが先で手招きしてる。こっちこっちと指差す先は、なぜか戻った前の数。

 

可思議不可思議摩訶不思議。順路は常に一方通行のはずなのに、思考はぐるぐる巡っている。

どうか忘れないで。

握られたその手の中にはヒントがあるはず。カウンターに置かれていたメモをもう一度よく見て。

問題提起は既に成されていた。

さあ、この迷路から脱け出そう!

 

「ねえ、あなたは今どこにいるの?」

順路はもうすぐUターン。進むべき道筋を照らす明かりはほの暗く、わからないことだらけで目を閉じる。

次に進むためにはどうすればいいか。たったひとつでいいから重要なヒントを手に入れよう。

あなたを迷路の中に迷わせた犯人が、どこかで笑う。そんな気がする部分だった。

 

さあ、次の順路は慎重に。

 

 

 

 

 

 

事態はカラコロ転がされ、思う通りの足場が見当たらない。

 

19、20、21

透明な階段を登ろう。横では妖精が悪戯にステンドグラスを眺めている。

22、23、24

暗い足下では氷一枚を隔てて親子の鯨が泳ぐ。歌う声は頭の中にやけに響く超音波。

25、26、27

透明な階段を降りよう。答えを頭上に発見した。黄金のシャンデリアに隠された一枚のコイン。さあ、手を伸ばして。

気づけば一気にまっ逆さま。

どんでん返しの大返し。思いもよらぬ大波乱。

そんな予感を裏切らない。転がる、転がる、転がされる。

 

「あなた、今どこにいるの?」

そんな質問に答えていられないくらい、頭も心もドキドキハラハラ。

猛スピードで駆け抜けていく、急展開に追い付くことがやっとな部分。

 

何かを見落としていないだろうか。何かを重要なことを忘れていないないだろうか。

 

もうすぐ店という物語の全てがわかる。

 

 

 

 

 

 

28、29、30

何を知りたい? どんな結末が欲しい?

そのための道筋をあなたは辿れただろうか。最後の順路はまっすぐ先の見える一本道。

31、32、33

答えは目の前の皿の上に置かれている。

それを開くにはそれまでの順路できっかけを手に入れる必要があった。

フォークとナイフ。

フォークとスプーン。

ナイフとスプーン。

どれも欠けてはいけないもの。フォークとナイフとスプーンの三つ。あなたは見つけることができただろうか。

34、35、36

あなたは出口へ駆けていく。数字を辿って。最後の数字も見逃さないで。

あなたの中にはどんなエンドロールが流れているのか、聞く人は誰もいない。

 

「あなたは、今どこにいるの?」

今、あなたは小さな本屋の入り口に立っている。

まだそんなところにいるの?

あなたが入り口に立つのはこれで二回目のはず。通り抜けてしまえば、入り口は遥か後方へ。数字は再び零へと戻る。

 

 

 

振り向いた先には誰もいない。

そう、何もなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

店内にあるはずのカウンターには、何かの影。それは、あなたに一枚のメモを残した真犯人である。

エピローグは静かに霧がかかり、やがて小さな本屋の姿を隠すのだろう。

あなたは覚えているだろうか。その本屋に掲げられたタイトルの文字を。

 

 

 

 

 

 

気づけばあなたは道の上。いつもと何も変わらない、つまらない日常である。

その道のどこを探しても、先程までいたはずの横道などどこにもない。

あなたは溜め息をつきながらこう言うのだろう。

 

 

 

「なんだ、つまらない」

 

 

 

 

 

結局今日も、あなたは同じ道を行く。

私が教えたあの本屋は、あなたにとってはただのつまらないボロ屋となってしまった。

あなたのために私がつくった小さな本屋。ほんのわずかな暇潰しになればと思って、あなたのためにつくった私の本屋。

あなたはその本のタイトルを見つけてくれた。手に取ってもくれた。しかし、結局最後はいつも同じ感想となってしまう。

 

あなたは今、どこに立っているのだろうか。

昨日と同じ道の上に立っているのだろうか。

 

歩いても歩いても何も変わらないつまらないあの道を、あなたはまだ懲りずに歩き続けているのだろうか。

いいかげん気づいたらどうだ。

あなたがその道のどこかに特別な何かを見出ださない限り、その道はつまらないただの通路なのだと。

横道に興味を示すのは、そこに何かがあるのだとあなたが期待しているからである。横道の先に本屋があるのは、現実とかけ離れた世界に浸りたいからである。

 

あなたはまだそこに立っているのか。

 

 

 

私たち書き手は、誰かのために本をつくる。それは顔も知らない誰かたちのためである。

本は宛先がはっきりしている手紙ではないのだ。誰か一人のためだけにつくることは難しい。だから、本当に読んでもらいたいと思う人に届けることはできないのだ。

だからこそ、あなたには見つけてもらいたい。

 

あなたに贈られる本は、今どこにあるのだろうか。

 

 

 

今日もまた、私は懲りずに本屋のカウンターに座って誰かを待つ。そこはどこかの道を横にそれた奥にある、小さな本屋。

つまらない毎日を繰り返し、飽き飽きしている誰かのための物語を考えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

見つけて、くれるだろうか。

私を。




つまらない話を開いてくれて、ありがとう。
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