「千歌、また明日」
「うん!」
*
はぁ……と私は窓辺の手すりに寄りかかって外を眺める。
「また気持ち伝えられなかったなぁ…」
誰に言うでもなくぽつりと呟いた声は、私をただ見守る夜空へと溶けていく。
悩みの種は私の好きな人、桜季春人に気持ちを好きという気持ちを伝えられなかったこと。
「好き……大好き………」
夜の冷たい風に身を馳せながら、夜空に投げかける。
とは言っても返ってくるのを頬を冷たく撫でる返事。彼にこの言葉を風に乗せて飛ばしてはくれる訳ではない。
部屋に戻ろうとすると、風が強かったのかドアがガタッと動いていた。
そして、落ちていたみかんのペンダントを拾った。
窓を閉めて自分の部屋に入り、ベットに置いてあるエビのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめた。
私はずっと覚えてる。
この部屋で小さい時に私と春くんと曜ちゃんも一緒に遊んでいた事。
よくはしゃぎすぎて美渡ねえに3人で怒られたっけ。
このペンダントも春くんがくれたもの。
小さい時だったから高くはないんだろうけど、私にとっては凄く価値のあるものだった。
好きな人からのプレゼント。
当時の私は凄くドキッとしたものだ。
『ほんとうに……ちかにくれるの?』
『ちか以外にだれがいるんだよ。ちかの為に選んだんだよ。要らなかった……?』
『ううん!すっごくうれしい!ありがとう!一生大事にするね!』
『お、おい暑いから抱きつくな!』
あの後曜ちゃんや果南ちゃんにも渡してた事を聞いて少し残念だったのをよく覚えてる。
きっと、貴方にとって私はただの幼馴染なんだろうね。
私に取っては、とっても大切で大好きで、甘えたくて、一緒にいると安心して、一生を添い遂げたい人。
春君の事を考えると胸が締め付けられるように苦しくて、でも幸せで、春くんが曜ちゃんとか梨子ちゃんが仲良く話しているのを見ると、仲良くて嬉しいはずなのに、羨ましい気持ち、もっと私を見て欲しい、私だけを見て欲しいという独占欲が私の心の中をこびり付き、渦巻く。
私以外の女の子といるのとを見ると胸がちくちくと痛む。
最初は何故だか分からなかったけど、今なら自信を持って言える。
これは恋。
私、千歌は春くんに恋をしているのだと。
私は今日の出来事に身を馳せた
*
今日は勇気を出して誘ったデート
2人きりでのお出かけ、デートという事に私の頬は、にへらと緩んだ。
精一杯のオシャレをした。
志満ねえと美渡ねえに『あら、今日は好きな人とデートなの?』とニヤニヤとした笑みを浮かべられるくらいのおめかしをした。
そこで集合場所へ向かうと彼は一足先に待っていた。
小さい時とまた違った大人っぽい服装に身を包んだ彼に目を奪われた。
私は、いつも通りの笑顔の練習を軽く済ませ、彼の元へ駆けた。
『ごめ~ん、待った?』
『ううん、大丈夫。』
恋人の様なやり取りについ、微笑みが零れてしまう。
ショッピングに向かおうとしていると、彼は、じっと私の方を見つめる。
何か変な所あったのかな……
それとも今日の千歌に見蕩れてたのかな……
そうだといいなっ!
『どうしたの?千歌の事をじっと見てて、照れちゃうよ……///』
真剣な目で見つけてくる彼につい照れてしまう。
『いや、服可愛いなって思ってさ』
『本当!?』
昨日寝る直前まで選んだかいがあるというもの。
悩みすぎていつの間にか25時を過ぎてしまったのは内緒
『えへへ~ありがと!!』
好きな人に褒められてついつい照れてしまう。
いつもはAqours皆に向けられている視線が、今は千歌だけに向けられていると考えると、なんとも嬉しかった。
この後に行った水族館だったり、デパートとかでおばあちゃんにカップルに間違われたり、お昼を食べたカフェで、カップル割とかあって、そのために2人であーんをさせられて、とってもドキドキしたけど、全部が楽しかった。
彼と一緒にいるとどんなに普通の日常でも輝いている様に見えた。
いつも見ている海、2人で隣合って座るバス、そして夕焼け。
いつも普通にあるもの全てがキラキラと眩しい。
この楽しい時間がずっと続けばいいのに。
今日何回思ったことか。
しかし、楽しい事は時間が過ぎるのは早いもので、あっという間にもう日も西に落ち、周りを赤く染めあげる。
『千歌、また明日』
『うん!』
*
楽しくてつい忘れちゃったんだよね……千歌。
家まで送って貰って、春君は美渡ねえに絡まれてて。
もう帰ったんじゃないかな。
そして、今回のデートで気づいた。
やっぱり私は春君がどうしようもないくらいに好きで、曜ちゃんにも梨子ちゃんにも取られたくない。
私の隣で笑ってて欲しい。隣を歩きたい。
より一層そう思った。
だと、する事と言えば………
「告白…………」
恐る恐る携帯へ手の伸ばす。
顔を合わせて言うのはとっても恥ずかしくて逃げちゃいそうだから、携帯でだったら言える………かな。
携帯がいつもと比べて重い。
手のひらくらいの大きさのはずの携帯が何だか、とっても大きく感じられた。
「待ってるだけじゃ……ダメだよね!この大好きな気持ちを伝えなくちゃ!」
トークアプリから春君を探し、電話を掛けた。
プルルと響く機械的な音が私の気持ち試しているようで、ライブの時より心臓が早く鼓動する。
プルル………プルル………
どこからか、そんな音が聞こえた。
私の携帯からではない。
耳を澄まして、聞いてみるとドアから鳴っているようだった。
もしかして………
ガチャ!と勢いよく扉を開けるとそこにはなんと……………
「春君!?何でそこにいるの……!?」
扉の前で佇んでいる春君を見つけてしまった。
何とも居ずらそうにモジモジとしながら。
もしかして……さっきの千歌の独り言聞こえてた………?
「いや、何か帰ろうとしたら美渡さんから『面白いものが見れるぞ』って言って離してくれなくて。」
私はプルプルと震え、十分に溜めてから叫んだ。
「美渡ねえのバカぁ!!!!!!」
今までの事が全部聞かれていたかもしれない
恥ずかしくて顔が沸騰した様に暑い
「聞いてた………?」
涙ながらにそう聞くと、こくりと頷く春君。
そして、私は、思い切り春君の胸に飛び込んだ。
タコみたいに赤くなってる顔を見られたくなった。
「これが千歌の気持ちなの!春君が大好き!付き合いたい!一緒に手を繋いでデートしたい。千歌と付き合ってくれますか………?」
恥ずかしさでもうどうでも良くなった私はただ気持ちをぶつけた。
彼は優しく私を抱き締め返してくれた。
爽やかで甘酸っぱい君の想いを届ける潮風
時に冷たく、時に暖かく私を見守る風
私から吹く風。
君と私の間には綺麗なシナプスの花が咲いていた。
そんな花を優しく月は見守っていた。
私の声はキコエマスカ