あなたは知っていただろうか、
今日は雪。
融けてしまえばいつものコンクリートの石の道。
今日は雨。
積もることなく流れていく。
想いは積もり、流されることなく淀んでいく。
今日は失恋。
別れは辛い。
彼の人との思い出は心に積もり、私をあたためてくれるのだろうか。
今日は灰。
亡き人の遺灰が足元へと積もっていく。
さらさら積もった灰の上に、泪がしとしと降り積もっていく。
あなたは知っているだろうか。
あなたが立っている足下には、幾粒の灰が敷かれているということを。
知っているだろうか。
その灰は誰かの亡骸だったということを。
あなたは誰かの死の上に立っている。
私も、誰かの死の上に立っている。
私たちは誰かが燃え尽きた灰を踏みつけて立っているのだ。
今日も上から降ってくる。
形あるものも、形ないものも、見えるものも、見えないものも。
私たちの頭上に降り注いでくる。
私たちは顔を上げて上を見る。何が降りてくるのか見ようと、上を見る。
降ってくるものを感じた時、涙が溢れる瞬間もあるだろう。それは胸を伝って足元へと流れ落ち、ゆっくりと下へ染み込んでいくのだろう。
きっと、今日も明日もあなたの所へ何かが降り注ぐ。
その度にあなたも私も上を向く。
落ちた涙に見向きもせず、ただ、ひたむきに立ち続けようと努力する。
悲しいことも辛いことも乗り越えて、明日笑っていられるように上を見る。
明日もきっと、足下の降り積もった灰には涙だけが染み込んでいくのだろう。
下を向こうとしない私たちにはその跡は見えなかった。
下を向こうとしない私たちは、足下を這い上がろうとしている手たちには気がつかないのだろう。
私たちの足元に敷かれた幾多の灰の粒。
あなたにはわかるだろうか。
あなたの下に誰がいるのか。
ところで。
今そこに立っているあなた。
あなたです、あなた。
そう、あなたです。
あなたの足元にはコンクリートの床が広がっていますね? 固く冷たいコンクリートの層です。
その下には何があると思いますか?
私ですよ。
私が、丁度、今、あなたの立っている場所の真下に、埋まっているんですよ。
言ったでしょう?
あなたは誰かの死の上に立っているのだと。
以前は私もあなたのようにそこへ立ち、笑って上を見上げていました。足下に何があるのか知りもせずに。
私の下にも別の誰かがいます。あなたの下に私がいるように。そして、その誰かの下にも同じように別の誰かがいるのです。
何度も何度もそれを繰り返して、その場所は成り立っているのですよ。
わかるでしょう?
オマエタチハ
ワタシタチヲフミツケテ
イキテイルノダ
なぁんてね。
別に、あなたのことを憎んでいるとか恨んでいるとか、そういうことではありませんよ。ちょっと面白半分に枕元へ立ってみてもいいかな? とは思いますが、ね。
あなたはただ偶然にも私がいた場所に立っている。
ただ、それだけなのです。
ちょっと、ちょっと。
ああそうですかなんて言わないで、もう少しくらい話を聞いてくださいな。
以前は私もあなたと同じようにそこへ立って、上を見上げたものです。期待や好奇心。こうして欲しい、こうなって欲しい。そんな欲を持って、私も上を向きました。
降ってくるものはとてもキレイです。そうでしょう?
あなたに降り注ぎ、積もっていくものはかけがえのないもの。よくわかります。解りますとも。
私にとって、私たちにとってそうだったように、それらはあなたにとってもキレイでステキなもののはず。
だからこそ、今あなたはそこに立っているのです。
ワタシタチトオナジヨウニ、ネ。
とにかく、あなたにこれだけは聞いてもらいたいのです。
これは重要なことですよ?
私は、私たちはあなたに気をつけてもらいたいのです。降り注いでくるキレイに見えるものばかりに気をとられないで、最も近くにいるモノに注意してもらいたいのです。
足下に積まれ、いずれ忘れ去られるであろう私たち。その上に立つあなたにだからこそ、私たちは亡き後も声をかけるのです。
私たちを知り、足下に染み込む涙を流してくれる優しいあなたにだからこそ、下から手を伸ばし声をかけるのです。
あなたがワタシタチトオナジヨウニ崩れ落ち、積まれて冷たいコンクリートの下で眠ることのないように。
ココハ寒くてツメタクテ、とてもサミシイ。
そんな想いを、今度こそ、上に立っている誰かにシてもらいたくナイ。
愛しい想いは降り積もる。
私たちには、あなたが今どれ程幸せか痛いほど解ります。苦しいほど理解できます。
だって、私も同じだったんだから。
ああ、憎いニクイ。
アレモワタシタチトオナジニナッテシマエバイイノニ。
死んでもナオナオ降り積もるこのオモイ。
溶けることのない、冷たいオモイ。
地獄に引き摺り落としてシマイタイ。地獄にオトシテしまいたい。
下から手を伸ばして、ヒキズリコンデしまいたい。
ああ、ニクイ! ニクイ!!
なんてウラメシイ!!!
あんなに愛しくキレイだったものたち。
踏みにじられ、汚れてしまったかけがえのないものたち。
ゼンブ、全部、アイツのセイだ。
アイツのセイで、アイツのセイで、ケガレテしまった!!!
降り積もった白い雪は踏み荒らされた。
これでサイゴニなるでしょう。
どうか、気をつけてください。
どうか、どうか、気をつけてください。この言葉よ、あなたに届け。
ワタシタチを殺したのは、そいつです。
今、あなたの隣に立って笑っている、ソイツです。